奥日光 竜巻山、女峰山、帝釈山 2006年11月25日


 

 奥日光で登り残した2000m峰は日本山名事典に新規記載された竜巻山だけになった。いつしか登ろうと気に掛けていたが登山道もあって難易度が低いこともあり後回しになっていたが、南アもほぼ2000m峰を登り終わり雪の季節を迎えることもあり簡単には登れなくなってきた。一方、日光のライブカメラを見ると戦場ヶ原の駐車場には雪のかけらも見えず、今ならまだノーマルタイアで入れそうであるが、おそらく下界で雨が降ると奥日光では雪になり、路面も凍って日影になるところはしばらくは危険であろう。夏タイアで安心して入れるのは今頃がラストチャンスだろうと出かけることにした。ただ、夜間の気温は確実に0℃を切ると思われるので、ちょっとでも水が路面を流れる所があると登れない可能性があり、その場合は歩く距離が長くなる。コースは裏男体林道を入れるところまで入って馬立経由で往復するか、時間が余れば女峰山に登って帝釈山から富士見峠へ下る周遊コースもいいだろう。ずいぶん昔に馬立から女峰山を往復したときには裏男体林道から馬立までマイカーで入れたのだが、その後、避暑を兼ねて志津小屋に泊まったときには林道にゲートができて入れなくなっていた。ただ、ゲートが峠にあったのかもっと先にあったのかは記憶が定かではない。まあ、前回は戦場ヶ原から志津小屋まで歩いたのを考えると峠まで車で入れるだけでもありがたいことだ。

 天気予報では関東北部は土曜は快晴、日曜日は午前中までもちそうで2日間動けるようなので、初日は竜巻山を登り、日曜日は骨休めで戦場ヶ原周辺の適当な山を登ってみようと考え、出発時に2日分の食料を買い込んだ。さすがに戦場ヶ原から湯本ではスーパーは無かったと思う。中宮祠まで下ると裏通りにスーパーがあるのだが下るのもガソリンがもったいない。

 久しぶりに外環道に乗り東北道へ。初日は時間に余裕があるし高速代がもったいないので鹿沼ICで降りて一般道で旧今市から日光に入り、いろは坂を登って奥日光に。戦場ヶ原周辺に雪は見えない。光徳入口で右に入って大きく左カーブするところで右のダートに入る。裏男体林道の標識があるので間違いない。水たまりには氷が張っているが底まで凍り付いているわけではなくタイアで踏むと割れて水が顔を出したので、まだ本格的な冬入りではないようだ。このままダートが続くと思いきや、直進する三本松方面から左に曲がると舗装になり、なんと志津小屋入口まで舗装が続いていた。昔はガタガタのダートだったのが大きく様変わりしていたのには驚いた。でもその先は昔と同じガタガタ道で2速に落としてゆっくり走り、緩やかに右カーブするところでゲートが閉じていた。駐車場はないが道幅が広がり車2,3台は止められそうなのでゲート脇に寄せた。上空は満天の星空、相当冷え込んでいるのでお湯を沸かしてお湯割りで寝酒を飲みつつパッキングを済ませ、寝袋を2重にして眠りについた。

 翌朝、周囲が明るくなり始め6時に自然に目覚めると窓の水滴はカチカチに凍り付いていた。前回の大笹峠に続いての冷え込みである。この寒さで冷えた弁当の朝食は侘びしいと考え、ある意味もっと侘びしいが体が温まるのでお湯を沸かしてスープとカップ麺の組み合わせで朝食とする。体が温まっている間に着替えを済ませ、携帯型カイロとデジカメをポケットに突っ込みデジカメを暖めておく。こうしないと低温でデジカメがすぐダウンしてしまうのだ。今時のリチウムイオン電池内蔵型にすれば低温特性も良くなるのだろうか。人間の服装の方はダウンジャケットに毛糸の帽子、厚手の手袋と真冬装備だ。真正面には男体山が見えるが上の方は白かったので、念のため6本歯の軽アイゼンを持っていくことにする。まさかピッケルは不要だろう。

裏男体林道のゲート 女峰山方面は左、右は清滝方面
林道から見た女峰山、帝釈山 林道から見た女峰山、竜巻山
林道から見た男体山 馬立で右に下る

 

 林道を歩き始めると緩やかな下りで、一番下ったところで野州原林道が分岐する。正確には直進方向が野州原林道で富士見峠方面は左カーブしているが、轍は富士見峠方面の方が圧倒的に濃いし「女峰山」の案内標識が立っているので間違えることはない。ここから上り坂となるが傾斜はそれほどではなく、ダウンジャケットは脱いだが長袖シャツを着て歩いた。馬立分岐には「女峰山」の標識があり明瞭な登山道が谷に向かって下っている。以前はここで治山工事をやっていてモノレールがあったり索道がかかっていたりしたのだが、今ではすっかり植林されて当時の面影はない。下りきった谷で日光市街への道と分かれるが、どちらのコースも目印が付けられてコースははっきりしていた。

谷を下ると女峰山/日光方面分岐 標高約2100mでガレた谷を越える
水場 唐沢避難小屋

 

 女峰山へはここから緩やかな尾根を登っていく。右手はガレた谷でいくつも砂防ダムが造られており、以前の治山工事はこの建設だったのだろう。標高を上げると徐々に雪が現れ足跡がいくつもついており、この時期でも登山者がけっこういるらしい。時々樹林が切れて振り返ると下界の山並みが連なっている。標高2100mを越えるところでガレた谷を横断して隣の小尾根に取り付き、この谷が水場になっている。唐沢避難小屋から標高差で100m強、往復20分といったところか。このあたりから雪はコンスタントに現れ、雪が緩んだ昼間に踏まれたところは朝方の冷え込みで氷化してツルツルになっており、足の置き場に神経を使うようになったので軽アイゼンの出番だ。ワイアー式の6本歯は緩みやすいのが難点だが快調に雪を掴んでくれた。

竜巻山が見えてくる 雪が積もった登山道
登山道を外れ竜巻山山頂を目指す シラビソが邪魔なところもある

 

 傾斜が緩むと唐沢避難小屋に到着した。2階建てでしっかりした造りの小屋で20人くらいは余裕で泊まれそうだ。土曜朝なので無人だが今日は利用者がいるだろうか。周囲は一面の雪で表面はクラストして下部はフカフカのまま、深さは10cm前後あるので足を踏み出すとズボッと踏み抜いて残雪期のように疲れる。どうせならサラサラのままがよかったのだがまだ日中の気温が高いのでしょうがないか。まだ疲労は感じないので休まず竜巻山を目指すことにした。そちらのコースには足跡は無いが、コースを示す目印が多数あるし木の隙間の具合でルートは分かるので問題なし。地図によると2359m峰を巻いた後尾根に乗るはずだが、実際はずっと尾根の西側を巻いたままだった。尾根を南に回り込みはじめるところでGPSの電源を入れると山頂まで100mを切っていたので登山道を外れ斜面の樹林が薄いところを登っていく。背の低いシラビソが邪魔であるが隙間を縫って歩くとぽっかりと空間が開けた場所もあり、何の動物か分からないが一直線に並んだ足跡が雪の上にクッキリと残っていた。

竜巻山山頂 竜巻山から見た女峰山

 

 最後にシラビソをくぐり抜けると山頂とおぼしき一角に到着、周囲はシラビソに囲まれて何も見えなかったが、少し北に移動するとガレの頭に出て東側、北側の視界が開け、すくっと立ち上がった白い女峰山が見えた。標識はなく青い荷造り紐の目印があるだけの静かな場所で、ここを山頂と定めて休憩がてらに無線を運用した。下りも同じルートを取り、登りで登山道を外れたところにピタリ降り立った。唐沢小屋に戻る途中でアイゼンが外れたので付け直していると、竜巻山方向から単独行の男性が上がってきた。いや〜、下から登ってくるとはご苦労様。この人は小屋で休憩していたようで、小屋を過ぎたら姿が見えなくなり、後から女峰山山頂へやってきた。

ガレを登る 女峰山山頂

 

 さあ、まだ時間も体力もたっぷりあるので女峰山へ行こう。ただ、途中の斜面は真っ白だしエアリアマップでも急な登りと書かれており、軽アイゼンで問題ないか行ってみないと分からない。目的地の竜巻山は登れたので女峰山は途中撤退でも問題ないが、この天候なら周囲の山々の大展望が楽しめるだろうから登れるなら登っておきたい。樹林帯を抜けて開けた真っ白なガレ地帯?に入り一番心配していた場所に出たが、南斜面と言うこともあり積雪は5cm程度で斜面をジグザグる夏道は埋もれておらず、日差しで雪もゆるみ滑落の心配もなくアイゼンが不要なくらいだった。雪が多くて夏道の段差が無くなり、締まった雪になったらピッケルが必要な傾斜だろう。ここで別の単独男性を追い抜いた。再び樹林帯に入ると右手に進路を変え、木の祠の裏側の盛り上がりが山頂だった。前回登ったときの記憶では祠と山頂は離れていたように思うが、実際は接近していた。そして前回はガスに覆われて視界皆無だったのが今回は快晴である。

女峰山山頂から見た日光白根山。白馬三山まで見えた!

女峰山山頂から見た燧ケ岳周辺

女峰山山頂から見たパノラマ写真。クリックで拡大

 

 最後の一登りで無人の山頂へ。期待を裏切らない360度の大展望! 奥日光、南会津、上越国境の山々はもとより、アルプス級の真っ白な山々も見えている。今回は日帰りで荷物が軽かったので珍しく双眼鏡を持ってきたので早速取り出して覗いてみた。富士山は肉眼でもはっきりと見て取れたが、男体山山頂のすぐ右側の南アルプス白根三山から鋸岳にかけては肉眼では白いものは見えるが同定はできなかっただろう。男体山と皇海山の中間には権現岳から蓼科山まで八ヶ岳全体が連なっており、赤岳から硫黄岳までと蓼科山はそこそこ白かった。噴煙を上げる真っ白な山は浅間山で、その左側には真っ白なピークが。おそらく木曾御嶽だろう。浅間の右側にも白いピークがあるが、こちらは乗鞍岳に違いない。というのもピクっと尖った四阿山のすぐ左側には見間違うことが無い槍ヶ岳が聳え、穂高連峰へと連なっており、その左側(南側)になるからだ。ということは浅間左は木曾御嶽に違いなかろう。真っ白な日光白根のすぐ右にはこれまた真っ白な一連の山が連なっており、双眼鏡で見るとどうも白馬三山と小蓮華の形に見える。帰ってからカシミールで確認するとその通りだった。平らな山頂部を持つ苗場山は特徴的なのですぐ分かったが、その右奥の真っ白なピークがどこなのかはっきりしない。鳥甲山の可能性もあるが苗場山より高いはずはなく、可能性としては妙高火打が思い浮かんだが、これまた帰ってカシミールで確認したら正解だった。尾瀬、上越国境、越後三山、荒沢岳、会津駒ケ岳と白い山々が連なり、少し離れて大きな白い山脈は飯豊しかないだろう。その右奥にも真っ白い山が見えるが蔵王辺りかと見当をつけたが、カシミールで確認したら朝日連峰だった。奥日光でこれだけの大展望に恵まれたことは記憶に無く、女峰山まで足を伸ばして大正解だった。

 展望を楽しみながら休憩中にやってきたのは、途中で追い抜いた1名(私と同様にゲートから歩き)、竜巻山で追い越された人、そして霧降高原から登ってきた3人だった。霧降高原側から稜線を歩いてくると、雪のつき具合でピッケルがないと下りは危険な箇所があったとのことで、その人は帰りは日光市街地に下りてバスで霧降高原に戻ろうかと話していた。なんだかんだで1時間も山頂に居座り、せっかくだからと帝釈山方面へと向かうことにした。ところがエアリアマップがなくなっていることに気づき周囲を探したが落ちていなかった。竜巻山直下の開けた場所で地図を広げて展望を楽しんだので、そこで置いてきてしまったらしい。もっとも、この辺りのルートは知っているので地図が無くても問題は無いが、曲がりくねった林道をショートカットするのに困るな。それに明日この周囲の山に登るにも地図が無い。まあ、明日についてはガイドブックかロードマップで何とかするか。

帝釈山への稜線から女峰山を見る 帝釈山
帝釈山山頂 富士見峠へ下る登山道

 

 エアリアマップでは女峰山から帝釈山の間は「剣ヶ峰」と呼ばれ日光三険の一つと書かれていたように思うが、以前歩いたときには危険箇所は無かったように思うのでおそらく大丈夫だろう。なにせ新しい足跡が帝釈山へと向かっており、戻った方向の足跡は無い。山頂からの下りが一番急で、僅かな距離だがバックで慎重に下る。平らな稜線に出ると今までより雪が深く、20cm近く積もっている。いつ出てくるかとビクビクした危険箇所も、使う必要が無い鎖が1箇所あっただけで問題になる箇所はとうとう現れずに帝釈山への登りになった。上で人の声が聞こえると思ったら2人パーティーがノーアイゼンで下ってきたので、これより先も危険箇所はないと判断した。帝釈山山頂では単独男性が写真を撮っていた。後から奥さんが上がってくるはずなので、すれ違ったら山頂で写真撮っていると伝えてくれと頼まれた。こちらから見る女峰山は鋭く立ち上がり南から見る屏風状の横長とは全く趣が異なり格好いい。

 下り始めると再び樹林に入り、相変わらずの積雪量と表面のみクラストして踏み抜く雪質だから下りはいいが登りは苦労するだろう。正面の小真名子山が徐々に低くなり、もう富士見峠が近い場所で女性ではなく単独男性が登ってきた。この時間だと唐沢小屋泊りであろうか。富士見峠は無人で、馬立方面から上ってきた足跡がいくつも残っていた。雪が溶けて落ち葉が出ている地面に座り、昼飯の残りを食べてテルモスのお湯を飲んで出発した。

富士見峠 林道を下る
林道をショートカットしたら谷に降りた 橋から林道に上がる

 

 以前ここを歩いたときは富士見峠までオフロード4駆なら入れたのだが、今では峠付近は廃林道と化して車は入れなくなっていた。ただ、下って行くと薙の治山工事で使うのかいつのまにかまともな林道になっていた。林道の左カーブではショートカットして直線的に下って行く。地図は無いがまっすぐ下れば必ず林道を横切るのだけは間違いない。ただ、家に帰って調べると大した節約にはならなかったようだ。馬立分岐の少し下にかかる橋の枯沢で林道に這い上がり、あとは林道をゲートまで歩いた。ゲート付近には私の車のほかに2台止まっており、そのうち1台におばあさんが乗っており、この人が帝釈山山頂で伝言を頼んだ人の奥さんだった。残り1台が女峰山山頂で会った男性のもので、おばあさんと話していたら戻ってきた。太陽が男体山山頂の向こうに隠れ、寒くなったところで井戸端会議もお開きになり、戦場ヶ原向けて車を走らせた。


所要時間
6:56ゲート−−7:16野州原林道分岐−−7:37馬立−−8:45水場−−9:11唐沢小屋−−9:34竜巻山着−−10:01竜巻山発−−10:28唐沢小屋−−11:01女峰山着−−12:05女峰山発−−12:27帝釈山−−12:56富士見峠着−−13:07富士見峠発−−14:29ゲート

 

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