黒部川源流域周回 北ノ俣岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳、ワリモ岳、水晶岳、祖父岳、薬師岳 2008年8月11〜14日

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初日のルート
2日目のルート
3日目のルート
最終日のルート

 今年のお盆休みはどこに出かけるか直前まで決めていなかった。この暑さでは藪漕ぎする気力はなく、最近のように登山道があるアルプス級の山に行くのだけは決めていたのだが、どこでもいいとなると具体的な場所の絞り込みが難しい。場所選択の上での優先事項としては、せっかくのお盆休みなので土日では行けない場所、つまり遠い所か日数がかかる山であること、マイカー利用なのでできるだけ周回コースがとれること、日数としては3泊4日程度(これ以上は食糧が重くなりすぎて未経験だし飯に飽きる)、ここしばらく歩いていない山であること。これらを総合的に勘案した結果、南アルプスなら荒川三山と赤石岳周辺、北アルプスなら三俣蓮華から鷲羽岳周辺がよかろうとしたが、最終的には天気予報を見て、より大気の状態が安定しそうな北アとした。今年は昨年とは大違いで大気の状態が不安定な日が多く、インターネットで気象レーダーを見ると盆休み開始の土日も山間部はど派手に雷雨が降っているが、北陸より太平洋側がひどい。

 三俣蓮華や鷲羽岳は北アで最も奥地にあたり入るのも出るのも時間がかかって、土日では不可能とは言わないが相当無理をしないと東京から往復はできない。ここは裏銀座のブナ立尾根から入って新穂高温泉へ3泊4日で抜けた経験があるので1回だけ歩いているが、当然ながらこのコースではマイカーの回収は不可能なので別コースにする必要がある。最初に決めるべきは入山口で、3泊4日の日程、予想される混雑具合を勘案して折立か飛越トンネルに絞り込んだ。どちらもコース的には黒部川源流部周回で、オプションで周辺の山を加えることで日程を適度に調整可能だ。折立の方が出入口の太郎平の標高が低く労力の無駄が無いが林道通行の時間制限があること、金がかかること、お盆の時期では駐車スペースを確保できるかが難点だ。飛越トンネルから入る場合はその制約がなくなるが稜線の出入口は北ノ俣岳で、初日の幕営地を太郎平にするか黒部五郎小舎にするか悩ましい。最終的には時間制約をきらって飛越トンネル起点とした。

 具体的な日程、ルートを決める上でキモになるのは幕営指定地で、調べたところ黒部源流部では黒部五郎小舎、三俣山荘、雲ノ平、薬師峠である。黒部五郎小舎と三俣山荘は接近しているのでどちらかを使えば自動的にもう片方は使わないから、3泊の計画からすると雲ノ平、薬師峠は決定である。ここまで考えるとほぼ計画が固まり、初日は元気があるうちに頑張って黒部五郎岳を超えて黒部五郎小舎に入り、2日目は三俣蓮華岳、鷲羽岳、ワリモ岳を越えて雲ノ平で幕営だが時間が余りそうなので水晶岳をオプションに加えたい。3日目は太郎平で荷物をデポして薬師岳を往復、本来ならばそのまま飛越トンネルまで下山可能かもしれないが、今回は涼みが目的なのでそのまま太郎平で幕営。最終日に下山である。初日以外は余裕がある行程で、メジャーどころの山を網羅する計画となった。ただし、黒部五郎岳と水晶岳、薬師岳は日中の時間帯に登頂することになるので、熱雲が上がってきてガスにおおわれ展望が得られない可能性が大であるが、それを避けるためにはもっと余裕がある日程にする必要があり、それこそ毎日行動停止が午前中になってしまう。この程度で妥協が必要だろう。

 飛越トンネル入口の飛越新道登山口案内標識

飛越新道駐車場。2,30台駐車可能


 土曜から会社はお盆休みに入ったが大気の状態が不安定であり、新調したパソコンのセットアップもあって土日は家で過ごし日曜日中に出発、まだお盆の帰省渋滞前の中央道を走って安房峠を越えて平湯で入浴、毎度の平湯の森は駐車場が満杯で混雑していたが風呂場は広いので混雑している印象はなかった。国道471号線を西に向かい北ノ俣岳の案内標識で双六川沿いの道に入り、山吹峠を越えて旧神岡町に入り飛越トンネルに到着。駐車場は満杯に近いかと思いきや半分ちょっとの入りであった。通常は私のような周回ルートではここを起点にする例は少ないだろう。パッキングをして酒を飲んで寝たが、さすが標高1500m近い標高では涼しくて快適だった。明日以降は山の上なのでさらに涼しいに違いない。

 翌朝は3時に起床、下界で食う朝飯はしばらくおさらばなので野菜をたっぷり食べる。まだ真っ暗な4時前に出発、ちょうど直前に2名の男性がやってきたが私同様黒部五郎小舎まで歩くらしい。私は4日分の食料とテントを担いで歩くわけだからどこかで追い越されるかもしれないが、お互いに何時くらいに黒部五郎小舎に到着できるだろうか。ザックを背負うと重いことは重いが冬装備よりは軽く、雪はないから足は軽いし黒部五郎小舎まで歩いても疲れ果ててしまうことはなさそうだ。

飛越新道登山口

飛越新道はしっかり刈払われている


 まだ真っ暗なのでデジカメはしばらく使えず、写真は帰りに撮影することにしてしばらくは歩くだけだ。飛越新道はしっかりと笹が刈り払われた1級の登山道で夜間でも安心して歩ける。細かいアップダウンがあって帰りに登りが現れるのが難点だが、道がなければ猛烈な笹の海なので文句は言えない。以前歩いた時には湿った道で水芭蕉が咲いていたのを覚えているが、標高を上げていくとそんな区間が多くなる。虫が多く体を休めると群がってくるので歩き続ける。暑さ対策のうちわを扇ぐことで多少は虫を遠ざけることができるが、やっぱり虫よけには本業の虫よけの薬が効く。しかし汗をかいて濡れタオルで拭うと一緒にふき取られてしまうのが難点だ。早いところ森林限界を超えたいところだ。

樹林が開けた場所から笠ヶ岳が見えた

草付きも多い


 神岡新道と合流するところには、神岡新道は刈り払い(草刈り)してないので通行注意との看板があり、今は飛越新道が完全にメインルートとなっているらしい。しかしここから見える範囲では道の状態は変わらず、全く使われないわけではなさそうだ。この標高でも樹林の高さが低くなり、もう少しで森林限界の様相なのは不思議だ。場所によっては草付きも出現し展望が開ける。上空はいっぱいの青空で稜線上は大展望だろうがそこに出るまではまだ時間がかかりそうだ。

寺地山山頂(三角点付近)

標高2000mなのに森林限界を超える


 相変わらずなだらかで湿った道が続き、距離の割にはなかなか標高が上がらない。寺地山手前でやっと登りらしくなり、標識が立つ山頂、いや三角点付近に到着した。ギリギリ森林限界を下回り、低い樹林と笹原の狭い場所だ。ここで少々休憩していると、単独の男性老人が追いついてきた。私より約30分遅れで出たとのことであるが、かなりのスピードだ。短い休憩で出発していったのを見ても、相当な健脚であることがわかる。小さなザックなので黒部五郎小舎あたりで小屋泊まりだろうか。

 まだ先は長いのでのんびりはしていられない。それにまだ疲労感はほどんどない。なにしろ登山口のトンネルの標高は約1450mあるので、ここまでの標高差は550m、アップダウンの分を含めても700mに満たないだろう。いったん標高を下げて再びなだらかな尾根を登ると今度こそは森林限界を突破して視界が開けた。わずか標高2000mでこの風景なのは地形的要素が強いだろうか。いくら北アルプスでも通常はこの標高はシラビソ樹林だろう。

避難小屋分岐 避難小屋

避難小屋目の前の水場

木道を登る


 避難小屋の分岐で老人に追いついたがこちらは避難小屋で水補給することにして木道を下っていく。まだ朝露で濡れており、斜めになった木道は滑りやすくスッテンコロリンと派手にコケて右の肘近くを擦りむいてしまった。木道表面を彫ってデコボコが付けられていたり横木が打ちつけられていたりするが、ビブラム底では完全に摩擦を得られるわけではなく、特に下りは滑りやすい。避難小屋の目の前には冷たい水がホースで引かれ、半分に切られたドラム缶をバッファに利用して何本かのホースが伸びていて水場としては申し分ない。ここでペットボトルに水を補給して分岐まで戻り、北ノ俣岳に向けて森林限界の開けた斜面を登っていく。最初は木道だがやがて溝と化した登山道に変化、これじゃ木道を設置するわけだ。途中で先行した老人を追い抜くが、こちらはゆっくりした一定のペースで歩いているのであちらの歩行速度が落ちたようだ。山頂近くになると両側から這松や低い笹がはみ出すようになり、たちまち足がびしょぬれになってしまった。朝露が付いている時間はゴアのズボンが必要だ。

 稜線が近付くと周囲の展望も広がり、笠ヶ岳や乗鞍岳も見えている。いよいよ稜線に出るとでかでかと薬師岳から水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳などの北ア核心部の大展望だ。今までの飛越新道(神岡新道)は人の姿は先ほどの単独男性だけだったが、稜線の縦走路は賑わっている。

尾根を振り返る。上部は低い這松帯が続く

北ノ俣岳山頂

北ノ俣岳から見たパノラマ展望(クリックで拡大)

 稜線に出てから少々南下すると北ノ俣岳に到着。何人もの登山者が休憩している。この時間だと太郎平や薬師岳山荘、黒部五郎小舎を出発した人であろう。こちらはここまで来れば標高差のほとんどを登ったことになるし、距離的にも半分以上歩いただろう。天気は文句のつけようがない快晴でまだ雲は上がってきていないが、何時までこの状態が持ってくれるだろうか。あわよくば黒部五郎岳山頂到着まで晴れているといいのだが。山頂で私が休憩中に単独老人はわずかな休憩をしただけでそのまま黒部五郎岳方面に歩いて行った。いったいどれだけ歩いたらまとまった休憩をとるのだろうか? ほとんど武内さん状態ではなかろうか。

北ノ俣岳から南を見る

北ノ俣岳山頂を振り返る


 展望を満喫して出発、好天時の森林限界の稜線歩きはいいものだ。お盆休みの期間なのですれ違う人も多い。赤木岳はすでに登っているし、山頂は登山道から外れていてこの人の多さで登山道から外れた場所を歩く度胸はないので今回はパスして登山道を進んだ。この付近で再び老人を追い越した。

少し雲がかかり始めた 黒部五郎岳が近付くともっと雲が湧いてきた
岩屑の斜面を「外輪山」向けて登る 「外輪山」に到着、ここから山頂を往復

 中俣乗越から登りにかかる頃にはとうとう熱雲が上がってきて黒部五郎岳山頂付近にガスがかかり始めた。前回登った時には夕立が上がった後の夕方でガスで何も見えなかったが、今回も同様で終わりそうだ。2578m峰を越えてガスに覆われて涼しくなった岩稜の斜面を上がっていくと「外輪山」の肩に到着、多くの人はここで荷物をデポして空身で山頂を往復している。前回はカールの底の登山道を歩いたのだが、展望が得られれば今回は稜線ルートをと考えていたがこのガスでは何も見えないので、前回同様カールの底を歩いて途中の沢で水浴びした方がよさそうだ。

黒部五郎岳山頂

黒部五郎岳から見たカールの底


 ザックを置いてアタックザックを背負って山頂に向かう。もうお昼でここまで来ると多くの人はスピードが落ちてほうほうの体で歩いているが、こちらは冬装備と比較すれば軽いので思ったよりも体力に余裕があり、空身だったら楽勝だ。山頂に到着したが前回の記憶がなく、山頂標識は当時とたぶん違うものになっていると思えるが確かなことは分からなかった。ただ、前回は無人の山頂だったが今回は何人かいるのは間違いない。今日の行程は黒部五郎小舎に下るだけなので山頂でのんびりできるのだが、この展望では山頂に長居してもしょうがなく、適当な時間で切り上げて小屋に向かった。視界が開ける時間帯もあったが、山頂周辺しか雲が離れず見えるのはカールの底だけだった。山頂で会った人の中には朝から前後して歩いてきた老人や、今朝北ノ俣岳避難小屋を出発してこれから避難小屋まで戻る人もいた。

カールの底を下る

カールから見た黒部五郎岳


 カールの底に向かって下る急な道で何人もの登山者を追い越したが、どうやら足の強さ(膝の筋力)は登りよりも下りで顕著に現れるようだ。基本的には足が前に出せれば勝手に進むはずだが、体重を支える筋力がないと快速で下れない。もうお昼で歩きだして7,8時間経過して疲労していることも関係しているかもしれない。この時期は夏山シーズンクライマックスで、普段は日帰り程度しかやらない登山者がアルプス級に押し掛けてくるのでこうなるのかも? この時期は学生パーティーも多く見かけるが、担いでいる荷物の多さの影響か中高年登山者と同じくらいのペースで歩いている。

水浴びをした沢。小屋到着までの最後の沢

黒部五郎小舎


 小屋が近付いてきて最後にわずかに登りがあり、その手前に豊富な沢が流れているのでそこで濡れタオルで全身の汗を拭っておく。前回もここで水浴びしたような記憶がある。北アでもこの付近は岩稜帯ではないので水が豊富で助かる。水浴びが終わって出発するところで再び単独の老人と一緒になり黒部五郎小舎に到着、私は幕営、老人は小屋泊まりとなった。水汲みに小屋に行った時に老人が外で休んでいたのでしばらく話をしたが、奈良県からやってきて明日は鷲羽岳、水晶岳を往復し、再び黒部五郎岳、北の俣岳を越えて飛越トンネルに戻るそうだ。年齢を考えると相当な健脚で、奈良田から農鳥岳日帰り往復もやったことがあるそうで、黒戸尾根尾根から甲斐駒や早月尾根から剱岳往復に相当する。私も定年を迎えるころにこれくらいの脚力が残っているだろうか。

黒部五郎小舎のテント場(小屋に近い区画)

奥の区画のテント場。まだ無人


 テント場のテントはまばらだが、時間の経過とともに徐々に増えていき、夕方には小屋に近いほうののテント場はほぼ満杯となり、一段下のテント場も繁盛していた。テント場用の水場はテント場最下段に蛇口があってホースで引かれているが、今回は非常に細くてポタポタ垂れる程度で使用不能、小屋の前で缶飲料を冷やす水源が飲料水であり、ここで水を汲んだ。さすがにこれでは水浴びは不可能で、途中の沢で済ませておいて正解だった。夕立がくるかと思ったがわずかに雨粒が落ちてきただけでテントが濡れるような雨は降らずに済んだし、雷は無かった。夕方になるとガスが上がってきて笠ヶ岳がすっきり見え、夜間には満天の星空が広がった。

日の出前の笠ヶ岳と板戸岳

振り返ると黒部五郎岳


 翌朝は3時に起床、4時過ぎ出発。この時期はまだ真っ暗でLEDヘッドランプを点灯しながら樹林帯を登り始める。最初は枯れた沢状の石がごろごろした登山道で、たまに迂回するような傾斜が緩い道が分岐するが時間短縮のため最短コースを登っていく。稜線に出ると森林限界を超えて這松の海に一筋の切り開かれた登山道が延びているのが見える。前回歩いた時はガスっていて全く視界がなかったが、本当はこんなに展望の素晴らしい尾根だったのか。樹林を出ると急激に明るくなりヘッドランプは不要となった。振り返ると黒部五郎岳も徐々に明るくなっている。その左手には笠ヶ岳から秩父平、そして秩父平から北に張り出した尾根上に板戸岳が見えている。当然もう残雪はなく、私が幕営した付近は緑色の絨毯のように見えるのできっと一面の笹の海だろう。今朝は快晴で日中に熱雲が上がってくるまでは大展望が楽しめそうで、できるだけ早く水晶岳に到着したいところだ。

快晴の朝焼けの中、三俣蓮華岳向けて登る 三俣山荘巻道分岐
三俣蓮華岳西ピーク 三俣蓮華岳山頂。背景は槍穂
三俣蓮華岳山頂から見た笠ヶ岳 三俣蓮華岳山頂から見た白山
三俣蓮華岳山頂から見た蓼科山 三俣蓮華岳山頂から見た浅間山

三俣蓮華岳山頂からのパノラマ展望写真(クリックで拡大)

 前方を歩いている単独行の2名が見えているが途中で追い越し、もうすぐ山頂というところで三俣山荘への巻道分岐を見送ってやや立った這松の登山道を登り、再び本当に地を這った這松地帯の開けた稜線を登り、広大な三俣蓮華岳山頂に到着。前回登った時は濃いガスで全く視界がなく、山頂標識がなければどこが山頂なのか分からない天候だったが、今回は快晴で初めて山頂一帯の地形が把握できた。地形図通り小さなピークが2つあり、奥が三角点のある本当の山頂だ。しかし山頂が広くてそちらに行くと西の展望が悪くなるのでまずは手前のピークで写真を撮影してから三角点付近で休憩した。目の前には槍ヶ岳が大きくまさに北アの盟主だ。北鎌尾根と常念岳の間からは蓼科山付近が見えているが赤岳等の南部は北鎌尾根の向こう側で見ることはできない。燕岳から大天井岳の稜線の向こうには浅間山が見えていた。さすがに北アのど真ん中だと周囲の山々に邪魔されて意外に遠くの山が見えないのはちょっと残念。

三俣蓮華岳東を巻く縦走路に下る 三俣蓮華岳を振り返る。青空がきれい!
三俣山荘テント場 三俣山荘テント場の水場

 さあ、水晶岳にできるだけ早く到着できるよう出発するか。三俣蓮華岳には続々と登山者がやってきては休憩し、各方面へと散っていく。名前の通り十字路ならぬ三叉路だ。三俣山荘へは最短ルートを直線的に下るのではなく、一度東に下って双六岳との縦走路に出て這松の緩斜面帯を下ると雪渓の脇にテント場出現、もう出発したパーティーが多い時間なので残っているテントの数は少ない。三俣蓮華岳北斜面巻道分岐付近の東の這松帯に水が引かれており、冷たい水が豊富に出ていたので少し水を補給した。

三俣山荘 鞍部から鷲羽岳へと登る
伊藤新道の跡。入口は不明瞭だが山腹は明瞭に残っている 三俣蓮華岳を振り返る

 黒部川源流部経由で岩苔乗越に至る登山道分岐を左に見送り、右手の這松の海に延びる道を行くと三俣山荘前に出て、僅かに下って最低鞍部付近は稜線直上ではなく東斜面を歩く。気づく人がいるか不明だが、最低鞍部からは右手に不明瞭な道が分岐し、鷲羽岳南斜面を巻くように続いているのが見える。これは湯俣へと続く伊藤新道であったが湯俣川沿いの登山道が崩壊して今では廃道化している。復活すると三俣山荘へ1日で入れるようになるのだが。

登りがきつくなってくる 振り返ると三俣山荘が低い
鷲羽岳山頂直下から見た鷲羽池と槍ヶ岳 鷲羽岳は目前

 鷲羽岳の登りにかかると這松が切れて岩稜帯となり、振り返ると三俣山荘が徐々に低くなっていき、目線は三俣蓮華岳の高さに追いついていく。見た目は猛烈な傾斜で本当に登れるのか?と思うほどだが登山道はジグザグに付けられて特に危険個所はなく淡々と登れた。前回はここを下ったわけだが真昼間でガスが上がってこんな大展望ではなかったような。

鷲羽岳山頂 鷲羽岳から見た三俣蓮華岳、双六岳
鷲羽岳から見た黒部五郎岳 鷲羽岳から見た薬師岳
鷲羽岳から見たワリモ岳〜水晶岳 鷲羽岳から見た乗鞍岳、木曾御嶽
 

鷲羽岳から見たパノラマ展望(クリックで拡大)

 

鷲羽岳から見た硫黄尾根(クリックで拡大)

 

鷲羽岳から見た後立山(クリックで拡大)

 傾斜が緩むと山頂標識が立つ鷲羽岳山頂に到着。まだ朝の時間帯なので周囲の山に雲がかかることはなく360度の大展望だ。ここまで来ると次の水晶岳は間近に見え、楽々往復できそうだ。常念と大天井の間にすっぽり入るように権現から天狗にかけての南八ヶ岳が見えている。北鎌尾根の向こうには遠い山並みが見え、形からすると白峰三山と思えたが、家に帰ってからカシミールで確認したところ、北岳、仙丈ヶ岳、間ノ岳だった。後立山は白馬岳まで見え、西には遠く白山が浮かぶ。一番注目した稜線は硫黄尾根だが、光線の関係でコントラストは低く詳細がよく見えないのが残念だが赤岳周辺の荒々しさは格別だ。あんなところを本当に歩く人間がいるのが信じられない。DJFは来年春に挑戦するようだが私があそこに挑戦できるレベルの登攀能力を身につけるのはいつの日のことだろうか。

鞍部からワリモ岳へと登る 鷲羽岳を振り返る
ワリモ岳西直下にある山頂標識 本当のワリモ岳山頂

 お隣のワリモ岳へは岩稜帯が続き登山道は稜線西側を巻いている。ワリモ岳山頂も西を巻いてしまうので、せっかくだからとザックをデポして山頂を往復した。前回はわざわざ山頂を踏む人は他にいなかったが今回は先客がいて他にも数人がやってきた。

岩苔乗越分岐。背景は水晶岳

岩苔乗越分岐から見た祖父岳


 再び大ザックを背負い、岩苔乗越分岐でデポしてアタックザックに水、食糧、長袖シャツ、傘を入れてうちわを手に持って水晶岳を目指す。この時間帯なら雨の心配はないだろうとゴアは置いていく。ここにはザックがいくつも転がっており、私のように黒部源流周回コースを歩く人が水晶岳に向かっているのか、裏銀座縦走組が祖父岳を往復しているのだろう。

水晶小屋ピークへ向けて登る 水晶小屋。新しくなっていた
水晶岳へと続く稜線 黒部別山、坊主山が見えていた
 

水晶小屋裏ピークから見た裏銀座

 さすがアタックザックは軽く急に足が軽くなる。僅かに標高を下げてなだらかな鞍部を通過、登りにかかって水晶小屋が立つ赤いピークを目指す。日差しは強いがまださほど気温は上がっていないのでうちわで扇ぐほどではなく快適に歩けるのはうれしい。水晶小屋はいつの間にか改装されて新しくなっているが(たぶんヘリが墜落した時に一部壊れたのだろう)小屋の規模は変わっておらずキャパシティーは昔のままのようだ。以前の登山道は小屋の前を通って稜線東を通っていたのだが、今は稜線直上に付け替えられていた。ま、この方が展望がよくて気持ちいいが。稜線東側には未だ大量の残雪があり、やっぱり今年は残雪が多い。たぶん野口五郎小屋も残雪が多く水はたくさん得られているだろう。小屋から先はほとんどが空身で水晶岳を往復する人で多くの登山者が行きかっているが、岩場に慣れない人もいてこっちが登りでもできるだけ道を空けるようにした。

水晶小屋裏のピーク ここから岩稜帯に入る
梯子があるが危険は無い 水晶岳山頂
 

水晶岳から見たパノラマ展望(クリックで拡大)

 最後の岩稜を登ると4度目の水晶岳山頂に到着。幸いまだガスが上がってこず360度の大展望だ。ここまで来れば立山は近く、その左には剱岳の頭が見えている。残念ながら木挽山は赤牛岳の裏側で見ることはできないが、代わりに黒部別山が見えている。もっとも、水晶岳からこんな山に注目する登山者はいないだろう。後立山の向こう側には雲が沸き立ち始めており、後立山は間もなく熱雲に隠れそうだ。

 大半の登山者は水晶小屋方面からの往復だったが、そのうち赤牛岳方面からザックを背負ったパーティーが登ってきた。まさか読売新道を登ってきたのか? いや、よく考えればそれはない。というのも奥黒部ヒュッテを今朝出発したとしたら、私の足でもこの時間に水晶岳山頂に到着するのは無理だろう。ヒュッテから水晶岳山頂までの標高差は1500mくらいあり、水平距離も長い。おそらく高天原から温泉沢ノ頭経由で上がってきたのだろう。逆に赤牛岳方面に向かう人もいるが、この時間ではやっぱり高天原へ向かうのだろう。

水晶小屋に到着した大ザックの大学生パーティー

岩苔乗越へと下る


 今日の行程は雲ノ平までなので時間の余裕があり、水晶岳山頂でのんびり過ごしてから下山した。水晶小屋では野口五郎岳方面から巨大ザックを背負った元気な大学生パーティーが上がってきた。これも夏山の風景だ。岩苔乗越分岐でザックを背負い、岩苔乗越に下って登り返す。岩苔乗越の北側がびっしりと残雪が張り付き、かなり下らないと水は得られない状態だった。祖父岳方面への登りは基本的に雲ノ平方面へ縦走する人だけなので今までより登山者の数はぐっと減り、まばらに見えるだけとなった。なだらかで広大な祖父岳山頂はガスられたらやっかいな場所であるが、点々とケルンが積まれて登山道を示しており山頂で直角に右に曲がっている。

祖父岳山頂 祖父岳から雲ノ平へ下る。写真中央がテント場だが右の稜線を迂回する
1箇所だけ残雪を横切る。涼しい! テント場と雲ノ平山荘の分岐。奥がテント場

 眼下には雲ノ平のテント場が見えており、本日の宿はそこだ。ほぼ一色線に下ればいいようなのでゴール間近だと思ったら、道の付き方がエアリアマップと違い、祖父岳南を巻く登山道と合流し、その先でテント場に下る道は通行禁止になっていた。しょうがないので反時計回りに迂回するように付けられた這松の登山道を進み、小さな峠の雲ノ平山荘との分岐に到着。テント場は近いが山荘は反対側の遠くにポツンと見えているような場所で、なんとテント場の入口には雲ノ平山荘で幕営手続きをするようにと看板があるではないか! 太郎平方向から来る場合は山荘で手続き後にテント場に入れるからいいが、私のように水晶岳方面から来る場合はあんな遠い山荘まで往復しなければならない。それも疲れた足で。この看板を見た時は正直言って脱力状態になってしまった。とても今から往復する気になれず、ますはテントを設営して休憩して気力を溜めないと無理だ。たぶん水晶岳方面から来た半分以上のパーティーは山荘まで行かないだろう。せめてこの場所に集金箱でも設置してくれればいいのに。

雲ノ平テント場。左上の黄色い物体近くが水場

夕方になるとテントが増えてきた


 テント場はえらく広いのだが大半の場所は大きな石があって実質的にテントを設営できる面積は全体の1割にも満たないのではなかろうか。一部区画を除いてはテントは分散せざるをえないので静かでいいかもしれない。水場は最も奥にあり、太い塩ビパイプから勢いよく水が出ているからごく短時間に水汲みは可能だし、濡れタオルで水浴びも可能だ。もし水が細かったらと心配したが全く問題なかった。それどころか雲ノ平山荘は天水利用で水が少ないから小屋泊まりの人はできればここで水を汲んでから小屋に入ってくれとテント場分岐に書かれていたくらいだから、雪に埋もれる時期以外は出ているのだろう。

 まだテントは少なく砂礫地帯のテント適地がいくつもあるが、奥に近い端の方を陣取った。時間はたっぷりあるのですぐそばに張られたテント場敷地境界ロープに物を干しておく。上空は雲に覆われて直射日光が無いのでテントの中で昼寝しても快適そうだ。昨日同様時間経過とともにテントが増えたが、テント場の敷地は相当広いのでちょっとした傾斜や地面の凸凹について贅沢を言わなければキャパシティーは非常にデカく、満杯というほどまではいきそうにない。それにここは主稜線から離れた尾根であり、三俣山荘と比較すれば利用者数は少ないだろう。トイレはチップ制で料金は明示していないが、基本的にトイレ料金の相場は\100なので残り1個の100円硬貨を入れた。落ちた音を聞いた限りでは結構な枚数の硬貨が入っているようだ。

 テント設営を済ませて水浴びでさっぱりしてからテント場料金支払いのため雲ノ平山荘に向かった。汗をかかないようにのんびり歩いたので、たぶんコースタイムどおりの30分くらいかかったかもしれない。私のように空身でテント場から登っていった登山者を見かけたし、テント場分岐には2個の大ザックが転がっていたので、これらの人は料金支払いのため雲ノ平山荘に向かったのだろう。ブラブラ歩いて山荘で\500/1人の料金を支払い、おつりはチップトイレ用の100円硬貨確保のため100円硬貨でいただく。私の前で支払った人も同様の考えの持ち主のようで、\100の柿の種を購入しておつり\900をいただいていた。

 テントに戻ってからはやることがないのでお昼寝タイム。夕方になって酒を飲んで寝て、夜中に小用に起き出したが、ペルセウス流星群の極大期なので満天の星空を見上げていると短時間で10個以上の流星を見ることができた。この標高(約2500m)だと空気は薄くて水蒸気も少ないだろうから下界よりも弱い光の天体も見えるし、周囲には光源は一切無いので天体観察にもってこいだった。この流星群は毎年お盆休みに当たるので、山登りのついでに見るには最適だ。

 翌朝も満天の星空の下で起床。飯を食ってまだ真っ暗な中テントを畳んで出発、4時を過ぎたので既に出発した人もおり、出発準備の真っ最中の人も多い。やっかいなのは暗闇ではなく、朝露で濡れた滑りやすい木道だろう。初日は北ノ俣岳避難小屋直前で木道でコケて腕を怪我したので、今日は気をつけて歩こう。登りはいいのだが下りは特に滑りやすい。まあ、しばらくはなだらかな地形が続くので大丈夫だろうか。雲ノ平山荘から出発する人も見られ、水晶岳方面に向かっていく人と何人もすれ違う。今日も好天が期待できそうだ。

 なだらかな区間は溶岩地帯のようで、岩の間に這松が生え、ちょっとした庭園風景が広がっている。この一帯は「**庭園」と名づけられた場所が散在しており、確かにそう命名したくなる。ずっと木道が整備されているのだが両側からはみ出した笹や這松、木の葉があり、朝露に濡れた時間は足がびしょびしょになってしまう。少し刈り払えばいい道になりそうだが。今回は手で払いのけながら進んだが靴下がだいぶ濡れてしまった。それでも先に進むと何人か追い越したので私が先頭で露払いしていたわけではなく、実際はもっと藪が濡れていたようだ。雲ノ平山荘から下りの傾斜が出てくるまでの区間はゴアのズボンを履いたほうがいいだろう。

 緩斜面区間が終わって下りの傾斜がきつくなると、木道と体に触れる植物が消えて岩がゴロゴロの水が流れていない沢のような道になるが、利用者数が予想以上に少ないのか、朝露で湿っている程度でもやたらとツルツル滑る。通常、岩が湿っていても歩く人が多いとけっこう摩擦が効くものだが、ここの岩は表面にうっすら苔でも生えているのではないかと思えるほど良く滑る。木道で滑りやすいと思ったが、ここはそれどころではない。安心して足を置ける場所は無く、滑るのを前提に岩の表面の傾き等を考慮して足の置き場所を決める必要がある。また、滑らないために妙な方向に足の力を入れる必要があり、スピードが上がらないのに非常に疲れてドッと汗が噴出す。途中で数人を追い越したがみんな苦労していた。まあ、登山道があるだけでもありがたいが。周囲は深いシラビソ樹林だった。

薬師沢小屋

黒部川を赤木沢へと向かう沢屋さん。けっこうな人数がいる


 黒部川が近づいてくると続々と登ってくる登山者とすれ違った。おそらく太郎平の宿泊者だろう。登りなら多少滑りやすくても問題にならないし、時間が経過すれば石が乾いて滑らなくなるだろう。やがて黒部川が見えるようになり川岸に到着、顔を洗って濡れタオルで汗を拭う。赤い吊橋を渡ると薬師沢小屋で、黒部川上流に向かって何人もの沢屋さんが出発していくのが見えた。たぶん赤木沢を遡上するのだろう。この時期は沢歩きは涼しくていいだろうなぁ。

開けた笹原を歩く

まだ薬師岳に雲はかかっていない


 小屋周辺は沢の冷気で非常に涼しく、瞬く間に汗が引いていく。ここは幕営禁止だが幕営できるといい場所だ。僅かに休憩して出発、この先は良好な道に戻り、とても歩きやすい木道が続く。基本的にはシラビソ樹林だが、雲ノ平の下りと違って開けた笹原が多く気持ちがいい。太郎平から下ってくるパーティーと何人もすれ違う。上空は青空で雲ノ平も好天が期待できるかな。こちらはできることなら薬師岳山頂に到着するまでガスが上がってこないで欲しい。昨日までの経験ではお昼までならどうにか大丈夫そうだ。平野に近い山から順番にガスが上がってきており、薬師や水晶岳、三俣蓮華のような奥地の山ほどガスが上がってくる時刻が遅くなるようだ。

最初の橋 たぶん最後の橋
森林限界に出る。今日も快晴! 巻道を進むと太郎平小屋が見えてきた

 いくつか橋を渡るが、橋が無くても簡単に渡渉できる程度の水量しかなかった(増水しているときは分からないが)。やっと登りが始まるとジグザグにグングン高度を上げ始め、今までと違って効率的に標高が上がっていく。ここでも何人もすれ違ったが、時間的には薬師岳小屋の宿泊者だろうか。標高が上がると森林限界を抜けて草原地帯となり何とも気持ちいい。体を冷やしてくれる風が吹きぬける。エアリアマップでは途中で道が2分し、太郎平小屋へ行く道と北ノ俣岳方面へ分かれるはずだが、北ノ俣岳方面への分岐には気付かなかないまま太郎平小屋への巻道に入っていた。数箇所で小さな沢を横切ったので、そのうち1箇所で水浴び。薬師峠のテント場まではもうほとんど登りは無い。

太郎平小屋。背景は北ノ俣岳方面

薬師峠へとなだらかな稜線を進む


 木道を通って草原地帯に再び出ると太郎平小屋が見えてきた。小屋の手前にやたら新しい建物があったので別館かと思ったら雲ノ平にもあったチップ制トイレだった。昨日の雲ノ平テント場のように、薬師峠テント場でも現場ではなく近くの小屋で料金を支払う必要があったらマズいので、小屋に到着するとまずはテント場の料金はここで払うのか尋ねてみたところ、午後2時ごろから現地徴収とのことだったので安心してテント場に向かった。どうやら小屋の関係者が「出張」してくれるようだ。雲ノ平もこのようなサービスがあるといいのだが、それが可能かどうかは小屋の規模(従業員数)にもよるだろう。

薬師峠テント場全景 薬師峠の水場
薬師峠のチップ制トイレ 夕方のテント場

 太郎平は折立登山口からの登山者もやってくるが、まだ時刻は朝8時ちょっとなので今朝出発した人がたどり着くには早すぎる時刻で、そちら方面からやってきた人は2人しか見なかった。林道のゲートが開くのは朝5時だから折立駐車場に到着して準備し、出発できる時刻は6時くらいだろう。なだらかな高原状の尾根を歩き、急激に高度を落としたところが薬師峠のテント場で、数張が残置されている。薬師岳か黒部五郎岳を往復している人のものだろう。この時間からテントを張るのは私くらいなものだろうと考えつつ場所を吟味、私のテントサイズにピッタリな上端の平坦地を確保した。ここはそこそこの広さはあるが石が多く、到着時刻が遅いとゴツゴツの地面に張ることになりそうだ。水場は峠から僅かに北に下ったところにあり、コンクリートの洗い場?で2箇所から豊富に出ているが「沢水なので生で飲まないように」との張り紙がある。そんなことを言われても山では沢水をそのまま飲んで痛い目にあったことはないので問題ないだろう(実際に問題なかった)。地図を見てもこの上部の沢には人工物は無いので汚染の心配も無い。トイレは雲ノ平や太郎平同様料金明示無しのチップ制だった。

 テントに戻ってアタックザックに水と食料、長袖シャツと傘を入れて9時に出発。まだ上空は青空で、テントに戻ってくる午後1時くらいでは雷雨の心配は無いだろうとゴアは持っていかなかった。テント場の標高は約2300m、薬師岳山頂は約2930mなので標高差は600m強、コースタイムは知らないがこの荷物ならば1時間半、悪くても2時間で行けるだろう。雲ノ平から歩いていた疲労を感じるが、なにせ今度は荷物が軽いから足も軽かろう。

沢状の登山道を登る 上部になると沢が広がる
薬師平 薬師平から尾根に乗って登る

 前回ここを歩いた記憶はテント場付近の登山道が枯れた沢のように石がゴロゴロしていたことくらいだが、そのとおりの登山道で始まった。上部は水は無いが下部は沢を横切ってそこから水が流れ込むので少しの間は水と一緒で、帰りがけに水浴びするのにちょうどいいだろう。もちろん濡れタオルも持ってきている。枯沢の幅が広がると適当に歩きやすいところを登っていく。最後は左岸側に道が移り、沢を出て薬師平の高原地帯に出る。草付きで展望がよく風が吹きぬけて気持ちのいい場所だ。ここで反時計回りに緩やかに進路を変えて尾根に乗るのだが、上部は既に雲がかかり始め、避難小屋(といっても実際に見てみたら屋根が完全に落ちて外壁の石垣のみある状態)がある2890m峰は見えなくなってしまった。昨日よりガスが上がってくる時刻が早く、大気の状態が不安定なのだろうか。しかしそのまま雲がかかり続けるわけではなく、雲がかかったり切れたりしているので運がよければ薬師岳山頂に到着する頃でも360度の大展望とは言わないがある程度の展望があるかもしれない。

 登りの人の姿は少ないがザックを背負った登山者が次々と降りてくる中、軽い荷物でガンガン登っていく。多少疲労があるとはいえ、やっぱり大ザックを背負っていない状態では足の軽さはかなりのもので、飛ばそうと思えば1時間あたり標高差600mを登れそうなくらいだが、息が乱れない程度のペースに抑えて登っていく。薬師岳山頂に全く雲がなければガンガン飛ばすのだが・・・。

薬師岳山荘 2890m峰目指して登る
2890m峰のてっぺん 屋根、ドアが壊れて石壁だけの避難小屋

 2701m峰を巻くと鞍部に薬師岳山荘が鎮座しているが、素通りして一面の砂利に覆われた斜面をジグザグに登っていく。うまい具合に2890m峰には雲はかかっておらず、薬師岳山頂に立つ前にそこで展望写真を撮影しておこう。太い登山道は2890m峰西側を巻いているがまっすぐ登る道もあり、壊れた避難小屋と巨大なケルンが立つピークに到着、西側からは雲が湧きあがって視界が無いが東から南にかけてはまだ晴れている。しかし雲は多めで黒部五郎岳も頭に雲が絡んでいる。残念ながら薬師岳山頂はガスの中で見えなかった。

2890m峰から薬師岳方面はガスの中 中央カール
もうすぐ薬師岳山頂 薬師岳山頂直下から見た南側の稜線
薬師岳山頂 薬師岳から見た奥木挽山
薬師岳から見た東側の展望(クリックで拡大)

 登山道に戻って薬師岳山頂を目指してなだらかな尾根を歩いていると時々山頂のガスが晴れて神社が見えるようになった。相変わらず西側から雲が湧き上がってくるので西の展望は期待できないが、少し滞在すれば東側は見えそうだ。稜線右手は中央カールのU字型の谷が広がり残雪が見られた。緩やかな岩稜帯を登りきると石垣の上に建つ神社が鎮座する薬師岳山頂に到着、ここが全国各地にある薬師岳の総本山だ。ガスって北側の展望も制限されているが、奥木挽山はギリギリ姿をのぞかせている。木挽山はその裏になるのでここからは見えない。今日まで歩いてきた稜線はすっきりとは言わないが見えており、その大きさを感じることができた。山頂でしばし休憩したが、展望はイマイチの状態が続いたので早めに下山することにした。とはいえ前回登ったときはガスで展望皆無だったから今回は恵まれている。

 快速で下って最後の沢で水浴びしてテントに戻りお昼寝タイムだが、薬師岳山頂付近は雲がかかっていたのにこの辺は太陽の方向に雲が無く、直射日光が照りつけ焼けるように暑かった。テント内では暑くて寝られないので入口を全開にして半分体を出してお昼寝したが、それでも暑いので最後は傘を取り出して日傘として利用した。太郎平小屋での話のとおり、午後2時過ぎに拡声器でテント泊受付開始のアナウンスがあり早速手続きし、「お札」をテントにぶら下げた。夕方には本降りの雨が落ちてきたが降り続くことは無く、止んだタイミングでトイレに行って寝た。そのまま止むかと思ったら夜間でも思い出したようにポツポツと雨粒がテントを叩いた。

 翌朝、真っ暗な3時前に起床しテントから顔を出して空を見上げると、一部で星が瞬いている。快晴ではないが一面の曇り空でもないようで、雨の心配はなさそうだ。天気予報では日本海から前線と低気圧が接近中で今日から天候は下り坂とのことで、今日が下山日でよかった。まあ、週間予報でもそうなっていたのでこの日程にしたのだが。テントを畳んで出発する頃には前にも後にもヘッドランプの光が揺らめいていた。私もそうなのだが最近はLEDヘッドランプが主流で、昔ながらの豆電球タイプの方が圧倒的な少数派となっていた。以前はLEDは暗かったのだが最近の製品は豆電球と変わらない明るさだ。

北ノ俣岳向けて登る

お花畑だがガスって周囲は見えず


 南に向かった登山者のほぼ全員は雲ノ平方面か北ノ俣岳方面へ向かっていき、太郎平から折立に下るのは少数派だった。私は北ノ俣岳方面の木道に足を踏み入れる。少しずつ明るくなってきているがまだライトが必要な明るさであった。上空は雲は多めだが東の方は晴れており、これなら今日も好天が期待できそうだ、と思ったのだが、時間経過とともに見る見るうちに雲が増えて、やがて北ノ俣岳にも雲がかかるようになってしまった。薬師岳は明るさが増して周囲が見えるようになった時から雲の中だったので、今朝出発した人は残念ながら展望を楽しむことはできそうにない。さらに雲が降りてきて稜線にもガスが流れるようになり、遠雷の音も聞こえるようになった。そういえば真っ暗なときは富山市街地の夜景の向こう、日本海上空で雷で雲が光る様子が見えていたっけ。その時は音は聞こえなかったから雷雲が徐々に接近しているということか。ラジオを聴くと九州、高知、広島、能登半島では大雨だという。

北ノ俣岳山頂。ガスって展望皆無

避難小屋発で北ノ俣岳に向かうパーティー


 神岡新道分岐でザックをデポし、せっかくなので最後に北ノ俣岳を往復、当然だが霧で視界はゼロだった。神岡新道上部は刈り払いが充分ではなく足元が濡れるので、スパッツとゴアのズボンを履いて下り始めたが、今日使っている登山靴は古くて防水性は失われており、たちまち靴の中まで濡れてしまった。ま、車に到着するまでの我慢だけど。こんな天気でも登ってくる人がおり、たぶん避難小屋に宿泊した人だろう。2人目の人は天気の様子を見て北ノ俣岳山頂のみ往復するという。避難小屋を過ぎても登ってくる人が何人もいたが天候は大丈夫だっただろうか。私が歩いている間は遠雷は聞こえていたが接近しているようには感じられなかった。ただしAMラジオには頻繁に雑音が入っていたが。

 神岡新道と別れて飛越新道に入り、まどろっこしい細かいアップダウンを越えてようやく飛越トンネルに到着、私が出発した日よりも車が減っている。朝露にびっしょり濡れたテントを虫干ししながら着替えや荷物整理をしているとボツリポツリと雨が落ちてきたので急いでテントを車に押し込んだ。畳む時間が無かったので次の山行で登山口に到着したら即畳まないといけない。しかし雨は長続きせず止んでくれた。

 今回の山行はしっかりした登山道ばかりで藪山派にとっては難易度は低いが、2900m近い(またはそれ以上の)山をぐるりとめぐることができ、天候にも恵まれて爽快な4日間を過ごすことができた。残雪期の緊張感ある厳しい山行もいいが、たまにはこんな息抜きの山もいい。まさに「夏山」を堪能できた。


所要時間
8/11
3:54飛越トンネル−−5:32神岡新道合流−−6:05鏡池平−−6:22寺地山6:36−−7:12避難小屋分岐−−7:14避難小屋7:16−−7:20避難小屋分岐−−8:48北ノ俣岳9:14−−11:13黒部五郎岳山頂分岐11:18−−11:26黒部五郎岳11:58−−12:05黒部五郎岳山頂分岐12:08−−13:04最後の沢13:14−−13:19黒部五郎小舎

8/12
4:21黒部五郎小舎−−5:17巻道分岐−−5:42三俣蓮華岳5:59−−6:06縦走路−−6:30三俣山荘−−7:33鷲羽岳8:00−−8:25ワリモ岳−−8:39岩苔乗越分岐−−9:09水晶小屋−−9:38水晶岳10:18−−10:41水晶小屋−−11:03岩苔乗越分岐11:17−−11:23岩苔乗越−−12:01祖父岳−−12:45雲ノ平テント場

8/13
4:12雲ノ平テント場−−6:03薬師沢小屋6:08−−6:55薬師沢出合−−7:21最後の沢−−8:13太郎平小屋8:16−−8:32薬師峠テント場9:02−−9:24薬師平−−9:55薬師岳山荘−−10:172890m峰−−10:28薬師岳11:07−−12:02沢12:08−−12:12雲ノ平テント場

8/14
4:00雲ノ平テント場−−4:20太郎平小屋−−4:29太郎山−−5:35神岡新道分岐−−5:41北ノ俣岳−−5:48神岡新道分岐−−6:35避難小屋分岐−−7:06寺地山−−7:18鏡池平7:26−−7:52飛越新道分岐−−8:55飛越トンネル

 

 

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