木曽御嶽山 大滝頂上、飛騨頂上、剣ヶ峰 2004年6月5日

 

 

 木曽御嶽山には既に2度登っている。最初は94年だったろうか、山下さんと鈴木さんの懐かしの6mメンバーで8月も終わりに剣ケ峰、摩利支天岳、継子岳と無線をやっている。そして2年前の秋に継母岳に登り、御嶽は登り尽くしたのであった。しかし、日本山名事典に大滝頂上と飛騨頂上が記載され、いつか登らなくてはいけない状況になり、その機会を伺っていた。そこにいいチャンスが到来する。下呂市の誕生だ。旧益田郡の合併で生まれた新市であるが、東方面は木曽御嶽が邪魔して電波の飛びは悪く、車からの運用では飛ばないことはないが強力な電波を関東地方に送り込むことは難しい。

 そこで御嶽の出番である。最高峰の剣ケ峰は長野県側に飛び出しているが、その西側の火口壁が県境になっており下呂市に引っかかるし、下呂市の最高点でもある。山頂名があれば言うことはないが、無線をやるだけなら問題ない。どうせ私がやるのではない、同行の後藤さんがやるのだから。むろん、私は大滝頂上と飛騨頂上が狙いなので、下呂市はどうでもいいのだ。ただ、せっかく行くのなら無線が楽しめる条件の方がいい。下呂市はこの冬にできたばかりのできたてほやほや、運用回数もそれほど多くないので呼ばれる要素は大いにある。なんと言っても過去の実績が大きく、摩利支天岳から益田郡で出たときは10Wにヘンテナの弱小設備にもかかわらず怒濤のパイルが延々と続いたのだ。今回は日帰りということもあり、久しぶりに50Wに5エレを担ぐことにする。御嶽からの50W運用なんてあまり行われることは無いだろうから史上最強の下呂市移動となるだろう。

 後藤さんのお迎えで出発は午後10時半くらい。高速道路を1時間半ちょっとで塩尻IC、ここから国道19号線を南下だ。登山口の田の原は遙かに遠く、木曽福島から西におれて大滝村の中、高度を上げていく。既に家で仮眠を取った私が運転し、車が疎らな駐車場に到着したのは午前2時過ぎだった。やはり梅雨明けどころか梅雨入り前のシーズンだから登山者は少ないのは当然だろう。それでも全部で20台くらいはいたのではないだろうか。車外にテントを張っている姿も見られ、明らかに今日の朝登る連中だろう。暗闇でよく見えないが、どうやら残雪は沢筋しか残っていないらしい。これで酒を飲んで寝たら朝まで抜けないのでそのまま寝た。

 翌日は4時に起床、朝飯を食って5時過ぎに出発だ。睡眠時間が短いがしょうがない。既に十分明るく、御嶽の山肌は真っ黒で、見た感じでは登山道に雪があるとは思えない。予想以上に雪が無く、後藤さんには軽アイゼンもいらないだろうと指示を出す。私は飛騨頂上を往復するので摩利支天のトラバースで残雪が予想されるため6本爪の軽アイゼンをザックにつっこんだ。さすがにピッケルまでは使わないだろうと置いていくことにし、後藤さんのステッキで代用すればいいだろう。

 登山口の鳥居で写真撮影、白装束の行者が空身でスタスタと登っていく。驚くほどのスピードでとても追いつくどころの話ではない。やっぱ空身はいいなぁ、こっちは無線のフル装備なのでおそらく重量は13kg前後あるだろう、通常の日帰り装備とは大違いの重さだ。ま、これに慣れれば夏山幕営縦走も大丈夫だろうけど。

 最初は低い樹林を緩やかに下り、緩やかに登り始めると徐々に傾斜が増してくる。最初は負荷が軽いのでいい準備運動になるコースだ。標高2200m足らずなのにハイマツが出現するところは火山のなせる技か。南アのような深い森ではなく、背が低い明るい樹林の登山道だった。笹もあるが中アのように茎が細く、藪漕ぎは楽と思えた。やりたくはないけど。

 少しサイズが小さい鳥居を抜けるといよいよ傾斜が増して参道と言うより登山道っぽくなる。植生もダケカンバが混じってきて高山らしくなってくる。徐々に木の高さが低くなり、やがて森林限界を飛び出す。火山だからだろうか、まだ2500mにも満たない高さで森林限界とは珍しい。視界が開けて中ア、南ア、八ケ岳等がよく見える。まだ標高が足りないので南アは甲斐駒と鋸岳しか見えず、白峰三山は中アに隠れて見ることはできない。三笠山は山らしく見え、小三笠山は土石流跡の向こう側に小さい頭をもたげている。さて、今日はあそこまで歩けるかどうか。

 森林限界を超えるとハイマツと岩の世界。駐車場で見たように雪は全くなく、一口水の谷沿いに残っているだけだった。その一口水は石からポタポタ水が滴っているだけで水場にはなりそうにない。いくつかの石室を通過して9合目分岐を通過、もうすぐ大滝頂上というところで案内標識がでてきた。小屋の電話番号まで書いてあり、携帯電話で予約せよという趣旨だろうか。今の時期はまだどこも営業していないだろうな。

 大滝頂上山荘は登山口からずっと見えているが、それなりの標高差があるので簡単には近づいてこないが、ここまで来れば目の前だ。階段を上れば小屋の前に飛び出し、まずは大滝頂上目指して左に進む。GPSの入力をミスったようで小屋より北にあるように出ているのでGPSは無視し、地図を見ながら南に進む。ここは小尾根が南に張り出しているが、地図を見る限り先端の最高点は山頂ではなく尾根の途中のようなので、とりあえず最高点まで往復してどこかで山頂を踏んでおくことにする。ケルンがあるところで無線を運用、西風が冷たいのでケルンの影に隠れながらだった。後藤さんがどれくらい後ろにいるのかわからないが、これで差が縮まっただろう。

 アンテナ設営の問題があるので山荘のところで後藤さんがやってくるのを待ち、傾斜が緩んだ部分は同じスピードで歩けたが、剣ヶ峰最後の登りになると後藤さんが遅れるのはしょうがない。これだけ天気が良ければ山頂で展望を楽しめるので一足先に剣ヶ峰に向かう。火山ガスで真っ黒く腐食したモニュメントと銅像の間を抜け、剣ヶ峰への最後の登りは河原のような火山礫が散乱した道で、傾斜が徐々に増してきて山頂直下で山小屋の前を通り抜け、神社の階段を上りきると神社の境内の剣ヶ峰である。山頂の神社はとても立派で、初めて登る人は驚くのではなかろうか。

 これで3度目の山頂だが、悪い天気だったことは1度もなく、最初に登ったときと同じように抜けるような快晴だった。谷筋に残雪の残る北アルプスは剣岳までよく見えていた。中央アルプスの裏側になるが南アも見えており、八ヶ岳は北から南まで丸見えだ。もちろん中央アルプスは目の前で、徐々に高度を下げながら恵那山まで続いている。残雪の白山も霞んでいるが見えており久しぶりの対面だ。空気の透明度は抜群とは言えないが、これだけ天気がいいのだから文句は言えない。

 このまま無線運用予定地まで先行してもいいが、オペレータの後藤さんが来ないとステーを取るのが面倒なのでそのまま山頂でのんびりすることに。山頂には僅か数人しかおらず、夏山の賑わいが嘘のような静けさだ。6月初旬の3000m峰じゃ夏山シーズンではなく残雪期に近いだろうか、おそらく北アルプスだとマジで残雪期だろうが、御嶽くらい南にくれば雪は少ないし、火山で植物が生えていないから日当たりが良く雪解けが早いので、登山道で雪が残っている箇所は全くなかった。まるで夏山である。それでいて山頂にいるのはたった3人で、昨年の仙丈ヶ岳よりもっと少ない(2週間ほど早いが)。抜けるような青空で視界は抜群、北アルプスは劔まで見え(と言ってもカシミールで後日同定したのだが)、八ヶ岳、南アも丸見えだ。残雪の白山も空に浮かんでいた。北アの残雪は谷筋だけで、登山道はほとんど夏道が出ているようだ。穂高の岩稜帯は雪はなさそうだった。

 しばらくして後藤さんが到着、少し休憩して無線運用場所に移動する。剣ヶ峰は長野県側に飛び出しているから下呂市に入らないので、西に見える火口壁まで行く必要がある。剣ヶ峰から先を歩く人は少ないが登山道はちゃんとあり、岩場を下って左に地獄谷を見ながら溶岩の尾根を登って平坦になれば県境で、適当な小ピークにアンテナを設営、ステーが必要かと思ったら適度な石が転がっているので石の間にポールを立てることで大丈夫だった。

 お隣の摩利支天では怒濤のパイルだったが、今回も運用開始直後からパイルが凄かった。アンテナは東向けで1エリアを中心に呼ばれまくった。その様子を聞いてから私は飛騨頂上に向かって出発した。これなら後藤さんも飽きることなく運用できるだろう。ほとんど雪の心配はないが、摩利支天を東にトラバースする箇所だけ雪の可能性があるので6本爪の軽アイゼンと後藤さんのステッキを持っていく。

 火口壁を右回りに進行、危険な岩場は迂回するルートがあるが、基本的にはどこでも歩けるので適当に歩けばいい。二ノ池新館が眼下に見えたところで左に下り始め、あやふやな踏跡を適当に辿って二ノ池新館横に到着、こちらから登ってくる人とすれ違った。賽の河原への下りの斜面は以前幕営した懐かしの場所で、それを左に見ながら鞍部を通過し、摩利支天へと登り返す。剣ケ峰旭館で巻道と直登コースに分かれるので巻道コースへと入ったが予想通りいきなり雪の壁が立ちはだかっており、踏跡は皆無だった。ま、それが常識的判断というものだが、こっちはアイゼンがあるし残雪期で変な山で経験を積んだのでこれしきのことではへこたれない。残雪の距離はわずか2,30mで、しかも大部分が平行移動、最後が急斜面だが雪だなが消えた境目付近の灌木が手がかりになって下れそうだった。もし雪の絶壁のままなら諦めたところだがラッキーだった。アイゼンを使うまでもなく通過、そこを過ぎればしばらくは夏道のままで、ロープウェイ方面への分岐を見送ってトラバースを続けていると尾根道への合流手前で最後の雪田登場、ここは雪田のトラバースで傾斜は微妙、危険と言うほどではないし、アイゼンなしで行けるかも知れないが、もし滑るとかなり下まで行ってしまい登り返すのが大変そうなのでアイゼンを履いてストックを雪原に突き刺して慎重に横断した。結構大きな雪田でスキーヤーが夏スキーを楽しんでいた。

 雪田横断が終われば再び夏道、すぐに飛騨頂上で、社の裏手が最高点だ。430で無線をやり、すぐに逆戻り。飛騨側から登ってくる人もいて、大学生パーティーだろうか、重そうな三脚を出してビデオ撮影していた。この連中は摩利支天を越えるルートを登って剣ヶ峰方面に向かったが、私は再びアイゼンを付けて雪田を横断し、最後に雪の壁をよじ登って大学パーティーより先に旭館に到着できた。

 無線運用ポイントに戻ると後藤さんは休憩中、あまりに呼ばれ続けて飯も水も取れなかったので、コールが途切れたところで運用中断だとのこと。やはり木曽御嶽は素晴らしいロケーションで電波の飛びは最高だ。あの奥積さんがパイルに埋もれていたくらいだからな。Eスポが出て1デイAJD達成だそうだ。満足してもらえただろう。

 帰りの時間もあるのでお昼前に撤収、剣ヶ峰に登り返して下った。



5:10田の原登山口-5:52森林限界-6:01八合目-6:13富士見石-6:25一口水-6:32 2800m地点で霜柱を見る-6:349合目石室-6:51大滝頂上小屋-6:58大滝頂上着-7:13大滝頂上発-7:39剣ケ峰着-8:05剣ケ峰発-8:17 3040mピーク-8:583040mピーク発-9:16二ノ池新館-9.22賽の河原-9:29剣ケ峰旭館-9:39巻き道分岐に入る-9:49ロープウェイ方面分岐-9:53飛騨頂上着-10:13飛騨頂上発-10:32摩利支天巻き道終了-10:38賽の河原-10:47二ノ池新館-11:05火口壁-11:18 3040mピーク-12:11 3040mピーク発-12:27剣ケ峰-12:39大滝頂上小屋-13:058合目-13:36登山口


 せっかくなので帰りがけに小三笠山に立ち寄ることにし、後藤さんが戻ってきて車を最初のカーブに移動させる。ここが小三笠山への最短取り付き点である。「山頂渉猟」の著者もここから登り始めている。雨量ロボットか何かの切り開きがあったと書かれているが、今となってはその痕跡は全くかき消され、一面笹の海だ。こりゃ手間取りそうだなぁと考えつつ出発した。

 笹は道路に面した部分を離れると薄くなり、シラビソ樹林となる。山頂まで直線的に向かうと谷に下ってしまうため、まずは小尾根を西に向かう。笹のない樹林はすぐに終わって徐々に笹が濃くなってくるが、上越の根曲がり竹のような太い笹ではなく中アのような細い笹だし、密度も大したことがないので簡単に歩ける。帰りのことを考えて目印を付けながら下っていく。適当なところで進路を南よりに振り、はっきりした尾根上をたどっていくが踏み跡はおろか目印、ゴミとも皆無である。まさか熊はいないだろうが、昨年の経験もあるので鈴を取り出して手に持って鳴らしながら歩いた。徐々に笹が深くなり、帰りが思いやられるようになってくると目の前には深い谷が現れた。岩肌が露出し、谷底に下るには崖を降りなければならないようだ。どうも南に下りすぎたようで、この谷を下って次の尾根に登り返さないと目的の尾根に到達できない。ちょっと危険だし、暑くて虫はつきまとうしで今日は撤退しよう。次回登るときは涼しくなった秋、やはり最初はずっと西に歩いて沢をできるだけ上部で渡って土石流跡に出るのが正解のようだ。鬱陶しい笹をかき分けて大汗をかきながら登り返し、ようやく車に戻ることができた。目印のおかげだ。車の周囲も虫が凄く、おちおち着替えもしていられないほどで、田の原の駐車場には全く虫がいなかったのに、僅かな距離の差でなぜこれほど差があるのだろうか?

14:15最初のカーブを出発-14:37山頂まで1km地点で撤退-15:00最初のカーブに戻る


 本日の予定は全て終了し、あとは温泉に入って買い物をするだけなので、軽く着替えて虫に追われるように車を走らせた。車内にも虫が入り込んでいるので窓を全開にして走行し、風で虫を吹き飛ばしてやっと落ち着いた。スキー場内の車道は冬季は初心者コースになっているようで時々案内標識が出てくる。市街地に入り、御嶽温泉の看板が目に入って右に曲がり、西に向かう。4kmと書いてあったが予想に反して途中からダートとなり人家も何もない山の中に入ってしまい、本当に温泉があるのか心配になるほどだった。でも時々看板が出てくるので間違いないらしくそのまま走っていくと左手に建物が現れた。温泉といってもシンプルな建物で、東北地方で見られるような料金は寸志の無人温泉のようだったが、ちゃんと管理人が常駐していて\500だった。車が数台駐車しており、こんなところでも入りに来る連中がいるようだ。泉質は多量の二酸化炭素を含む塩化物泉で、ナトリウム、カリウム、マグネシウムや塩素イオン、炭酸水素イオン等が多量に含まれ、総量は1リットル中5gくらいあったのではなかろうか、成分量では久々に3桁表示(1g以上)を見た。建物の目の前に源泉があり、オーバーフローした温泉を廃棄している?配管があり、そこで源泉を飲むことができる。源泉の温度は30℃くらいなのでぬるいお湯、飲んでみると確かに炭酸のように二酸化炭素でパチパチする感触が楽しめ、塩気のしょっぱさはわからず何ともいえない微妙な味わいだ。

 国道19号線に戻り、木曽福島のSATYで買い物をしてとりあえず権兵衛峠を越えて伊那に入り、天気予報を聞いて長野南部は曇りのち雨、降水確率は50%と朝から期待できる様子ではない。そこそこの天気ならロープウェイで千畳敷に登って新規掲載の島田娘でも稼ごうかと思ったが、おそらくはガスって何も見えないだろう。それではあまりにもつまらないので、雨が降っても短い歩きで済む富士山5合目付近の山に決める。移動距離は長く、今日の睡眠時間が削られるが、今日のうちに富士吉田まで戻るので日曜日の帰りは1時間で済むようになるので明日が楽になる。河口湖ICで降り、以前寝たことがある涸れ沢に下り橋の下に駐車、静かな一夜を過ごせた。

 

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