後立山 烏帽子岩 2008年6月1日
烏帽子岩は鑓温泉南側の小尾根上にあり、数年前まで地形図に山名が記載されているのを知らなかったくらいのマイナーな山である。烏帽子岩をネットで検索すると全国の烏帽子岩が大量にヒットするが今回の目的地は皆無であり、昨年登ったDJFの記録が唯一であろう。それによると名前から想像する険悪な岩場ではなく、ピッケル、アイゼンも不要でスキーのまま登れてしまったとのこと。これなら私でも登れそうだ。もちろん、DJFとは自力が異なるのでアイゼン、ピッケルは持っていく必要があるが。
週末は土曜日は雨だが日曜日は晴れるとの予報で、残雪期で日帰りできる未踏峰を物色したら烏帽子岩が真っ先に浮かんだ。日帰りするには距離が遠くて燃料代、高速代がもったいないが、好天の下で家でゴロゴロしているのはもっともったいないので出かけることにした。高速代節約のために夕方の通勤割引が有効なギリギリの距離である韮崎で降りて一般道を走り、富士見の「金鶏の湯」(@\400 東京の銭湯より安い温泉)に入ってから北上、猿倉駐車場に入った。やっと天気が回復して星空が広がるが土曜はずっと雨だったろうから入山者の車は少なく20台前後だ。明日登るため駐車場でテント泊や車中泊の車もある。ま、ほとんどは大雪渓方面で鑓温泉方面は少ないだろうな。駐車場には全く雪は見られない。
翌朝、思ったより冷えず長袖シャツを着て出発、一応、ダウンジャケットもザックに突っ込むが、日の出前で長袖だけでOKだと晴れれば稜線でも同じ格好で大丈夫かもなぁ(結局ダウンジャケット、フリースとも全く使わなかった)。どうにかヘッドライトが不要な明るさで出発、林道にも全く雪はなく、烏帽子岩北斜面に雪が残っているかちょっと心配になってくる。まあ、ちょっとでも雪が付いていれば藪漕ぎは大幅に削減されるので、全くの無雪でない限りいいけど。鳥は初夏の様相でカッコウ、ホトトギス、ツツドリが鳴き競っていた。
猿倉駐車場 | 鑓温泉方面分岐 |
すっかり初夏の様子 | 雪が現れるが続かず藪がうるさい |
鑓温泉分岐も全く雪が無くブナは芽吹いて若葉が輝いて残雪の山の面影はない。本当に雪はあるのかなぁ。山スキーをやるにも結構な距離でスキーを担がなくてはいけないだろう。しかし、なだらかな尾根を登っていくと徐々に残雪が斑に現れ始め、1500mを越えると雪が続くようになり一安心。この標高で残雪があるなら、2000mを越える烏帽子岩の北斜面なら問題は無いだろう。それはいいのだが、残雪が現れ始めて連続するまでの間は半端な残雪で道の両側からは立ち上がったばかりの笹が覆い被さり、立木は寝ていても雪から顔を出して道をふさいでいる。しかも昨日の雨で濡れており、体に触れるとたちまち濡れてしまう。私が先頭のようで言葉通りの「露払い」であった。
雪が続くようになる | 鞍部まで雪が続いていそう |
雪の状態は2週間前の板戸岳とは雲泥の差で、非常に良く締まって足跡がほとんど付かないくらいだ。昨日の下界の雨はここでも雨だったらしい。表面はクラストして摩擦が効く部分もあるが、半分凍って傾斜があると滑りやすい部分もあり、小日向山鞍部への登りはアイゼンが必要だろう。気温は猿倉で4℃くらいだったが雪が出てきてからは0℃まで下がり、雪が締まっている要因の一つだろう。
やっと本格的登りに入る | 青空向けて登る! |
背後には白馬岳がせり上がってくる | 振り返る |
雪が続くようになると夏道の形跡はほとんど見えなくなり僅かに残る足跡を追って歩くようにするが、小日向の鞍部が見えているのでわざわざ雪の上を夏ルート通り歩く必要はなく、雪がつながって藪に突っ込まないルートを選んで歩けばいい。しかし、まだこの付近は雪は充分ではなく、小さな尾根が現れると雪が途切れて藪の帯が出てしまっており、濡れた藪を横断するのはごめんなので雪が続く場所を探して標高を上げ、ほんのちょっとだけ藪を突っ切ればいい場所を見つけて2カ所ほど尾根を横断して鞍部直下の雪原に出た。ここでアイゼンを付ける。アイゼンさえあればこの程度の地形なら傾斜を気にしないで適当にルート取りできる。最高の雪質で足も軽くグングン高度を稼ぎ、背後の尾根の向こうには白馬岳が顔を出した。雪質に負けず天気も最高、無風快晴で深い青空が広がっている。昨日の悪天が嘘のようだ。
鞍部付近から見た小日向山 | 小日向山との鞍部 |
鞍部から見た烏帽子岩 | 最初だけ僅かに夏道が出ていた |
峠に上がるとテントの前でスキーヤーが出発準備中、昨日のあの雨の中を上がってきていたようだ。話を聞くと本当は鑓温泉まで上がる予定だったが天気で気持ちが萎えて11時に行動を打ち切ってここで幕営したそうだ。雨でも行動するのだから私よりも精神力は上であろう。スキーヤーは一度谷底まで降りてから登り返すのだろうが、こちらは体力温存優先で夏道のように等高線に沿って行こうと思う。ここから見る範囲では最初の僅かな区間だけ夏道が出ているが、ほとんどは雪に埋もれているようだ。雪に埋もれて夏道がどう付いているのか分からなくても、できるだけ標高を落とさないよう気を付けながら歩きやすいところを歩けば良かろう。雪さえ付いて藪が埋もれていればどこを歩いても問題なし。この時期は雪解けが進んで残雪量は少なくなって一部藪は出てしまっているが、崩落しやすい雪は全て落ちきっているだろうからトラバースルートでも雪崩の心配もほとんど無い。
トラバース途中から見た烏帽子岩と手前の尾根 | 鞍部が遠ざかっていく |
最初は僅かな夏道を歩くがザレた斜面に付けられた道は所々で崩壊して、場所によっては道なのかザレなのか判別できないところもあった。夏山シーズン前に修復するのだろうか。雪渓横断も多いがさほどの傾斜ではないし、もし落ちても下部は広大な雪原で大きな怪我をすることはなさそうなのでアイゼンを効かせて淡々と進んでいく。そこそこ傾斜があるので平らな雪面と違って足にかかる負担が大きく、臑の右半分の筋肉が異様に疲労する。帰りは標高差で損はしてもトラバースせず谷底を歩いた方がいいかなぁ。雪が切れたところはザレや草付きの歩きやすいところを横断する。たま〜に夏道が出てきたのでほとんど夏道に乗っているようだ。山スキーヤーは谷底付近で遊んでいてなかなか鑓温泉方面に登ってこず、どうやら私の方が先に到着しそうだ。
小尾根の緩斜面地帯へとトラバース | 小尾根を越えて急なトラバース |
途中に突き出た尾根を乗り越える手前では雪に埋もれた広い沢に下って横断、緩やかに登ると再び夏道が現れるが長続きせず、再び目印も足跡もない雪の上を自由気ままに歩く。尾根を回り込んで下りになると雪が切れ、夏道が出てくるので下り口を探し出して夏道を辿る。この尾根の下りがもっとも傾斜が急で雪が付いていた場合のトラバースがイヤらしいが、西斜面なので雪が消えていた。このまま杓子沢までいけるかと思ったがそうは問屋が卸さず残雪帯が現れた。しかも雪が連続せず大きなクラックを境に下部は数mずり落ちて次の残雪帯に乗り移るのにまっすぐ下るのは無理だ。しょうがないので雪を伝わって右手に進み、地面との距離が1m弱まで接近したところで飛び降りて下部の雪に取り付いた。こんなことは飛び降りた下が広くないと恐ろしくてできないなぁ。それに帰りに登れるかどうか。帰りのルートは要検討だ。その後は雪のトラバースが続くが特に危険はなく、巨岩の下に到着すると夏道は巨岩上部に付けられていた。
杓子沢から見た鑓温泉 | 杓子沢 |
鑓温泉向けて左岸を上る | 新しい熊の足跡 |
一面の雪に覆われた杓子沢を横断し、少しの区間だけ急な雪面をトラバースして緩斜面に出ると鑓温泉まで左岸の登りが続く。雪原の中にぽつんとそれらしきものが見えており、その左手には目的地の烏帽子岩が見えているが、DJFが書いているように傾斜がさほど急ではなく鑓温泉から稜線に取り付いて東に進めば特に問題はなさそうだ。雪も続いているので稜線に出てからは分からないがそれまでは藪漕ぎの必要はない。途中、熊が左手から右手の杓子岳方面に横切った新しい足跡があったが姿は見えなかった。
鑓温泉が近づくとクラックが出現 | 鑓温泉直下の雪末端は切れ落ちていた |
鑓温泉が近づくと雪面にクラックが入り、最初は右手を歩いていたのだがどうも末端が切れ落ちていそうな雰囲気なので左に乗り移って温泉直下に出たが、やっぱり末端は2,3mの垂直の雪壁だった。しかし私が歩いたところも最後は薄い壁で、いったん下って谷から登れば安全なのだが労力がもったいないのでおっかなびっくり薄い壁の末端から飛び降りて地面に着地した。
鑓温泉。自然にわき出た温泉が流れ落ちている | 温泉浴槽。適温〜やや熱め |
鑓温泉から見た烏帽子岩の尾根。シュプールだらけのなだらかな雪の斜面が続く |
湯気を立てて流れ落ちる温泉周辺のみ雪が消えて、その上部の土台には畳まれた小屋の部材が積まれていた。温泉の源泉は硫黄臭のする少し熱めの湯が、なんと岩の割れ目からごうごうと流れ出しており掛け値なしの「源泉掛け流し」であった。なにせ勝手に温泉がわき出しているのだから。湯船は最下段にあり、正面に戸隠、高妻乙妻、妙高火打を眺めながら浸かることができる。手を入れてみると少し熱めだがなかなかの適温とみた。今のように閑散期に来て独り占めもいいだろう。今回はどうせ下りで汗をかくだろうからと入浴はしなかったが、ここでテントを張って泊まるのもいいな。谷を見下ろすと一人だけ離れて登ってくるスキーヤーが見えたが、さっきの連中の内の一人だろうか。
鑓温泉を振り返る | 山頂の一番近くまで続く雪を選んで登る |
小屋の土台にザックを置いて休憩し、アタックザックを持って烏帽子岩に向かう。右手に巻きつつ標高を上げて稜線北斜面を斜めに登り、雪庇が途切れた箇所で尾根に上がろうかと思ったが、尾根上は完全に藪が出てしまっていそうなので、少し傾斜があるが山頂近くまで伸びる雪にとりついて登っていく。一番山頂近くまで続く雪を辿り、雪が切れたところでアイゼンとピッケルをデポして藪に突入する。
最初は灌木 | しかし立ったハイマツに変化、山頂まで続く |
藪は最初は灌木で、枝はうるさいがさほど困難はなく進み、すぐに草付きになってこの後は楽勝かと思いきや、立ったハイマツが出現し本格的な激藪漕ぎになった。DJFが登った時期は私より2週間前でハイマツはまだ雪に埋もれていたようだが、今は稜線上は完全に藪が露出しており迂回のしようはない。獣道も皆無でハイマツの枝の上を渡り歩く。この時間はハイマツが乾いているのは幸いだが、これで濡れていたら藪に突っ込む元気があっただろうか。
烏帽子岩山頂 | 山頂のDJFピンクリボン残骸 |
烏帽子岩から見た白馬鑓 | |
烏帽子岩から見た小日向山方面 |
山頂直下まで雪を利用できたので数分間のハイマツとの格闘で最高点に到着、ハイマツの海の中に大ぶりのダケカンバが立っており、近くの灌木にDJFのものと思われるピンクリボンの結び目だけが残っていた。人工物はそれだけでゴミも目印も全くなく、「中村」さんや「柏 小川」さんの赤布もない(未だに「柏 小川」さんのHPはネット検索で発見できていない)。訪れる人の少なさは格別だ。布KUMOが無いのでまだ武内さんは登っていないかもしれない。まあ、武内さんなら簡単に登れるだろうから後回しにしているのかもしれない。展望は南側以外はそこそこ開けていた。
藪を下る | 山スキーヤーパーティーが到着していた |
源泉は岩の割れ目から豊富に湧いていた | 山スキーヤーが登っていった |
帰りも傾斜が緩い区間のハイマツ漕ぎは苦労し、残雪帯に出てホっとした。鑓温泉には既に山スキーパーティーが到着しており、休憩用だか小振りのテントを張っていた。先行した1名のことを聞くと仲間ではなく単独行のスキーヤーだとのこと。まだ時刻は9時前なので、もしかしたらぐるっと回って帰りは白馬大雪渓かもしれないな。パーティーは男性1名をテントに残して稜線目指して登っていった。帰りは早いだろうなぁ。こっちは行きと同じくテクテクと歩かなくてはならないし、日中で気温が上がって雪が緩んでスピードが落ちるだろう。
問題のトラバース箇所 | まずは露出した夏道を歩く |
夏道はこのまままっすぐだが今度は上に登った | 帰りは緩斜面地帯を歩いた |
ザックを背負って行きとほぼ同じルートを戻る。最大の難関は途中の尾根への登りだが、遠目から見ると雪渓は凄い傾斜に見えるのだが、確かになんてことなく下れたのでまさか登れないことはないだろうとそのまま進み、大岩上部で夏道に出てそのまま等高線に沿った夏道を行き、雪に乗り移ってからはトラバースせずに上部へと登ることにした。これなら行きで飛び降りた雪壁を登る必要がないので安全だ。そこそこ傾斜があるが特に危険を感じることもなく登り切った。数年前だったらビビったかもしれない?
鞍部へと登る | 鞍部のテント |
尾根を越えて緩斜面帯に入り、足への負担がかかる斜面トラバースは止めて下部の緩斜面帯を歩くことにした。これによる登り返しは50m程度であろうから許容範囲だろう。さすがに平地に近いと歩きやすくスピードアップだ。鞍部へ上っている途中で山スキーヤー2名が下ってきた。私と同じく昨日の悪天で日曜のみの日帰りにしたそうだ。峠に上がり烏帽子岩の姿を目に焼き付けて猿倉へと下るとさらに2パーティー4名の山スキーヤーが上がっていった。
所要時間
4:05猿倉−−4:17鑓温泉分岐−−5:46小日向山鞍部−−7:01鑓温泉7:12−−7:33烏帽子岩7:40−−7:56鑓温泉8:20−−9:01小日向山鞍部−−9:43鑓温泉分岐−−9:52猿倉