北ア南部 蝶ヶ岳、蝶槍 2009年6月13日

ルート図。クリックで2.5万図に拡大


 ずいぶん昔に合戦尾根から大天井岳経由で大滝山まで縦走したときに蝶ヶ岳山頂は踏んでいるのだが、当事は日本山名事典はまだこの世に誕生する前で、蝶槍は地形図にも記載されていないので山頂を通過したかどうか記憶がない。地形図によると登山道は山頂西側を巻いており、山頂を踏んでいない可能性もある。モヤモヤした気持ちのままでは気分が晴れないので、蝶槍の正確な山頂を踏みに行くことにした。そろそろ気温も上がって樹林帯の高さの山は虫が多くなり、休憩しているとボコボコに刺されてしまうので、蝶ヶ岳のような森林限界の山が適当だという理由もあった。

三又駐車場(下山後に撮影) ゲート

 梓川SAで仮眠し、朝3時に起床して豊科ICで降り、一路西を目指す。国営あずみの公園を過ぎてなおも直進すると蝶ヶ岳、常念岳登山口の案内が登場し、以後はそれに従う。ずっと舗装道路が続き、最後はトイレが建つ広い駐車場が登場し、その奥にゲートがあった。ここが三又駐車場だ。まだ暗いが朝飯を食っている間に明るくなり出発。まだ夏山シーズンではないが早朝からポツポツ歩きだす登山者もいた。雪用の装備をどうするか悩んだが、蝶ヶ岳ならトレース(ステップ)があるだろうからと6本爪アイゼンにストックとした。天候は曇りだがまだ雲は薄く、もしかしたら日中は晴れるかもしれない。

林道を歩く 林道終点
本当の三又分岐 本沢の吊橋

 まずはダートの林道歩きで、その林道終点にはいくつか建物が建ち、登山計画書提出用ポストもあった。まだシーズン前なので無人だが、夏山シーズン中は朝から人が詰めているのだろう。登山道に入っても1級の道が続き、常念岳分岐が登場した場所が本当の三又だろう。少し進むと本沢を渡る吊橋の手前で常念岳方面の道と合流、これは本沢が増水したときの高巻用だ。

最後の水場「力水」 最後の「ぜよ!」が印象的

 ここからやっと傾斜が出てきて登山道らしくなってくる。周囲は深い落葉樹林で展望は無いが、標高からしてしょうがない。少し傾斜が緩んで小さな沢を横切るところで「力水」の看板あり。これが最後の水場だそうだ。今日は1リットルの水を担いでいるのでこれ以上は不要だろうが、せっかくなのでいただいておく。

根元から曲がった切株。置かれた石により恐竜の頭そっくり! 良好な道が続く
山頂が雲に隠れた常念岳 イワカガミがたくさん咲いていた

 斜面をトラバース気味に登っていき、尾根に乗ってからはグングン高度を上げる。僅かながら樹林が開け常念岳が姿を見せたが、常念沢のみ雪があるだけで稜線上はほとんど雪は見られなかった。まあ、南斜面を見ているので当然だろう。標高が上がると徐々にシラビソが混じりだし、いつの間にかシラビソだらけになっていた。途中までは登山道脇は笹に覆われていたのだが、いつの間にか笹が消えて、南アルプスを思わせるどこでも歩けるような植生になっていた。まあ、こんなところで無雪期にわざわざ登山道が無い所は歩かないけど。

まめうち平 2180m地点の広い雪渓トラバース

 1916m標高点には「まめうち平」の標識があり、僅かに下って緩く登り返す。そろそろ標高は2000mに達するが、北斜面でも雪のかけらもない。2180m地点で谷をトラバースするところでようやく残雪が登場するが、谷とその周囲にあるだけですぐに消えてしまう。谷の傾斜はさほどでもないので、ここはノーアイゼンで問題なかった。先行者がいつのか分からないが昨日のものと思われる足跡は残っていた。これなら残雪帯でもルートが追えるだろう。

標高2300m以上で残雪が現れる 夏道不明で足跡を追う

 谷から先は斜面をトラバースしつつジグザグに高度を上げていく。標高が2300mを越えると徐々に残雪が現れ、すぐに一面の残雪帯になりスパッツを装着する。こうなると夏道は全く不明だが、先行者の足跡は小尾根をまっすぐ登っているのでそれに従う。結構な傾斜だが樹林帯の中だし残雪はまだ硬くなくキックステップが効くし、先行者のステップもあるので恐怖感はない。

樹林が切れた上方の急な雪面。唯一緊張する場面 傾斜が緩んだ個所から下方を見る

 しかし標高2500mくらいでシラビソ樹林が切れて開けた薄いダケカンバの樹林帯に変貌、しかもなかなかの傾斜で滑ったらピッケル無しで止まるのか心配になる程度でちょっとビビる。先行者のステップはここで不明になり、浅い谷を直登しているようなそうでないような。しかも稜線はガスがかかって先の様子が見えない。樹木がない谷地形より少しでも樹木がある尾根地形の方が安全だろうと左に進路を取り、広い尾根上をキックステップで登っていく。こういう傾斜地では6本爪はあっても無くても同じような頼りなさで、ちょっとオーバーだが12本爪にしておけばよかったと後悔した。でも登れない&下れない傾斜ではないので慎重に登っていく。

ガスの中、稜線向けて登る 今年初めて雷鳥登場

 ガスに包まれた稜線直下でようやく傾斜が緩んでホっとできる。しかし今度は風が強まってガスが渦巻き、何とも暗くイヤな雰囲気だ。日よけのために麦藁帽子を被ってきたがまったくの用無しどころか強風で煽られて邪魔なだけだった。トレースはハイマツに挟まれた残雪の小さな谷を登るようになるが、その入口で雷鳥発見。もしかしたら今年初めてお目にかかったかもしれない。まだ白い羽が混じったつがいだった。

森林限界の稜線に出る 蝶ヶ岳ヒュッテ
ヒュッテ裏の小ピークから見た蝶槍方面(クリックで拡大)

 登山道が残雪の谷を抜けて右手の小尾根に乗ると雪がすっかり消えて完全に夏道になった。これ以降の稜線上は森林限界で日当たりが良く(今は曇りだが)全く雪がなく、まさしく夏の光景だったが南西の強風がモロに拭きつけ、気温は5度しかなくてかなり寒くなった。いままでTシャツだったがさすがにもう限界で、長袖シャツを着込んだ。蝶ヶ岳直下を巻いて蝶ヶ岳ヒュッテを通過、ここは風力発電用小型風車が2基立ち、屋根の上には太陽光発電パネルが設置してあった。山小屋の場合はこれらの設備でどれくらい電気の需要を賄えるのだろうか。一般家庭よりも家電製品は圧倒的に少ないだろうから消費電力も少ないはずで、条件がいい日ならディーゼル発電機を動かさなくても賄えるだろうか。ただ、夜間は太陽電池は使えないので昼間にバッテリーに充電した電気を使うことになるだろうが、容量はどれくらいあるのだろうか。小さいと夜は風力とディーゼルだろう。テント場には1張りだけテントがあった。

強風の中を北上 三角点峰付近から見た蝶槍

 強風にふらつきながらヒュッテ裏の小ピークに登ると先行の3人パーティーが写真撮影中だった。これからどっちに向かうのだろう? ここまで来れば私の目的地である蝶槍は近く、ピコっと尖った頭が見えている。常念岳も見えているが肝心の槍穂は雲の中で全く影も形も無かったのは覚悟していたのだが大いに残念だった。耐風姿勢をとるほどではないが、風上側に体を傾けて歩くような状態が続いた。稜線上では風が弱まることがなく、ずーっと吹き続けていた。

蝶槍山頂。背景は常念岳 蝶槍から見た蝶ヶ岳方面
蝶槍から見た槍〜常念岳。槍穂は雲の中で見えない

 僅かに下って横尾への分岐を通過、なだらかな三角点ピークの西側を僅かに巻いて最後の登りにかかる。大した登りではなくなだらかな岩の稜線を登りきった露岩の最高点が蝶槍で、登山道は正確にてっぺんを通っていた。ということは前回ここを歩いたときにちゃんと山頂は踏んでいたわけだ。前回は好天で大展望だった記憶があるが、今回は残念無念。まあ、雨が降っていないだけでもよしとするか。時間経過とともに徐々に雲の高さが下がってきているようだ。岩陰でしばし休憩していると先ほどの3人パーティーが空身でやってきてすぐに戻っていった。

三角点峰。ちょこっと出っ張ったのが三角点 蝶ヶ岳山頂

 徐々に風が強まっていくようで、下山を開始したときには風上に顔を向けると呼吸がしにくいほどだった。帰りがけに三角点を訪問、前回は素通りしたが今回はその姿をしっかりと見ることができた。3人組は横尾分岐を下っていくのが見え、空身だった理由が納得できた。ヒュッテを通過すると既にテントは消えうせ、住人はどっちに向かったのだろうか。せっかくなので蝶ヶ岳山頂を往復、半分ガスがかかって薄暗かった。このまま天候は悪化していくのだろうか。既に常念岳はガスの中に沈んでしまった。

 夏道から残雪の谷に入ると単独行の男性2名が点々と登ってきた。さて、こちらは問題の急な下りだが、この2名+先行して下山した登山者のおかげできれいなステップが切れており、アイゼンの歯がないかかとを蹴りこみつつストックで体を支えながらゆっくりと下った。幸い、バックで下るほどでもなくて助かった。これも12本爪ならアイゼンを利かせてさっさと下れるのだが。しかし先に下った人の足跡はノーアイゼンで、よくもまあこんなところを下れるもんだと思わずにはいられない。樹林帯に入ってしまえばもう緊張する場所はなく、足跡を追ってグングン下る。この時間になると次々と登ってくる登山者とすれ違うようになる。まともなアイゼンにピッケルを持った登山者もいれば、地元民だろうか、ノーマル運動靴の完全夏山装備の親子連れもいたが、スパッツ無しの運動靴では靴の中はびしょ濡れだろう。この先大丈夫なのか心配になってしまう。登山口までにすれ違った登山者の数は20人くらいいた。

 残雪が切れたところでアイゼンを脱ぎ、あとは淡々と樹林帯を下っていく。標高が下がると朝は鳴いていなかったハルゼミの大合唱で初夏の雰囲気満天だった。林道を歩いているときに雨が落ちてきたが大降りにならないうちに上がったが、稜線上は大丈夫だろうか。駐車場に到着すると8割がた埋まっているが満杯ではないところは夏山との差だった。おそらくシーズン中は早朝でないと駐車スペース確保は無理だろうな。


 ここ2,3週間は楽な山が続いたせいか、今週は足が軽く調子が良かった。さて、来週はどうなるだろうか。もう梅雨入りだが天気は大丈夫かな? 今度の月曜日からようやく北沢峠までバスが入るので、毎年恒例の仙丈ケ岳もいいかな。


所要時間
4:25駐車場−−4:37林道終点−−4:40三又−−4:46吊橋−−5:45まめうち平−−7:29稜線の夏道に出る−−7:34蝶ヶ岳ヒュッテ−−8:02蝶槍8:24−−8:57蝶ヶ岳−−10:15まめうち平−−11:00三又−−11:02林道終点−−11:10駐車場

 

 

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