中越 神楽ヶ峰、苗場山、龍ノ峰、霧ノ塔 2006年6月24日

 

 

 苗場山は以前に小赤沢から登ったことがあり、そのときは苗場山のみの登頂で周囲の山は登っていなかったが、周囲には山名事典記載の山を含めて未踏の2000m峰が3つ存在する。神楽ヶ峰、龍ノ峰、霧ノ塔である。霧ノ塔はしばらくは位置を知らなかったが、古いエアリアマップを見たら神楽ヶ峰の北方のピークで、三角点はやや低い場所にあるが最高点は2000m等高線が通っている。神楽ヶ峰と苗場山は鞍部を挟んでちょっと離れた位置関係にあり、タダ単に苗場山に登るだけなら秋山郷から登るべきであるが、神楽ヶ峰、霧ノ塔に登るのなら反対側の祓川が近い。東京からの距離は祓川の方が圧倒的に近いから、できれば祓川から登るのがいいであろう。ネットで調べると和田小屋下部にゲートがあって一般車はそこまでらしいが、小屋まで歩いて20分程度のようで大きな問題ではない。

 梅雨入りしてどんよりした天気も多いが雨は降らないが晴れてもいない微妙な天気も結構あり、天気予報も前線の位置でかなり変わってしまうようで外れることもかなりあって出かけるかどうかの判断がかなり難しい。この時期は虫も多く、少なくとも藪山はパスしてできれば森林限界を超えたアルプス級の山にしたいところだが、日帰りできるレベルの山ではほとんど残りは無く、その他の山から選ばなくてはならない。2000m峰の残りの中では苗場山周辺は日帰り可能でしかも豪雪地帯なので山頂付近は森林限界を越えており、もしかしたらまだ残雪が楽しめるかもしれない。そんなわけで苗場山に出かけることにした。今回は登山道を歩くだけなので面白みはないが、たまには気楽な山行もいいだろう。登山道があるので多少の雨なら傘をさして登ってもいいだろう。前線は関東南岸からやや離れた位置にあるので北の方ほど雲が薄く天気がいいはずで、月曜くらいから前線が関東にもかかって雨との予報だから日曜は徐々に崩れるようだが土曜日はどうにかなるだろう。

祓川駐車場。一般車はここまで 祓川登山口

 

 金曜日はちょうど給料日なので無残業で会社を出て関越道に向かう。久しぶりの越後湯沢ICで降りて17号線を南下、かぐらみつまたスキー場手前で苗場山祓川コースの案内看板を見つけて右に入り、集落の狭い道を抜けて案内板の矢印を頼りに舗装された林道を走る。途中、道路未整備のため通行止めの看板もあったが、これは行政が「保険」のために付けただけと判断し、ゲートも何も無いのでそのまま走る。真っ暗なので周囲が全く見えないが、たまにリフトの柱が見えるのでスキー場内を走っているらしい。林道法面や谷筋にはまだ残雪が見られるので、この分なら山の上もまだ残っているだろう。やがて大きな建物が見えると施錠された鎖による車止めが現れ、右手に苗場山登山口の看板が出てきて、広い駐車スペースも出てきたので、ここがネットの山行記録で出てきたゲートらしい。車は2台止まっているが山頂の小屋で宿泊だろう。こちらは日帰りなのでパッキングはあっという間に終わってしまい、酒を飲んで0時前に寝た。夜中に次々に車がやってくる音が聞こえたがあまり気になることなく寝ていられた。

 翌朝、4時ちょっと前に自然に目が覚めて朝飯を食って出発だ。お隣の車も飯を食って出発準備中らしいが他の車はまだ動きはない。夜中にやってきて睡眠時間不足でまだ寝ているのだろう。雲が多いが地平線近くには空も見えており、天気がどう推移するのかイマイチ予想が難しいが、予報では曇りだったので麦わら帽子は止めて傘を持っていくことにして4時半過ぎに出発した。昨日購入した虫除けも忘れない。

和田小屋まで続く林道 和田小屋。駐車場から歩いて約20分
和田小屋から登山道に入る 雪解け水で登山道は沢になっていた

 

 ネットで見たときには林道を歩くのかと思ったら出だしは登山道でこのまま登るのかと思いきや、林道のカーブをショートカットしただけで林道に合流、その後は和田小屋まで林道を歩いた。小屋は車道が通っているので立派で新しそうであった。登山道はゲレンデ脇から樹林に入り、ゲレンデの隙間を縫うように登っていく。さすが100名山でかなりの登山者がいるようで登山道は表土が流出し火山岩がゴロゴロした河原のような状態の区間が多い。一度溝ができると雨が降るたびに水が流れて土が洗い流される悪循環に陥るのだろう。この時期だと雨が降らなくても雪解け水で同じことが起きるようで1カ所水が流れている場所があった。

広い残雪帯。足跡が無く目印が頼りで楽しめる こっちはさほど広くない残雪帯

 

 リフト最終駅を越えるとやっとスキー場ともおさらばだ。所々でまとまった残雪帯があり夏道が埋もれてしまっているが、目印があるのでさほど迷うようなことはなく、逆にルートファインディングの楽しみとなった。しかしこれでガスっていたらこんなだだっ広い尾根では正しいルートを探るのはほとんど無理なのではないか。まあ、そのためのGPSなのだが、今のところは標高が上がると雲が薄くなり予報より好天が期待できそうで帰りの心配をしてGPSの電源を入れる必要性は感じることもなくタダのお荷物である。

樹林が開けた上ノ芝 神楽ヶ峰の稜線に乗るとたっぷりの残雪
神楽ヶ峰山頂。三角点は無くなっていた 神楽ヶ峰から見た苗場山

 

 標高が上がると徐々に木の高さが低くなって所々で樹林が切れて視界が開ける。左手には雪がたっぷり残った尾根があるが田代スキー場から登ってくるコースのようだ。これならスキーで滑れそうだがここまでスキーを担いでくるのも骨が折れるから誰もやらないだろう。神楽ヶ峰の主稜線に乗るとかなり雪が出てきて稜線南側を埋めている。3週間前にナラズ山から見た苗場山はかなり白かったのでだいぶ融けてしまっただろうがまだ雪は残っているだろうとの予想は正解だった。そのせいか虫はまったくいなくて虫除けを使う必要もなかった。ほぼ水平に歩くと道ばたに標識があり、そこには神楽ヶ峰と書いてあるではないか。ここは稜線上ではなく僅かに東に巻いた場所で、稜線に登ると三角点基部に埋められている石板が残るだけで三角点は無くなっていたが山頂に間違いない。神楽ヶ峰はもう少し立派な山頂だと思っていたが何とも小さく狭い山頂で、何も考えずに歩いていたら通過してしまうだろう。

 この先は苗場山へ登るのに一度下るので、面倒だからメインザックをデポしてアタックザックで龍ノ峰を往復することにする。計画立案当初は龍ノ峰まで行く気力が残るか心配していたがここまで全く疲労を感じずに登ってきたので行かないのはもったいなさ過ぎる。天候は快晴で麦わら帽子を持ってこなかったのが悔やまれるが、代わりに雨傘と日焼け止めを持つ。水と飯も忘れない。危うくGPSを忘れるところだったが龍ノ峰のなだらかな地形ではGPS無しでは山頂の発見は難しいだろうから必需品である。

雷清水。ペットボトルが謎 苗場山へと登り返す

 

 下りにかかると雪が出てくるが西側なので少ない。雷清水と表示が出た水場で水を飲んだが、水場にたくさんあったペットボトルは何であろうか? 各自ここで水を汲んでこいということ?? 最低鞍部はお花畑の表示があったが、咲いているのはシラネアオイくらいだった。登ってくる途中で見られたのはイワカガミとショウジョウバカマくらいだっただろうか。花に詳しくない私が書いても見落としが多いだろうけど。

苗場山山頂の一角に飛び出す 苗場山から見た佐武流山方面
山頂に建つ遊仙閣 苗場山山頂。樹林で視界なし
山頂ヒュッテ 龍ノ峰/小赤沢方面ルート

 

 苗場山への登りは見るからに急な尾根で雪が付いていたらとんでもない場所だろうが夏道はジグザグっており危険は全くなく、傾斜が緩んで雪が出てくると広大な山頂の一角に飛び出した。もうかなり雪は融けてしまったが点々と雪田が残っているのが見え、雪解け直後の池塘群も姿を現して初夏の様相だ。僅かに下って登り返したピークに山小屋が2軒建ち、手前の遊仙閣横が山頂の三角点があるのは前回の山行で知っているので迷うことなく山頂に向かい、写真だけ撮影して龍ノ峰に向かう。山頂ヒュッテの先は長い残雪帯で真新しい足跡を辿って木道まで雪の上を歩いた。足跡の向きは下りで数人分はあるだろうか、昨夜小屋に宿泊して今朝下山した登山者のものだろう。そういえば苗場山への最後の登りで祓川へと下山する男性とすれ違ったが、足跡の濃さからすると秋山郷方面の方が人数は多いのは間違いない。

小赤沢との分岐から龍ノ峰方面への木道 残雪帯はトレール無しでルートを推測しながら歩く

 

 秋山郷へと下るルートと佐武流山へと向かう県境縦走ルート分岐には赤倉山の案内標識も立っており、県境方面にも木道が続いているので正式にこのルートは開通したらしい。まあ、3週間前のルート状況からすると苗場山まで刈り払いが続いていてもおかしくはないが。問題はこのルートは龍ノ峰山頂を通っているかどうかで、下手をすると藪漕ぎが必要かもしれない。まあ、龍ノ峰は地図を見るとなだらかでだだっ広いのでここが山頂だと言える明確な地形は存在しないだろうから、登山道がそこそこ近くまで通っていれば目くじらを立てるほどのことはないだろう。たぶんGPSでしか正確な山頂は特定できないだろう。

木道終点 でもはっきりしたルートが続く
GPSで残り30mから藪に突っ込む 藪を飛び出すとGPS表示上の龍ノ峰山頂
DJF氏の目印。場所は正確!

 

 分岐から少しの間は木道が出ていたが、僅かに尾根のように盛り上がった場所を過ぎると雪田が始まり木道が埋もれてルートが分からなくなり周囲を注意しながら下ると無事出てきた。この周囲は樹林帯で笹で覆われているようだが、木道が設置された場所は刈り払われている。湿原地帯よりも西側を通っているらしい。このまま木道が続くと思ったら不意に終わってしまい、雪はないがルートはイマイチ薄くなるが目印が多いので迷うことはない。進んでいくと刈り払われたしっかりした道になり心配なくなったが、GPSの表示では龍ノ峰山頂まで約100m前後で残り距離が変化しなくなった。山頂の方向は一貫して南を指しているが、南に進んでも距離が減らないのはおかしいではないか。衛星の受信状況を見ると5つ以上見えているので測位は正確に行われているはずで、何が起きているのか全く分からなかった。電源を一度切って再投入しても結果は同じ。こうなったらGPSが示す方向は無視して距離が減る方向に歩いてみるしかなく、東に歩くと距離が減ることが分かったので道を外れて向かうことにした。しかし足がハマる可能性があるし湿原を踏み荒らすわけにはいかないので藪の境目を歩き、これ以上距離が縮まらないところ(残り距離約30m)からは藪に突っ込んだ。幸い、あまり濃くない笹+シラビソ中心でさほど苦労なく藪漕ぎが可能で、GPSの残り表示を見ながら直線的に進むと再び湿原に飛び出し、そこで距離がほぼゼロになった。特に高い場所があるわけではないがGPSが指し示す、日本山名事典に示された正確な山頂である。そこにはピンクの目印がぶら下がっておりDJFの署名があった。さすがDJFもGPS使いなので正確無比だ。この付近の湿原は小規模で樹林の中に分散しているので周囲の風景が見えないのは残念だが藪の中よりはマシだろう。休憩しながら無線を運用した。

 帰りは同じルートを辿り苗場山山頂直下の湿原地帯で休憩、まだ時間が早いせいか他の登山者は若者3人しかおらず静かだった。頭上は晴れているのだが北以外は雲が出て山は隠れてしまっているのが残念だ。唯一見えるのは白砂山までの稜線で佐武流山が盟主なのは言うまでもない。右肩におまけのように付いている猿面峰はもう雪は残っていないだろうな。ナラズ山東面の雪も僅かに残るだけだった。上ノ間山以東は雲の中、志賀高原の山も雲の中で見えなかった。軽く飯を食って給水してから出発した。

 神楽ヶ峰へと向かう途中で徐々に登ってくる人の姿が増えてきた。雷清水では20人近い中高年の大集団が休憩中で、これぞ100名山の様相だろう。神楽ヶ峰で休憩している人は2人だけと静かだった。デポした荷物を回収して霧ノ塔に向かうが、登ってくる時には霧ノ塔方面への分岐に気づかなかったので注意深く周囲を見ながら歩いていくと主稜線から登山道が離れる場所に分岐標識を発見、しかし霧ノ塔方面の夏道は雪田に埋もれてルートは定かではないし、足跡も残っていないのでルートが分からず稜線に上がって尾根を正確にトレースしたが雪が切れて藪が待ちかまえていた。刈り払いが見あたらないのでもっと手前を巻くように夏道があると推測できたので戻りつつ刈り払いを探したらありました、僅かに夏道が出た場所に笹の刈り払いが。ここで再び荷物をデポしてアタックザックで出発だ。先ほどはアイゼンも持っていったがもう必要はないだろうから置いていくことにする。

小松原湿原方面分岐付近から見る霧ノ塔 1984m峰へと登る
1984m峰を振り返る 2010m峰を越え霧ノ塔への最後の登り

 

 夏道は再び雪に埋もれて分からなくなるが、今度は目の前に見えるピークのてっぺんまで雪が続いているので夏道を気にする必要はなく適当に歩けばいい。傾斜は大したことがないのでトラバース気味に鞍部に下り尾根上を登り、1984mピークのてっぺんは通らずに雪が融けて顔を出している夏道でわずかに巻く。ピークの下りも大量の残雪が続くが夏道が出ているのでそちらを歩き、道が残雪に消えた後は適当に歩いた。やがて2重山稜となり真ん中の谷を歩いたのは失敗で、右の尾根上に夏道があるのだがどんどん尾根が高くなり藪の区間が長くなった。どこか尾根と雪が接近する場所があるかと先に進んだがダメで逆戻りし、少しだけ藪漕ぎすれば尾根に取り付けるところまで戻って夏道に這い上がった。

 ここからは雪が消えて夏道区間、南斜面なので日差しがあると暑いし、なんとこの区間だけ虫が多くきつい登りで速度が落ちるのでまとわりつかれて何カ所か刺されてしまった。虫除けはサブザックに入っているが、こんなところで足を止めてのんきに虫除けスプレーを取り出していたらその間にボコボコにされてしまうので手で虫を追い払いながら進み、2010mピークで樹林の木陰に入ると虫がぱったりといなくなって助かった。再び尾根東側の残雪帯に乗って鞍部から登り返したところがGPSが示す霧ノ塔山頂だった。

霧ノ塔山頂 霧ノ塔から見た神楽ヶ峰

 

 山頂一帯は残雪に覆われ笹が広く刈り払われているのか分からないが、おそらくは一般的な山頂は三角点付近と解釈されるだろうからここは通過点として扱われていると思われ、山頂標識はなかった。でも背の高いシラビソもなく明るい場所で無雪期でも見晴らしは良さそうだ。虫はかなり少ないので帰りに備えて虫除けスプレーで手足を保護するが、足は3カ所刺されていた。腹が減ったが大して時間はかからないと思って飯を置いてきてしまったので食うことはできないので我慢だ。

 帰りは下りで残雪を使えるところは使いつつグリセード、登りはできるだけ夏道を使って体力をセーブした。虫除けの効果は抜群で帰りは全く気にならなかった。これなら最初から付けておけば良かったかも。いつのまにか雲が下がってきてガスの中に入ってしまったが、稜線ははっきりしているので問題なし。やはり天気予報通り寒気の影響で午後からにわか雨の可能性があるのだろうか。デポしたザックを回収して、笹の上にザックを転がした上に座って昼飯でエネルギー補給をしていると、ガスの中から団体様が上がってくるのが見えた。思ったよりもザックデポ地点は分岐に近かったようだ。一面の銀世界では人がいないといまいち位置関係がはっきりしない。あとは登山道を淡々と下るだけで、残雪帯もはっきりと足跡が残っているので全く心配がなかった。といいつつも登りの記憶が残っているので夏道はできるだけ使わずに残雪帯を長く歩いて滑りながら下ったが。河原のような石がごろごろした区間には雪解け水が流れ出して川のようになってしまい、縁や石の上を伝わって歩いた。朝は流れていなかったが昼間は結構な水量になっていた。

 和田小屋前に到着すれば林道歩きのみで駐車場だ。林道脇の藪の中からガサゴソ音がしたが熊ではなく山菜取りの人であった。駐車場近くでも山菜取りの人の姿が多く、駐車場の車のうちどれくらいが登山者のものなのかよくわからない。その駐車場はかなり埋まっていた。着替えを済ませて車を走らせると林道のあちらこちらに山菜取りと思われる車が駐車しており大にぎわいだ。昨夜上がってきたときには気づかなかったゲートが閉まっていて隣の小屋に人が詰めていたが、前を走る車を見てゲートを上げてくれてそれに続いて通過したが何も言われなかった。このゲートの意味は何だろうか? あれだけ上に車が入っていたのだから地元民以外の山菜取りを閉め出すためとも思えないが、もしかしたらゴミの不法投棄防止のためだろうか?

 帰りの温泉は湯沢市街地が一番近いと思われたが、東京とは反対方向に走ることになるので帰り道のどこかで入ることにして車を走らせると県境を越える前に「街道の湯」との看板を発見、湯沢町営の立ち寄り湯で\600であった。虫さされと半ズボンで藪漕ぎした傷が湯にしみた。三国トンネルを抜けると天気が悪くなるかと思ったら湯沢と変わらず雲の隙間から青空も見えていた。それどころか高速に乗って南下すると徐々に天候が回復して東京はほぼ快晴と天気予報が大はずれだった。これなら南ア北沢峠周辺の山にでも登れば良かったかな。



 

 

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