白山 三方崩山、奥三方岳 2009年5月9日
広域地図 |
ルート図。クリックで詳細図を表示 |
東京から白山はえらく遠く、今回は登山口が岐阜県側の平瀬温泉なので少しは近いが片道約500kmである。普通に行ったら寝る時間が無いので、仕事の一区切りがついた午後は休みにして出発した。私の使っているロードマップは古く、東海環状道の記載は影も形もないし、東海北陸道も白川郷付近は未完成の時期のものだ。東海環状道が東海北陸道までつながっているのかも知らないので、中央道から東海環状道に入る前にPAに入って確認するありさまだ。ついでに白川郷ICに近いパーキングエリアとガソリンスタンドがどこにあるかもチェック。帰りの早々に給油しないとガス欠してしまう。ちゃんとつながっていることを確認して安心して環状に入り、東海北陸道に入って北上を開始し、トンネル間の小さなパーキングである飛騨河合PAで睡眠。このまま白川郷まで走ると金曜日のうちにICを出ることになるので\1000の恩恵を受けられないからだ。こんな小さなPAは他に利用者がいないと思ったが意外に利用率は高く、できるだけ駐車場の橋に止めたが大型トラックのアイドリング音で静かに寝ることはできなかった。
ダートの林道。砂防ダム上までは普通車でどうにか通行可能 | 砂防ダムの少し先で歩きに切り替える |
朝4時前に起きて出発し、白川郷ICで降りて国道を南下、地形図を見ながら林道入口を探し、道の駅の向かい側に三方崩山の標柱が立っているのを発見、ダート道を上がっていく。エアリアマップの記述では悪路と書いてあったが最初は問題なしで、これなら上まで行けるのではと思わせる状態だったがすぐにガタガタになり、1速に落として上がっていく。傾斜が緩ければ大きな問題はないが、そこそこきつく砂利が浮いているので2WDでは時々タイヤが空転する。右手に砂防ダムの堰堤が見えて水溜りを越えた次の左カーブでそろそろ潮時と駐車余地に車を突っ込んで朝飯。飯を食っている間に周囲は明るくなり、出発時には夜明けを過ぎて充分明るくなっていた。上空の色は灰色で山肌には霧がかかっているが、たぶん雲海の雲であろう。ある標高を過ぎれば青空に出ると予想した。天気予報は全国的に快晴で真夏の暑さを告げていた。
写真では分かりにくいが舗装に切り替わる手前は かなり荒れて普通車で突破は無謀 |
上部は舗装済み。終点まで舗装が続く |
林道終点のミニトンネル。内部に水場あり | トンネル手前が登山口。通行止めの表示あり |
砂利の林道を歩きだすとすぐに今まで以上に路面が荒れ、普通車では通行不能になった。私が車を諦めた場所はまことにいいタイミングだったようだ。かなり悪い区間は100〜200m程度で、それを過ぎるとなぜか舗装道路に変貌、ジグザグって標高を稼ぎ、終点は小さなトンネルだった。トンネル手前左側のコンクリート壁面に階段があり、「←三方」の文字がペイントで書かれていた。どうやらこれが登山口のようだ。しかし階段入口にパウチ処理された何かがぶら下がっており、見てみると「これより先登山道崩壊のため通行禁止」とあるではないか! そんな、ここまで来てそれはないぜ。しかし、具体的にどこでどの程度崩壊しているのかは書かれておらず、場所によっては藪漕ぎで迂回できるかもしれない。ここまで来て諦めるにはあまりにも遠い場所なので、行けるところまで行って、本当にダメなら戻ればいいやと先に進むことにした。その前にトンネル内の鉄管から湧き出している水を補給しておく。上に行けば雪があるだろうが、それまでは水場は無いはずだ。
新緑のブナ林を行く | 残雪登場。古い足跡あり |
最初は新緑が鮮やかなブナ林を登っていく。夏道はかなりまともで雪解け直後というのに倒木や落ちた枝も無く、もちろん藪も無くて快適に歩ける。この標高ではブナ林の下は藪は皆無で、好きなところを適当に歩けるほどだ。空を見上げると低い雲の隙間から青空が見られるようになり、予想通りどこかで雲の層を突き抜けそうだ。気温は10℃を少し下回ったくらいで、日中はかなり上昇しそうだ。標高約1000mで地形図にあるように小尾根に乗り、そのまま尾根を突き上げるのかと思ったら地形図記載の破線とは異なって北斜面を巻きながら緩やかに高度を上げていく。道が違うのかとも思ったが、いくらなんでもこんなにいい道が他にあるとは思えない。やがて残距離標識の立つ小さな谷地形の手前で鋭角に折り返し、以降はジグザグに高度を上げ始めた。ここも新緑の深いブナ林が続く。
尾根に乗る。立派なブナ林 | ブナに飲み込まれた境界見出標 |
尾根に達する直前で浅い谷地形を登るが、ここで少しだけ残雪が登場、周辺には雪が無いのでこの上の尾根もしばらく雪は無いであろう。案の定、尾根に上がると雪はきれいさっぱり消え去って、無雪のブナ林の中に広い道が続いていた。赤い境界標識がブナに付けられているが、半分木に飲み込まれたものもあった。
1373.1m三角点 | 傾斜のきつい登りが続く |
傾斜が緩むと同時に残雪帯に突入 | 標高1624m微小ピークまで残雪が続く |
最初は傾斜が緩やかだが、ブナの木の高さが少し低くなると同時に尾根の傾斜が増し、トラロープも登場するようになる。ここまで来るとブナの芽吹きも僅かで直射日光が暑い。ようやく傾斜が緩むと同時に広い残雪帯に突入し、夏道が不明になる。ブナに付けられた目印も僅かで、登りはいいが下りで夏道入口に取り付けるか心配なので、数箇所に赤テープを付けておく。雪の上には自分の足跡が残るが、ほとんど沈まないので日中気温が上がると消えてしまいそうだ。周囲をよく見ながら進むと部分的に夏道が出ているところもあるが、どうせなら下りはだだっ広い稜線の少し右寄りの雪が続く地帯を歩いた方が、膝への衝撃が雪に吸収されて楽だろう。この付近は残雪が残る時期はガスっていたら下りはイヤらしい場所だ。
標高1624m微小ピークから見た三方崩山 | |
標高1624m微小ピークから見た別山から日照岳へと続く尾根(クリックで拡大) |
傾斜が緩むと標高1624m微小ピークに到着し、その先は雪が消えて夏道が出た明瞭な尾根に変貌する。おっと、その直前に木に青いビニールシートが縛り付けられており、何かと思ったらエンジン付き草刈機だった。これは登山道整備用だろう。ピークの左手はガレて樹林が無いので見晴らしが開け、三方崩山山頂が姿を見せる。かなり雪は少ないようで、山頂の向こう側に雪があるか少し心配になる。一方、ここから見える尾根上はほとんど雪は無く、安心して歩けそうだ。
1740m肩付近。夏道が続く | 1885.7m三角点付近(だと思う) |
1885.7m三角点付近から1956m肩への登り | 傾斜は急だが夏道が出ていた |
北方の山々。そのうち登りたい山だ |
1740m肩まで展望のいい夏道を登り、肩から先の水平区間は稜線も雪田に覆われるが痩せ尾根でも急斜面でも無いので危険は感じられない。再び登りが始まると雪が消えて夏道歩きだ。正面に見えているピーク群は恐ろしく急に見えるが、良く見ると雪が残るのは北側斜面だけで稜線上は夏道が見えていて、接近するとロープや鎖が下がっていても使う必要がない程度の道であり一安心。1885.7m三角点直下が一番傾斜が急だが転落しそうな地形ではなく、両側を樹林にガードされた溝のような夏道で特に問題なく通過できた。三角点は気付かなかったが、もしかしたら雪の下だったかもしれない。
もうすぐ2000m峰てっぺん | 2000m峰手前の肩を見下ろす。鞍部以外は夏道を歩ける |
2000m峰直下から見た三方崩山、奥三方岳 |
1959m肩から先が今回の核心部で、痩せた岩尾根歩きとなる。地形図の表記では尾根が痩せているようには読み取れないが、実際は左は切れ落ちて右手も急斜面となり、微妙なアップダウンが連続していくつかの小ピークを越えていく。しかし予想通りに痩せた稜線上はほとんど雪が落ちて夏道が出ており、登山道で残雪があるのは小ピーク間の鞍部付近だけだった。1箇所は夏道が細い雪堤に覆われて南北側とも急斜面の場所があったが、距離は10m程度でナイフリッジとは言ってもしっかりしたものなので堂々とてっぺんを通過した。既に気温が上がって雪が緩む時間なのでアイゼン無しのキックステップでOKだった。もう1箇所は鞍部から登り始めの数mにかけてが雪に埋もれて、登りのところが少し急であったが、現場に到着するとアイゼンを付けるほどでも無く、距離はせいぜい5mといったところでこれもキックステップで問題なく通過できた。他にも傾斜が緩い場所は雪があったが、切れ落ちていないので特に危険を感じることはなかった。
2000m峰を越えた直後の崩壊個所。北側が崩れている | 崩壊個所を西から見上げる。南(右)を巻けばいい |
2000m峰−2030m峰鞍部の雪堤 | 2030m峰途中から2000m峰を見る |
2000mピークに到着すると2030m鞍部まで痩せた尾根が続くが、その先は尾根の幅が広がって安全地帯に入るようだ。痩せてはいるが完全に夏道が出ていて危険は無く、鞍部直前で稜線北側が崩落して南を僅かに迂回する場所があったが、ここも雪は完全に消えて簡単に南斜面を巻くことができた。たぶんここが登山口に書いてあった崩壊箇所だと思うが、それなりの登山経験者なら問題ないと思う。もしかしたらそのうちに鎖が付くかも? 鞍部の先でやはり稜線北側が崩れた箇所があったが、ここはもっと問題なかった。下手をすれば気付かないかも?
2030m峰を越える | 左手の谷は適度な傾斜。雪のある時期は 雪崩さえなければ尾根コースより安全かも |
2030m峰から見た三方崩山、奥三方岳 |
その後は尾根が広がると同時に雪庇の残骸が登場し、部分的に夏道を覆い隠して急斜面までせり出しているので、雪庇に乗り換えて進んでいく。良く締まった雪で、せっかくワカンを持ってきたが出番がないままだ。山頂との鞍部で進路を南に変え、これまた部分的に夏道が出ているが残雪で寸断されているのでシラビソ樹林の残雪帯を登る。そういえば痩せ尾根区間はほとんど樹林は無く森林限界の様相だったが、2030m峰で突然シラビソが登場したな。左手に見えている谷は地形図では稜線直下は崖マークだが、実際は崖は無く雪でつながっており、見下ろすとそこそこ傾斜は急だがバックで下るような傾斜でもなく、今まで歩いてきた稜線に雪が付いている場合はこの谷を登る方がいいかもしれない。ただし雪崩には注意が必要だろう。今の時期は雪解けが進んで下部は雪が見えないし、三方崩山東面の崩壊地から全層雪崩が落ちてくるので通過は危険だ。私が歩いている間に凄い音とともに雪崩が谷に落ちて行き、ブロックが雪の上を滑っていった。お〜、怖い。
進路が南に変わる | 山頂直下 |
三方崩山山頂 | 山頂標識 |
三方崩山から見た登ってきた尾根 |
深いシラビソ樹林を登りきったところが三方崩山山頂だった。大半は残雪に覆われているが東の縁は地面が出ており、冷たい雪の上で休憩しなくて済みそうだ。三角点は僅かに雪の上に頭を出しているくらいなので、残雪の深さは大したことはない。手製と思われる大きな山頂標識が紐で木にぶら下がっていた。東側が崩壊した斜面で展望良好だが、西側はシラビソ樹林でこれから歩く奥三方岳は見えない。
鞍部へと下る。下部は笹が出ている | 鞍部付近は雪無し笹無し |
少し休憩し、余計な荷物を大きなビニール袋に入れて山頂にデポし、奥三方岳へと向かう。ワカンをデポするか悩んだが、日中になり雪が緩んで踏み抜く可能性もあるのでこのままもっていくことにする。ここからは鞍部までの下りと奥三方岳への登り返しの傾斜が急なので、最初からアイゼンを装着して出発だ。山頂から西に直進して下り始めるが、鞍部付近は完全に雪が消えて笹の海で、高度さを損するが少し北よりに進路を変える。大きく北に迂回すれば笹を完全回避できるが標高差の損失が大きくなるので、下りだからいいかと部分的に笹の島がある区間を突っ切る。まだこの辺は腰ほどの高さで激藪ではなく、これくらいの笹薮がずっと続くのならば無雪期でも行けそうだが、現実はそう甘くないだろう。
奥三方岳向けて登る | 雪がつながった北側を巻き気味に登る |
稜線に出る直前 | 稜線に出た |
2120m峰は北を巻いた | 巻いた斜面 |
鞍部から北に落ちる広い谷を越えて、雪がつながった北斜面を巻き気味に登っていく。これがなかなかの傾斜で直線的に登るのはきついのでジグザグを切って高度を稼ぐ。見上げて視界に入るのは白い雪面と青い空だけだ。傾斜が緩むと小ピークの両側で雪がつながり、どっちがいいのか分からないが南を巻いて先に進む。その先はなだらかな稜線に変貌し、2120m峰が2つある付近は北側が緩斜面なので巻いてしまう。ここはシラビソが点在する気持ちのいい斜面だった。
稜線に復帰 | 目の前が奥三方岳 |
最後の登り | 奥三方岳山頂 |
奥三方岳から見た白山〜大笠山(クリックで拡大) | |
奥三方岳から見た別山〜焼滑(クリックで拡大) | |
奥三方岳から見た白山〜日照り岳の稜線(クリックで拡大) | |
奥三方岳から見た三方崩山方向(クリックで拡大) |
その先の水平な稜線に出て、最後は尾根を正直に歩くと少し遠回りになるのでショートカットして最後の登りにかかる。ここは樹林が消失して一面の雪原で、直射日光と雪からの照り返しを浴びながらの登りで、今日の気温だとちょっと暑いくらいだ。すぐになだらかで丸く広い奥三方岳山頂に到着。1本のシラビソの上部にカラフルな手製の山頂標識がかかっているが、今の雪面より3mくらい高い場所に付いているので、この標識が設置されたときは今より2mくらい積雪が多かったようだ。南から西は低いシラビソで若干視界が遮られるため、展望写真は少し場所を移動して撮影する。東から北にかけては遮るもののない展望が広がっていた。雪面には2箇所ほど大穴が開いていて、中には大きな石が鎮座していた。積雪は1,2m程度だった。日向ぼっこをしながらしばし休憩。
鞍部向けて下る | 鞍部から見た三方崩山南ガレ |
奥三方岳直下から見た三方崩山 |
帰りは鞍部手前までは同一ルートで戻り、今度は稜線を正直に歩いて草付きの最低鞍部に降り立った。このままガレの縁を登って踏跡があるか確認しようかとも思ったが、わざわざ登りで笹に突っ込むのももったいないので北に下って雪が続く斜面を登り返した。再び三方崩山山頂に立ったが無人で、足跡も増えていなかった。もうお昼近くなので本日の客は私一人らしい。山頂で昼飯を食って休憩しながら東尾根を見ていたが、動くものは見えなかった。
2030m峰東側の小崩壊地。通過に問題なし | 2030m峰から北に延びる尾根 |
2000m峰からの下り | 痩せ尾根終了 |
1624m峰付近のみ残雪あり | 登って行った単独男性 |
下山開始。もう真昼間で、帰りのコース上にはアイゼンが必要な硬い雪はあり得ないので、下りでもノーアイゼンで出発。痩せ尾根中の鞍部付近の雪堤も問題なく通過し、広い尾根に出ればもう気楽なエリアだ。どんどん下って行って1750m付近で登ってくる単独男性と遭遇、装備からして日帰りだが行き先は奥三方岳だという。今からだと下ってくる頃には薄暗くなっているんじゃないかなぁ。まあ、ここは道がはっきりしているので暗くなっても歩けるだろうが。
大きな残雪帯も先ほどの男性の足跡が明瞭に残っていて登りにつけた目印は無用の長物だった。雪が消えた後の登山道はそれまでと比較して足への衝撃が大きいし、滑ることもできないので歩幅が広げられず足への負担がかかるが、これがいつもの状態なので不平は言えない。もうこの時期だと標高が落ちて気温が上がると虫が発生しており、鬱陶しく目の前を飛び回っていた。まだ刺す虫が出ていないのでいいが、そのうちに虫除け必携のシーズンが来るなぁ。ブナの葉が茂って日陰になるので少しは暑さが軽減されるが、標高が落ちるに従って搾り出される汗の量は確実に増えていった。
たぶんタムシバ。あちこちで咲いていた | 林道終点の車。パジェロなら上がれる |
登山口に到着したら、ザックを放り出してトンネルの湧き水で顔と腕を洗ってさっぱり。もうこれからは汗拭き用の濡れタオルが必要だな。林道終点にはさきほどの男性のものと思われるパジェロが止まっていたが、あの荒れた区間はこれくらいの車でないと登れないよなぁ。少し歩いて自分の車に到着、着替えてからゆっくりと車を走らせ、国道の目の前にある道の駅「飛騨白山」併設の「しらみずの湯」(\600)で汗を洗い流し、長い長い帰途へ付いた。
所要時間
5:16駐車場所(標高740m)−−5:24林道終点−−5:51 1020m尾根−−6:12尾根に乗る−−6:36
1373.1m三角点−−7:09 1624m峰−−7:36 1840m肩−−8:01 2000m峰−−8:12
2030m峰−−8:24三方崩山8:42−−8:49鞍部−−9:26奥三方岳9:53−−10:14鞍部−−10:34三方崩山11:03−−11:56
1624m峰−−12:06 1373.1m三角点−−12:28 1020m尾根−−12:39林道終点12:44−−12:49駐車場所