中ア中部 ヨナ沢ノ頭、丸山、西山、空木岳 2006年10月28日

 


 空木岳に登ったのはたぶん10年以上前だろう。初めての中アはロープウェイで千畳敷に上がり、1泊して空木岳まで縦走、翌日、池山経由で下山した。この時に空木岳は登っているが、空木岳周辺に山名事典に新規記載された2つの山が誕生したので再訪することにした。避難小屋南側の丸山と、稜線西側を下った西山である。丸山は樹林で簡単に登れるだろうと予想したが、問題は西山で、稜線から標高差約350mを下らなければならず、這松の海だったら最悪だろう。検索をかけてもこんなマイナーな山に登った記録は発見できなかった、というか、このような平凡な名前の山では、それこそたくさんの検索結果の山に埋もれてしまう。

 中アの山はさほど山深くなく難易度は低いと判断したので後回しになってしまい、もうすぐ11月に入るという晩秋に実行することにした。今年は体育の日に台風崩れの低気圧の影響でアルプス級では初雪の場所も多かったと思うが、その後は天候の悪化が少なく、通常は積雪期入口の北アも南部はまだ雪がほとんどないという珍しい状態だ。だが金曜は天気が崩れて一部で雨が降っており、標高の高いところでは雪になってもおかしくなく、北アの岩場混じりのコースはやばいと判断し、中アに進路を決めた。本当なら空木の避難小屋に1泊し、翌日に這松漕ぎをやれば十分に往復できる時間があるだろうが、日曜日は全国的に曇りで北海道では寒気の影響で平地でも雪が降るようなことを言っており、ずいぶん南に離れた中アでも3000m近い稜線では寒気の影響を受け雪が舞う可能性もあり、土曜日帰りの範囲でやってみることにした。西山に登れない可能性もあるが、今回偵察できれば次回実行時の参考になるだろう。金曜朝の千畳敷ライブカメラでは雪のかけらも無かったが、念のためアイゼンを持って行くことにした。

林道終点の駐車場 登山口

 

 地形図を見ると池山尾根は途中まで林道が伸びており、ネットで検索をかけて確認した結果、路面は荒れているがゲートはなくマイカーで入れるとのことで林道に乗り入れることにした。これで標高差400mを楽できる。駒ヶ根ICを降りて菅の台バス停に向けて登っていき、スキー場の標識で左に入るが駒が池周辺で迷ってしまい、地形図を見てルートを把握してから再挑戦、古城公園の案内標識が目印になる。地形図の通りに道が折れ曲がり林道に突入、検索で出てきたHPでは道が悪いと書いてあったがそんなことはなく何カ所か登山道と交差したり、登山口の標識が出てきたがそのまま先に進む。やがて路面のでこぼこが酷くなって、もしかしたら行き過ぎか?と心配になるくらいだが、地形図の林道の描画通りに林道は付けられており、まだ終点ではないはずだ。本当に状態が悪いのは部分的だが、路面がでこぼこなだけで危険は感じられないのは助かった。やがて大きく左カーブすると道幅が広がって看板と駐車場が出現、ここが林道終点であった。標高は約1360mである。空木岳までなら標高差約1500mで健脚なら余裕の日帰り圏内だが、こちらはそれに2山プラスで、西山は累積標高差

では400mはあるだろうし、ハイマツの藪だったら消耗する体力は想像を絶する。おそらく体力的には黒戸尾根や早月尾根日帰りと同等だろう。車は1台のみで中は空っぽ、主は小屋の中だろうか。眼下には駒ヶ根市街の夜景が広がっていた。いつものように酒を飲みながらパッキングを済ませて寝た。念のため6本歯の軽アイゼンもザックに入れた。

カラマツはいい感じに紅葉 池山分岐の水場

 

 翌朝は5時に起床、まだ真っ暗であるがお湯を沸かして飯を食っていると徐々に明るくなってきた。どうにかヘッドランプが不要になった5:40頃に熊避けの鈴を鳴らしながら出発する。お隣には夜中に上がってきた車が止まっているがまだ仮眠中らしい。どこかですれ違うだろうか。登山道は地形図の記述と違って尾根上ではなく尾根の南側をジグザグって付けられている。このルートは宝剣〜空木縦走の下山時に歩いているはずなのだが全く記憶がなく、笹原の中に切り開きがあったのだけは覚えている。何度がジグザクって鷹打場の標識で池山に直接登る道が分かれるが、そちらは刈り払いされておらず半分笹に埋もれていた。巻き道は池山の南側を登っていき旧池山避難小屋分岐を通過し、右手に開けた笹原が見えると池山への分岐が現れ、なんと水場があった。ここには沢はないのでどこかの沢から引き込んでいるのだろう。この近くに新しい池山避難小屋があるのでその水源でもあるのだろう。

 ここから先は空木岳登山道となり、少し登ると笹原が無くなってシラビソ樹林に変貌する。夏場は賑わうルートだろうから整備は完璧で倒木はないし、体に触れる藪はないし、傾斜が急な場所は階段等が設置されている。エアリアマップにある迷い尾根の危険箇所もどうということは無かった。ただ積雪期や残雪期にはトラバース部分が使えないから状況は変わるだろう。

ここから登山道を離れてヨナ沢ノ頭に向かう 西から見たヨナ沢ノ頭
ヨナ沢ノ頭山頂 稜線上はこんな感じで藪は薄い

 

 登りの時にヨナ沢ノ頭に立ち寄ることにした。以前、それらしき肩のような場所で無線運用したが、本当に山頂だったのか今回GPSで確認してみようと言うわけだ。標高約2300m地点で休憩後、GPSの電源を入れて歩き出し、山頂直下50mの地点で登山道と別れ、下草のないシラビソ樹林の中を稜線に登っていく。稜線上は僅かに踏跡か獣道が見られ、東の方に僅かな高まりが見え、それがヨナ沢ノ頭だろう。ピーク西側は樹林が切れて空木岳、千畳敷方面の見晴らしはよい。周囲よりちょっとだけ高いてっぺんには意外にも古ぼけた標識が残っており、以前は登山道が通っていたらしい。そこから稜線を西に向かって踏み跡らしいルートを追うと倒木が立ちはだかるがおおむね歩きやすかった。登山道に出ると見覚えのある場所で、たぶん前回はここをヨナ沢ノ頭としたのだろう。当たらずしも遠からずか。

避難小屋分岐から見た丸山 避難小屋分岐から見た空木岳
新築された避難小屋 避難小屋内部

 

 尾根を登り続けるといよいよハイマツがお出ましで、この標高で出現するようでは丸山も危険かも。尾根通しに空木岳まで登るルートと谷底の避難小屋経由で登るルートの分岐点で丸山が見えるが、山頂付近は緑色の絨毯=ハイマツ帯だった。残念、予想が外れた。ただハイマツの範囲は狭いので、ほとんどは樹林帯を登ればいいだろう。尾根をほぼ等高線に沿ってトラバースして広い谷底に降りると左手に水源の沢が現れるが、もうこの時期は水が枯れていると予想して下から1ルットル強持ち上げたが、なんと晩秋でも水が流れ出していた。もっと驚いたことに前回来たときには避難小屋は「竪穴式住居」だったのが痕跡として穴だけ残っていて西側に立派な小屋ができていたことだ。これなら10人くらいは問題なしだろう。

谷を登る 時々灌木の藪に突き当たる
ハイマツの手前はダケカンバ帯 丸山山頂までハイマツの海!
丸山山頂直下からハイマツ帯を見下ろす 丸山山頂

 

 さあ、元気があるうちにまずは丸山だ。丸山〜空木岳鞍部に向かって伸びている谷を登っていくが、部分的に矮小なダケカンバがうるさい他は草付きで歩きやすい。やがて大きなダケカンバにハイマツが混ざるようになり、アタックザックに切り替えて山頂を目指した。最初は左右にハイマツを迂回できたが、すぐに一面がハイマツの海に変わり、がむしゃらにハイマツの中を突き進むしかなくなった。やはり立ったハイマツはやっかいで、できるだけ薄いところに体を突っ込んで前進する。進むに従って徐々にハイマツは低くなっていき腰ほどの高さから膝丈になると歩きやすくなり、山頂直下では地面に張り付いてほとんど支障はなくなった。しかし山頂の一部で深くなり、もがきながら横断してハイマツが切れた砂礫地に出た。山頂一帯は平坦で顕著なピークはないのでこのあたりを山頂としていいだろう。眼下には伊那盆地が広がり眺めは良好、谷の反対側に立ち並ぶ南アは深南部の中ノ尾根山から入笠山までずらっと見えており、八ヶ岳も南から北まで。どこの山も好天だ。人工物は見あたらなかったが、後で調べたらDJFは既に登っており、よく探せばリボンの残骸くらいは発見できたかもしれない。

丸山から見た空木岳 空木岳駒峰ヒュッテ。土間のみ冬季開放

 

 少し休憩してから再びハイマツを漕いでデポした荷物を回収に向かうが、何せデポしたのはただの斜面なので目印等が無ければ発見は困難、こういう時こそGPSの登場で、似たような風景が続く一帯の草の上にザックが座っていた。荷物を背負ってトラバースしながら登山道に向かって灌木帯を突っ切り、花崗岩の砂が広がる明るい登山道に出た。とたんにダートから高速道路に入ったように歩きやすくなるが、ハイマツで体力を搾り取られたので足が軽いとは言えない。駒峰ヒュッテ前を通過し、標高差200m弱の最後の登りはきついが視界が開けて気持ちいい。先ほどまでは雲一つ無い快晴だったが木曽殿越あたりに時折ガスが流れるようになった。ここでは風は感じられないが稜線上は西風が強いのだろうか。

駒峰ヒュッテから見た空木岳 空木岳山頂
空木岳から見た宝剣周辺。背景左は乗鞍岳 空木岳から見た木曽御嶽
空木岳から見た中ア南部 空木岳から見た2690mピーク

空木岳から見た南ア北部

 

 行けるかどうか分からないが西山への体力温存のためゆっくりとしたペースで歩き、花崗岩の巨岩が点在する空木岳山頂に到着した。西よりの冷たい強風で一気に体が冷やされ、岩の影に隠れて持ってきた防寒着を着込んで手袋をはめ、それからデジカメ撮影を始めたがもう山頂から北方面はガスが流れる時間が長くなり徐々に展望が無くなってきていた。時折ガスが切れると雪がない槍穂、乗鞍、木曽御嶽が顔を出す。東を見ると南アには全く雲がかかっていない。南は南駒が大きくてそれ以南の中アは見えない。南駒の左は田切岳が怪獣の頭のようなどう猛な姿を見せている。鞍部からの立ち上がりが急でよくもまあ登ったものだと自分でも感心してしまう。肝心の西山は2690mピークに邪魔されて見えないが、2690mピークは稜線上はハイマツ帯の緑の絨毯で苦労が予想される。ただ、ピークまでの稜線も隠れて見えないので、うまくいけばハイマツ漕ぎは想像よりも少なくて済むかもしれない。

ここで縦走路を外れて西に向かう まだ藪はない
尾根に乗るがまだ砂礫が多い ハイマツ帯に入るが寝ており楽勝
振り返る。ここのハイマツも寝てる 最初のガレ。手前の小ピーク付近がハイマツが一番深い
鞍部から主稜線を振り返る 鞍部から見た2690mピーク

 

 空木の山頂からでは西山までのコースが見えないので時間的に行けるかどうかは分からないが、アタックザックに水だけ入れて防寒着を着込んだまま出発した。かなり風が強いが耐風姿勢を取るほどではないので行動に支障はなく、体感温度が滅茶苦茶低く寒いだけだ。2830m肩から下る途中の遭難慰霊碑がある場所で進路を西に変えたが、尾根上はハイマツ帯だったので砂礫が続く南側を迂回し、砂礫が消えてからハイマツ帯に踏み込んだがまだ地面を這うハイマツなので歩くのにほとんど支障はない。ずっとこの調子なら助かるのだが、標高が落ちるとこうはいかないだろう。案の定徐々にハイマツが立ち上がり、最初のガレ手前、標高約2700m付近は立ったハイマツと格闘する。最初のガレ入口は落ち込む角度が急で滑ったら谷底行きなので縁を歩くのは諦めてハイマツの中を潜り、角度が緩んだところで花崗岩か風化してできた真っ白な砂の斜面を歩いた。やっぱりハイマツがないので最高に歩く易くオアシスだった。ガレが終わると再びハイマツの海でこのコースの中でもっともハイマツが深い場所だ。そこを抜けて2680m鞍部のガレに出るとガレの縁を歩けるようになり一息入れる。そのからピークまではこれまた立ったハイマツであるが、隙間があるので薄いところを攻めればもがくようなことはしないで済んだ。

 2690mピーク直下になるとハイマツの海の中にハイマツが生えていない草付きが部分的に現れて、それをつなげて楽にピークに立つことができた。ピークはハイマツが切れて花崗岩が点在し休憩に良さそうな場所だった。ここから尾根を忠実に下ったが、尾根直上よりも右よりの方がハイマツの背が低く歩きやすくしばらくそちらを辿ったが、今まで同様徐々に立ち上がって格闘するようになってしまった。地形図にもある2630mから始まるガレ源頭を横切ってからは尾根に乗るが、これが四方に枝を張ったハイマツで始末が悪く、右は急斜面なので足は自然に左に向き、尾根を外して南に下る。するとハイマツは無くなって草付きのダケカンバ疎林に変貌、傾斜も適度で歩きやすく、このまま尾根の左側をトラバースすることにした。この選択は大正解で右側の尾根頂稜はハイマツが支配して歩くのは苦労するだろう。ダケカンバ帯には獣道もあり、ちゃんと人間が歩きやすい場所に続いていた。

もうちょっとで2690mピーク 2690mピーク山頂
2690mピークから見た西山 尾根左を巻きながら下る
鞍部。稜線上は猛烈な藪 鞍部も左から巻く
ダケカンバ帯が終わり一時的に藪に入る 岩は基部を巻いた
岩を巻いてシラビソ樹林を登る 何となく獣道がある

西山山頂

西山から見た2690mピーク

 

 2490m鞍部で草付き帯が終わり藪っぽくなるが、尾根頂稜のハイマツは強烈なままなのでそのまま右に迂回しつつシラビソとハイマツが混じる藪の薄いところを選んで進む。すると大きな岩が現れ、直登は無理なのでハイマツに掴まってよじ登ろうかと思ったが、よく見ると基部を巻けそう泣けはいだ。基部はザレた小さな谷を横断するが傾斜はどうにかなりそうでハイマツを潜って基部直下に出るとOKだった。岩の基部はテラスのように歩きやすい出っ張りがあるので危険はなく、巻き終わって尾根に絡むと獣道が出てきてそれに従って尾根を左にトラバースしたまま標高を稼ぎ、最高地点に到着した。液晶表示が調子悪く、叩かないと画面が表示されなくなってしまったetrex-ventureの電源を入れて場所を確認すると間違いなく西山山頂であった。密度は薄いが低いシラビソに覆われて展望は無く、当然だが目印等も一切無かった。たぶん今後も登る人はほとんど考えられず、武内さんとDJFくらいだろうと思ったが、丸山に登ったDJFならここも登っている可能性が高いか。

鞍部から見た2690mピーク 歩きやすいダケカンバ帯
山頂直下のハイマツが切れた帯 登ってきた道筋。下りもこっちが良かったなぁ

 

 休憩を兼ねて無線運用し、空木岳まで標高差400m近くを登り返さなければならないのを考えると気が重いが、登らないと帰れないので頑張るしかない。2490m鞍部から2690mピークを見上げるとピーク南側は山頂までハイマツが切れているのが見えたので、帰りは尾根のハイマツ帯を通らずにそちらを行こう。ダケカンバ帯を登り、谷のような狭いところをハイマツを避けて登っていくが岩混じりなので危険がないところをよく見ながら進路を選んだ。無事にピークに到着し、これなら行きも今のルートを選べばハイマツ漕ぎしなくて良かったのにと後悔。でも下から見上げないと分からないよなぁ。その後は行きで苦労したところは帰りも同様にハイマツと格闘し、標高が上がるに従ってハイマツが寝てきてどんどん歩く易くなり、砂礫地帯を横切って縦走路に出た。既に稜線はガスに覆われ視界は無かったが西山の尾根は雲の下でずっと視界があって助かった。

 気温0度で冷たい強風が吹き付ける中では休憩などする気が起きないので、デポした荷物をまとめてそそくさと下山開始、今度は尾根コースで下っていき、風が当たらない避難小屋コースとの合流点付近で休憩した。あとは下山のみで心配は暗くなる前に到着できるかどうかと、先日の高山下山時にぶつけた右膝の違和感が酷くならないかくらいであるが、登山道があるから暗くなってもライトがあればコースを外す心配はないし、膝のためにストックを持ってきたのだからどうにかなるだろう。順調に下って3人追い抜いたが、これは私が西山に行っている間に空木岳に到着した人だろう。池山分岐点の水場で最後の休憩をとり、ジグザグる登山道は2カ所でショートカットして充分明るいうちに駐車場に到着した。荷物の片づけをしているうちに地元民と思える軽自動車が上がってきて、降りてきた男性を色々話しをしているうちにほとんど全員が下山した。ただ軽トラの主だけがまだ帰ってこなかった。下山した人の中に車じゃない人がいたので私が乗せていくことにし、林道のでこぼこが酷くなる直前の広場まで乗せていった。なにせ車がユーノスロードスターだから、あまりでこぼこがあると底を擦ってしまうのも頷ける。

 以前利用したことがある家族旅行村で汗を洗い流して東京に向かった。


所要時間
林道終点−0:29−鷹打場−0:36−池山分岐−0:33−休憩(約2300m)−0:07−ヨナ沢ノ頭−0:38−避難小屋分岐−0:10−避難小屋−0:18−アタックに切替−0:12−丸山(休憩)−0:09−デポ地−0:11−登山道−0:17−駒峰ヒュッテ−0:07−空木岳(休憩)−0:08−登山道から外れる−0:18−2690mピーク−0:22−西山(休憩)−0:30−2690mピーク−0:25−登山道−0:11−空木岳−0:03−駒峰ヒュッテ−0:34−休憩(2555m)−0:01−避難小屋分岐−1:26−休憩−0:26−鷹打場−0:10−林道終点

 

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