北ア南部穂高前衛 六百山 2008年10月25日


 六百山は梓川を挟んで穂高連峰と対峙する霞沢岳の枝稜上にある岩峰で、上高地の「裏山」である。とんでもなく急峻な山で河童橋付近から見ると山水画のような崖をまとった藪尾根が連なっている。話によると昔は登山道があったらしいが今ではその道も廃れ、クライマーか限られたベテランのみ挑戦が許される山であった。

 私が知る最初の六百山山行記録は1993年夏に藤森さん夫妻(武内さんやDJF氏の仲間)が登った記録である。藤森さんの記録では当時のガイドブックに六百山が出ていることが書かれているが、おそらく「山登り」ではなく「クライミング」の記録であろう。現に藤森さんは中畠沢を最後まで詰めてルンゼから脆い岩を登攀して悪い草付きを登り山頂に至り、下山は別の谷を下って中畠沢に出ており、ザイルの出番が多く完全にクライミングの世界の話であった。たぶんこの当時は武内さんでさえ六百山は未踏だったろうし、この記録を読んだ当時の私は六百山に登ることはないだろうと考えていた。

 その武内さんは後日六百山に登っているが、ルートは霞沢岳K1峰からの無雪期往復だった。ずいぶん昔に本人から直接話を聞いたことがあるが、ひどいハイマツで徳本峠から往復で丸1日かかったと言っていたが、私が六百山を考えるようになってからはこのルートしかないだろうと考えていた。DJFは2005年大型連休にジャンクションピークから小嵩沢山を往復した翌日に霞沢岳に登り、K1ピークから尾根伝いに六百山に登り、西尾根を下って中畠沢に達している。DJFが歩いた時点ですでにインターネットでいくつかの六百山の記録があったようだ。

 私も六百山を狙うようになってからネットで検索をかけるようになったが、地形図を見る限りは傾斜が急すぎて雪上で滑ったら止まれそうになく、残雪期を狙うには私の実力では無理と判断して無雪期に限定して検索してきた。その結果、最初に発見できてしばらく(数年間?)は唯一の無雪期登頂記録だったのが「山岳巡礼」(http://www.joy.hi-ho.ne.jp/h-nebashi/)だ。2003年9月に登っており、こちらはクライミングではなく登山の範疇で私でも可能かもしれないと思わせてくれる記録だったが、山頂直下の岩場の迂回で危険個所が出てくるとの記述が。中畠沢のガレも危険そうだがここに比べればどうということはなさそうだ。この記録を見てからはK1峰からの往復はやめて中畠沢から登ることに決めた。

 いつ挑戦するかは悩みに悩んだが、「山と渓谷」2007年5月号に上高地の特集があり、そこに六百山の記録が掲載されてからは一気に現実味を帯びた。たった1ページの詳細に欠けた記録で難易度は最高ランクの五つ星。中畠沢から尾根に出る部分や「山岳巡礼」でも問題の山頂直下の岩場ではアンザイレンが必要になる場合もあるとの記述があり、山渓に出たからと言って本当に私に登れるのか不安があった。しかし山渓に出たということは確実に入山者が増えることが予想され、少し期間が経過すれば踏跡が濃くなり目印も増えるだろう。そこで掲載された年はパスしてその翌年以降の秋が狙い目と考えた。そして先週にひょうたん池で出会った「怪人」の「六百山(三角点)までは全く問題なし」の言葉とDJF氏の同様の指摘により挑戦を決意した。

 岩場があるので雪が付いてしまったら私の力では登頂不可能となるので雪が来る前に登る必要がある。既に10月後半なので北アはいつ降雪があってもおかしくなく、今年のラストチャンスの時期だ。週半ばの週間予報では土曜日は低気圧の通過で中部〜北日本で雨、通過後は冬型で日本海側は雨が予想され、上高地でも天気はヤバそうだった。しかし金曜日の予報では天候の推移が早まって土曜は全国的に快晴の予報、しかも日本海側も東北以南では晴れの予報で北ア南部なら問題なさそうだ。ただ、金曜夜までは雨が続くので翌朝に岩や藪が乾くのかが心配だ。藪が濡れているのは構わないとしても岩が濡れて滑りやすくなるのは大変リスキーだ。まあ、晴れるのなら時間がたてば乾くだろうから出発を遅らせればいいだろう。

 なお、地形図の文字位置や山渓やネットの記録では2449.9m三角点を山頂としているが、日本山名事典ではその先にある2470m等高線が走るピークを山頂としているとのDJF氏の指摘があり、当然ながら私も最高点を踏む必要が出てきた。DJF氏は残雪期に登ったのでハイマツは無縁だったが、無雪期に歩く私は武内さん同様ハイマツとの格闘が必要となる。三角点までは踏跡があるのでそこから最高点までの約300mがハイマツ漕ぎの距離だ。DJF曰く、武内さんの話では「1m進むのに数分を要するハイマツ」だそうで、これは先日の坊主山の激ハイマツ藪よりひどいかもしれない。往復にどれだけ時間がかかるか予想がつかないが、4,5時間あれば大丈夫だろう。三角点と最高点はほとんど標高差が無く、あの恐怖の「逆目ハイマツ漕ぎ」がないだけでもマシだろう。上高地からの標高差は約1000mなので、何事もなければ三角点まで3時間はかからないはずで、最高点まで往復しても暗くなる前に上高地に戻れるだろう。とはいえ、もし時間切れになった時のことを考えて宿泊代程度のお金は持っていくのがいいか。

 金曜夕方には関東ではほぼ雨がやんで時々降る程度になり、大雨の中を荷物を持って車まで運ばずに済んだ。中央道を順調に走行、出発が少し遅かったため松本ICを降りたのはほぼPM10:00、するとETCの料金表示が割引になっていた。今はPM10:00〜AM0:00間は3割引になっていたのだった。国道158号線は夜間工事でAM4時過ぎまで沢渡直前で通行止めなので、乗鞍方面に少し入った路側で寝た。いつのまにか満天の星空が広がり、明日の好天を告げていたはずなのだが・・・。

 まだ真っ暗な4時過ぎに起きて先週と同じ沢渡上の松本電鉄駐車場に車を突っ込むと既に上高地行のバスが出るところだった。こんな時間では上高地に到着してもまだ真っ暗だし、まだ眠いのでちょっとの間寝袋に入って睡眠。朝飯を食べてバスに乗り込んだのは6時20分だった。周囲は明るくなったが空は一面の雲に覆われている。まだ路面は濡れており、六百山の岩場が乾くか心配だ。バスの客の入りは先週より時間が遅いせいか半分以上の席が埋まっており、中ノ湯でさらに乗客が増えた。そして大正池で半分くらいが降りた。周囲はカラマツが紅葉しているが、それ以外はほぼ落葉してしまっていた。穂高はこの時期にして全く雪がなく迫力に欠けるはちょっと残念だ。昨日の下界の雨は3000m級でも雨だったわけだ。今朝の気温も高めで先週朝に-4度まで下がったのがウソのような暖かさだった。

朝の上高地バス停。ほとんど人がいない 河童橋手前で右に登る廃林道に入る
廃林道上部は巨大堰堤 堰堤東を通過すると明瞭な道がある

 上高地バスターミナルを降りてそそくさと河童橋方面に歩き、橋手前で右手に登る廃林道を上がる。標識も何もないがここが六百山登山口である。2年くらい前の大型連休に小嵩沢山を登った帰りに偵察しているので迷うことは無かった。今の時期は枯れた草に覆われているが、その中に草が生えないはっきりとした踏跡が続いていた。巨大な堰堤を回り込んで東側を登ると土石流観測施設へと続くケーブルが出現、しばらくは明瞭な踏跡を登っていく。目印がいくつか付いているので、この分なら六百山まで延々と目印が期待できそうだ。この辺はありふれた谷で記録に出てくるような広くガラガラの沢の片りんも見られない。

2連堰堤で土石流観測施設登場 観測ケーブルに沿って右岸斜面を登るがこれはルートミス
谷に下ると踏跡に合流 標高を上げると徐々に谷が広くなってくる

 小さな2連の堰堤が出てくると左に土石流観測施設の建物があり、さらに奥に踏跡とケーブルが続いているので斜面を歩いたが、正式?ルートはここで堰堤を超えて谷筋に入り、水がない谷を遡上するのが正解だった(帰りに判明)。登りに歩いた右岸の斜面はシラビソが発達した樹林で藪がなく歩きやすいが、今まであった目印を見かけなくなったし、進むに従って踏跡が薄くなりやがて消えてしまい、行く手の傾斜がきつくなってきたので右手の谷に下りてみると明瞭な踏跡が現れた。やれやれ、これで一安心。切断しないよう慎重に跨ぐはずだった土石流センサの導線は行きすぎてしまったようで見られなかった(帰りにしっかり跨いだ)。

ケルンがたまにある 広いガレた谷を適当に登る
麓を振り返る 標高2000m付近で右手の斜面に取り付く

 あとはひたすら涸れた谷を登る。枝沢が分岐するようだがとにかく広い谷を登ればいいのであまり気にしない。赤テープ、赤布、ケルン等の目印があるし、河原のような石が重なった場所で人が歩くと石が乱れて踏跡が残るのでルートがわかる。ただし実際に歩いてみると踏跡がついているのは歩きやすい部分とは限らず、小ぶりの石が積み重なって足場が悪いところを登っているようなところもあるので各自歩きやすいところを登ればいいようだ。小さな石より大きな石が重なった場所のほうが安定性が良いし、部分的に草付きがあったり薄い灌木帯があったりと、探せば歩きやすいところはいろいろとある。ずっと先には草つきの尾根が見えており、どこかであそこに上がるルートがあるはずだ。谷から見る限りではこのまま谷を直進しても問題なく登れそうに見える。雪が付いていればこの石も全く無くなって歩き易かろう。後ろを振り返ると西穂の稜線が高い。高曇りであるが雲の高さは3000mを超えているようで穂高の稜線はすっきり見えていた。でも日差しがないと見栄えのいい写真にならないなぁ。はるか下のガレた谷が始まる辺りには登ってくる人の姿が見えたが、私とのビハインドは2,30分といったところだろうか。山頂で会えるだろうか。

 ガレは歩きにくいがさほどきつい傾斜ではないので多くの記事で出てくるような岩雪崩が起きるとも思えず安心して歩ける。たぶん多くの人は右斜面への取り付きが遅れてもっと傾斜がきつくなった場所を歩いているのだろう。

取り付いた斜面。赤テープあり

落葉した灌木帯になる


 広い谷を延々と上がりながら右手(左岸)から尾根に出るルートを探る。ある記録によると標高2000mくらいで谷を離れて尾根を目指すらしく、山渓では谷が左に曲がるところで谷を離れると書かれている。今回は珍しく高度計の表示を頻繁に見ながら高度を確認し、標高約2000m付近で右手の灌木帯に赤テープが点在しているのを発見。そのまま尾根目指して直登するのかと思ったら、最初は谷に沿って標高を上げて徐々に谷から離れていくようなルート取りだった。最初は連続した樹林帯ではなく石ゴロゴロの河原のような個所があるが、標高が上がると左手に尾根が出現すると同時に草付きの樹林帯になる。ちょっと踏跡は薄いが間違いなく人間の踏跡で、赤テープも連続しているのでルートを外す心配はない。夏だと草が茂って踏跡を隠し視界が悪くテープも見えにくいだろうから今のような秋で草が枯れた時期の方が歩きやすいと言えよう。

ダケカンバの斜面を登る もうすぐ尾根
尾根に出たところにこんな目印がある 尾根から見た焼岳

 傾斜が増してぐんぐん高度を上げるとダケカンバからシラビソに樹林が変貌、いっそう踏跡がはっきりしてくる。標高2200mでとうとう尾根に出ると右手には焼岳が大きい。下山時はここで尾根を直進しないよう注意が不要だが、これより下は尾根は藪っぽいし踏跡の明瞭な筋が右下に下っているので自然にそちらに引き込まれるだろう。おまけに近くのシラビソには3段に巻かれた赤テープがあるのでいい目印だ。

トラロープが出現するが出番はない ハイマツに覆われた2250m小ピーク
2250m小ピークから見た六百山三角点峰 鞍部付近までハイマツが続く。踏跡あり

 尾根を左に曲がると踏跡の濃さは一気に濃くなり、もはや登山道と言ってもいいくらいだった。これも山渓効果だろうか。シラビソ樹林で下草も藪もなく歩きやすい。ちょっと登ると小さな岩場が登場するが別に危険な個所はなく、左右に登りやすい個所があって簡単に登れる。トラロープがあるが全く使う必要はない。登ったところは標高2250m小ピークで立ったハイマツに覆われているが、その中に明瞭な踏跡がある。ここで初めて山頂ピークらしき高まりが目に飛び込んでくる。てっぺんの岩壁が山頂直下の岩場に違いなく、そこの突破が本日の核心部だ。地形図では剣岳北方稜線の池平山南斜面のような猛烈な傾斜のはずだが、ここから見るとさほどの傾斜には見えず、岩場も1枚岩ではなくホールド、スタンスとも豊富で適当に登れそうに見える。

鞍部を超えてダケカンバ帯にとりついたら左にトラバース

小さな谷を直登


 ピークで右に進路を変えて尾根を渡ると鞍部が中畠沢のコルだ。この先は落葉した大きなダケカンバの樹林で地面は一面の草付きに変貌する。このまままっすぐ登るのかと思ったら踏跡は大きく左に迂回し、草付きの小さな谷を急登する。ここはやや踏跡は薄いが直進するだけだし目印があるので迷うことはないだろう。

トラバースが終わると草付き斜面を登る 尾根に戻る
ハイマツの踏跡を登る 岩稜帯直下。登れそうだが踏跡は左に巻いている

 樹林帯を抜けてハイマツの小さな尾根に出ると、その尾根を東側に乗り越えて草付きの斜面を巻くように登ってから再び尾根に乗りなおした。たぶんこの間の尾根は危険な岩稜で登れないのだろう。尾根に出ると最初は細い岩稜だが特に危険は無く岩の上を歩くとハイマツの生えた太い尾根になってまっすぐ登っていく。山頂直下の岩稜帯は間近でどうルートが付けられているのかドキドキだが、接近してもやっぱり登れそうな岩に見えるのでワクワクする気持の余裕も生まれていた。

岩稜帯を巻いてここを登る

登り切ると傾斜が緩む


 さて、問題の岩稜帯真下に到着、傾斜はそこそこだし大きな足掛かりや手がかりがたくさんあってこのままよじ登るのは無理な岩ではない。しかし踏跡は岩場は登っておらず、右に巻いていそうなものと(ただしこちらは私は足を踏み入れていないので本当に踏跡か未確認)左に巻いているものとがあり、私は左の踏跡を辿った。これは岩場を大きく巻いて岩が切れた場所にある急な尾根を登っていた。尾根上には明瞭な踏跡があり、適度に木が生えているのでそれに掴まって簡単に登ることができた。「山岳巡礼」に出てくる危険個所はここのことだと思われるが、道無き藪山を歩いている身分からすればさほど危険とは感じられなかった。まあ、山登りのような自然相手では危険に対する認識は主観の問題であり、個人で感じ方に大きな差が出てもしかたがないだろう。10mくらいのトラロープでも張ればさらに安全度が増すだろう。2250m峰直下にトラロープを張るよりよほどこっちの方が役立ちそうだ。

三角点峰直下は腰ほどのハイマツ。踏跡あり

六百山三角点


 この尾根を這い上がればもう三角点峰は間近で、緩い傾斜の尾根を登ると最後は腰程度の高さの立ったハイマツ帯に突入する。しかし、ハイマツの中には明瞭な踏跡が続いているのでハイマツ漕ぎにはならない。距離にして数10m程度だから個人で刈り払いも可能だろう。ナタでも持ってくればよかった。最後は大きなハイマツを避けて右から巻くようにして待望の三角点に出た。

六百山三角点峰から見た白山 六百山三角点峰から見た笠ヶ岳
六百山三角点峰から見た茶臼ノ頭、長七ノ頭 六百山三角点峰から見た焼岳〜安房山
六百山三角点峰から見た2460m峰(左)と霞沢岳(右)
六百山三角点峰から見た大木場ノ辻(左)と錫杖岳(右)
六百山三角点峰から見た焼岳〜穂高(クリックで拡大)
六百山三角点峰から見た八ヶ岳(クリックで拡大)

 周囲はハイマツが切れて地面が出ており手製の小さな山頂標識があるだけだった。穂高方面はハイマツの枝を払ったようで展望が開けていたが、北に延びる尾根のハイマツ帯に足を踏み入れれば広範囲の展望が得られる。まずは先週登った長七ノ頭と茶臼ノ頭に目が行く。そして笠ヶ岳から大木場ノ辻の稜線。焼岳から安房山も懐かしい。反対側のハイマツの隙間から樹林越しに南を見ると八ヶ岳、南アルプスも見えていた。もちろん、これから向かう六百山最高点から霞沢岳にかけての稜線も丸見えだ。残念ながら最高点ピークは手前のピークに阻まれて見えない。

 思ったよりも疲労を感じなかったので、まずはこのまま最高点を往復してしまおう。厳しいハイマツとの格闘が予想されるので、ここでサブザックに切り替えだ。かなり気温は高めで防寒着は不要だしハイマツは乾いているのでゴアの不要なので、サブザックには飯と水、長袖シャツだけを入れた。さて、ここに戻ってくるのは何時間後だろうか。

三角点から最高点を目指す。稜線東側が歩きやすい 2460m峰へ登る
2460m峰から見た六百山最高峰 2460m峰から見た六百山三角点峰

 まずは目の前に見えている2460m峰を目指す。距離はわずか100mくらいだろうか。最初から稜線上はハイマツだが、この尾根のハイマツは巨大なものが多く、幹は十分に太くて硬く、上に乗っても曲がらないのでかえって歩きやすい。密度はさほどではなく、隙間を狙えば歩きやすい。そして地形はほとんど水平なので頭上に蓋をするようなハイマツの幹がなく、これまた楽に歩ける。僅かながら踏跡もあるように感じた。このまま稜線を歩いてもいいのだが、ハイマツの隙間からふと左側(東斜面)を見るとハイマツが無く幹が曲がった細い灌木の斜面が広がっているではないか。しかも傾斜は緩く滑落の心配もなさそうだ。考えてみれば稜線東側は遅くまで雪庇が残るので植物が成長しにくく草付きになるのがパターンだった。これとそっくりな風景を剣北方稜線の赤谷山から白萩山で見たことがあり、稜線東直下の草付きに踏跡があった。ここの尾根には踏跡はないが歩きやすさは変わらない。いくら坊主山と比較してマシなハイマツとは言ってもこの斜面に比較したら歩きにくい。

最高峰目指してなおも稜線東側を進む ハイマツに覆われた六百山最高峰
DJFのリボンが残っていた 六百山最高峰から見た霞沢岳へ続く尾根

 2460m峰への斜面はきついのでいったん稜線に這い上がってハイマツの中を登るがやっぱり踏跡があるような。ピークには割れたガラスが散乱しており人の気配が濃い。うっかり三角点を見落とした人がここまで来るのだろうか。それとも残雪期のパーティーのものか。少しだけ低い笹の部分があって気持ちがいい場所だ。ここから再び東直下の灌木+草付き帯を進んでいき、最高点近くで再び傾斜がきつくなったので稜線に出ると、今度は西側のハイマツが地面を這うハイマツや部分的な草付きで歩きやすそうなので西側に出て進み、そのまま西側から回り込んで最高点に出た。なんと所要時間は三角点からたった20分で拍子抜けだった。

 最高点はハイマツの海だがここも密度が低く隙間が多い。ハイマツの中に矮小なシラビソが僅かに点在しており、そのうちの1本にDJFのピンクリボンが付けられていた。これ以外には人工物は一切なかった。紫外線でビニールが硬化してパリパリになっていたので、近いうちに千切れてしまうだろうと、いつもの落書きはせずに同じ木の幹に赤テープを巻いてマジックで落書きしておいた。残雪期にこのシラビソが雪面に現れるかどうか。ここから見ると霞沢岳までの稜線も同様にハイマツが続いているが、今までと同じように東側にハイマツが無ければ予想以上にスピードアップできるだろう、とは言え私がここを歩くことは2度とないだろうけど。左手には帝国ホテルの真っ赤な屋根。さすがに急激に立ちあがった稜線からの眺めだった。

 帰りも同じルートでハイマツ漕ぎを大幅カットし、行きより僅かに短い時間で三角点に戻ることができた。後発の登山者がそろそろやってきているかと期待したが無人のままで、防寒着を着こんで静かな休憩。ちょっと西寄りの風が強く体感温度は寒いが気温は10度近くあるから異様に暖かいはずだ。しばし待っても後続登山者の姿は現れず下山となった。相手が正しいルートを辿ってくれればどこかですれ違うはずだ。

六百山最高峰から見た帝国ホテル付近 ガンガン下る
2250m峰付近から見た河童橋付近の建物。えらく足元に見える 帰りの上高地バスターミナル

 ハイマツの踏跡を下ってすぐに急な尾根下りとなるが、登りと同様に木に掴まりながら特に問題なく下る。西にトラバースしてからハイマツの尾根を下り、今度は尾根を東に巻いて草付きを下ってダケカンバ帯に入り、2250m峰で六百山の姿を瞼に焼き付けてシラビソ樹林に入り、標高2200mで尾根に別れを告げて右手の斜面を下っていく。中畠沢に下りてガラガラの谷を下っていくが登山者の姿は無く、もしかしたら後続部隊は撤退してしまったのだろうか、それとも見かけたのは人間ではなく大型動物だったのだろうか。ガレ場が終わって細い谷を下っていると5本の土石流センサを跨いで堰堤に出た。河童橋の遊歩道に出る前に着替えようとザックを探ったが先週の山行で着替え用のTシャツを使って補充するのを忘れており、ちと汗臭いがこのままシャツを着て下った。

 まだ時刻が早いのでバス停では待ち時間なしで乗れたがその後が時間がかかった。今は観光バス規制が解除されて路線バスやシャトルバス以外も上高地に入っているのだが、駐車場が狭くてバスが入りきらず路側にずらっと路上駐車されて片車線が塞がっており、実質上片側交互通行になっていたのだ。出発するまで20分待ち。しかも途中の道は大型バスがすれ違い可能な場所は限られており、地元運行会社のバスは運転手はすれ違い可能個所を熟知しているし全車無線を搭載し互いの位置を把握してどのバスがどこですれ違いのための退避をするか通話しながら進むので渋滞皆無でスムーズな運行が可能だ。しかし外部の観光バスはこのようなことは不可能で、上り下りのバスがすれ違い不能なカーブで出会ってしまい、さらに後続車がつながると前も後ろも進めない通せんぼとなってしまい大渋滞を巻き起こすのだ。私の場合、10年近く前の夏に霞沢岳に登った帰りにこれに遭遇し、全くバスがやってこられなくなり上高地を脱出するのに5,6時間かかった経験をしてから上高地に行くのはやめてしまったのだ。今回も走り始めてからも先頭の大型観光バスがすれ違いに苦労し、結局は駐車場まで1時間かかった。規制で観光バスを降りてシャトルバスに乗り換えるのはお客は面倒だろうが、観光バスに乗ったまま上高地に入っても駐車場に入れずに手前から歩かなければならないし、渋滞で到着時刻は読めないし、帰りの時刻はもっと読めず、ツアー予定は滅茶苦茶になってしまうだろう。よほどのシーズンオフ以外は観光バス規制は実施したほうがいい。絶対にその方がお互いにストレスが少ないだろう。

 帰りは波田町営の「竜島温泉」で汗を流し、昼寝をしてから東京に戻った。


所要時間
6:53上高地バスターミナル−−6:56廃林道入口−−土石流観測施設−−8:20中畠谷を外れて右斜面を登り始める−−8:47標高2200mで尾根に出る−−8:52標高2250m小ピーク−−9:25六百山三角点9:34−−9:46 2460m峰−−9:53六百山最高峰9:59−−10:06 2460m峰−−10:16六百山三角点11:02−−11:24標高2250m小ピーク−−11:28標高2200mで尾根を外れて下り始める−−11:40中畠谷−−12:07土石流観測施設−−12:15最後の巨大堰堤12:20−−12:23上高地バスターミナル

 

 

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