後立山北部 不帰岳(清水岳、白馬岳) 2007年8月25〜26日

 


 8月終わりになっても太平洋高気圧が頑張って猛暑が続き、山もアルプス級でないと死にそうな暑さに違いない。先週は既登山であるが聖岳に涼みに行き展望は楽しめたが、やっぱり登ったことがない山に登れないとイマイチ充実感不足だった。まだ夏山シーズンなので上高地周辺は混雑が予想され、土日で行ける未踏の2000mを調べたら不帰岳が思い浮かんだ。清水岳南方の道が無い山だが、山頂直下に登山道が通っているので藪漕ぎの距離は短く、くそ暑い時期でも我慢できる範囲であろう。尾根上の歩きのほとんどは2500m前後なので暑さしのぎには充分な標高で、おまけに白馬岳にでも立ち寄ってもいいだろう。


 行程だが猿倉から県境稜線までの標高差は約1500mで、通常の私の足なら楽勝であるから初日に清水岳くらいまで入れるわけだが、今の時期は雪渓が解けてしまって清水岳では水は得られないだろうから清水尾根を下って初日で不帰岳避難小屋まで入るしかなさそうだ。初日がきつい行程だが清水岳から先は下るだけだし、小屋泊まりでテント不要で軽量化できるので1日で歩けないコースではなかろう。ただ、先日の黒部のような暑さでダウンすることだけが心配で、できるだけ早朝から登り、涼しい時間帯に高度を上げてしまおう。

 仕事を終えてすぐに出発、猿倉の駐車場の混雑具合が心配だったが金曜夜22:30では8割程度の入りで日中木陰になる場所を確保できた。

猿倉駐車場。残雪期と違っていっぱいだ 林道終点
白馬尻小屋 白馬尻には雪渓は無かった

 

 翌朝、飯を食って出発、今回は40リットルのザックで間に合った。邪魔な銀マットだけザックの横にくくりつけて歩きだす。いつものように林道を登っていったが、帰りに見たら猿倉荘経由で登るよう書いてあったらしい。まあ、林道を歩いても問題なかったが。先行者が点々と林道を歩いているが、水平道では私のスピードも一般登山者のスピードも変わらないので距離も変わらない。白馬尻の小屋は新しくなって場所も移動したようであるが、いかんせんここに来るときは残雪期で小屋の形が無い時期なのでよくわからない。

大雪渓末端 大雪渓を登る
大雪渓後は左岸を歩く 大雪渓を振り返る
杓子岳、白馬鑓が見えてくる 村営小屋が見えてきた

東側の山並み

 

 雪渓は後退してこの先も夏道で、ケルンの先で雪渓に乗りいっそう涼しくなった。完全には氷化しておらず登りならアイゼン無しでも問題なく、傾斜が増す区間に入ると夏道が出ているのでアイゼンの出番はなかった。もう夏の花は終わりに近くチングルマは終わっていたし、なんとかキンバイの黄色い花も見られなかった。傾斜が緩んで石がゴロゴロしている夏道を登っていくと村営小屋が見えてきた。残雪期はここも雪なんだけどな。斜面には僅かに残雪がある程度で登山道には全く無い。

村営小屋 鞍部から見た白馬岳
鞍部から見た杓子岳、白馬鑓 鞍部から見た旭岳
鞍部から見た立山、剣
鞍部から見た八ヶ岳、富士山
鞍部から見た剣岳、池平山

 

 村営小屋に到着して水場で冷たい雪解け水を飲んで稜線に上がって休憩。ここまで体力を温存してゆっくり登ってきたのでほとんど疲労はなく、不帰岳避難小屋まで行けそうだ。時刻はまだ9時である。西側の展望は剣、立山がどんと聳えているが、富山側の平野部には雲がかかり毛勝三山は雲の中だった。南は槍穂、乗鞍まで、東は横手山を中心とする志賀高原、その左手には平らな苗場山が姿を見せていた。

白馬岳〜旭岳鞍部から見た鉢ヶ岳、雪倉岳、旭岳 旭岳南から見た清水岳へと続く稜線
旭岳南から見た北ア
裏旭から見た不帰岳 裏旭東から見た小旭岳
清水岳への登りから見た小旭岳 清水岳直下から見た白馬三山

 

 充分休憩してから清水尾根向けて出発、すると反対側から2人組がやってきた。この時間にここということは不帰岳避難小屋泊まりだったのだろう。この後も2人が登ってきたが、時刻からすると祖母谷温泉から登ってきたのだろう。ご苦労様。旭岳は巻道で巻い裏旭を通過、相変わらずどこが山頂なのか分からないピークだ。小旭も巻いて雪が消えた清水岳直下で休憩、ここから猫ノ踊場を往復したのは3年前か。もう雪は残っていないだろうなぁ。標高が高いので日差しがあっても快適だ。小旭岳は西側稜線から登った方が藪の距離が短く、今回の不帰岳の方が藪が酷いかなぁ。

展望がいい清水尾根を下る 清水岳方面を振り返る

清水尾根から見た猫又山への尾根

 

 さあ、これなら早い時間に避難小屋に到着できそうだ。小屋まで歩いて少し休憩してから不帰岳を今日のうちに往復できそうだ。清水尾根を下り始めると右手には猫ノ踊場への尾根が連なっておりよく見える。白くハゲたピークは猫又山山頂ではなく西ピークで、直下はお花畑になっている。尾根が曲がった先のなだらかな山が猫ノ踊場で、今は一面の緑に覆われている。もうあそこに行く機会はないだろうな。

まだ展望の草付きが続く 不帰岳が近づいてきた

清水尾根から見た後立山

 

 清水尾根は標高の割には樹林がなくて草付き続き展望がいい。正面に剣を見ながら下っていく。下った先にある祖母谷温泉の標高は700mくらいだと思ったから、逆向きコースでここを登るのは苦労しそうだ。左手には中背尾根が続き、徐々に目線の高さに接近してくるが、ここも緑一色で今は凄い藪だろう。南には餓鬼山、東谷山、牛首山と、後立山から富山側に落ちる尾根上にあるピークが並んでいる。あれももう登ることはないだろうな。


不帰岳避難小屋。しっかりした造り 小屋直下の水場

 

 遠かった不帰岳が徐々に近づき、だいぶ近くなってから樹林帯に入った。いったん平坦な尾根になるが、ここが猫又峠らしいが標識等はなく左に巻き始める。そろそろ小屋が現れるころかなぁと思っているところで突如として小屋が出現、ネットで見た感じではまともな小屋という感じを受けたがその通りで、しっかりした作りで雨風が吹き込んでくるようなボロな作りではなく、2重のドアの向こうは板張りの部屋で10人強が入れそうだ。張り渡されたロープに5つの寝袋がぶらさがっており、この範囲の人数なら寝袋も持ってこなくていいようだ。水場は小屋直下にあって1分もかからず、小さな沢の源頭で冷たい水が豊富に湧き出していた。小屋でしばらく休んでから不帰岳を往復する予定なので先に水浴びしてさっぱりしておく。小屋に入ってしばし昼寝し、少し涼しくなってから不帰岳に向かおう。ドピーカンで窓を閉め切った小屋の中は温室状態なので、入口と窓を開けて適度に換気したおかげで快適な昼寝だった。

草ぼうぼうの小さな沢から登山道を離れた 沢を振り返る

 

 体力を充電できたので不帰岳に登ってしまおう。明日朝でもいいのだが、朝露で藪が濡れていたら悲惨なので乾燥した今のうちに登ってしまうのが得策だ。当然ながら登山道は無いので、登山道で山頂に最も近い場所から藪に分け入るのがいいだろう。小屋の前でGPSの電源を入れると山頂まで300m、祖母谷方向に歩くと徐々に距離が縮まり、小さな谷を渡って左に曲がるところが最も接近して約200mだったので、草ぼうぼうの沢から登り始めることにする。

沢の左の斜面を登る が、再び沢に戻る
沢の源頭を過ぎて水が無くなる 藪の中に伸びる荷造り紐

 

 沢の周辺だけは樹木と笹がないので大した藪ではなく、草を掻き分けて登っていく。左手の草付きの方が歩きやすそうなので沢を離れたが、上部は笹が出現して沢に戻ったほうが歩き良かった。沢を遡ると草が途切れて樹林のトンネルの中に藪がない小さな沢になり、今までよりずっと歩きやすくなる、このまま山頂まで続けばいいが、すぐに沢の源頭に到着、水が消えると樹林が進出し徐々に藪が出てくる。できるだけ藪が薄いところを選んで谷地形を登っていくが、やがて笹薮が深くなって左手の小さな尾根の方が藪が薄そうなので尾根に乗り移ったが、一面の笹地獄の始まりだった。なかなかの密度なので数歩歩くと目印が見えなくなってしまうため、かなりの頻度で目印をつけながら進まなければならずペースが上がらない。あまりに小さな尾根なので少し登ると尾根がバラけてただの斜面になるので、帰りのことを考えると目印が無いと危険だった。特に今登ってきた尾根より西側を下ってしまうと登山道にぶつからないので致命的で、間違うなら東に進路を逸らした方がいいだろう。

 笹薮と格闘しながら登っていると、白く色が抜けてぼろぼろになった荷造り紐が一直線に伸びているのを発見、これは目印の一種で、紐を伸ばしながら登っていき、帰りは紐に沿って歩けば無事同じルートを戻れるというわけだ。紐を連続して使用するのでちょっともったいないが、このような視界が非常に狭い藪では効果絶大である。会津のどこかの山で1回だけ見かけたことがあるが、本当に久しぶりだ。ということは不帰岳に登った人が他にいる証拠で、ちょっと心強く思えた。自分が目印をつける代わりにこの紐がいい目印になるので大助かりだったが、劣化が激しく途切れ途切れのため自分の目印を全く付けないわけにはいかなかった。

山頂稜線の一角に出る 稜線から登ってきた斜面を見る

 

 傾斜が緩むがGPSの表示では山頂までまだ50mあり、肩の一角に出たようだ。進路を左に振って再び笹薮を漕ぐが、傾斜がほとんどないとずいぶん楽になるし、尾根がはっきりしているのも歩きやすい。この区間の荷造り紐は劣化が進んでおらず、本来は赤い色だったことが判明した。何年前のものなのかは定かではない。

本邦初公開 不帰岳山頂 割れていた山頂標識

 

 最後に僅かに登ると意外にも笹の薄い空間があり、シラビソにくくりつけられた手製の山頂標識の下に三角点があった。山名標識は「帰岳」になっていたが、標識が割れて「不」の部分が落下していたのだった。これをつけた人間が荷造り紐を残した人物に違いないが、いったい誰だろうか? 標識には「好山病気友の会」の署名があったが、個人ではなく団体らしい。おそらくは地元の富山県の山を中心に登るグループだろう。そうでない限りはこんな登山道がないひどい藪山に登るわけがない。

 帰りは自分の目印と荷造り紐の両方を頼りに下ったが、笹が濃くて目印を発見できず、尾根の途中で沢に下る場所が分からず行き過ぎてしまい、左手の斜面を重力の助けで笹を押し分けながら下っていき無事に沢に出ることができた。登ったときと地形が違うような感じがしたが、登山道に出た場所は間違いなく登りで取り付いた場所だった。水場で汗を洗い流して小屋に戻り、あとはマッタリした。結局はこの日の宿泊者は私一人だけで避難小屋を占有できた。夏山シーズンだから、わざわざ避難小屋に泊まる人もいないか。

不帰岳避難小屋内部 朝焼けの剣岳北方稜線
早朝の北アルプスの展望
清水尾根から見た立山剣、剣岳北方稜線、毛勝三山

清水尾根から見た不帰岳

清水岳山頂から見た猫ノ踊場

 

 翌朝、まだ薄暗い中を出発、夕方に雲が出ていたが今は晴れているようで後立山の稜線もはっきり見えている。気温は10度を切っているので涼しくて歩きも快調だ。足元にかぶる草は朝露で濡れているのでロングスパッツで防御する。時間もあるので清水岳に登り猫ノ踊場へと続く尾根の写真を撮っておく。小旭岳を巻いて鞍部から登りにかかるところで、祖母谷へと下る登山者と次々とすれ違った。総勢10名くらいなので、このコースにしては賑やかな方か? 

白馬岳へと向かう 小屋を過ぎる
白馬岳山頂 白馬岳から見た旭岳、清水岳

白馬岳から見た北アルプス(クリックで拡大)

 

 まだ時間が早いので県境稜線に出たところで荷物をデポして白馬岳へと向かう。この時間は下から登ってくる人が到着する前&小屋泊まりの人が出発した後なので、基本的には山頂は閑散としているはずだ。でかい小屋の間を抜けて登っていくと先行者がポツポツと見えるが、長蛇の列はない。上り詰めたところが白馬岳で、東側は断崖絶壁でロープが張ってある。天候は快晴だが長野側は雲海が広がり、南側も一面の雲で南アはほんの僅かに見える程度の空気の透明度で遠くの風景は霞んでしまっている。でも後立山がズラリと並び槍穂はすっきり見えていた。

 稜線を離れて下山を始めるとすぐに雲海の雲の層に突入、日が陰って涼しくて助かった。日曜日だが次々と登山者が登ってくる様子はさすが人気の白馬岳だ。この時期の雪渓は氷化が進んで固く、登山靴ではブレーキがかかりにくいので、残雪期のように下りでアイゼンを脱いでスキーのようにグリセードで下るのは危険なため、傾斜がきつい区間で軽アイゼンを付けて下った。その距離は100mくらいか。せっかく持ってきたのだから使わないともったいない。白馬尻からは観光客が混じる下界の風景に変わり、林道を歩いて駐車場に戻った。



所要時間

8/25
猿倉−0:36−林道終点−0:16−白馬尻−0:15−大雪渓末端−0:43−大雪渓終点−1:39−県境稜線−0:27−裏旭岳−0:40−小旭岳西側直下−0:22−清水岳直下−1:15−不帰岳避難小屋−0:04−沢に取り付く−0:05−沢源頭−0:17−稜線に出る−0:04−不帰岳−0:15−登山道−0:03−不帰岳避難小屋

8/26
不帰岳避難小屋−1:53−清水岳−1:25−県境稜線−0:20−白馬岳−0:11−ザックデポ地点−0:57−大雪渓−0:15−大雪渓末端−0:09−白馬尻−0:13−林道終点−0:30−猿倉

 

 

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