後立山 布引山、鹿島槍ヶ岳 (アラ沢ノ頭を断念) 2009年10月11日
所要時間
4:57 大谷原−−5:50 林道終点−−7:21
高千穂平−−8:30 赤岩尾根分岐−−8:41 冷池山荘−−9:28 布引山−−10:13 鹿島槍南峰 11:08−−11:29 布引山−−12:04
冷池山荘−−12:15 赤岩尾根分岐−−13:03 高千穂平 13:24−−13:50 林道終点−−14:32 大谷原
連休初日は北ア稜線での吹雪は確実に思われたので山の選択に悩んだ。雪の心配が少ない南アの2000m未踏峰は離山と嫦娥岳だが、両者とも岩の素養が必要な山であり今の私の実力では途中撤退の可能性が高い。悩んだ結果、土曜は天候回復待ちの休養日として日曜日に北ア方面に出かけることとした。岩山を除く北アの藪山の未踏2000m峰は、後立山で最後に残ったアラ沢ノ頭、DJFがこの春に「強制寒中水泳」を行った高嵐山であるが、雪の心配の点では高嵐山は安全圏内だが高瀬川の水量が心配だ。台風が通過した木曜日は大雨、翌日以降も日本海側は雨が続いており、少なからず増水の可能性がある。水量が少ない秋にわざわざ増水のリスクがある日に出向くのも能が無さ過ぎる。かといってアラ沢ノ頭は岩登りで有名な鹿島槍東尾根にあり、クライミングの核心部から外れているとは言え岩場が皆無か不明だし、ハイマツ藪は確実にあるだろう。ここに半端な雪が乗っていると残雪期よりやっかいに違いない。
両者を天秤にかけた結果、今回の冬型は弱いので北アの積雪は大したことはないと予想、土曜日夕方の槍ヶ岳や立山室堂のライブカメラの映像で確認したところ残雪は斑であり、積雪は数cmと思われ、日曜は天候が回復して日中には雪が解けると判断してアラ沢ノ頭を目指すことにした。もしヤバそうなら鹿島槍往復でもいいだろう。高嵐山は最初の渡渉がNGだとどこにも登れず終わってしまうので、よりギャンブルの度合いが高いことも加味した。
装備は悩むところだが、この時期はまだ気温はさほど下がらないだろうから日中なら凍結は無いと考え、ピッケルは止めておいて6本爪の軽アイゼンだけにした。今回のルー途中で東尾根以外で一番ヤバそうなのは赤岩尾根最上部のトラバースだと思うが、赤岩尾根も登山道が埋もれるほどの積雪は無く、トラバース道も危険はないだろう。ここがヤバそうなら迷うことなくピッケルを持っていくところだ。東尾根で出てくるかもしれない危険個所のため補助ロープも忘れない。大谷原から鹿島槍北峰を経由してアラ沢ノ頭を往復すると累積標高差はおそらく2300mを越えるだろうから、できれば装備は可能な限り軽量化したいところだが、それによって安全性が低下しては話にならずバランスが難しい。
土曜夕方に東京を出発し大谷原駐車場に到着。悪天候のはずだが3連休なので駐車場は満杯かと思いきや、橋を渡った先の駐車場でもまだ空きがあった。夜なので稜線の様子は見えないが、稜線方向には星が見えないので雲がかかっているのだろう。さて、明日には晴れてくれるよなぁ。
林道終点の堰堤 | 堰堤付近から見た鹿島槍東尾根。雪雲に沈んでいる |
翌朝、ロングコースなので夜明け前に出発。私が先頭かと思ったらそれよりも30分早く出発したパーティーがあったが、たぶんこちらと同様に日帰りだろう。さて、どこで追いつくだろうか。飯を食って真っ暗な中を出発。さすが冷え込んでいるので最初はダウンジャケットを着たままだ。歩いているうちに体が温まってきて林道終点到着までにはTシャツ姿になり、堰堤のトンネルを潜る頃には周囲は充分明るくなっていた。ここから見上げる東尾根は白く雪化粧して雲が絡み、アラ沢ノ頭へ行けるか厳しい状況だと判明した。まあ、最終決断はもっと進んでからでいいだろう。
レリーフの岩は北を巻く。冬ルートは直登 | 爺ヶ岳北峰も雲の中 |
なだらかに登山道を登って赤岩尾根に取り付き、以降は登山道に従って尾根上を行ったり巻いたりする。前回は気付かなかったがDJFの高千穂平の記録に出てきたレリーフがはめ込まれた岩は今回は気付くことができ、夏道は北側を巻いてしまうが冬ルートの目印は岩に生えた木に挟まれたエリアを登るよう付けられていた。
池は薄く凍っていた | ダケカンバは丸裸 |
高千穂平のすぐ下にある池はうっすらと凍っており、気温はほぼ0℃まで低下する。既にこの付近のダケカンバは落葉してしまっているが、地面に落ちている葉は紅葉しているわけではなく、先日の台風による強風で落ちてしまったようだ。
高千穂平直下 | 前回、高千穂平山頂から下ってきた斜面 |
高千穂平の行政ピーク | 行政ピークから見た高千穂平 |
行政ピークから見た東尾根。ヤバそうだなぁ | 行政ピークから見た赤岩尾根上部 |
行政ピークから見た鹿島槍〜東尾根 | |
行政ピークから見た八ヶ岳、富士山 | |
行政ピークから見た南アルプス |
本当の高千穂平は南から巻いて、その先の僅かなピークに行政が立てた高千穂平の山頂標識が立っていた。高さとしてはこちらの方が僅かに高いように思えるが、本物の高千穂平のピークが本当の肩の先端部であるのは間違いない。行政ピークも樹林が切れて展望がいい場所で休憩に最適だった。私より30分早く出発した先客と思われる若者パーティーが休憩していたが、地元民なのか分からないがこの時期のこの山にしては軽装で、稜線に出て風に吹かれたら寒くてしょうがないんじゃないかと心配になった。半分夏山気分で来たのだろうか。でも目の前に見える赤岩尾根上部はうっすらと雪が付いているのはもっと下部から見えているはずだから、それなりの覚悟があってここまで登ってきたはずかなぁ。まあ、私の予想ではたぶん危険箇所はないとは思うが、実力に合わせてどこまで行くかは決めて欲しい。こちらが休憩中に彼らは出発していった。
徐々に雪が出てくる | 尾根上の樹林が薄くなる |
もう少しでトラバース帯 | テント場が見えた |
高千穂平は日当たりが良くて気持ちよい場所で長居したくなるが、まだ標高差は半分登った程度で、これから先で雪も現れるし気が抜けないのでこちらも出発。これより先は樹林が低くなって展望がいい尾根が続くので、先行するパーティーの姿が良く見えている。しばらくは傾斜が緩くて快適な尾根歩きが楽しめるが、徐々に雪が現れるようになる。しかし春の淡雪のように半分解けているし、積雪量は僅か数mm程度で歩行に全く支障は無い。これも東向きで日当たりがいい尾根だからだろうが。赤岩尾根下部ではガスの層に突っ込むかと思っていたが、時間の経過とともに天候は回復傾向で赤岩尾根が主稜線と合流する北側鞍部が見えるようになっていた。さて、山頂に到着する頃には山頂も晴れるといいのだが。ここから稜線のテント場や稜線を歩く登山者のカラフルなゴアの色が見えていた。
このピークから先がトラバース帯 | トラバース帯核心部。夏道は危険なし |
トラバース帯を振り返る | その先はなだらかな斜面 |
樹林が切れて低い潅木と草付きとなり、そして尖ってガレた小ピークを右から巻く辺りから冬季危険地帯が始まる。小ピークで尾根地形は終わり、それより上部ではガレと草付きの広い急斜面が始まり、この傾斜では直登は不可能ではないが無理があるだろうし、たぶんこの上部にさらに危険地帯があるのだろう、冬ルートもこの付近からトラバースするらしい。夏道はしっかりしているので何の心配もなく、今は薄く雪が付いていても凍ってるわけではないのでアイゼンも不要で、鎖を使うまでもなく足の置き場所だけ考えれば問題ない程度だったが、積雪時にここをトラバースするのは雪崩の危険があり、雪が安定する時期以降がいいだろう。また、夏道よりやや下部の方が傾斜が緩いので、たぶん冬ルートはそのようになっていると思う。このトラバース帯で先行のパーティーのスピードがガクっと落ちてこちらが先行、しかし後からやってきたTシャツ姿の若者はもっと早くてあっという間に追い越された。いや〜、ここではまだ主稜線の影で北西の季節風が直接襲うわけではないが、その「かけら」くらいはやってきて私でも長袖シャツを着ていないと寒いくらいだがTシャツとは恐れ入った。
エビのしっぽに覆われた赤岩尾根分岐標識 | 冷池山荘方面 |
危険箇所の距離は50mくらいで意外と短く、核心部を過ぎれば等高線に沿った水平動となって赤岩尾根分岐標識が立つ主稜線に到着。標識の風上側にはびっしりとエビの尻尾が張り付き、ガスと寒さを物語っている。私にとっては今シーズン初めての光景だ。風は強くなったが行動に支障をきたすほどではなく、このまま山頂を目指すことにした。若者はここでシャツを着込んで私と同じような格好になった。気温は0℃なので風さえなければ体を動かしていればTシャツでも問題ないが、この風速では凍えてしまう。周囲の登山者は皆ゴアを着込んでおり、私と若者だけが異質なほど薄着だった。でもこの気温じゃゴアを着て登ったら私なら確実に汗だくになる。
若者は軽装なので山頂まで行くか迷っていたが、私の方は服装は似たような格好でもザックの大きさは全く異なり、40リットルのザックにはいっぱいの防寒着と6本爪のアイゼンがあるので、ピッケルの出番が必要な場面が出てこない限り(この先、南峰までそんな場所は無いはずだが)先に進まない理由はない。私の方は行けるところまで行くと話すと、若者も今後の天候回復を信じて進むことに決めたようで歩きだした。彼の方がスピードが速いので徐々に引き離されるが、山頂到着でどれくらい差ができるだろうか。登ってきた人の話では、朝早く小屋を出発して軽装で鹿島槍を目指した人は強風で引き返した人も多かったとのこと。その時間と比べればだいぶ風は弱くなってきたらしい。
木々は白い | 冷池山荘 |
鞍部への下りはうっすらと雪が積もって部分的に凍っているが、大部分は凍結しておらず下りでもアイゼンは不要だった。下ってくる(正確には鞍部から登ってくる)登山者は少なからず軽アイゼンを付けている人がいたが、まあシーズン初めなのでこんなものだろう。鞍部からシラビソ樹林に突入すると霧氷で真っ白で、それは見事な光景だった。帰りは溶けて大雨だったが。
冷池山荘はほとんどの登山者が出発しているはずなので人の姿は少なかった。連休初日の昨日は何人くらい泊まったのだろうか。小屋前を通過して斜面を登るとテント場で、いつの間にかガスの中に入ってしまい、寒々した広場の中に数張のテントがあり出発準備中のパーティーもいた。主が山頂往復中らしい空のテントがバリバリに凍っていたので、昨夜はさぞ寒かっただろう。
寒々としたテント場 | ガスの中を登る |
この先は6月に登ったときは広い雪庇上を歩いたが、今は稜線東直下の夏道を歩く。なるほど、これでは夏道は雪の下だったわけだ。一登りすると森林限界を突破してハイマツ帯が広がり、晴れていれば好展望の稜線歩きが楽しめるはずだが、今はガスで白一色の世界だ。ハイマツにはびっしりと雪が付き、東尾根も半端に雪が乗ったハイマツ漕ぎが確定で、この時点でアラ沢ノ頭へ行くことは諦めた。来年の夏か秋の晴れて展望がいい日にでも再び登ればいいや。
ハイマツ帯のまとまった登りではガスの中から次々と下ってくる人の姿が現れる。やっぱりみんな防寒着の上にゴアを着て完全装備だが、相変わらず私は長袖シャツだけで、おまけ程度にマフラーと毛糸の帽子に手袋だ。山ではマフラー姿はまず見かけないが、首元が温かいだけでかなり体感温度が違う。シャツの上にもう1枚着ると私では汗をかいてしまうので、マフラーで首周りを暖めて襟から暖気が逃げるのを防止する程度でちょうどいい。今はその程度の風速だった。気温は相変わらず0℃前後だ。
布引山山頂。登山者は東側に隠れていた | 布引山山頂標識。赤岩尾根分岐よりエビのしっぽが立派 |
傾斜が緩むと稜線直下を巻くように登山道が伸びているが、この上が布引山のはずで、ちょうど腹が減ったのでここで休憩としよう。てっぺんの山頂標識にはエビの尻尾がびっしり張り付いていたが、稜線東直下は風を避けられて休憩している人が数人、私もそれに加わる。ガスはさらに高度を上げつつあるようで、たまに晴れて暖かい日差しが降り注ぐ。今頃下界は快晴で暖かいんだろうなぁ・・・。
岩稜、ハイマツとも真っ白 | ガスが切れた瞬間。でも長続きせず |
パンをかじって燃料補給し出発。まだまだ下ってくる人が多いが、この時刻だと種池山荘発の人だろうか。今の積雪量はせいぜい1cmくらいだが、鹿島槍北側のキレット方面だと危険度が増すだろうから(歩いたことがないのでどんなコースか知らないけど)縦走してくる人はかなり限られそうだ。みんなほぼ空身で、私のようにザックを背負っている人はほとんどいない。私も防寒着を着たまま歩いて汗をかかないならこんなザックを背負ってこないけど。やがて稜線が広がり、白いハイマツ帯の登山道を緩やか登っていく。積雪はやや増えたが多くても3cmくらいで凍結もせずザックの中のアイゼンの出番がない。ここでさっきの若者が下ってきた。残念ながらガスで展望皆無だったようだ。たぶん彼の登りにかかった時間は5時間程度だろうから下りは3時間くらいだろう。
鹿島槍南峰山頂 | 石には巨大なエビのしっぽ |
南峰から見た北峰と東尾根上部。見えたのは数秒間だけ |
布引山からは終始ガスの中で山頂までの距離が分からず黙々と歩いていたが、霧の中から人が多いそれらしいピークがボーっと現れ、登りきったところに北アではおなじみの黄色い山頂標識が立っていた。ここが鹿島槍南峰だ。残念ながら天気予報よりも天候の回復が遅く、稜線はガスがかかったままで展望皆無だ。本当は白くなった立山、剣の姿を拝みたかったのだが。まあ、それでも初冬のアルプス級を初体験できたのだから貴重な経験となっただろう。やはり、この視界の悪さで東尾根を下るのはやめたほうがいいだろう。
アラ沢ノ頭まで足を延ばさなければ時間はたっぷりあり、ガスが切れるかもしれないと期待をして山頂で1時間近く粘ったが、結果としては瞬間的に周囲のガスが切れたことが数回あった程度で、北峰から東尾根が見えたのは僅か1回だった。周囲の山々もみんな雲に沈んでおり、立山、剣は全く見えず、お隣の五龍岳も分厚い雲に覆われていた。あちらでもこっちと同様にみんながっかりしているだろう。ガスが切れた瞬間には南アルプスの姿を見ることができ、あまりに短時間でデジカメで撮影できなかったが鳳凰三山から聖までずらりと並んでいた。あっちは雲一つない快晴で、場所の選択に失敗したかなぁと少しは考えてしまった。槍穂方面は雲で全く見えず、槍のように尖った針ノ木岳の山頂付近だけが見えていた。
劒岳は雲の中で雪渓のみ見えた | 北ア坊主山山頂も雲の中 |
鹿島槍牛首山 | 高千穂平 |
布引山下りから見た爺ヶ岳 | |
テント場近くから見た爺ヶ岳 | |
赤岩尾根分岐から見た鹿島槍 | |
赤岩尾根分岐から見た赤岩尾根 |
稜線直下のトラバース帯の雪はすっかり溶けており何の問題もなく通過、尾根に乗ればもう心配することはない。既にお昼過ぎなので人の姿は少ないがポツポツ見えている。日当たりのよい高千穂平で最後の休憩をし、あとは一気に尾根を下った。途中で追い越したのは4人と、やはり少なかった。林道に出るとトンネルのある堰堤から少し下った林道脇の休憩所でさらに2人、林道歩きの最後でゲート近くで前を歩く1人を見て駐車場に到着。やはり真夏のシーズンよりはずっと人は少なかった。
今回は残念ながらアラ沢ノ頭の偵察にもならなかったが、来年は天気のいい日を選んで挑戦したい。