後立山南部 針ノ木岳、小スバリ岳、スバリ岳 2009年6月20日

ルート図。クリックで2.5万図に拡大

 ずいぶん前に扇沢を基点に針ノ木峠から蓮華岳を往復し、針ノ木岳、スバリ岳、赤沢岳、鳴沢岳、岩小屋沢岳、爺ヶ岳と縦走したことがある。ここはテント場の関係で初日は針ノ木峠幕営だったので初日が時間が余りすぎるのが難点だったこと、針ノ木雪渓は硬く締まってノーアイゼンでは危なっかしくてしょうがなかったことをよく覚えている。もう2度と登ることは無いと思っていたが、山名事典に小スバリ岳が記載されたので検討することになった。問題は前回の縦走で小スバリ岳の山頂を踏んだかどうかで、当時は小スバリ岳は全く気にしていなかったので、全く記憶にない。まあ、ネットで調べれば分かるかもしれないが、そもそも小スバリ岳の名前、位置が一般に明確かどうかも怪しく、内容がどの程度信用できるかあやふやかもしれない。そうなると素直に現場に出向いて登るのが確実だろう。

扇沢最下段の市営駐車場 無料駐車場の最上段

 今度の土曜日は久しぶりに好天が予想され、今年初めて週末に北沢峠までバスが乗り入れるので、毎年恒例の仙丈ヶ岳にするか悩んだが、たまには北ア近くで大展望を楽しみたいと考えて小スバリ岳に決めた。梓川ICで仮眠し、3時に起床して大町を抜けて扇沢駐車場に到着、日中の日差しが強そうで最下部の市営駐車場の木陰に車を止めた。今の時期は残雪期でもなく夏山シーズンでもなく一番半端な時期で駐車場はガラガラだ。天気は上々で薄雲はあるが青空が広がっていた。朝飯を食い出発。先週の蝶ヶ岳に懲りて今回は12本アイゼンとピッケルを持っていくことにする。もしかしたら過剰装備かもしれないが、針ノ木雪渓はそこそこ急なところがあるかもしれないので許容範囲だろう。水は1リットル担ぐ。

赤沢岳南側あたりの稜線か 関電専用道ゲート左が登山道
ゲート左の登山道 トンネル入口手前の登山口

 駐車場の一番奥の歩道で上部駐車場に上がり、扇沢ターミナルへは向かわずに車道を直進し、ゲートが閉じている関電専用道路の左側脇にある登山道に入る。この道は関電専用道に絡みながら進むが、道路が蛇行するところをショートカットしていくので効率がいい。道は良く踏まれているし、大町市の案内標識があるので迷うことはない。トンネルに車道が吸い込まれる手前で登山道は左に逃げて、ここが針ノ木岳登山口であった。

中央の谷が針ノ木雪渓 これは赤沢だったか?

 この先はしばらく左岸の高巻きが続くが、これは針ノ木雪渓から続く沢は砂防ダムの連続だからのようだ。いくつか沢を越えるので最初から水を担ぐ必要は無かったようだ。途中で樹林が切れて針ノ木雪渓の様子が見えたが、まだまだ東斜面にも雪が張り付いているので針ノ木峠まで雪が続いているだろう。

大沢小屋 1か所だけ雪渓を横断する
ここから雪渓に下りた 針ノ木雪渓

 大沢小屋を通過してなおも高巻きの道が続くが、やがて雪に埋まった左の沢が接近して簡単に降りられそうなところで雪渓に下る。さすがに雪の上は涼しい風が拭きぬけ、風通しのない樹林帯の歩きより快適だ。これだから暑い時期の雪渓歩きはいい。まだ雪はカチカチには締まっておらず登山靴のエッジを効かせることはでき、それなりの傾斜が出てくるまでノーアイゼンで問題なかろう。後ろを振り返るとダブルストックの単独男性が歩いていたが、前には全く人の姿はなく、私が本日の先頭らしい。

爺ヶ岳南峰。雪渓には単独男性がいる この先でいったん傾斜が緩む

 雪渓はまだ完全にはスプーンカットになっていないので、スキーでも滑れそうな状態だが、所々にデブリの跡だろうか、隙間がある荒れた雪面もあり、歩きにくそうなので迂回しつつ登っていく。まだ時期が早いので雪が薄くなって踏み抜きそうな場所は皆無で、どこでも安心して歩けた。少し傾斜が緩むと谷が左に曲がるが、まだその先で谷は左に曲がっており峠は見えない。

傾斜が緩んだ雪渓を進む ここから本格的な登りが始まる
ヤマクボ沢の雪渓 針ノ木峠が見えてくる

 さらに登ると右手に大きな沢が分岐し、針ノ木岳とスバリ岳の鞍部に向かって雪が伸びているが、これがヤマクボ沢だろう。帰りは針ノ木岳に登り返さずここを下ってもよさそうだ。ちょっとばかり傾斜が急そうだが、本当にヤバそうだったらハイマツとの境界を下ってもいいだろう。ここまで来てようやく針ノ木峠が姿を現したが、峠までずっと雪が続いていた。峠直下の最後の登りが一番傾斜がありそうで、アイゼンを持ってきて正解だった。前回はこの部分は既に雪が消えて夏道を歩いた記憶がある。

 本格的な登りの前に、デブリででこぼこの雪面のうち平らな場所でザックを下ろしてアイゼンを装着した。12本爪なので足の置き方に関係なくガンガン登ることができ、アイゼンで足が重くなっても進行速度は落ちない。ただ、傾斜がきついので直線的には登らずにジグザグに高度を上げる。振り返ると背後の単独男性はかなり小さくなっていた。

後ろを振り返る もうすぐ峠
針ノ木峠 針ノ木峠から見た赤沢岳以東
針ノ木峠から見た針ノ木岳側 針ノ木峠から見た蓮華岳側
針ノ木峠から見た北葛岳〜赤牛岳(クリックで拡大)

 徐々に空が近くなり、傾斜が緩むとすぐに針ノ木峠に到着、峠付近も雪に覆われているが、針ノ木小屋は北側を除いてすっかり雪が溶けていた。これから登る尾根も稜線上は雪は見当たらず、もうアイゼンは不要だろうとザックにくくりつけた。峠は既に森林限界で南方の展望も良く、餓鬼岳から水晶岳にかけてずらりと並んでいた。久しぶりに見る北ア核心部の大展望で、これが見られただでも来たかいがあるというものだ。

最初は無雪の夏道 すぐに残雪上を歩く
この先は北斜面をトラバース。でもたぶん稜線上に冬ルートがあるはず
トラバース帯突入 遠目には恐ろしげだが現場は意外に楽勝

 針ノ木岳に向けて登り始めると、最初はきれいさっぱり雪が消えて夏道を歩くが、標高2550mを越えると夏道は尾根直上ではなく北側を巻くようになり残雪上を歩く。標高2650m付近になると稜線上は岩場になり、夏道は大きく北側を迂回しているらしくトレースは2750m峰北側を巻いてその先の鞍部に続いていた。冬道らしき尾根上の踏跡も見られるが、ここは雪の上の方が歩きやすいだろうとトラバースすることにした。遠目から見るとかなりヤバそうに見えたが、現場に突入するとそこそこ急なトラバースだが先行者のトレースがしっかりしているのでステップを切る必要はなく、淡々と歩くことができた。まあ、これも12本爪アイゼンにピッケルだからだが。ここは下部で傾斜が緩まっており、そこまで障害物はないのでたとえ滑落しても安全に停止するだろう。

 トラバースが終わり、鞍部から最後の登りにかかると尾根上は再び残雪に覆われ、しかも雪壁のような急斜面となっているが、左手の石ころの無雪地帯を歩くにはアイゼンがかわいそうなのでそのまま雪壁を登っていく。先行者のトレースもそうなっているような。さすがに帰りはそこは下らなかったが。

最後の雪堤登り 針ノ木岳山頂。背景は立山
眼下には黒部湖 GPS12チャネル全受信は初めて
針ノ木岳からの360度パノラマ写真(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た餓鬼岳〜槍ヶ岳(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た野口五郎岳〜赤牛岳(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た薬師岳〜越中沢岳(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た鳶山〜龍王岳(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た立山〜黒部別山(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た後立山(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た木挽山、奥木挽山
針ノ木岳から見た南ア(クリックで拡大)

 雪壁を越えると山頂は目前で、超久しぶりの針ノ木岳山頂に立った。前回もたぶん好天だったと思うが、その当時はまだ北アは入門時期で山岳同定は全くできなかったに違いない。今は北アどころか遠く南アの3000m峰もどれがどの山なのか分かってしまう。一番最初に目がいってしまうのは、なんと言っても硫黄尾根だが、硫黄岳は見えるが赤岳は見えていないようだ。まだ硫黄岳には雪が残っているが、たぶん途中の尾根は雪が落ち切っているだろうな。次に目が行くのは木挽山に奥木挽山で、まだ稜線には雪がべったり張り付いていて、越中沢岳からなら往復できそうだ。黒部別山は稜線上に僅かに雪が残っているが、たぶん西側尾根は完全無雪だろう。仙人山は斑に白いが坊主山は真っ黒だった。同様に中背山も真っ黒だが、東谷山は僅かに雪が残り、鹿島槍の牛首山は尾根上は50%くらいは雪が残っていたので、まだ藪漕ぎから相当開放されるだろう。今日は東側の空気の透明度は悪く、浅間がやっと見える程度だったが、南は良くて聖岳まで見通すことができた。せっかくなのでGPSの電源を入れて山頂地位を確認しようとしたら、電源が立ちあがって衛星受信状況表示で12チャネル全部のバーが黒くなっているではないか。これは初めてであるが、針ノ木岳のロケーションの良さではなく衛星配置の良さが原因だ。でも、これはなかなか体験できないので、確率的にはかなり低いようだ。ちなみに衛星を12個受信しても5,6個受信したのと同じ程度の誤差を生じていた。

スバリ岳との鞍部へと下る 針ノ木岳を振り返る
鞍部 スバリ岳へと登る

 しばし休憩して本命の小スバリ岳へと向かう。もし登りと同じルートで針ノ木岳を越えて針ノ木峠から雪渓を下るなら針ノ木岳で荷物をデポして空身で往復すればいいのだが、ヤマクボ沢を下る予定なので鞍部までザックを担いでそこからアタックとなる。完全に雪が消えて夏道が出た稜線西側を下り、鞍部で荷物を置いてアタックザックで山頂を目指す。鞍部から先も終始登山道は西側直下を巻いているので全く雪はなく、小スバリ岳直下西側に到着した。登山道はほんの僅かだけ山頂西側を巻いており、登山道を歩いていたのでは小スバリ岳の山頂は踏めないのだった。というわけで前回は山頂を踏んでいないことが判明し、今回登って正解だった。

小スバリ岳。登山道は西を巻く 小スバリ岳山頂。背景は針ノ木岳

 山頂まで登山道から僅か数10秒の距離で、高さは10mもないだろう。石の上を選んで歩き、植物を踏まないように進むとすぐに最高点に到着、標識皆無だが真っ赤に錆びた空き缶が転がっていた。山頂は岩稜帯で見晴らしが良く、針ノ木岳はずいぶん高く見える。一方のスバリ岳はほぼ同じ高さだ。

小スバリ岳から見たスバリ岳 スバリ岳山頂
スバリ岳から見た小スバリ岳 スバリ岳から見た北方
スバリ岳から見た黒部別山、坊主山(クリックで拡大)
スバリ岳から見た黒部丸山

 せっかくここまで来たならスバリ岳山頂を踏まない手はなく、僅かに下ってこれまた無雪の尾根道を登って山頂到着。ここも岩稜帯で遮るもののない大展望であった。夏なら大いに賑わうのだろうが、今は私一人で山頂は貸切だった。梅雨の間はこんな感じだろうか。

小スバリ岳から見たトラバース区間を歩く登山者 鞍部から見たヤマクボ沢

 山頂を出発する間際に針ノ木岳へと登る残雪のトラバース区間に人間の姿があるのが見え、この時期に登ってくるのはどんな人だろうと興味をもち、ヤマクボ沢下降の計画をやめて針ノ木岳へと登り返すことにした。まあ、トレーニングの一環でもあるわけだが。鞍部でザックを回収してゆっくりと登り返すと針ノ木岳山頂で若い単独の男性が休憩していた。川崎からやってきたとのことで、梅雨までは南アルプスを中心に登り、梅雨入り後は北アルプスに行動の場を移しているとのこと。先週は鳳凰三山に登ったが、残雪を踏んだのは距離にして5mくらいしかなかったとのこと。まあ、南だと東側の谷を通過しない限りはそんなもんだろうか。今年の正月は甲斐駒、仙丈ヶ岳だったとのことで、かなりの猛者だと分かった。ただし藪山はやらないらしかった。私の超冷え性体質では厳冬期の甲斐駒は一生不可能だろうなぁ。もし行ったら手足の指が全部なくなってしまうだろう。

針ノ木岳から下山開始 トラバース区間を下る

 男性が先に下っていき、私も5分くらい遅れて出発。この間に他には登ってくる人はおらず、静かな山頂だった。下り始めるとトラバース区間を登ってくる単独の人が見え、ボチボチ他のお客さんがやってくる時間になったらしい。先行する男性を追い抜き(あちらは6本爪軽アイゼンなのでこっちの方が歩行速度が速い)、登ってくる男性とすれ違ったが、先行する2人のステップがきれいに切れているのもあってノーアイゼンだった。でも私なら怖くてそれはできないだろうなぁ。

 峠に下ると3人ほど休憩しているパーティーがあり、蓮華岳方面に空身で登っている人の姿も見えた。雪渓を見下ろすとポツポツと人の姿が見え、合計10人くらいはいそうで思ったよりも人数がいた。アイゼンをつけて下降開始、さすが12本爪は先週の6本爪と違ってかかとでしっかりブレーキが効くので、半分アイゼンを滑らせながら走るように下ることができた。ヘロヘロになりながら登っている人には申し訳ないが・・・。たぶんコースタイムの半分以下で雪渓は下れたと思う。すれ違ったのは合計20人近くいたと思う。

トローリーバス 扇沢ターミナル

 雪渓末端手前でアイゼンを脱ぎ、夏道に乗り換え、途中の沢で濡れタオルで汗を拭う。夏道を歩く頃には時刻が遅いのか登ってくる人は1人だけだった。扇沢に出るとターミナル前は大型バスがいっぱいだったが、マイカー駐車場はまだまだガラガラだった。これも梅雨明けまでだろうけど。私が車を置いた駐車場もガラガラで、着替えを済ませてお昼寝してから旧大町市民浴場(現上原の湯 \400)に向かった。


所要時間
 4:34扇沢−−4:39ゲート−−4:58登山口−−5:35大沢小屋−−5:54雪渓−−7:24針ノ木峠7:29−−8:13針ノ木岳8:42−−8:53鞍部−−9:05小スバリ岳−−9:12スバリ岳9:24−−9:36鞍部−−9:52針ノ木岳10:22−−10:40針ノ木峠10:44−−11:12雪渓を離れる11:16−−11:30大沢小屋−−12:03登山口−−12:22扇沢

 

 

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