北信 天狗山、神道山、地蔵山 2008年4月20日
地蔵山は妙高火打と乙妻山に挟まれた場所にあるが、妙高火打とは関川で隔てられているし、稜線は乙妻山とつながっているので山域としては戸隠に分類されるべきだろう。登山道は無く、冬の積雪量を考えれば深い笹に覆われていると予想され残雪期に登るのが無難な選択だ。アプローチは笹ヶ峰林道が最短であり、笹ヶ峰ダムを渡って天狗山の尾根に取り付いて天狗山、神道山1892m峰、1950m峰と辿って山頂へ到達するのが常識的選択だろう。山頂渉猟の著者は藪がかなり出た時期に登った関係上、神道山付近からゴウデ川に下り地蔵山北尾根に取り付いて登っているが、これだと距離は減らせるが標高差は増えるので藪が埋もれた残雪期向きではない。数年前に三田原山等を登ったときに地蔵山も考えたのだが、当時はゴウテ川を渡って北尾根を登ろうと考えており、途中の急な尾根が登れるか分からなくて後回しにしていた。しかし考えてみると北尾根末端付近でゴウテ川が渡れるのか不明であるし、乙見湖湖岸は歩けるような地形なのか不明であり、今回の計画の方がずっと成功確率は高い。
笹ヶ峰ダムへの林道入口。除雪無し | 林道入口のスノーモービル |
土曜日は仕事で今週は日曜しか動けず、来週末は大型連休なので体力を使いすぎるわけにもいかない。この点、未踏の2000m峰で地蔵山は日帰り可能で笹ヶ峰の標高は1300m程度なので標高差も少なくちょうどいいが、東京から遠くて高速代が高いのが難点だ。除雪が終わって開通したばかりの笹ヶ峰林道に入ると道の両側には残雪が見られ大型連休の時期よりずっと雪が多く、これならダムを渡った時点から雪の上を歩けそうで藪の心配はなさそうだ。笹ヶ峰ダムまで除雪されているか不明だったが分岐点は高さ1.5mほどの雪の壁で除雪されておらず、ダム管理関係者の代替交通手段としてスノーモービルが2台置いてあった。車が2台置ける程度に除雪の幅が広げられていたのでそこに車を止めて寝た。東京は午後から雲に覆われ夕方以降は雨が降っていたが、ここでは薄い雲を通して月明かりが見えており周囲は僅かに明るかった。
ダム近くの休憩所 | ダムから見た天狗原山近辺 |
翌朝、天候は昨夜と同様に薄曇りで天候に問題はなさそうだ。出発前に雪の壁を触ると気温が高くて全く締まりがなく、ワカンでも苦労しそうなので重いがスノーシューを選択した。雪壁をよじ登って雪面に立ち、スノーモービルの轍を追ってなだらかに下っていく。ダムまでのルートは分からなくて読図が必要と予想していたが外れて助かった。スノーモービルで圧雪されて沈み込みもなく快適に歩ける。ダムまでの車道を正確にトレースしているようで、雪面から飛び出した標識も見られた。ダム周辺も雪に覆われ、雪が消えているのはダム堰堤上だけで、ここだけはスノーシューをぶら下げて歩いた。ダムからは天狗原山周辺のみ雲から顔を出して真っ白な姿を見せていたが、これから登る南側は低い雲がかかって天狗山以外は見えなかった。しかし、薄い雲なのである高さ以上に登れば雲海が楽しめるだろう。
ダム堰堤は雪が溶けていた | ダムから見た天狗山 |
対岸の崖マークは階段で上れる | 登ると遊歩道入口&尾根取り付き |
ダムを渡った先は地形図では崖マークで登れるのか心配だったが、実際は尾根までコンクリートの階段が取り付けられており安全に登れるようになっていた。階段の大半が雪に埋もれてその上には多数の足跡がついていたが、まさかこの時期を狙って地蔵山目指した人がこんなにいるのだろうか? しかし階段を上がると遊歩道の標識が立っており、どうも足跡の主は残雪に覆われた遊歩道がお目当てらしく、右手の尾根を登る足跡は1つも無かった。ま、これが当たり前の姿だ。ダムから尾根北側を見たときは雪が落ちてしまって尾根上に雪があるのか心配だったが、傾斜がきつくて落下しただけで尾根上はたっぷりの残雪で覆われて一安心。
尾根直上は藪が出ているが薄い踏跡あり | 山頂直下は壁 |
山頂直下は右を巻く | 北尾根に取り付く |
一面が残雪に覆われたブナを中心とした樹林だが尾根直上だけは雪が消えた区間があり、僅かに踏跡がみられたりゴミが落ちていたりしたので入山者があるらしい。廃林道?らしき段差を越えて尾根を登ると左から太い尾根が合流、1380mで水平区間が終わると地図どうりの急な登りが始まる。スノーシューのままでは無理だろうと12本爪アイゼンを持ってきたが、山頂直下は急斜面でやっぱりアイゼンが必要で、履き替えてキックステップで登っていくが、最後は岩壁に突き当たってこちらにせり出した雪庇があった。無理をすれば左から突破できそうだが右手が緩斜面なのでトラバースして北向きの尾根に乗り移ると雪が消え、やや灌木がうるさいながら獣道だろうか薄い筋がある。
天狗山山頂 | 天狗山南側は雪が消えていた |
僅かに登ると三角点が立った天狗山山頂に到着、山頂標識はなく航空測量用目印の残骸が木に取り付けられていた。予想が外れて山頂一帯はほんの僅かしか雪はなく、ボサボサの灌木に覆われていたが、この程度なら藪漕ぎというほどではない。ここで傾斜は緩んでこの先は危険地帯はないが、もし雪がこんな状態が続くと困るなぁ。林道周辺の大量の雪はこの標高では消えているとは。
地形図にある天狗山南の凹地 | ここも稜線には雪がない |
池田さんの落書き | こんな雪は長続きしない |
ブナの水平な樹林を歩いていくと尾根が広がって雪面が出現、真ん中には凹みがあり、地形図にも記載された凹地だった。右の広い尾根を回り込んで左の細い尾根につながる主尾根に乗るが、ここも尾根上は雪がない。さほどの藪ではないが面倒で履いたままのアイゼンに藪が引っかかることもある。たま〜に古い目印が見られるが進むに従って徐々に減っていくものの、登りでは尾根を間違えることはないから問題ない。目印の代わりではないがブナの幹に「池ダ」と彫られているのを発見、この池田さんは地蔵山まで足を延ばしたのだろうか。たまに稜線東側に雪庇が出てきて快適に歩ける場所もあるが、雪庇が崩壊して藪が出た尾根上を歩くことが多かった。妙高周辺の雪の多さや北向きの尾根なので快適な残雪歩きを予想していたが、なぜこんなに雪が少ないのだろう。男鹿山塊や南会津のあの世界がここでは存在しない方が不思議だ。
場所によっては灌木がうるさい | 登ってきた尾根。崩壊しそうな雪庇が続く |
1670m峰 | 1670m峰から上を見る |
1670m峰で右手から尾根が合流、下山時に直進すると右手の尾根を下ってしまうのでやや下ったところに目印を付けたがピーク上には既に目印があった。お、同じことを考えるヤツがいるな。この目印以降は一切目印は見えなかった。ここからやっと雪が多くなって気持ちいい雪庇が続いているのが見えたので、天狗山直下でしか活躍しなかったアイゼンを脱いでスノーシューに切り替えた。右手の樹林が開けた場所では地蔵山が顔を出すが山頂付近はガスに覆われて見えない。そういえば天気は回復傾向のはずなのだが一進一退で状況は大きく変化していない。このまま進むと雲に突っ込みそうだな。
しばらくは快適な雪庇歩きが楽しめたが、神道山手前のピーク直下では雪庇が崩落しているので稜線西側の樹林帯を登ったが、日当たりの良い雪庇と異なって樹林中は雪の締まりが悪くてスノーシューでもズボズボ潜って始末が悪いし、細い樹木が密集した状態なので歩きにくい。おまけに葉が濡れているので触ると衣服も濡れてしまい、ピッケルでたたき落としながら進んだ。
神道山(左)が見えてきた | 神道山分岐ピーク |
神道山への登り | 神道山山頂 |
17770mでとうとう雲に突っ込んで視界が低くなるが、再び稜線上を雪が覆って歩けるようになり踏み抜き地獄から解放される。次の高まりが神道山西側ピークで一面銀世界で、ガスの向こう側にぼーっと神道山山頂が見えている。雪庇の雪壁を下る必要があるかと心配したが、なだらかな尾根でつながっているので雪面もなだらかにつながっていた。ここまで来て本当の山頂に立たないのはもったいないので空身で往復することにして鞍部からシラビソ樹林を登ると枯れ木が立った神道山山頂に到着した。南北方向に樹林が開けて展望があるが、雲の底面ギリギリで下界しか視界はなかった。
こんな稜線が続けば楽しいのだが | 雪が消えるとこんな藪 |
真新しい熊の足跡 | 1892m峰 |
再び主稜線に戻りガスの中を地蔵山目指して歩き出したが、細かい雨が降り出したのでザックの底からゴアを取り出して上着だけ着た。くそ、天気予報と違うぞ。本当に良くなるのだろうか? これじゃ地蔵山のてっぺんでも雲の中で何も見えないままだろうか。この先の尾根も尾根が広くて全面が気持ちいい残雪に覆われた場所や雪庇が使える場所もあるのだが、雪庇が崩落して西側のズボズボの雪を歩くところも度々出てくる。雪庇崩落場所の一つでは真新しい熊の足跡が登場、崩落寸前でクラックが入ったところは熊も恐ろしいようで樹林帯を巻いていた。熊の進行方向も同じなので私が熊の足跡を追うような形になる。鈴を付けて歩いているのである程度遠くからでも私の存在は熊に伝わるはずで熊と接近遭遇の危険は低いが、これだけ新しい足跡を追いかけるのは気持ちいいものではない。
雲の切れ間から地蔵山が顔を出す | 1892m峰から見た1950m峰 |
1892m峰を振り返る | 1950m峰へと登る |
1950m峰 | 地蔵山へと続く尾根 |
ガスって展望がないので1892m峰手前肩がピークかと思ったが、水平移動後に僅かに登って雪庇に覆われた最高点が出現した。そこから僅かに下ると再び雪庇崩壊区間に遭遇し、腐った雪を我慢して西側を歩いた。尾根上に顔を出した藪はさほど濃くはなく、もしこの程度の藪が続くのなら無雪期も歩けそうだが、山頂渉猟を読むとそうはいかないらしい。1953m峰へと続く登りにかかると再び歩きやすくなり1930m肩で傾斜が緩むが再び雪庇側を歩けなくなり樹林の尾根を歩き、1950m峰は面倒なので北側を巻いて尾根に戻った。ここからは方向を直角に変えて雪庇は進行方向右側に移り、崩落箇所がほとんど無くなって快適な雪稜歩きになった。林道の両側の雪の壁を見たときは、こんな状態がずっと続くと思っていたのだが。
地蔵山と鞍部 | スキー跡? |
小さなピークを2つ越えたところが最低鞍部で、その後は真っ白な広い尾根を一直線に登っていくが体力が続かずジグザグに高度を上げていく。雪の表面は柔らかでまっすぐ登ろうにもスノーシューでは滑ってしまうので、斜めに蹴りこんで足下を固めながら登る意味もある。古いスキーの跡のように見える筋が断続的にあったが、本当にスキー跡なのか判断はつかない。もしスキーだったとしても今までの尾根の状態からするとほとんどスキーが使える場所はなかったから、どこかの沢沿いから上がってきたのだろうか。
地蔵山最後の登り | 地蔵山山頂。地面は何m下だろう? |
地蔵山から北を見る | 地蔵山から西を見る |
最後は雪庇となだらかにつながり、雪に覆われた地蔵山山頂に到着した。地形図だとこの尾根を登り切ったところが山頂だが、念のためGPSで確認すると残距離は10mを割っていた。周囲の立木には山頂標識はおろか目印も皆無で人間の痕跡は無かった。ガスがかかったり山頂周辺のみガスが切れたりしたが周囲の山並みを見ることはできなかった。本当なら目の前には乙妻山がデカデカと聳え、背後には真っ白な焼山から妙高の山並みが見えているはずだが。今日は時間が経過するほど晴れるだろうと日焼け止めや双眼鏡を持ってきたが、全く使う機会がなかった。これぞ何とかの法則だ。北風が吹き寒い山頂でしばし休憩。
地蔵山から見た1950m峰 | 鞍部から1950m峰へ登り返す |
1892m峰への登り | 神道山と背景の妙高山 |
下山時は乙妻山へとつながる1950m峰へ登ってみたが、ここにも目印は無かった。元来たルートを戻っていくが、雪庇崩壊地点迂回の稜線西側軟雪地帯では相変わらず苦労させられ、水平区間や緩傾斜区間が多く下りなのに体力を搾り取られる。そこで適当に東に落ちる尾根を下って氷沢川沿いの緩斜面に下り、等高線に沿ってダムまで歩いた方が楽ではないかと考えるようになった。ダム付近の緩斜面地帯は一面の残雪で締まった雪で歩きやすかったので、このまま稜線を歩くよりは楽ができそうだ。最初は1892m峰から東に下る尾根を下ろうかと思ったが、よく考えると神道山の尾根を大きく迂回する必要があり、それだったら神道山から東に落ちる尾根を下るのが良いいだろう。この尾根はすぐに2つに分かれ北東に落ちる尾根の方が近道だが傾斜が急で下れるか心配なので東尾根を下り、途中で北上して1367m峰との鞍部を通過しよう。1カ所傾斜が急なところがありそうでアイゼンが必要かもしれないが下れないことはなかろう。
たまに笹が濃い部分もある | 雲の切れ間から雨飾山 |
神道山分岐峰から南を見る | 神道山分岐峰から北を見る |
東尾根を下り始めた直下から見た神道山 | 東尾根がうねる |
東尾根を振り返る | 雪質のいい歩きやすい尾根が続く |
本日2度目の神道山に立ち、迷ったが履き替えるのが面倒なのでスノーシューのまま進むことにした。こういう時のためのピッケルがあるのだから、いざという時には活躍してもらわないと。最初は気持ちのいい緩斜面だが標高1700mで尾根は広いが急傾斜になりスノーシューのままでは淡々と下るわけにはいかなくなったので、斜めに下ってスノーシューの長辺で摩擦を稼ぎつつずり落ちそうになるのをピッケルで支えながら下った。アイゼンが欲しかったのはここだけで、距離にして20mくらいを通過すれば穏やかな尾根が待っていた。東尾根はほとんど雪庇崩壊が無く、あっても尾根上が広くて樹木もなく、頂稜をずれた所を歩いても雪が締まって快適だった。どうやら東向きの尾根は雪の状態がいいようで、これだったら1900m峰から東に落ちる尾根を上り下りに利用した方が短時間に楽に登れただろう。これからますます稜線上の雪庇崩壊が進むだろうから、大型連休やそれ以降に地蔵山だけを目指すならこのルートは利用価値が高そうだ。
東尾根を外れ北に下る | 緩斜面地帯に出る。雪質は良好のまま |
足跡登場 | 遊歩道入口の看板 |
標高1500mで尾根を外れて北上を開始し、左にトラバースしながら隣の尾根に乗り移り、鞍部手前で緩斜面を下ってダム目指して北上する。このなだらかな地形では現在位置把握は難しいが、1250m等高線に沿って北方面に向かえばいずれはダムに出るので細かいことは気にせずに進んでいく。雪質は表面は柔らかいが踏み抜き皆無で体力が残っていれば快適なスノーハイクを楽しめるところだ。標高が落ちすぎないよう気を付けながら北上すると数人の足跡を発見、どうやら地形図の破線らしい。途中には雪に埋もれて頭だけ出た標識もあり、間違いなく遊歩道だった。そのまま足跡を辿って天狗山から東に張り出した尾根を迂回するとスキー跡も出現し、無事にダムに出た。
ダムの向こうに山並みが見え始めた | 林道脇の水芭蕉 |
ダムの雪の消えたところで少々休憩し、最後は緩やかに登る雪に埋もれた林道歩きだ。この頃には天候が回復して日差しが出て地蔵山も雲から出てはっきりと姿を現した。くそ〜、俺が山の上にいるときにこうなってくれれば良かったのに。行きでは分からなかったが神道山も真っ白な姿を見せていた。車に戻ると隣の車が私が出発したときとは別の車に化けており、まもなく山スキーの夫婦が姿を現した。この辺はどこでもスキー向きの地形で楽しめただろう。話を聞くと除雪終点の笹ヶ峰駐車場はまだ全部が除雪されたわけではないらしいが、除雪されたスペースは全て車で埋まっていたそうだ。
林道から見た地蔵山 | 三田原山への山スキーヤーの車か |
笹ヶ峰林道から見た地蔵山 | |
笹ヶ峰林道から見た黒姫山 | |
笹ヶ峰林道から見た赤倉山 |
帰りは林道沿いで写真を撮りながら下り、杉の原で「苗名の湯」(\450)に入ってから東京に向かった。
所用時間
4:48笹ヶ峰ダム林道入口−−5:09ダム−−5:30天狗山東尾根入口−−6:03天狗山−−6:55
1670m峰−−7:25神道山7:49−−8:33 1892m峰−−9:05 1950m峰−−9:43地蔵山10:23−−10:46
1950m峰−−11:16 1892m峰−−11:53神道山−−12:09東尾根を外れる−−12:48ダム13:04−−13:36笹ヶ峰ダム林道入口