鳳凰三山 薬師岳、観音岳 2008年8月2〜3日
鳳凰三山は白根三山前衛で登山ルートは複数あり、下界からのアプローチは比較的良くて山小屋の間隔も短く、南アルプス入門の山としては最適な山域であろう。青木鉱泉や御座石鉱泉から往復でもいいし、夜叉神峠から広河原や北沢峠まで縦走するのも良しと、日程や体力にあわせて柔軟にコース設定が可能だ。たぶん、私が3000m級の縦走をやる前にはここを歩いたような記憶がある。
今回は天気図と体調や疲労具合を考慮して久々に鳳凰三山を歩くことにした。予想天気図では土曜は問題無さそうだが日曜日は日本海を前線を伴った低気圧が進み、等圧線の間隔からして本州は南西の湿った風が吹きこんで標高が高い山の上は強風とガスの可能性が高い。テント場は稜線の東側にある場所が安全と判断した。この点、鳳凰小屋は東向きの谷にあるのでちょどいい。また、今週の頭から熱はないのだが夏風邪気味で喉は痛いし鼻水は出る状態が続き、ハードコースは避けたほうが無難なこと、最近は仕事が忙しくて月曜日に休むわけにはいかず、細かい作業なのであまりに疲労が残ったままだと作業効率が落ちることもあって、鳳凰三山程度が適度と判断した。ここなら東京から近いので帰りの時刻も早く、中央道の大渋滞にはまらずに帰ることができ午後は自宅で昼寝できる。大いに安全を考えると家で寝ているのが一番だが、今週末は気温が上がってクソ暑そうだし、天気がいいのに家でゴロゴロしているとストレスが溜まってしまう。
問題はどんなコース取りでいくかであるが、本格的に楽をするなら広河原から白鳳峠経由を往復だろう。距離も短く短時間で鳳凰小屋で幕営体制をとれる。ただし広河原への出入りはバスを使うので時刻の縛りがきつい。この時期でも始発は5時10分、広河原まで1時間くらいだから歩きだすのは6時過ぎとなる。また、帰りは始発は8時で、これを逃すと次は10時20分だったはずだ。次に楽そうなのは青木鉱泉を起点とする周遊ルートで、登山口の標高がやや低いが(1100mちょっと)初日に中道を通って薬師岳、観音岳に登れば翌日はドンドコ沢を下るだけなので下手をすれば午前中に家に帰れる。ただ、初日は稜線歩きは真昼間だからガスが上がって視界無しの可能性が高い。まあ、日曜日はもっとガスる可能性が高いが。少しコースが長くなるが夜叉神峠から白鳳峠経由で広河原まで縦走(もしくは逆向き)という選択肢もある。さらには夜叉神峠から往復というのも考えられる。いろいろ悩んだ結果、とりあえず夜叉神峠から入って体調、天候を考えて翌日のコースを決めることにした。
夜叉神峠は北アと比較すれば東京から近くて財布には大助かりで、高速道の通勤割引が有効な韮崎ICで降りて南アルプス市街地を抜けて案内標識に従って旧芦安村を目指す。いつもなら市営駐車場に入るが今回は夜叉神トンネルまで入るので県道を直進、クネクネした道路を上がっていく。駐車場の入りがちょっとだけ心配だったがまだ金曜の夜なので半分も埋まっておらず、公衆トイレの反対側に車を突っ込んだ。さすが標高1400m近いので気温が低くて快適に寝られた。ここからの出発はバスは無関係なので何時に出発してもいいのだが、気温が低い時間帯に標高を稼ぎたいのでヘッドライトが不要なギリギリの明るさになったら出発したいところだ。
夜叉神駐車場 | 夜叉神登山口 |
朝は周辺の駐車場に入る車の音で起床、4時少し前でありこれなら5時前に出発できそうだ。朝飯を食べてザックを担ぐ頃には周囲は薄明るくなってヘッドライトが無くてもどうにか歩ける明るさになり、ライトをしまって歩き出した。登山道に関してはルート上問題になる箇所は考えられないので、今日は最初から短パンである。いつもの麦わら帽子を被ってザックにはうちわを刺す。まだ体が温まっていないのでうちわの出番ではないが、気温が高く無風の場所ではこれがあるのと無いのでは体感温度がずいぶん違う。
夜叉神峠への登りの途中には木の種類を示す標識があちこちに下がっていて参考になる。前回ここを歩いたときは笹の花が開花していたが、枯れた笹が一面に広がった地帯があってそのときの開花した笹があった場所だろう。ただ、全部の笹が枯れているわけではなく全部の笹が開花したわけではなさそうだ。
笹が枯れた一帯 | 夜叉神峠 |
夜叉神峠小屋 | 夜叉神峠小屋から見た大唐松山 |
歩いているうちに徐々に明るさが増し、峠に出たときには充分明るくなって樹林の隙間から白峰三山の姿が見えており、今日も好天が期待できそうだ。鳳凰峠小屋では一気に視界が開けて目の前には鋭く頭をもたげた大唐松山が目立つ。とはいえそんなピークに注目するのは私くらいだろうが。この先はしばらく樹林帯が続いて展望が無くなるが、森林限界を超えて視界が開ける頃にはガスが上がって展望が無くなっているだろうか。
夜叉神峠小屋近くのサルオガセ | 杖立峠 |
樹林帯を登っていくとポツポツと下ってくる人とすれ違うが、時刻的に南御室小屋宿泊の人だろか。少し登りがきつくなりシラビソが増えてくるとやがて峠に到着、ここは右手の尾根を登ると大崖頭山に至るが登山道は巻いている。前回ここを歩いたときに山頂に立っているので今回はパスだ。地形は尾根だが「杖立峠」の標識が立っている。地図では杖立峠はこの先の最低鞍部(というか登山道の最低標高部)となっているが、まあ細かいことはいいか。まだ休憩するほど疲れていないのでそのまま通過する。
白峰三山 | 苺平 |
休憩場所から見た南ア南部 |
本当の杖立峠を通過して登りにかかり、深いシラビソ樹林を登って樹林が開けた場所で飯を兼ねて休憩。視界が開けて目の前にはすっきり晴れ渡った白峰三山がずらりと並んでいる。これほど天気がいいのなら白峰三山に行ったほうが良かったかなぁ。まあ、明日の天気にもよるが。再び歩きだして深く涼しいシラビソ樹林を登りきると苺平に到着、山名事典記載の場所だが、GPSで確認したところピークではなく最低鞍部を指していたので峠名と解釈してよかろう。中には「なんとか平」でもピークの場合があるので実際どうなのか確認できてよかった。
甲府盆地は雲海 | 南御室小屋周辺にある標識 |
相変わらず深い樹林を緩やかに下っていくと、強風のためか1カ所だけ木がなぎ倒された一帯があり、雲海に覆われた甲府盆地の向こうに奥秩父の山並みが見えていた。そして携帯電話通話可の看板が。どうやら南御室小屋は鞍部にあるため携帯電話のカバー範囲外らしい。この後も数カ所でこのような標識が見られた。
南御室小屋 | 南御室小屋のテント場 |
砂払で森林限界を超える | 砂払から南を見る |
最低鞍部で樹林を抜けると南御室小屋に到着、右手のベンチの近くに水が引かれていて少々補給。ここはテント場があり数張残っているが、たぶん持主は観音岳を往復しているのだろう。ここまで来ると夜叉神から観音岳の2/3くらいは歩いたことになるだろう。さっき休憩したので小屋は素通りして森林限界を超えた薬師岳で次の休憩をとることにして登りにかかる。旧道は溝と化しており右手にう回路ができていたのでそれを登り、なおも深い樹林帯で標高を稼ぐ。標高約2700mで花崗岩の巨岩(ガマの岩)が現れ、間もなく樹林帯を抜けて花崗岩の白い砂地と巨岩が点在する別世界に飛び出した。ここは砂払で、これから地蔵岳の間はこのような風景が広がり、鳳凰三山らしい絶景である。北アルプスでは燕岳が同様の風景で、他ではあまり見られない光景だ。
薬師ヶ岳小屋から再び森林限界 | 薬師岳山頂標識付近 |
薬師ヶ岳から見た観音岳 | 雲海に浮かぶ富士山 |
一気に展望が開け、左手には白峰三山がデカデカと並び、その奥には荒川三山だ。右手には雲海上に富士山が浮かんでいる。まだガスは上がってきていないが、観音岳に到着するまでこのままの展望でいてくれるだろうか。ここからではまだ薬師岳や観音岳が邪魔で北アルプスは見えない。2730m峰を越えてギリギリ樹林帯が始まると薬師ヶ岳小屋を通過、ここは水場はないしテント場もない。少し背が高い這松に挟まれた登山道を登ると再び花崗岩の砂の光景が広がり、登りきったところが山頂標識が立つ薬師ヶ岳の一角だ。正確な山頂は東側の花崗岩の重なりだが、今回はそこまでこだわらなくていいだろう。観音岳は間近だが標識近くで休憩。夏山シーズンなので大学生パーティーらしき団体も休憩中だ。パンをかじり水を飲んで出発。
もうすぐ観音岳 | 巨岩が積み重なった観音岳山頂 |
観音岳までは大した距離も標高差もなく、展望の稜線を登り切るとこれまた花崗岩の巨岩が積み重なった観音岳山頂だ。期待していた北アルプスの展望は、ぎりぎり奥穂高岳が甲斐駒の右手に見えており、槍ヶ岳から大天井岳、燕岳、蓮華岳、鹿島槍と続くが白馬は雲がかかって見えなかった。それでもこの真昼間の時間帯でこれだけ見えれば文句はない。南方は笊ヶ岳に雲がかかっており、それ以南は見えない。明日朝の展望に期待しよう。
鳳凰小屋 | 鳳凰小屋のテント場 |
しばし展望を楽しんで鳳凰小屋に向かう。2700m峰手前の鞍部で小屋へ下るショートカットコースへ入るとすぐに樹林帯となって展望がなくなる。右手には水がない沢があるが、白い砂がまるで残雪のようだった。尾根を下って左手に沢音が聞こえるようになると小屋は近く青い屋根が見えてきた。沢を渡って登山者で賑わう小屋で受付を済ませ、裏手のテント場のどん詰まりにテントを張った。まだガラガラだが今日は混雑しそうなので奥から張るようにと言われていたので、私のテントの大きさなら張れるがそれ以上のテントでは張れないような隙間を選んだ。確かにこの日はテント場は満杯となり、端に張って正解だった。水場は沢から直接汲んでもいいが、小屋の前に水が引かれているのでここで汲み、水浴びのために沢まで下った。やっぱ1日の最後はこれをやらないと快眠できない。
来るかと思った雷雨は無く、夜中は満天の星空が広がっていた。夜明け前は少し雲が出ていたが星も見えていたので時間が経過すれば快晴になるかもしれないと期待しながら朝飯を食べて観音岳向けて出発。帰りのルートをどうするか少しだけ悩んだが、始発バスに間に合うか微妙なこと、間に合わない場合は2時間以上待ち時間があること、広河原から夜叉神まで1時間近くかかることを考えると、このまま稜線を歩いた方が早そうだ。体力トレーニングにもなるし。
今朝も雲海 | 日の出 |
朝焼けの地蔵岳 | 観音岳山頂 |
出発時はギリギリヘッドランプが必要な明るさだったが樹林帯でもライトなしに歩ける明るさとなり、森林限界を超えると完全に明るくなっていた。稜線に到着するころには日の出を迎え、山頂にはすでに何人かの姿が見えている。振り返れば今朝は後立山の白馬岳や小蓮華岳も見えており、山頂での展望が楽しみだ。昨日に続いて2度目の観音岳山頂は快晴で、下界は一面の雲海だが標高2000m以上は雲海の上に顔を出している。残念ながら北関東の山は雲の高さがもっと高いのか見えないが、昨日見えなかった山伏等の白峰南嶺末端も姿を見えていた。意外にも大無間山が大きく見えている。仙丈ケ岳の左手には空木岳から南の中ア、右手には木曾御嶽のてっぺん付近のみが見えている。そして甲斐駒の左には乗鞍岳。空気の透明度は非常によく、北アは立山、剱岳まで見えている。甲斐駒が無ければ笠ヶ岳も見えるだろうがちょっと残念。
観音岳から見た大唐松山 | 観音岳から見た木曽御嶽 |
観音岳から見た中央アルプス | |
観音岳から見た八ヶ岳(クリックで拡大) | |
観音岳から見た南ア南部(クリックで拡大) | |
観音岳から見た北アルプス、後立山(クリックで拡大) | |
観音岳から見た乗鞍岳 | |
観音岳から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大) フォトショップエレメントで自動合成 |
十分展望を楽しんでから下山開始。今日は日曜日で土日がお休みのサラリーマン登山者にとっては下山日だが、意外にもまだまだ登ってくる。南御室小屋を出発した人なら分かるが、杖立峠で休憩中でも続々と登ってくる。さすがに夜叉神峠を過ぎてぐんぐん下る頃にはすれ違う登山者の姿は少なくなった。夜叉神に到着して駐車場の様子を見ると満杯ではなく、8割程度の入りだった。やっぱ真夏は3000m級へ人が流れるのだろうか。夜叉神は雲海の雲の下で曇りとなり、思ったより涼しい環境で着替えを済ませた。
所要時間
8/2
4:39夜叉神登山口−−5:31夜叉神峠−−6:36杖立峠−−6:57 標高2230mで休憩7:14−−8:00苺平−−8:28南御室小屋−−9:01ガマの岩−−9:12砂払−−9:21薬師ヶ岳小屋−−9:29薬師ヶ岳9:48−−10:07観音岳11:00−−11:12鳳凰小屋分岐−−11:34鳳凰小屋(幕営)
8/3
4:03鳳凰小屋−−4:45稜線−−5:05観音岳5:37−−5:55薬師ヶ岳−−6:05砂払−−6:28南御室小屋−−6:53苺平−−7:35杖立峠7:54−−8:27夜叉神峠−−8:53夜叉神登山口