南ア北部 大滝ノ頭、小仙丈ヶ岳、仙丈ヶ岳、大仙丈ヶ岳、苳ノ平 2008年7月5日
もう7月に入って残雪期とは言い難いが、今年は雪解けが遅いので豪雪地帯で標高が高いところはまだ期待できそうだ。その意味で立山奥地の坊主山の偵察に行きたいのだが、まだ梅雨の時期で天候が安定しない。金曜夜の天気予報では土曜は本州付近に前線がかかって天気は悪くなりそうで、富山の予報は曇り時々雨。日曜日は回復するが大気の状態が不安定で雷雨の予報だ。立山黒部アルペンルートを\8000以上かけて使って山に入って雨ではあまりにももったいないので、今回はパスすることにした。7月中旬までに行くチャンスがなければ来年に後回しだ。
他の候補地を考えるが天候が不安定なので場所の選定が悩ましい。テントを背負って1泊するのはリスクがありそうなので日帰りできる場所を考えた結果、仙丈ヶ岳南方の苳ノ平を目指すことにした。「平」であるが山名事典に掲載されており、つい最近武内さんが登っているので山頂として認められていることが判明した。7月に入って旧長谷村から北沢峠行きのバスの運行が始まり、始発なら北沢峠出発が7:00なので往復しても最終バスに充分間に合う。ただ、いつ雨が降ってくるか心配なのでできるだけ行動は短時間で済ませたいところだ。森林限界で雷が来たら最悪だろう。天気図を見ると南西から湿った風が吹き込むと予想され、たぶん空気の透明度は悪くて展望は期待できず、ヘタをすれば稜線は終日ガスの中かもしれない。
早朝の仙流荘前バス停 |
金曜日の東京は早朝から雷が鳴って大雨だったが、日中は晴れて気温が上がり猛烈な蒸し暑さとなった。明日日中も晴れてくれるといいのだが。3000mの稜線は下界と違って涼しくていいだろう。会社を終えて中央道を西に向かうと北の方には巨大な入道雲が見えていたが西の方には雷雲は見られなかった。仙流荘の駐車場は2,30台の入りといったところで平日にもかかわらず思ったより入っている。まあ、夏のシーズンとは大違いだろうが。酒を飲みながらパッキングをして寝た。ここまで入ると東京と違って空気がひんやりしており快眠できた。たぶん東京にいたら今夜は今年初めてクーラーを入れないと暑くて寝られないだろう。上空は満天の星空だった。
翌朝は良く晴れて鋸岳もくっきり見えており、今のところは天候は大丈夫だ。念のため傘をザックに入れてタオルも持っていく。アイゼンとピッケルは悩むところだが、昨年の状況からすると不要だと思うが、仙丈ヶ岳から苳ノ平間はこの時期に歩いたことが無く雪の残り方が予想できない。ピッケルはやりすぎだと予想しストックに、アイゼンは6本爪とした。まあ、南向きの尾根なので基本的には雪は無い可能性が高いが。
今日が北沢峠行きバスの今年初めての週末なので滅茶苦茶混雑することはなく、バス2台で全員乗れたようだ(1台目のバスに乗れたので最終的に3台までいったか不明)。基本的に全員が乗れるまで増発するので心配ご無用。今回の運転手はサービスが良くて林道走行中にいろいろと解説してくれた。三石山直下の洞門手前の沢が中央構造線だとか、鋸岳の鹿窓から稜線向こう側の空が見えるとか(V字のギャップ直下にぽつんと光の点が確認できた)、林道に沿った植林で熊はぎの被害が出ているとか。林道は工事箇所があったが今は通行可能だった。
北沢峠に到着してバスを降りTシャツと半ズボンに変身、小仙丈ヶ岳経由で仙丈ヶ岳へと向かう。人の動きを見ていると峠付近で出発準備をしている人が多いが、大ザック姿の人は仙水方面へと下っていくのも見えた。北沢峠行きのバス停で待つ人もいて、ほとんどの人が仙丈ヶ岳へ行くと思っていたがそうでもなかった。
シラビソ樹林を登る | 北岳の雪は少ない |
出発は私が先頭となった。何度も歩いたルートなので地図を見なくても迷うことはないし、どこで展望が開けるか、森林限界の場所、雪が残りやすい場所も頭に入っている。南アらしい背の高い深いシラビソ樹林を登っていく。さすが百名山で倒木はしっかりと処理されていて格の違いを感じる。もう夏山シーズンへ向けての準備はOKだな。上空は晴れ渡って青空だが甲府盆地方面は白い雲が多い。西風がやや強いが麦わら帽子を被っていても邪魔になるほどではなさそうだ。森林限界を超えた場所ではどうだかわからないが。
1合目、2合目、3合目、4合目と標識があり、1箇所だけ北岳方面の展望が得られる場所があるが、雪はかなり少なくなっていた。昨夜小屋泊まりした人だろう、早くも下ってくるパーティーちすれ違った。大滝ノ頭から藪沢への分岐は昨年は残雪で通行止めだったが今年は問題ないらしい。残雪期の経験がある人なら問題ないのだろうけど、この時期は夏山気分で入山する人がほとんどだろうから大事をとっての処置だろう。
大滝ノ頭 | 大滝ノ頭先の登りに雪はなかった |
森林限界を抜ける | ハクサンイチゲが咲き誇っていた |
昨年は大滝ノ頭から先の樹林帯から森林限界にかけてたっぷりの残雪に覆われていたが今年は完全に消えてしまい左手の谷に残っているだけだった。ここから標高2700mにかけてが植生が急激に変貌するところで、徐々にシラビソの高さが低くなって立ったハイマツが混じるようになり、立ったハイマツの刈り払われた尾根を登ると傾斜が緩むと同時に突如として寝たハイマツの森林限界に達する。いつ来てもこの劇的な風景の変化は楽しめる。しかし予想通り空気の透明度は低く八ヶ岳さえ霞んでしまって北アルプスは全く見えない。今日は荷物が軽いので双眼鏡を持ってきたが活躍できそうにないなぁ。
6月中旬だとこの先で再び傾斜がでてくるところに雪が残っているのだが今年は2週間遅れなのできれいさっぱり雪は消えていた。小仙丈ヶ岳直下では左に伸びる北沢岳への尾根には僅かに雪が残っていたが、もう大半の区間で猛烈なハイマツ漕ぎが必要そうだ。雪が消えた登山道脇には高山植物が花盛りであるが、名前が分かるのはハクサンイチゲとコイワカガミくらいか。
北沢山の稜線 | 小仙丈ヶ岳山頂 |
小仙丈ヶ岳付近から見た甲斐駒〜鋸岳 |
小仙丈ヶ岳山頂では2名の男性が休憩、仙丈小屋宿泊者だろうか。まだ疲労は感じないのでここまま通過して仙丈ヶ岳を目指す。仙丈の雪もかなり溶けてしまっており、昨年は2カ所で雪田を横切ったが稜線上には全く雪はない。ここから先は雷鳥がいないか周囲をきょろきょろしながら歩いたが発見することはできなかった。鞍部から登りにかかるがバックの青空が素晴らしい。まさに夏山気分だが無人地帯なのかシーズン真っ盛りとは異なる。昨年は雪堤になっていた稜線も全く残雪はなく、山頂直下も無雪で仙丈ヶ岳に到着した。
仙丈ヶ岳へ向かう。稜線に雪はない | 小仙丈ヶ岳 |
山頂が見えてきた | 昨年雪堤があった場所も無雪 |
仙丈ヶ岳から見た南半分(クリックで拡大) |
やっぱり展望はイマイチで北アルプスは乗鞍岳がかろうじてうっすら見えるが、その他は双眼鏡を使っても影も形も見えなかった。中央アルプスも霞んでしまい木曽御嶽は見えない。南は荒川三山、赤石岳、そして聖岳がかろうじて見えるがそれ以南は霞んでしまっている。手前には誰も注目しない黒檜山が僅かに霞んで見えており、右手には丸山谷ノ頭から丸山が見えるが大仙丈ヶ岳が邪魔して小瀬戸山は隠れてしまっている。少し風が出て寒いので風下の東に下って長袖シャツとダウンジャケットを着てしばし休憩。この時間なら登ってくるのは始発バスの乗客だろうから、私の歩行スピードを考えるとしばし山頂を独占できた。
大仙丈ヶ岳から見た仙丈ヶ岳 | 大仙丈ヶ岳から見た仙塩尾根 |
ポツポツと上がってくる人が登場し、充分休憩できたので目的地の苳ノ平へと出発する。歩き出した直後に単独男性から声を掛けられた、しかも無線の名前の方で。名乗った相手も無線の名前で、なんとDJFだった。今はお互いにHPで情報公開しているので電子メールでさえやりとりしていないが、顔を見るのはいったい何年ぶりだろうか。彼は仙丈ヶ岳は既登山のようで立ち寄っただけですぐに私と同じく大仙丈ヶ岳へと歩き出した。本日の予定を聞くと、北沢峠を出発して仙丈ヶ岳から両俣へと下り、中白根沢コースから北岳へと向かい、いったん小太郎山に下って北岳に登り返し、帰りは池山吊尾根を下って最後に鷲ノ住山を登って芦安へ戻るそうだ。もちろん「怪人2世」にふさわしく無泊2日である。こちらの累積標高差は約1600mだがDJFはその2倍はあるだろう。これで山名事典に記載された標高が高い山を一掃するらしい。彼は大仙丈ヶ岳で無線運用するとのことで山頂で腰を下ろしたので、私は先に苳ノ平へと向かった。調べてみたら私が大仙丈ヶ岳へ登ったのは12年前だった。
僅かに雪が残る場所がある | 仙丈ヶ岳が遠くなっていく |
ここからは長い稜線を細かいアップダウンを繰り返しながら徐々に標高を下げていく。しばらくは森林限界の気持ちがいい稜線が続き、無人で静かなルートを満喫できる。この時期はまだ仙塩尾根を歩く人はいないかと思ったら僅かに残った雪の上に1人の足跡が残っていた。間違いなく今朝付けられたもので、小屋泊まりの人のものだろう。どこまで行くのだろうか。
森林限界ギリギリから見た苳ノ平 | 苳ノ平手前のダケブキ群生地 |
山名事典の苳ノ平山頂 | 布KUMOがあった |
標高が下がると立ったハイマツからシラビソ樹林へと変貌し、標高は2600mに近づいたのでそろそろ苳ノ平も近そうだとGPSの電源を入れると南へ約270mと出た。なだらかな尾根で僅かなアップダウンの連続で顕著な山頂はなく、GPSが無いと正確な苳ノ平の位置は特定できそうにない。GPSが指す山頂より手前に苳ノ平と書かれた標識が落ちていたが、最高点ではなく緩い登りの途中であった。その先のシラビソ樹林に覆われたなだらかなピークでGPSが苳ノ平山頂と告げたが標識は全く無く、エアリアマップに書かれているような湿地も見あたらない。僅かに南に動くとやや開けた平地があったが湿地はなく、その先は高度を下げていくので、GPSが指し示す地点がこの付近の最高点であるのは間違いない。そうだ、武内さんが登っているはずなので「布KUMO」があるはずだと気づいて探してみるとありました! 間違いなくここが苳ノ平であった。
休憩しているとDJFが登場、早速「儀式」を済ませていた。その直後、彼の携帯電話に武内さんより着信があり、今後の予定や「儀式」について話していた。今回のコースからすると北岳やボーコン沢ノ頭だったら旧大宮までカバーするだろうがその他の山はかなり苦しそうだ。今回は西方面が有利だろう。「柏の小川さん」情報や私が未踏の南ア北部の山(坊主山、離山、嫦娥岳)について情報をもらった。最近の武内さんの動向については後立山北部の猫ノ踊場に行ったそうで、まだ残雪が使えたそうだ。なお、武内さんが山頂で踊ったかどうかは定かではない。
DJFはまだまだ先の行程が長く私とのんびりだべっている余裕は無いかもしれないが、つきあわせてしまって申し訳なかった。こちらは仙丈ヶ岳まで戻って北沢峠に下るだけなので時間的に余裕はある。北沢峠発旧長谷村行き最終バスは午後4時発である。それぞれの進行方向向けて歩き出した。それぞれろくでもないあちこちの山を歩き回っているので、今後山の上で出会うことは2度とないかもしれないなぁ。ちなみに武内さんとは山の上で会ったことは1度もない。
さて、標高差500mの登り返しだ。DJFと比較すれば屁のようなものだが下りの所要時間から逆算すると2時間はかかりそうだ。苳ノ平から少し歩いたところで樹林が開けてマルバダケフキの群生地があり、もしかしたらここがエアリアマップの苳ノ平かもしれない。標高を上げて森林限界を越えると時々風が吹き抜けて涼しくなった。朝方と比較すれば雲が増えてきたが予想より天候の崩れはなく、DJFが雷雨に打たれなくて済むかもしれない。北岳周辺の森林限界で雷に遭いたくはない。
大仙丈ヶ岳へ登り返す | 雷鳥親子。雛は4羽いた |
大仙丈ヶ岳へと登り返していると、無人の登山道で雷鳥が砂浴びをしていた。接近すると逃げてしまうのでデジカメの光学ズームをいっぱいにして撮影したが、いつも使っていたデジカメ(光学6倍)は修理中で以前使っていた光学3倍のデジカメなのでどこまで写っているか心配だったがまあまあの写りで安心した。雷鳥が動き出したので出発しようとしたらピンポン球大の小さな雛がいることに気づいた。最初は1羽しか見えなかったが少しすると4羽出現、そのうち1羽がなかなか登山道からどいてくれなかったが休憩を兼ねて親の所まで移動するのをじっと待った。やがて親子はハイマツの海へと消えていった。
大仙丈ヶ岳で最後のパンをかじり、仙丈ヶ岳で僅かに休憩。さすがに午後2時を過ぎてほとんど人はいない。この時間に山頂にいるのは小屋泊まりの人だけだろう。まだ天候は大丈夫で雨の気配はなく、これだったら峠まで下る間ににわか雨に降られることはなさそうだ。登りでは2時間強かかったので下りは1時間半だろうと推測、2時半ちょっと前に出発した。
小仙丈ヶ岳との鞍部で若い大パーティーとすれ違い、小仙丈ヶ岳からは正面に甲斐駒を見ながらグングン下る。登山者の姿は見えないが登山道上には動く物体があった。動いては立ち止まるの繰り返しで、大きさから推測するに猿か狐だと思われた。距離は100m以上離れているので正体は分からず、ザックを降ろして双眼鏡を取り出して確認すると、フサフサしたしっぽを持つ毛並みがいい狐であった。標高は約2700mであり、こんなところまで狐が上がってくるのは初めて見た。南アでは鹿や猿が稜線まで上がってきて高山植物を食べてしまうことが問題になっているが、狐もやってくるとなると雷鳥が食べられてしまう心配がある。
樹林帯に入って大滝ノ頭では藪沢方面へと向かう登山者とすれ違い、その先でグングン標高を下げる。さすがに少々疲れたので最後の小ピークで時間に余裕があることを確認して水を飲んでからさらに歩き、北沢峠には定刻5分前に到着した。たぶん今日入山した多くの登山者は小屋に泊まって明日もこの周辺を歩くと予想していたが、最終バスの乗客はバス1台にギリギリ収まってしまうくらいの人数だった。
所要時間
6:49北沢峠−−7:51大滝ノ頭−−8:07森林限界−−8:29小仙丈ヶ岳−−9:09仙丈ヶ岳10:00−−10:20大仙丈ヶ岳−−11:20苳ノ平12:07−−13:28大仙丈ヶ岳13:54−−14:17仙丈ヶ岳14:26−−15:09大滝ノ頭−−15:53北沢峠