南ア北部 シレイ沢向山 2006年10月20日

 

県営林道南アルプス線バス車窓から見たシレイ沢向山


 シレイ沢向山は北岳に続く池山吊尾根の北側にある三角点肩で、シレイ沢とは野呂川を挟んだ対岸にあり、「向山」というのがシレイ沢の反対側という意味なのであろう。近くにあるのは小樺沢である。例のごとく登山道が無い山で地形図記載ではなく日本山名事典に記載された山であり、ネットで検索をかけても登山記録は1件もヒットしなかったのは当然と言えよう。池山吊尾根の登り残しの山と合わせて登るのなら、登山道がある吊尾根末端から登って下りの途中でシレイ沢向山に立ち寄るのが効率的だが、残念ながらこの秋は大雨で奈良田〜広河原の林道が崩壊しバスは運休中であり、尾根末端までの足がない。そのためシレイ沢向山のみ登ることにし、残りは来年の夏以降、つまりバスが運行されるまで待つことにした。

 シレイ沢向山へのルートは広河原起点では小樺沢右岸の尾根しかないだろう。ただ、この尾根はぐるっと林道が巻いており垂直の法面で尾根に取り付けない危険がある。そのため沢沿いから登るのが正解と考えられ、小樺沢を橋で渡った右岸から適当に尾根にとりつくことにした。ところが広河原にバスで入ってシレイ沢向山の尾根を見たところ、地形図で感じたよりもとんでもない傾斜で無雪期でも登れるか危ういほどだった。実際に登ってみるのと遠くから見るのとでは感じ方が違うので絶対登れないとは言えないが、かなりヤバそうな尾根のようだ。しかし広河原から登る尾根は地形図上ではどれも似たような傾斜で今更ルートを変えても効果なしなので、計画通り行くことにした。

広河原ゲート付近から見たシレイ沢向山への尾根 小樺沢の砂防ダム工事現場

 

 広河原最終日は朝から曇り空で明るくなるのが遅く、朝飯を食い終わって少し待機してから出発した。今日は行程は短いので少しくらい出発が遅れても問題ないし、道がない樹林帯を登るので周囲が十分明るくならないと樹林の中は明るくならない。奈良田方面へ大樺沢を渡る車道用鉄橋を渡ると早朝にもかかわらず監視員が詰めていた。でもここは一般車は入れないから監視員を置く意味が無いような。小樺沢の橋を渡る手前で尾根取り付き部分が見えたが、ほとんど絶壁状態で登れそうになく、小樺沢上流に向かう林道が分岐していたのでそちらに向かってみることにした。そこは砂防ダム工事現場への取り付け道で、距離は200mくらいしかなかったが、建設中の砂防ダム直下は埋め立てられパイプで排水されているので簡単に対岸に渡ることができ、目の前の小尾根は梯子がかかり作業用の踏跡が付けられ下部が伐採されているのでそこから登ることにした。下山時に林道から見てみたがこの尾根がもっとも傾斜が緩くて登るのに最適だったようだ。

ダム左側の尾根を登る 砂防ダムを見下ろす。かなり急傾斜

 

 伐採されているのは沢から標高差で20m程度で境界にはロープが張ってあるが無視して尾根を登り続ける。今は早朝で無人だからいいが、工事が始まったら通してくれるだろうか。登りと違って下山だったら許してくれるかもしれないが、無用なトラブルを避けるために可能なら工事が始まる前に下山したいところだ。おそらく工事開始は8:00か8:30くらいだろうから危険な時間だなぁ。ロープを跨ぎ越えて急斜面を灌木に掴まりながら登るとすぐに樹林帯の尾根になるが、尾根直上はあまりにも傾斜が急で登れず、獣道がある尾根左側をトラバース気味に登っていった。こりゃ帰りは怖いなぁ。

尾根に乗り傾斜が緩む 露岩混じりだが危険箇所はない

 

 少し登ると尾根にはい上がることができ、幸いなことに傾斜は緩んで危険はなくなり、一昨日の北沢山の尾根とは違って下草のない背の高い樹林で歩きやすい尾根だった。すぐに傾斜がきつくなって露岩混じりになったが無雪期ならば危険というほどではなく、効率よく高度を稼げた。ただしまだ小さな尾根で下りで外す可能性が高く頻繁に目印を付けながら歩いたのでスピードは落ちた。さすがにこの尾根を歩く人は皆無らしく目印はもちろんゴミも落ちていなかった。あるのは獣道だけである。

少し藪っぽいが大したことはない はっきりした獣道
草がたなびく気持ちのいい尾根 尾根が広がる。シラビソ樹林が続く

 

 少し小さな木がごみごみした地帯もあったが藪というほどではなく隙間を縫って簡単に上がることができ、少ない倒木を迂回しながら順調に歩く。尾根も徐々にはっきりしてきて人間が作ったとしか思えないような明瞭な獣道も出てくるようになった。鹿の糞が多いので鹿道かもしれない。やがてシラビソ樹林に下草としてフウチソウ?がたなびく気持ちいい尾根になり、傾斜が緩くなると左手から太い尾根が合流した。これが小樺沢の橋を渡ってトンネルを抜けた先の主尾根に違いない。とするとここは標高約1850mか。帰りに主尾根に引き込まれないよう目印を付けるのは忘れない。

薄く低い笹原になる。いかにも鹿がいそうな雰囲気 シラビソ+低い笹が続く

 

 傾斜が緩むと大きなシラビソが点在し、まばらに生えた足首程度の低い笹原が広がり、まるで鹿の楽園のようだった。尾根が広がってルートファインディングが難しいので帰りは目印のお世話になりそうだ。さらに登るとまた左からもっと太い尾根が合流した。ますます尾根は広くなってどこが直上なのかはっきりとわからないくらいだが、少し進むと尾根右手が高くなったのでその上を歩いた。ここも目印皆無で人間の痕跡はなかった。緩やかな傾斜と広い尾根が続き地形が読みにくいが、時間的にまだ山頂まで距離があると判断してGPSは電源を切ったまま登った。登っている方角を確認するとほぼ真南であり、地形図からしてもまだ山頂ではない。

2100m肩 2100m肩東鞍部のヌタ場

 

 なだらかながらはっきりしていた小尾根が消失して、今度は左手前方に尾根らしき高まりが出てきたので位置を確認すべくGPSの電源を入れると、山頂の位置は真南ではなく東に寄り始めた。面倒なので地図を広げなかったがこのとき標高約2050mまで登っていたのだ。なだらかな地形上に再び小尾根が現れて目印をつけながら登っていくと肩状の低い笹原に出て、いよいよ山頂近しの雰囲気がプンプン臭っている。GPSの表示では山頂まで100mを切っているが、どうも私のetrex-ventureはナビゲーション画面では山頂に接近した時にそれまでの方向が固定されてしまい、山頂を通過したとしても山頂の方向は不変のままで距離が増えていくのだ。そのため山頂が近くなったらマップ画面に切り替えているのだが、人間の方がたまに南北を間違えることがあるのだ。地形図と同じで上が北なのだが地形図のように画面上に等高線があるわけではなく、画面上に何もないとイマイチ方向感覚が得られない。今回は南に行き過ぎてから気づき、磁石で東を確認して先ほどの肩状の低い笹原に逆戻りし、さらに先に進んで一段低い肩を目指した。鞍部には鹿のヌタ場があり、もしかしたら鹿の角が落ちていないかと周囲を調べてみたが落ちていなかった。残念。その先で僅かに登りとなり、上空のみ開けた平地に出ると笹原に三角点が鎮座していた。ここがシレイ沢向山山頂であった。

シレイ沢向山山頂 東尾根には目印が続いていた

 

 三角点以外の人工物はないだろうと思っていたが、予想を裏切ってピンクリボンがぶら下がっていた。山頂の三角点から少し離れた場所で、よく見ると東に延びる尾根に点々と続いているようで、これを付けた主は東尾根を登ってきたらしい。後で地図を見たり、広河原からの帰りのバスから実際に尾根を見たが、傾斜は下部だけ急だが途中から適度で、林道の法面は部分的にはあるが尾根末端付近は林道脇まで木が生えていたので取り付きは簡単そうだ。ただしそこまでのアプローチに難がある。それともまさかマイカー規制前に付けられたものだったりして。でもそれほど古くは見えなかったな。マイカー規制の現在は、広河原から近い私が使った尾根が便利だろう。ただし砂防ダムが完成したら尾根に取り付けるかどうか不明である。削られて法面になってしまう可能性もあるだろう。ピンクリボン以外は目印や山頂標識はなく、このような山にこそKUMOが似合うだろう。

 周囲は3000m近い稜線に取り囲まれた場所なので無線運用はかなり苦労したが、どうにか1局確保できた。
 
 帰りは目印を頼りに下っていくのだが、最初からだだっ広い尾根ですぐに目印を見失ってしまったが、地図を見るとこのまま真北に向かえば太い尾根上から外れることはないので目印を気にしないで周囲の地形に注意を払いながら下っていくと左手に小尾根が現れ、その中に目印を発見、これで一安心だ。太い尾根は右へと分岐するが目印に導かれて直進し、薄い笹原のシラビソ樹林から草がたなびくシラビソ樹林に入れば尾根が狭まってルートが明瞭になる。見覚えがある倒木等を超えて順調に下ったのだが、一気に傾斜がきつくなったところでいつのまにか目印が消えてしまった。左手は小樺沢へと一直線なので正しい尾根は右側しかありえず、少し登り返してあまり尾根らしくない斜面に移ると無事目印があった。この周辺の地形は険しく、私が登ってきた尾根以外ではとても下れそうにない。もう目印を見落とさないよう注意しながら下ると前方に砂防ダム工事現場が見えてきて、伐採上部のもっとも傾斜がきついところを慎重に下り、まだ無人の時間帯に工事現場へと下ることができた。対岸の林道では頻繁に車両が通る音がしているので他の工事現場ではもう作業が始まっているか始まる直前くらいだと思うが、こちらは静かなままだった。もしかしたら今日は休業日? どちらにせよ工事をやっているど真ん中に下りることがなく助かった。

 これで今回の広河原シリーズは終了し、平日の広河原始発11:00のバスに乗って芦安に戻り、バスターミナルの真上にある白峰会館(南アルプス市営 @\550)で風呂に入り、最後のおまけ、山伏のお隣の山、行田山(大谷崩ノ頭)に向かった。


所要時間
広河原山荘―0:13―小樺沢―0:07―尾根に取り付く―0:42―標高1850m地点―0:07―標高1930m地点―0:26―標高2100m肩―0:06―シレイ沢向山(休憩)―0:39―工事現場―0:13―広河原山荘

 

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