白峰南嶺 小河内岳、水無峠山、青笹山、イタドリ山 2006年11月17〜18日

 

 白峰南嶺で未踏の20000m峰は山伏〜青薙山間の小河内山、水無峠山、青笹山、イタドリ山だけになった。ここは登山道は無いもののネットで検索するといくつか記録が出てくるし、一部ガイドブックにも参考記事として出ているくらいだから、武内級の山よりはずいぶんと歩きやすいだろうと考えてずっと後回しにしていた。ルートとしては本当は畑薙ダムから縦走したいところだが、マイカー利用の場合は車の回収を考えると面白みは欠けるが山伏西の大笹峠からの往復しかないと言えよう。カシミールで行程を計算してみたら峠から往復約20km、標高差1500m程度と出たので藪さえなければ日帰り可能と思われるが、ネットの記事を見ると青薙山付近から山伏まで丸1日かかっているのが普通で、山伏からイタドリ山まで往復すると日が短い晩秋では明るいうちに戻ってくるのは難しそうである。かといって幕営するにも水場の問題があるが、山頂渉猟で小笹平鞍部から南に下ると谷に沿って下り、沢の源頭を通過するようなことが書かれていた。地形図を見ても標高差で100mくらい下れば水が得られそうな感触で、重い水を担がなくても大丈夫そうだ。そこで余裕を見て1泊幕営で出かけることにした。

 大笹峠の林道は12月から冬季通行止でゲートが閉まってしまうため11月いっぱいが最後のチャンスである。今年は冬の訪れが遅かったが11月中旬に入ってから頻繁に寒気が入るようになり北アは完全に積雪期に入り私の技術では登れない時期になったので、南部の山に登るのはちょうどいい時期でもある。ネットで林道の通行規制情報を確認すると通行OKとのことであるし、仕事の都合で金曜日に空きができたこと、日曜日は天気が崩れて下界は雨(たぶん山の上は雪)とのことで、有給休暇をとって金曜、土曜日に出かけることにした。予報では天気はまずまずだが全国的に冷たい空気に覆われて気温は低めなので山はかなり冷え込むだろうから、シュラフ、防寒着は重いが真冬装備とする。ガスもふんだんに持って行こう。まだ時期的には路面凍結まではいかないだろうが、念のためチェーンも積んでいくことにした。初日夜の車中泊は寒いだろうなぁ。

 山行行程としては緩やかなので、初日はゆっくり起きて出発時刻は遅くてもかまわないので気は楽だ。会社を終えて買い物を済ませ、風呂に入ってから中央道に乗り、毎度の甲府南ICで降りて南下、雨畑を経由して長い林道に突入、夜中で対向車の有無がはっきりとわかるため運転に気を使う必要が無く精神的な疲れは少ない。道路を拡張するのか最初の集落入口で法面を派手に崩して泥の道と化しているのを通過、山奥に入り前回の行田山に行ったときに工事中だったところはまもなく舗装工事をするところまで進んでおり安心して通過できた。行田山登山口を過ぎて舗装に変われば大笹峠までずっと舗装が続くがうっすら雪が残っている部分もありスリップに注意しながら慎重に進んだ。よく見ると道路脇に吹きだまっている雪も見られ、下界の雨はここではもう雪になるようだ。

 雨畑から約1時間の運転で峠に到着、木曜深夜だから車はいない。帰りのことを考えて夏とは逆に一番日当たりが良さそうなところに車を止め、パッキングを済ませて寝た。冬用シュラフはザックの奥底にパッキングしたので車で寝るときには3シーズン用の寝袋2枚重ねとしたが快適に寝られた。

 朝はゆっくり起きて構わないので目覚ましをかけず自然に起きるまで寝ていたら6時半だった。周囲は既に充分明るく晴れているが時々ガスが流れて天気が良くなるのか悪くなるのかよく分からない。車のガラスに付着した水滴はカチカチに凍り付いたのは今シーズン初めてのことで、温度計を見ると0度近辺を指していた。こりゃ下手すると藪は濡れているのではなく霧氷だなぁ。どちらにせよ藪が乾いている可能性は低いので登山靴は主に残雪期用に使っている防水性能がいい靴を履いていくか。低い藪用にロングスパッツを最初から着けた。

大笹峠 道幅が広くなり路肩に駐車可能

林道法面北端(山梨側)から尾根に取り付く。踏跡あり

膝丈程度の笹がかぶった踏跡がある

たま〜にこの標識がある

 

 大笹峠は林道で分断され青笹山方面はガレて登れないため、山梨側に少し戻り「山火事注意」の看板脇から始まる踏跡を登り始めた。まともな踏跡があるが心配していたのだが、少なくとも入口ははっきりした踏跡で心配はない。稜線に上がっても膝丈程度の低い笹の中に明瞭な踏跡が続いていた。所々は明らかに刈り払いされた枯れた笹が転がっており誰か整備しているようだが、完璧な刈り払いではなく笹が足に触れて一部霜が溶けて水滴となった区間でスパッツやズボンを濡らした。

たまに笹が切れる

この辺は刈り払いの形跡あり

樹林の隙間から富士山

同じく青笹山と南ア南部

小河内岳が見えてきた

小河内岳最高峰

ガスが凍って霧氷になっていた

小河内岳三角点峰

三角点峰を過ぎても刈り払いが続く

西から見た三角点峰

 

 1881mピークを越えて下るとガスに霞んだ小河内岳が見えてくる。やっぱり樹木は霧氷で白く、ガスに長時間当たっているとエビのしっぽができそうだ。鞍部から登っていくと間伐地が現れ、もしかしたらこの作業用に道を整備しているのかもしれないと考えたが、伐採地を過ぎても同じようないい道が続いていた。傾斜が緩むと開けた笹原が出現、ここが2079m小河内岳最高峰で日本山名事典が小河内岳山頂とする場所である。今日は平日で無線をやると相手確保に苦労するのは確実なので、明日の帰りがけに無線をやることにして今日は素通りする。なだらかな稜線を歩き僅かに登り返して下りにかかるところで目印が賑やかになったと思い、ここが三角点峰ではないかと地面を探すと低い笹に埋もれた三角点があった。山頂標識もあるのだが小さいし文字は消えているのでここが三角点峰かどうかわからないだろう。下ると地形図では南側にガレマークが続く尾根となるが、樹林が大きく開けて低い笹原が大きく広がりガレはなかった。ここは展望が良く、南岳でなく北側の青笹山、笊ケ岳、そして真っ白な荒川岳も見えていた。

小河内岳西峰から北に下ると笹が切れる

北西に向かって急な下り

最低鞍部手前

台形の水無峠山

 

 霧氷で白くなった木々の間を緩やかに登ると小河内岳西端の2060m峰で、ここから進路は右に直角に曲がって北上すると同時に笹が無くなってシラビソ樹林になった。ここはテント設営にちょうどいいだろう。今度は少し左に進路を変えて急角度で下っていくのだが、ここでまっすぐの獣道に引き込まれてしまった。下草のないどこでも歩ける樹林なのでかえって迷いやすいのかもしれない。今日は視界があるので周囲を見て尾根を外したことに気づき、左にトラバースしながら鞍部に向かう。


鞍部からの登り。一面の笹だが実際ははっきりした踏跡が隠れている

傾斜が緩むと踏跡が分散、途切れ途切れになる

 

 鞍部に出ると樹林が切れて明るくなり膝丈ほどの笹が再び登場するが、その中にはっきりとした一筋の踏跡が続いていて藪漕ぎは不要である。これまでの尾根もそうであったが、笹原は南斜面の静岡側に広がっていて北斜面の山梨側はほとんどなかったので、日当たりのいい南斜面を中心に笹地帯のようだ。これは奥秩父と状況が似ている。どこのピークだったか忘れてしまったが縦走路から外れたピークに登るのに南向きの尾根から登ったら一面の笹で苦労したのに北向きの尾根を下ったら笹が全くなくシラビソ樹林で楽々歩けた経験があったが、ここもそれに近いのかもしれない。

笹が薄く歩き易いところを登っていく GPSが示した水無峠山山頂

 

 少し登った後は水平になるが、この付近から笹の背丈は腰程度の高さになり踏跡が乱れ途切れ途切れになる。尾根がもっと狭ければ動物も人間もみんな同じところを歩くだろうから笹が踏まれて踏跡がしっかりするのだろうが、少しでも尾根が広がるとルートが分散し踏跡も分散して薄くなるのは良くあるパターンだ。徐々に笹の高さが高くなるが最高でも肩の高さ(ちなみに私の身長は約170cm)で視界が遮られることはないし、踏跡が消えても笹の茎は細くて柔らかく、上越国境とは比較にならないくらいかき分けるのは楽だ。いや、手でかき分けなくて足だけでも歩ける。

 登りの場合はとにかく上を目指して歩けばそのうち山頂に着くので、細かいルートを気にせず笹が薄いところや踏跡なのか獣道なのか分からないが筋を拾ってつなぎ合わせながら歩いた。登りではほぼ尾根の真ん中付近を歩いたが、下りでは山梨側の縁に沿って歩いたら踏跡が少し濃かったようだ。それに山梨側は尾根から谷へと急角度で落ち込むため尾根がはっきりと分かるのが助かる。部分的に笹が薄くなる場所もあるが、ほとんどは肩の高さの笹原が続き、傾斜が緩むと水無峠山の一角に出る。山頂と言ってもだだっ広くてはっきりとした最高点はなく、GPSの電源を入れて表示を見ながら残距離ゼロに向かって踏跡がない笹原を泳いでいく。大きなシラビソが点在する一面の笹原の一角がGPSが示す山頂で踏跡も標識等もなかった。まあ、これだけ広いと標識を付けようにもどこに付けたらいいのか迷うだろうが。ここも無線は明日にまわして通過する。

笹の海を2重山稜西側に乗り移る たまに笹が切れるところもある

 

 地図を見ても左手に稜線が移るように描かれているが現物もそのようになっており、凍り付いた鹿のヌタ場の存在する小さな谷の向こう側には踏跡が見えない笹の斜面だ。適当に笹をかき分けて登ると稜線に出るが、やはり踏跡はなかったが目印は出てきた。最高点は笹が薄くなって休憩に適当な場所なのでちょっと休憩。この後も笹原の中に断続的に踏跡なのか獣道なのか判別できない筋がある程度で、尾根の縁がはっきりした山梨側に寄りながら歩いた。いつのまにか上空は雲に覆われ稜線にガスがかかるようになり、周囲の地形が見えなくなってきたのはちょっといやらしい。登りではいいが下りでは尾根を間違えても分からない可能性がある。こういうときにこそGPSの出番なのだが、残念ながら緯度経度を入力しているのは小河内岳、水無峠山、青笹山、イタドリ山だけなので、水無峠山〜青笹山間は利用価値がない。

三ノ沢山山頂標識がある場所。本当の山頂より西にずれている 三ノ沢山西尾根入口

 

 緩やかな笹藪を上り詰めるとこれまた笹に覆われたなだらかなピークに到着、周囲を見ると今年の大型連休中の日付とKDDと署名のある三ノ沢山の山頂標識があった。水無峠山とは違って上空が開けて明るいが、地面は一面笹に覆われ休もうにも場所が無いのは水無峠山と同じだ。このまま尾根に沿ってまっすぐ進んだが、ガスで周囲が見えず進路が心配になったので磁石で方向を確認すると北西に向かっている。これではおかしいと山頂標識の場所まで戻り、磁石を頼りに北に向かうがどうみても尾根が無い。もしかしたらさっきの尾根の途中で右に分岐するのかともう一度下りながら右に注意しながら歩いたがそれらしいものが見当たらない。しかもこの尾根には複数種類の目印が付けられており、常識的には三ノ沢山西尾根に目印があるとは思えないのでやっぱり県境稜線っぽく思えるのだが、方向違いがとても気になる。標高差100mを下って尾根が水平になってもまだ目印が続くがこれは西尾根ではなかろうかと疑心暗鬼でとても不安だった。ガスがなくて周囲が見えれば問題解決なのだが・・・。しょうがないのであまり役に立たないかもしれないがGPSの電源を入れ、水無峠山と青笹山の方向を確認すると、水無峠山が南東、青笹山が北東に見えるではないか! 本来ならば水無峠山は南南東から南、青笹山はほぼ真北のはずで、完全に主尾根をはずして西尾根に入っていることになる。こうなると山頂標識よりももっと戻ったところから主尾根が分岐しているとしか考えられず、精神的にダメージを受けつつも1泊装備だからまだまだ時間はあるさとゆっくり歩くことにして急な登り返しを我慢する。

 

本当の三ノ沢山山頂から北に延びる主尾根 踏跡が途切れ途切れの笹原が続く

 

 最後に笹を掻き分けながら山頂標識の場所に到着、そこからさらに100m程度進むと尾根が広がり、いかにも北方面に尾根が分岐しているような雰囲気になった。磁石で方位を確認して進むと無事に目印を発見、県境稜線に乗ったようだ。方位は真北より少し東に寄っており地形図どおりである。この尾根も踏跡のような獣道のような筋が断続的に現れては消えルートははっきりとしない。下りの傾斜が緩やかになると同時に尾根が広がり、ガスっていて周囲が見えないこともあり目印を頼りに歩いていると、どうも尾根から外れたようだ。明らかに目印があるが、先ほどの三ノ沢山西尾根の例があるので信用しないで尾根を外さないで歩くことだけ考えることにして、尾根があると思われる右にトラバースしながら移動すると間違いなく太い尾根に乗った。こりゃ他人の目印は当てにならないなぁ。この尾根を歩く場合は目印は参考程度にとどめて、あくまで自分の読図力で正しい尾根を歩くようにしないと遭難しかねない。それにこの稜線は地図には出てこないがあちらこちらに2重山稜があり、いったいどこを歩いたらいいのかはっきりしない。他の人も自信がないのか目印は少なく、しかも分散しているので結局は独力で尾根を外さないよう歩くしかないようだ。

たまにこんな場所も出てくる 2180m峰西側ガレ。ガスった稜線上だと気づかない

 

 2042m鞍部を通過して緩やかな登りにかかるが、ここも途絶え途絶えの踏跡がある笹原が続く。たまに笹が切れてシラビソ樹林になると足元すっきりでほっとするが長続きはしない。しかし笹の高さは水無峠山付近が一番高く、ここまで来るとおおよそ腰から胸程度で、心なしか道筋もはっきりしてきたような。2160mの青枯山は帰りもそうだがいつ通過したのかよくわからないうちに通り過ぎてしまい、ガスっていたので2180m峰西側のガレも気づかす尾根真上の笹地帯を通過した。

最後の登りにかかると笹が薄くなる 青笹山山頂
青笹山山頂西側に張ったテント イタドリ山への尾根。笹は薄い

 

 2180m峰北側鞍部を過ぎると笹の密度がぐっと減ってシラビソ樹林が主体になる。またもや2重山稜でどこが正しいルートなのか良くわからないが、雰囲気的にたぶん左の稜線だろうと乗り移り、それらしき筋を追いつつ上を目指して歩く。やがて右手(東)に土手のような細長い盛り上がりが見え、登ってみると笹が切れた空間があり、青笹山山頂標識と三角点があった。今までの水無峠山や三ノ沢山、青枯山等よりずっと山頂らしい山頂だが、今までたくさんあった2重山稜と同じと思って通り過ぎてもおかしくないかもしれない。ここでテントを張ってもいいが、まさかないとは思うがもし他に人がやってきたら山頂を占領しているのはまずいだろうと別の場所にすることにした。青笹山周辺は全く笹がないところは数カ所しかなく、他は密度が薄くて茎が細くてしなやかな笹が生えているのでその上に無理にテントを張れないことはないが、せっかくだから幕営適地の無笹区画に設営した。雪がうっすら積もっているが今日はダブル寝袋だから問題なかろう。テントの中に荷物を突っ込み、イタドリ山への往復と水汲み用に容器をザックに入れて軽装で出発だ。

2115m峰付近。ここも笹は薄い イタドリ山へ下る尾根。やっぱり笹が薄い
イタドリ山山頂 イタドリ山山頂標識

 

 これまでのルートとは異なり、青笹山を越えても薄い笹と薄い踏跡が続いて歩きやすい。今までは笹が主体で深南部らしい雰囲気だったが、ここからは笹が全くないわけではないがシラビソ樹林主体で南アらしい雰囲気である。2115m峰を越え、2120m峰では尾根を右に曲がるが目印があるので問題ないだろう。笹が薄い尾根を緩やかに下り、登り返したところがイタドリ山山頂で、踏跡から僅かに離れたところに山頂標識がある。地形図を見ながら歩いていれば忘れることはないが、青笹山方面から何となく歩いていると、あまり顕著なピークではないので通過してしまうかもしれない。逆の青薙山方向から来ると小笹峠から登り続けて最初のピークなので見落としはないと思う。

 休憩と無線をやってから水汲みのため小笹平南部の東河内源流に向かう。山頂渉猟の記述では東河内を遡って最後は源流を通って小笹平に出てイタドリ山を往復しており、小笹平を下っていけばどこかで水が出ておるはずである。地形図で水流が描かれているのは標高1800mであるが、これは航空写真で判別できる範囲であろうし、経験的にも地形図表記点よりずっと上から水が流れているのが普通である。たぶん峠から標高差100m程度で源頭があるだろうと予想した。もし、もっと下らないと水が無かったとしても、もう手持ちの水はなく酒が飲めないし、明日の朝飯も食えないので頑張って下るしかないが。

再び笹が深くなる 小笹平が見えてくる
小笹平南側には鹿道が縦横無尽 東河内に向かって谷を下る

 

 しばらく下ると笹の密度が高くなり、三ノ沢山周辺のような踏跡無し状態になり、尾根を外さないように周囲を見ながら注意して下る。霧が周囲を満たしているが視界は100m程度はあるので近くの地形は把握できる。尾根が細くなると笹地帯も薄くなり右手(北側)は樹林も増えてきて歩きやすくなってくる。樹林が開けてくると徐々に笹主体となるが高さは膝くらいで踏跡も濃く、尾根を外れてやや南側を歩くようになる。標高が下がったせいかガスから抜け出し、眼下は一面の笹原で、その中に縦横無尽に走る鹿道の筋が模様を描きなんともいえない風景だ。前方には最低鞍部の小笹平が見えているが、帰りに立ち寄ることにして行きはショートカットして谷目指して笹原を一直線に下ることにした。稜線の上部ほど笹の高さが低く、下って行くと少しずつ高くなって行くが最高でも腰ほどで、鹿道は非常に明瞭でそこだけ地面がむき出しになっているほどで笹の抵抗が少なくてとても歩きやすい。これだけたくさんの筋があるので鹿道に違いないだろうが、ここまで明瞭だと人間が付けたと言っても信じてしまうだろう。

谷に樹木が現れると水場は近い 標高1850mで源頭現れる

 

 幾筋もある鹿道のうち谷を一直線に下るルートを選んで、早く水が出てくるよう祈りながら下って行く。谷は左にゆるく曲がってから右に向かっており、周囲は笹原だが谷間のみ樹木が生えているのでその辺りから水が出ている可能性が高まる。しかしすぐには出ていなくて最初は水が流れた形跡は全く無い。もう少し下ると雨が多い時期だけ流れるのだろうか、枯れた川底が現れ、やがて待望の源頭が出現した。水量はさほど多くないが2,3箇所から流れ出しているので、このあたりで水脈が地表に出ているらしい。GPSの電源を入れて標高を確認すると1850mで小笹平の標高が約1950mだから標高差100m下ったわけだ。やたら近いわけではないが遠くも無く、鹿道が存在して藪漕ぎしないで水が得られるのだから便利だ。なにせこのルートでは最も近い水場は山伏か所ノ沢越、池ノ平で、中間部にあたる青笹山近辺には水場は無いことになっており、山伏から登る場合は1泊分の水を担がなくてはならないのが、ここを利用すれば荷物が減らせるのだ。しかも11月後半近い今の時期で水が出ているのだから、おそらく雪に埋もれる時期以外は年中無休で使えるだろう。水深が浅いので大きな入れ物ではいっぱいに水を汲むことはできないので、500ccのペットボトルで4回に分けて2リットルの容器を満タンにした。これで今夜の水は安心だ。

小笹平に向けて登る 小笹平最低鞍部。芝のよう地を這う笹

 

 さあ、青笹山まで戻ろう。一面の笹原を眺めながら鹿道を登って小笹平に到着、峠付近は地面が出ている箇所は水平ではないが、鞍部近辺は茎が細く足首程度のごく低い笹なので笹の上にテントを張っても快適に過ごせるだろう。今考えると水場付近にテントが張れそうな場所があるか確認しておけばよかったと思うが、谷は小さかったのでテントが張れるような河原は無かったと思う。谷の両側は斜面なのでテントに適さない。標高が上がると再びガスに突入、どうも青笹山から下ってくる時よりガスが下がってきたようで、途中のガレ場では開けていた視界も霧に閉ざされていた。さすがにくたびれ果てて、標高差400mを登るのに約1時間半かかってテントにたどり着いた。笹原でのルートファインディングと長い距離の笹原歩きで思ったよりも時間も体力も使ってしまったようだ。やはりこの時期では日帰りで大笹峠からイタドリ山往復は無理らしい。

 テントに潜り込んで暖房を兼ねてろうそくに火をつけて中を片付け、歯磨きをしてから宴会開始。水は3リットル持ってきたので贅沢に使っても問題ない。アルコール度数97%のウォッカなので100ccもあれば充分すぎる量で、裂きイカをつまみに程よく酔ってシュラフに潜り込んだ。3シーズン用ダウンシュラフ+厳冬期用ダウンシュラフの組み合わせは強烈で、夜中は-4度まで下がったが暑いくらいで少し肩口を広げて寝ていたら足や体は適度だったようだが肩は冷えすぎて体調がおかしくなってしまった。朝5時過ぎに起床したがどうも軽い吐き気がして食欲が無いが、帰りも体力を使うので無理に飯を食った。これくらい冷え込むと藪で濡れた登山靴が凍ってカチカチになり足を突っ込むのに苦労した。こりゃほとんど残雪期だ。

 夜中に起きだしたときは樹林の間から満天の星空がのぞいていたが、朝を迎えて明るくなっても青空のようで、テントを畳んでいるとシラビソのてっぺんが赤く染まった。昨日は朝以外はガスの中だったが今日はこの好天がいつまで続くだろうか。天気予報ではお昼くらいから曇ってくるとのことだった。飯と水が無くなった分ザックが軽くなり、腹の調子もどうにかなったことだし普通に歩けそうだ。

2180m峰 2180m峰北鞍部から見た青笹山
2180m峰北鞍部から見た富士山 2180m峰北鞍部から見た青薙山、稲俣山
2180m峰ガレから見た南ア深南部

2180m峰ガレから見た笊ケ岳

2180m峰ガレから見た南ア南部パノラマ写真(クリックで拡大)

 

 青笹山を下ると昨日はガスで気づかなかったが2180m峰鞍部からてっぺんにかけて西側がガレて視界が大きく開けていた。2週間前に登った椹沢山、光岳、茶臼岳、上河内岳、そして大きく真っ白な聖岳、青薙山〜稲又山が立ちはだかるが、その向こう側に荒川岳と塩見岳。どちらも白い。このコース中もっとも展望が開ける場所で、早朝に通過することができてよかった。東側は樹林が邪魔してすっきり視界は得られないが、雲海の上に富士山が浮かんでいた。行きは稜線上の笹の中を歩いたが、帰りはガレの脇の踏跡を歩きながら展望を楽しんだ。

 

40年近く前の標識 水無峠山下りから見た小河内岳

 

 そこを過ぎると展望が得られる場所は小河内岳まで無いので、稜線を外さないよう地形に注意しながら歩くだけである。知らないうちに青枯山を通過し、青枯山かと思って登ったピークにはKDDの三ノ沢山の標識があるではないか。行きはここでミスったのでよく覚えており、逆戻りしてだだっ広いところから下り始めたが、南により過ぎて尾根を外したのに気づいて左に進路修正、今日のように天気がいいと周囲の地形が見えるのでコースアウトがすぐわかって助かる。この後はルートをミスることなく断続的に踏跡が現れては消える笹原を歩き、水無峠山は山頂西側の2重山稜ピークをパスして側面を巻いて山頂に至る。相変わらず笹と太いシラビソで標識は見当たらず適当な場所で無線をやる。下りは尾根中心ではなく尾根東端を歩くと多少マシな踏跡があった。小河内岳との鞍部で藪から開放され、小河内岳西峰と三角点峰鞍部で日差しを浴びながら休憩、快晴だったのがいつの間にかガスが流れるようになり真っ白な南ア南部3000m峰も見えなくなってしまった。また昨日のようにこれからガスの中だろうか。今日は誰か登ってくるかと期待したが、これから天候が崩れることもあってか無人だった。

大笹峠北側から見た小河内岳、水無峠山 大笹峠北側から見た青笹山

 

 三角点峰、最高峰を越えて下って行くにしたがってガスは晴れてきたが、今度は上空に雲が出てきて日が陰るようになった。寒くなってきたが峠に到着するまでまだコブをいくつか超えなくてはならないので体は強制的に温められる。右手眼下に舗装された林道を見ながら稜線を歩き、最後に急降下して林道に下ると他に浜松ナンバーの車が1台止まっていたが、もちろん山伏へ登っているのだろう。シーズン中の土日はもう少しお客は多いと思うが、もう林道閉鎖前で山では初冬といえる季節では仕方ないか。天気はどうにか晴れたり曇ったりでもう少し持ちそうなので、着替えと片付けの前にテントを広げて虫干し、凍った底は解けて濡れていたが30分くらいで乾いてくれた。最後に峠から見た県境稜線の写真を撮って雨畑に下り、ヴィラ雨畑で風呂につかって(\500)東京目指した。


所要時間
11/17
大笹峠−1:10−小河内岳−0:11−小河内岳三角点−0:13−小河内岳2060m峰−0:44−水無峠山−0:11−2080mピークで休憩−0:17−三ノ沢山標識−0:34−三ノ沢山西尾根をさまよう(標高2000mで引き返す)−0:16−三ノ沢山標識−0:01−三ノ沢山山頂(分岐)−0:25−休憩−0:37−2180m峰−0:09−青笹山(休憩)−0:21−2120m峰−0:19−イタドリ山(休憩)−0:18−水場(休憩)−0:15−小笹平−0:21−イタドリ山−0:22−2120m峰−0:27−青笹山

11/18
青笹山−0:15−2180m峰−0:56−三ノ沢山−0:27−水無峠山−0:43−小河内岳2060m峰−0:03−鞍部(休憩)−0:11−小河内岳三角点−0:08−小河内岳−0:50−大笹峠

 

 

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