北ア  大木場ノ辻、錫杖岳 2007年10月13日

 

 

 錫杖岳は長らく道が無かったと思うが「ぎふ100山」の影響だろうか、数年前からネットで登山記録を見かけるようになった。DJFはそんな状況になる前から挑戦を続けて独力で登頂を成功させているが、ちらと聞いた様子からすると沢のルート取りは難しそうで、私の挑戦は後回しにしていた。しかし、今年になって検索をかけると錫杖岳の山行記録はたくさん出てきて、いつの間にか予想以上にメジャーになったようだ。読んでみると危険箇所はなくてザイル不要らしいので行ってみることにした。ついでと言うかこちらが主目的なのだが、錫杖岳鞍部から大木場ノ辻往復も考えた。地形図を見ると岩場のゲジゲジマークはないし、実際にDJFの仲間であるEAS氏が無雪期に往復を達成しているので私でも可能と考えた。唯一の山行記録はEAS氏のものだが(ネットで検索すると他に山スキーの記録が1件見つかっただけだった)、いつものようにそっけない表記で藪だったことしか書かれておらず、どのくらいの藪なのか全く情報がない。ただ、かかった時間は鞍部から1時間40分で、この標高差で登山道があったら30分といったところなので、歩くスピードが1/3になるくらいの藪ということは想像できた。こりゃ手強そうだ。他に参考としてガイドブックのコピー画像、2つのHPを印刷したものを持っていくことにした。それらを見るとキモは岩屋さんの道を登りすぎないことで、あくまでも錫杖沢を遡上することを心がけよう。

 クリヤ谷登山口から登る場合の駐車場は中尾温泉入口分岐の駐車場だが、本来は温泉に入るお客のための駐車場なので山登りで使うのは気が引けるので、一番奥に車を突っ込んだ。翌日、下山時は駐車場は満杯だった。大半がヘリポートが占有しているのでキャパシティーは少ない。

中尾温泉入口駐車場 クリヤ谷登山口

 

 翌朝、日の出前の暗い時間から出発準備をしている岩屋さんの車が何台も止まっている。こちらも暗いうちに飯を食べて、どうにかヘッドライトが不要な明るさになって出発した。橋を渡って対岸の舗装道路から未舗装の林道に入り、槍見館の裏側にある公衆電話がない電話ボックスから登山道に入る。樹林帯なのでさらに暗くなるが、一度歩いているのでどうにかヘッドライトを使わずに歩けた。クリヤ谷渡渉点で先行2名の片方の女性が難儀していたが、水量も少なく石伝いに簡単に渡れた。

クリヤ谷渡渉点 錫杖岳前衛フェイスが見えてくる
錫杖谷への入口 クリヤ谷を渡る。石が多く簡単

 

 錫杖沢が近づくと戸隠の岩壁を巨大化したような、とても登れそうにない錫杖岳前衛が目に入る。錫杖沢がクリヤ谷と合流する場所で登山道を離れてクリヤ谷に下るが、入口はか細く見えるがその後は刈り払いもされて立派な道になっているではないか。クリヤ谷の渡渉は水の流れの上に石が連なっており、登山道の渡渉点よりはるかに渡りやすい。まだ時間が早いのでテントはないが、下ってくる頃にはいくつかテントが現れているだろうか。

錫杖沢。左岸に巻き道がある 巻き道入口
ここで左に入る。直進は岩登り用 錫杖沢沿いの支流を上るが行きすぎ注意
ここで左の薄い踏跡に入る。目印多数 岩屋

 

 錫杖沢左岸には明瞭な踏跡があるのでこれを登り始めるが、そのままこれを辿ると岩登りのルートへ行ってしまうとの参考記事の指摘で、左に入る踏跡に気を付けながら登っていく。枯れた沢が出てくると右に登る明瞭な踏跡と左に登るやや薄い踏跡があったので左に入ると錫杖沢左岸に沿って登っていき、どうやら正解らしい。しかしそのまま踏跡を辿り続けると傾斜が増してどんどん沢から離れていくではないか。これも岩ルートへの道のようで、沢に下る取り付き点を探さなければならない。沢側に踏跡がないか慎重に探しながら高度を下げていくと、目印がいくつもぶら下がった場所で不明瞭ながら沢に下る踏跡を発見、帰りがけに赤テープにマジックで書いておいた。たぶんみんなここで間違えるのであろう。踏跡を辿って枯れた沢に下るがまだ支流なのでこれを登ってはいけない。突っ切った先の水が流れる沢が目的の錫杖沢だった。

 沢の水量は少なく簡単に対岸に渡ることができ、右岸側にそれと分かる岩屋があった。まだ無人であるがここにテントが設営されるのかもしれない。ガイドブックに書いてあるように目の前に沢があるので水も簡単に得られるし水平なので快適そうだ。

錫杖沢本流を遡る 危険地帯はほとんどない

 

 これより上は二俣まで沢をまっすぐ登っていけばいいので、登れないような場所が出てこない限りは沢の中を歩くようにした。水量が少ないので乾いて滑りにくそうな石を選んでどんどん登っていく。滑りそうな水が流れる岩に足を乗せるところはほとんどなく、こりゃちょっと登るのが大変だなぁと思われる段差がある場所は左右どちらかから高巻きが可能で、特に危険箇所はなくちょっとした沢登り気分を楽しめる面白いコースだった。たまに目印が出てきてルートが間違っていないことが確認できる。

二俣の左側(直進)の沢。赤布があるが右の沢がいい 二俣の右側から合流する沢。目印無し

 

 やがて沢が2つに分かれる箇所に到着、まっすぐの沢が水が流れる本流で、右から直角ちかくに合流する水がない沢は支流のようだ。ガイドブックやネットの山行記事に出てくる二俣と思ったが、赤布は直進する本流にだけぶら下がっている。ガイドブック等では右の沢が歩きやすいとなっているし、参考記事でも右の沢に目印がついているとのことだったが、ここは記述の二俣ではないのだろうか。まあ、もし左の沢に入っても鞍部に到着できるので大きな問題はないだろうと、赤布に従って直進することにした。

お助けロープで滑りやすい石を登る 沢が狭まるが登るのは問題なし

 

 しかし、どうやら先ほどの分岐がその二俣だったようで、沢の様相が険しくなってきた。沢が狭まって両側から岩壁が迫り迂回しようにも不能で、沢の中を登しかなくなってきた。幸い、滝が出てくることはなく、水量も少ないので靴の中が濡れるような場所はないのだが、岩の大きさがでかくなってきてホールドやスタンスの間隔が広い場所も出てきて、小柄な人だと無理な体勢で登らなくてはならない。1カ所だけ大きな石の右側を2mほど登るところがあるのだが、足場の石が濡れて滑ってしまうし、手を掛けるいい場所が無く、下るのはできそうだが登るのが難しい。ラッキーなことに真新しい残置ロープがあって、それに体重を預けて腕力で体を引き上げた。ちょっと苦労したのはここだけで、他は問題なく歩けた。

再び左右に沢が分かれるが右を行く 枯れた細い沢を登る
途中、草付きもある 鞍部直下で笹藪が深くなる

 

 険しい谷が終わって明るくなだらかになると再び沢が2分するが、右の水がない細い沢に赤布がかかっているのでそこを登る。沢が細いので両側から笹がかぶっており、朝露に濡れて上半身が濡れてしまうので上だけゴアを着用する。足下は沢のままで空間があるので、足の抵抗はなく楽に登れるのはありがたい。沢が無ければここから笹藪漕ぎ開始になるところだろうから、沢筋以外は歩く場所はなく、ルートを間違える心配はない。右の沢から上がってくる踏跡があるはずだが、注意しながら登っていったがどこなのか分からなかった。

最低鞍部。笹の下に明瞭な踏跡がある 大木場ノ辻方面。踏跡皆無

 

 踏跡を辿っていくと傾斜が緩んで最低鞍部に到着、一面の笹原でルートはここから右に曲がって錫杖岳に向かっている。目印の赤布が枯れた立木に付いている。時間と体力があるうちに大木場ノ辻を往復してしまおうと考え、全く踏跡がない一面の笹藪に突入することにするが、まずは休憩。GPSで山頂までの距離を見ると約750mであり、もし今の笹藪がずっと続いたら苦しい距離だ。

目印があった 振り返ると錫杖岳
まだまだ笹が濃い やっと笹が薄くなる

 

 ゴアのズボンも履いて完全装備でいよいよ藪漕ぎ開始だ。普通、笹藪の中でも微かに獣道があることが多く、いかにそれらをつないで登るかが体力セーブの鍵となるのだが、この尾根は踏跡どころか獣道さえ皆無で、どこを登っても一面の笹藪で全く変わらない。こうなると我慢して笹藪漕ぎを続けるしかないのだが、強固な根曲竹ではなく茎が細くて柔らかい笹なので、両手でかき分けてから登ることが可能で、藪の中でもがくようなことはなかった。しかし、いつ終わるのか分からない背丈を超える笹藪は上越国境を彷彿とさせる。忠治郎山に行ったときは県境稜線はずっと雪が消えてしまい笹藪漕ぎが続いたが、そのときの笹藪と同程度だ。あの時は累計で数時間も藪漕ぎをやったが、それと比較すれば距離も短いしEAS氏の実績もあるのでまだ楽なはずだろう。踏跡皆無でも無雪期に付けたと思われる手が届く高さに付けられた目印が何種類かあった。残雪期に付けられた高い場所にある目印もあったのかも知れないが気づかなかった。

低木の藪地帯に突入 笠ヶ岳が見えてくる
2100m峰で大木場ノ辻が初めて見える 2100m峰

 

 強烈な笹藪も標高差で5,60m登ると樹林の密度が上がってくると同時に薄くなり歩きやすくなってきた。ただ、樹木で邪魔されて遠くは見通せないし、はっきりした尾根地形ではないので、目印は頻繁に付けながら登る。登りでは立ち止まって目印を結びつける時間も馬鹿にならず、たぶん全体の2割くらいは費やしたのではなかろうか。黙々と標高を上げ続けると今度は樹木の高さが低くなってシラビソ、ハイマツ、石楠花、檜のミックス低木群となり、笹藪よりやっかいな相手だ。これじゃピークまで登るのは面倒なので傾斜が緩やかな右側(西側)を巻き気味に登ることにした。できるだけ藪が薄いところを突破していくが、他の人も同じような考えのようで所々で古い目印が出現する。強烈な藪では地面に足が着かないところでは腕も使って強引に進んだ。

2100m峰から下る 稜線やや西側の笹が薄い
東側が笹の斜面 山頂でもないのに山ねずみ氏の標識が

 

 やっとのことでピークを巻いて尾根に戻ると東斜面の藪が切れて低い笹原になっていて歩きやすそうなのだが、傾斜がきつすぎて笹で足が滑って歩けないので、結局は稜線上の笹と灌木の境界を歩いた。ここに来てやっと大木場ノ辻山頂が見えてきた。どうやら山頂直下は笹原らしくやや黄ばんだ緑の絨毯が見えている。背が低い笹ならいいのだが。僅かに下ってどこが最低部なのかよくわからないなだらかな鞍部を通過すると、意外な物を目にした。「三重 津 山ねずみ」の標識である。山頂でもないこんなところにあるということは、山ねずみ氏は藪に辟易して撤退したのだろう。日付は2003年8月3日の真夏真っ盛りの頃だから、この藪漕ぎで酷い目に遭って汗だくになったと思われる。それと比較すれば今は涼しく藪漕ぎもずいぶんマシだ。標識近くに黄色いテープに「下山口」とマジックで書かれていたが、何でここが下山口なのか不思議だった。また周囲の樹木の枝は鋸で落とされていた。あとで山ねずみ氏のHPを検索して掲示板に書き込んだところ、錫杖岳に登ろうとして錫杖沢を遡上したものの沢を間違えて稜線に出た場所がここだったそうだ。そして右手の2100m峰を錫杖岳への尾根と思いこんで進んだが、藪が酷くて撤退したとのことだった。私は鞍部から大木場ノ辻目指してここで撤退したのかと思っていたのだが全然違っていた。

1カ所だけ藪が切れる 進路が西に曲がると再び笹藪
再び樹林に 露岩地帯
露岩地帯直下の笹原から見た笠ヶ岳〜槍穂

 

 鞍部で進路を右に変えて、地形図通り左手に小さな谷(とは言っても一面の笹に覆われて水はないが)を見ながら笹混じりの樹林を登り始める。最初は笹は薄く歩きやすかったが、登って行くに従って再び笹が深くなり、両手でかき分けながら登っていく。高度を上げると突如として樹林が開け低い笹原の斜面になり展望が開けた。振り向けば笠ヶ岳から槍穂までずらっと見通せた。錫杖岳はもう目線より低く、けっこう標高を上げたようだ。気持ちのいい笹原から再び樹林帯に入ると、その先は藪が絡んだ露岩地帯になるが、険しい地形ではなく簡単に稜線を歩くことができた。ここも開けたところで展望があり、大木場ノ辻山頂が目前に聳えていた。東斜面が笹原で展望がよさそうだ。

最後の登り 笹藪を漕ぐ
大木場ノ辻山頂 山頂東側の三角点。最高点ではない

 

 露岩の下りは西側を巻いて笹藪に立ち、樹林と笹の混合地帯を笹をかき分けて登る。これをクリアすれば山頂のはずで、もう少しの頑張りだ。笹の濃さはそこそこあるが、これまで登ってきた中で最も濃い部分よりは薄いので順調に高度を稼ぐ。登っていくと少しずつ笹の高さが低くなってきて傾斜が緩むといよいよ山頂の雰囲気を感じられ、臑ほどの高さの笹原になった。ここでほぼ水平になり、その先の僅かな高まりが山頂のように思われたが三角点も山頂標識も目印も一切無く、その先に続く同じような高さの細長い尾根を進んでいく。南斜面は低い笹で傾斜がきつく、笹の上に乗ると足が滑って落ちてしまうので、シラビソやハイマツの稜線をそのまま歩いた。やがて尾根が下り始めて先には山頂西側の2210m峰が見えてきて、山頂を行きすぎたことが確実になる。ここで伝家の宝刀、GPSの電源を入れると山頂は東に戻ったところだと判明、再び藪を漕いでGPSが山頂と示す箇所に戻ると、最初に山頂と思った僅かな高まりだった。ここはシラビソが立って平らな場所が無く休むには不適当なので、僅かに東に下った低い笹原にザックを置いて三角点探索を開始、最高点付近で見つからず、ザックを置いた笹原周辺を丹念に調べた結果、この付近で唯一の目印が結ばれている低いシラビソの手前の笹原にひっそりと埋もれていた。

大木場ノ辻から見た笠ヶ岳 大木場ノ辻から見た槍穂

 

 山頂東側から南側にかけては低い笹原で木はないので展望は良く、槍穂はもちろん、足下には蒲田川から平湯にかけての谷間の集落がよく見えている。下から上がるとかなりの標高差だ。そういえば今年のいつだったか、NHK総合TVの朝のニュースの中で大木場ノ辻から穂高の写真撮影をした写真家のことを放送していたが、残雪期に2泊だったかで登っていた。おそらくクリヤ谷ではなく南側から登ったのだろうが、それと比較すればこちらは相当楽をして登ってしまった。これも鞍部までの踏跡のおかげだ。

山頂から露岩向けて下る 露岩直下から見た笠ヶ岳
露岩直下から見た錫杖岳 東向きの尾根を下る
2100m峰直下から強固な藪でもがく 鞍部向けて笹藪を下る

 

 充分休憩して錫杖岳に向かう。笹藪も下りなら重力の助けで楽になるので、登りの半分くらいで下れるだろうか。問題は2100m峰の灌木の藪で、あれは登りだろうが下りだろうが時間を食う。登りで付けた目印も今日のようにいい天気で視界が良ければ不要で、多少ルートを外してもすぐに修正可能だ。山ねずみ氏の標識を通過し、2100m峰では予想に違わず低木と格闘し、はいつくばって地面とシラビソの枝の間を通過、やっと灌木帯を抜ければ下りは楽勝。しかし、この藪で熊避けの鈴が藪に取られてしまった。金属環でウェストポーチに取り付けたのだが、その環が開いてしまったようで、藪の強固さを物語っている。藪に鈴を取られたのは忠治郎山以来で、その後は予備の鈴を常備しているので、ウェストポーチの底から取り出して同じ場所に付けた。

鞍部のKUMO

 登りで苦労した笹藪も淡々と下って鞍部に近づくと、ちょうど下から登ってくる人がいたが、笹藪がガサガサして熊出没かと驚かせてしまっただろうか。私は鞍部で休憩するので先に行ってもらった。この先は藪とおさらばなので気楽ではあるが、今までの藪漕ぎで体力は通常の標高差を登る以上に消耗しているのでのんびり行こう。時間的にも暗くなる前に下山できるのは確実だ。

 鞍部の立木に付けられた赤布は何種類かあったが、なんとその中にKUMOの署名があるものが! 比較的新しいと思われ、武内さんが最近ここを通ったらしいが、大木場ノ辻山頂にはKUMOの赤布は無かったので錫杖岳のみ登ったのだろうか。ということは武内さんが登ったときは天候が良くなかった可能性が高い。武内さんの気力なら大木場ノ辻までの藪漕ぎは造作もないことだろうから、登らない理由は濡れた笹藪に嫌気がさしたからだろうか。

この岩峰の基部を左に巻く 振り返ると大木場ノ辻
ガレ場横断。画面をはみ出しているが右から巻く ガレ上部から下部を見る。写真上部を歩く

 

 鞍部付近のみ笹が深いが踏跡ははっきりしており、進むに従って笹も薄くなり歩きやすくなってくる。目印もたくさんあるので迷う心配はない。少し登ったところで先の夫婦が休憩中で私が先行する。正面に岩壁が聳えると基部を左に回り込んで進み、岩場が消えてから樹林帯を登るようになる。ここまで来ると笹は消えて薄い樹林帯で歩くのに支障は無い。そろそろ山頂が近いというところでガレた斜面の横断箇所が出現、おそらく昔は樹林が茂った普通の地面だったと思うが、大雨等で土砂崩れが発生して表土がそっくり流出して岩盤が露出したのだろう。直進は危険なので傾斜が緩くなるよう高巻きするのが正解で踏跡もそのように付いているが、手がかりになるものが無いので3点支点とはいかず靴の摩擦だけで支えなければいけないので少々危なっかしい。フィックスロープがあれば万全だが、ナイフリッジを歩くと思えばマシだろう。入口の数mだけが悪いが、それを越えれば問題なく反対側に出ることができた。

錫杖岳南峰 錫杖岳南峰から見た大木場ノ辻
錫杖岳南峰から見た穴毛槍

錫杖岳南峰から見た槍穂

 

 さらに登ると樹林帯が切れて頭上が明るくなり、ひょっこりと岩が積み重なった錫杖岳南峰に到着した。ガイドブックの写真通りで狭いが岩の上なので展望は言うことがない。ガスが出てしまったがこの夏に登った笠ヶ岳からクリヤノ頭の稜線が目の前で、右に目を移すと杓子平から穴毛槍へと下る尾根が印象的だ。槍穂もずらっと並んでおり、10月半ばだというのに全く雪が見られない。もう少しの間だけ北アルプスも雪なしで登れそうだ。そしてすぐ北隣が尖った岩峰で、地形図では3つ並んだピークの真ん中の2150m峰、その左の樹林が茂った長いピークが2168mの山頂だ。ここまできたからには最高峰へと向かおう。ザックをデポして出発だ。

 隣の岩峰へと至る稜線も岩っぽくて行けるのか不安になるくらいだが、意外にはっきりした踏跡が伸びていた。まずは東から岩を巻いて稜線に戻り、踏跡を追って稜線上を行ったり巻いたりしながら進むと、難なく岩峰の裏に出ることができた。これなら簡単に岩の上に登れそうだが山頂でもないのでパスして先に進んだ。この岩の基部に山頂標識が設置されていたが、何とも半端な場所だ。

岩峰基部の山頂標識 岩峰から北ピークを見る
鞍部から北ピークの岩峰。左を巻く こんな地形で簡単に巻けた
ここから北峰に登る 北峰東端。ここから稜線を行く
小鞍部手前から山頂を見る 小鞍部手前から見た岩峰と南峰
小鞍部のフィックスロープ 本当の錫杖岳山頂。KUMOの布がある

 

 この先は踏跡はなくなって樹木の藪を突っ切って鞍部に向かって適当に下る。ここは大した藪ではないので問題なく下り、正面は岩場になるので左の樹林帯を登ることにする。登りにかかると笹が出てくるが大木場ノ辻と比較すれば濃さも距離も大したことはなく、すぐに突破してシラビソと檜の低木、立ったハイマツの稜線に出た。ここからはほぼ稜線上を歩き、ちょっとした鞍部を下るところでトラロープが出現、おそらく雪がある時期に登った人のものだろう。僅かに上ってそろそろ山頂かとGPSを取り出して電源を入れると西に10mと出た。もう誤差の範囲だが僅かに先が高いので檜の低木の隙間を上るとKUMOの署名が入った目印の布が下がっていた。武内さん公認の錫杖岳山頂だ。檜に囲まれて広場等はなく休む場所ではないのでそのまま南峰まで戻って休憩した。

この岩の根元上を横断して向こうの谷に下る 薄い筋を辿って草付きに入るが踏跡ではなかった

草付きを横断、岩の付け根の目印に向かう

踏跡に到達。目印がある

 

 途中で休憩していた夫婦がやってくるかと思ったがその気配が無く、休憩も充分とったので下山を開始。ガレた部分も前を向いたまま高巻きして下って危険箇所はクリア、登ってきた沢をそのまま下るのではなく、帰りは二俣の右側の枯れた沢を降りることにするが、その分岐点がよく分からない。まっすぐ下ると登ってきた沢に入ってしまうのでどこかで左にトラバースする必要があるが、EAS氏の記事を見ると特徴のある岩峰の手前でトラバースして乗り越えた向こう側の沢がそうらしい。周囲に注意しながら下っていくと写真と同じ目標の岩を発見、真横に来てからトラバースを試みたが傾斜が急な枯れ沢が横たわっていてトラバースできない。よく見ると上方に赤テープを発見、もっと上の方からトラバースするルートがあるようだ。沢を登り返しながら右手に入る踏跡がないか探していたが、目印や明瞭な踏跡は発見できず、適当に尾根を乗り移ることにして笹が薄いところから横移動を開始した。草付きに出たが踏跡は発見できず、これまた傾斜が急な斜面のトラバースを開始する。できるだけ傾斜が緩く地面が出て滑りにくそうな所を行くが、やがてそれも尽きてトラバースが難しくなったのでいったん下ってから横移動することに計画を変更。草に掴まりながら下ってやっと安全地帯に出て目印にたどり着いた。しかし踏跡は何とも不明瞭で、この尾根を乗り越えた後は横移動ではなく下って、私が登ってきた沢に合流するようだ。

写真では分からないが笹の下には明瞭な踏跡 下ると沢がはっきりしてくる
沢が広がる ここは左岸を巻いた
二俣から見たクライマーが張り付いた岩壁 二俣すぐ上の沢。右岸の岩場を下った

 

 尾根を越えれば笹の中の踏跡も明瞭になり、下っていくと水がない沢に変化して徐々に幅が広がって笹から解放される。あとは沢の中を適当に歩きやすいところを拾いながら下っていき、最後は右岸の岩場に乗り移って二俣に降り立った。ここからは垂直の岩壁にへばりついているクライマーが見えるが、よくもまああんなところを登れるもんだと感心せずにいられない。

 錫杖沢本流を下っていき岩屋に到着すると老夫婦が休憩中で、話を聞いたらやっぱりあのガレで撤退したそうだ。松本に住んでおられるとのことで、アルプスはどこでも近くて羨ましい限りだ。少し話をしてからお先に失礼する。錫杖沢出合ではテントが3張設営され、下る途中で大ザックを背負った1パーティーとすれ違ったので今日は4張のテントだろう。

 登山道に出れば笹ともおさらばで、ジャージの裾をまくり上げて涼しい格好で歩いても支障がなくなり、快調に歩く。夏山だったら下山で標高を下げると蒸し暑くなって汗が噴き出すが、この時期は歩いていてちょうどいい気温で快適だ。駐車場に到着すると満杯で、次から次へと車が入れ替わり立ち替わりでやってくる。着替えて平湯の森で温泉に浸かり、仮眠してから東京に向かった。


所要時間
5:28中尾温泉入口駐車場−(0:06)−5:34クリヤ谷登山口−(1:09)−6:43錫杖谷出合−(0:05)−6:48左の踏跡に入る−(0:19)−7:07ルート間違いに気づき戻る−(0:03)−7:10左の踏跡に入る−(0:01)−7:11岩屋−(0:24)−7:35二俣を左に進む−(0:11)−7:46右の沢を進む7:57−(0:28)−8:25鞍部8:35−(0:32)−9:07 2100m峰−(0:49)−9:56大木場ノ辻10:35−(0:34)−11:09 2100m峰−(0:10)−11:19鞍部11:24−(0:31)−11:55錫杖岳南峰12:03−(0:05)−12:08岩峰−(0:11)−12:19錫杖岳山頂12:21−(0:13)−12:34錫杖岳南峰12:47−(0:21)−13:08鞍部13:11−(0:13)−13:24右にトラバース開始−(0:04)−13:28踏跡に乗る−(0:13)−13:41二俣13:45−(0:15)−14:00岩屋14:19−(0:14)−14:33錫杖谷出合−(0:40)−15:13クリヤ谷登山口−(0:07)−15:20中尾温泉入口駐車場

 

 

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