南会津 大戸沢岳、会津駒ヶ岳 2006年4月15日
大戸沢岳はマイナーな山であろう。場所は南会津、会津駒ヶ岳の東隣にあるが夏道はなく(たぶん)、主に残雪期に登られるであろう山である。標高は2000mをちょっと越える程度とやたら高い山というわけではないが、豪雪地帯の檜枝岐に位置するから遅くまで雪が残る山である。駒ヶ岳の続きなので地形はなだらかで、残雪初心者に最適な山といえよう。昨年、暇があったら登ろうと考えているうちに残雪期が終わってしまい登れなかった山である。
今年は春の天気変化が早く、週末2日とも雨が降らない日がない。今週も土曜はどうにかなるが日曜は低気圧の接近で全国的に雨との予報が出ており、残雪の山で日帰り可能な場所は限られているため、大戸沢岳に白羽の矢が立った。もう一つの候補として鹿島槍東尾根の一ノ沢ノ頭があったが、地形図を見ると最後の傾斜が強烈で、まだ左足かかとが完治していない状態で、しかも今年はまともな残雪の山と言える場所に行っていないうちにそんな場所にアタックするのは危険だろう。それに来週くらいになれば踏跡ができている可能性もあり、もう少し先に延ばした方がいいと判断した。その点、大戸沢岳は安全である。
ルートは昨年から考えていた南尾根直登コースとする。駒ヶ岳経由でもいいのだが遠回りになるので、どうせ残雪期はどこでも歩けるから一番近いコースがいいだろう。南尾根から登って天気、時間、体力に余裕があれば駒駒ヶ岳を周遊して下るのもいいし、条件が悪ければ南尾根を下ってしまえばいい。地形図を見る限りではヤバそうな傾斜はなく、南から登るので日当たりも良く雪が締まって歩きやすいと思えた。まだ4月中旬だと北斜面は雪が締まらずラッセルの可能性が高い。地形図を見て問題無しと判断したのでネットで調べなかったが、もしかしたら南尾根にも山スキーの跡が見られるかもしれない。会津駒は山スキーでも有名だ。
檜枝岐は東京から遠い。高速道路は東北道西那須野塩原ICが一番近いのだが(大泉ICから約160km)、そこを降りてから一般道が長い。なんせ群馬、福島、新潟の県境に近い場所であり、東北道からかなり西に入らないといけない。心配なのは路面の凍結状況で、一般的には今頃は問題ないが、ちょうど週末は寒気に覆われ気温が下がり、檜枝岐の予想最低気温が−3度、峠付近ではもっと下がるだろうから、昼間の雪解け水が路面上を流れている場所があれば凍っていてもおかしくない。まさかこの時期にチェーンを付けるのも面倒だし時間がもったいないので、場合によっては北回りで峠越えをパスしてもいいかもしれない。
会社から帰って急いで支度を整え出発。アパートから練馬に向かうには中央線、西武新宿線、西武池袋線の3つの鉄道を突っ切るので時間がかかる。一応、裏道を多用して通り抜けるのだが踏切だけはいかんともしがたい。数年後には中央線が立体交差になって踏み切り渋滞は解消される予定であるが西武線がねぇ。特に池袋線がネックである。といいつつもやっぱり中央線がもっとも時間がかかる。外環道→東北道と乗り継ぎ、久しぶりの東北道を走る。東北道を走るのはもしかしたら2年ぶりかもしれない。2004年5月に燧ヶ岳に行ったのが最後だろう。檜枝岐は実家にいた頃も含めて何度も通った道なので地図を見るまでもなく順調に走る。北関東は思ったより天候の崩れが小さく、栃木県に入ると月が顔を出した。
西那須野塩原ICで降りて国道400号線で尾頭トンネルに入るがトンネル周囲に雪は見えない。出口にちょっとだけあったがすぐに無くなってしまった。はたして桧枝岐村はどこまで標高が上がったら雪が出てくるのだろうか。国道121号線を北上、県境の山王トンネル周辺も全く雪がない。しかし国道352号線に入って西に進み、中山トンネル向けて標高が上がると雪が出てきて一安心。しかし車の運転では心配の種で、予想通り雪解け水で路面が濡れた箇所があり、所々にある気温表示板は-1〜-2度なので凍結のおそれがある。気温よりも地面の温度の方が高いだろうから簡単には凍らないと思うが、カーブで水があるところは徐行して通過する。少なくとも完全に凍結した箇所はなかった。伊南村に入ると峠でなくても道路脇でも雪が現れるようになり、以前利用した三岩岳登山口は標識が埋もれて発見できないくらい雪が残っていて、これなら大戸沢岳南尾根は下から残雪を歩けるかなと安心する。
国道沿いでもこれくらい雪が残っている | 会津駒ヶ岳登山口分岐 |
分岐からすぐに除雪が終わる | 国道を少し戻ったところに駐車場有 |
やがてでかい会津駒ヶ岳登山口案内標識が出現し、車を置ける場所を確認するために右折したが、100mも進まないうちに橋を渡った直後に除雪が終わって車を置く場所がない。周辺をうろついた結果、200mくらい戻ったところに桧枝岐温泉郷の標識があって北に入る分岐があり、路線バスが駐車している広い除雪された広場があったのでそこに駐車することにした。もしかしたら無雪期はここが駒ヶ岳登山客用駐車場なのかもしれない。除雪の雪が積み重なっているのだろう、2mもあろうかという雪の壁だった。ここから登山口まで歩いてもいいが、どうせ南尾根に乗るならばこのまま直接枝尾根から取り付いてもいいだろう。酒を飲んでパッキングを済ませて寝た。
雪が締まった時間に高度を稼ぐべく日の出30分前に起床、お湯を沸かして朝食を取り出発する。左足かかとの傷は完治していないが、もう抜糸は済んで化膿した部分の治りを待つだけだ。とはいえ登山靴で傷を押すと痛みがあり、ガーゼを重ねた上にテープを貼られた状態では厚みがありすぎて山靴を履くと痛いので、医者には申し訳ないがテープを剥がしてガーゼを取り払い、いつもまめ予防に使っているテーピングを傷に貼っておく。でもやっぱり歩くと痛いが先週よりはずっと状態はいい。
ここから斜面に取り付く | 尾根東斜面だけ残雪 |
尾根に取り付くため奥の建物の方に近づくとまだ朝5時だというのにもう作業をやっているため、少し離れた場所から雪壁をよじ登って斜面に取り付いた。やや雪は少ないがずっと雪面が続いているようである。とりあえずアイゼン無しでブナ林を登る。雪質は最高でほとんど沈まず、表面はクラストしてアイゼン無しでも全く滑らない。これこそ残雪期の山であろうが、まだ標高が低いせいか尾根頂稜は雪が無いので東斜面を登る。1207m標高点がある枝尾根の東斜面を登っていたのでやがて傾斜がきつくなってアイゼン装着、アイゼンの歯しか雪に食い込まないので快調だ。しかし雪がどんどん減ってきて東斜面の傾斜がきつくなりすぎたため雪がない尾根てっぺんに登り、少しの間は無雪の尾根を歩いた。この尾根は東はブナの自然林、西はカラマツの植林で下草は無く雪が無くても藪漕ぎしなくていい。まあ、上の方は笹が出てくるのだろうけど。
1207m標高点で枝尾根消滅 | 気持ちのいいブナ林を登る |
やがて尾根のてっぺんや西斜面にも雪が出てくるようになり、雪の上を快適に歩けるようになった。僅かながらにこの尾根にも目印があり、ブナの幹にはジモティーが掘ったのであろう名前が書かれているものもあった。まさか夏道はないよなぁ? 1207m標高点でこの尾根が終わって広い斜面を登るようになる。これを下るには目印が必要そうだが今回は準備していないのでGPSに位置を記録した。ま、主尾根を下っても下る場所は大差ないので神経質になる必要はない。
雪原に立つブナ | 1524m三角点肩から見た大戸沢岳 |
左から太い尾根が合流、こちらが主尾根であるが踏跡もスキー跡もなかった。カモシカの足跡が時々現れるだけの静かな尾根だ。駒ヶ岳の滝沢登山口から登る尾根は今頃賑わっているのだろうか。1390m地点で尾根が左に曲がり肩が出てくるとシラビソも混じって高山らしくなってきた。1524m三角点肩は樹林が無くて視界良好見、晴らしが楽しめる。振り向けは日光連山、尾瀬の山が並んでいる。あの領域はほとんど登り尽くしたエリアであり懐かしい場所だ。やはり目がいくのは錫ケ岳や笠ケ岳だ。燕巣山、四郎岳も見えている。2年前に登った荷鞍山、白尾山もどうにか頭を出していた。正面には大戸沢岳山頂までなだらかに続く尾根と、会津駒ヶ岳へと続く真っ白な稜線。あの白さを見ると今年初めての本格的な残雪の山に畏怖の念を感じずにはいられず、あんなところを本当に歩けるのだろうか?と思ってしまう。気温は意外に高くて0〜-2度くらいだった。
山頂まで好展望の緩やかな尾根が続く | 山頂直下 |
南尾根を振り返る | 大戸沢岳山頂 |
なだらかな尾根の部分に入ると終始視界が開けて背後の山々が徐々に低くなっていく。雪質は相変わらず最高だが、南東から吹く風が徐々に強くなってきてTシャツのままでは寒いくらいなのでシャツを着た。日差しがまぶしく顔が日焼けするぞ。真っ白な大戸沢岳東尾根が迫ってくると山頂は近く、なだらかでどこが山頂なのか定かではないのでGPSを見てこの付近だと同定する。一面の雪原で矮小なシラビソが林立、数日前にできたと思われるエビのしっぽが張り付いていた。山頂標識はなかったが、雪に埋もれている可能性はあるだろう。積雪量はどれほどなのか全く分からない。
大戸沢岳から見た会津駒ヶ岳(右側のピーク) | 大戸沢岳から見た丸山岳 |
大戸沢岳から見た奥日光、尾瀬東部の山並み |
展望は申し分なく、日光、尾瀬はもちろん、三岩岳、窓明山は簡単に往復できる距離にある。北側には懸案の丸山岳が真っ白な姿を見せているが、いつになったら登る機会がやってくるのやら。これより北の山は登る機会も少なく同定できなかったが、御神楽岳、浅草岳あたりは見えていたはずである。おっと、会津駒ヶ岳も近く、まだ時間も体力も余裕があるので駒に立ち寄って登山道がある尾根を下ることにする。その前に休憩と無線を行った。日差しがあるが風が強く、少し西側の傾斜地に陣取って防寒着を着込んで休憩した。
上空に薄雲が出てきたようだが、まだ天候の大きな崩れはないのでのんびり歩く時間はありそうだ。駒ヶ岳へのなだらかな尾根をお散歩だ。足跡は無いがスキーの跡が何となく筋として残っているが2本くらいだろう。駒ヶ岳まではたくさん人が来るのだろうが、そこから先になるとほとんどいないようだ。この尾根は無雪期の藪はどんなものだろうか。駒ヶ岳山頂付近は背丈を超える強烈な笹藪だったのでたぶんここも笹の海なんだろうな。
会津駒ヶ岳山頂。みんな雪の下! | 大戸沢岳(左のピーク) |
会津駒ヶ岳から見た平ケ岳 | 会津駒ヶ岳から見た越後駒(右)、中ノ岳(左) |
会津駒ヶ岳から見た至仏山(左)、景鶴山(中央の突起) | 会津駒ヶ岳から見た燧ケ岳 |
2098mピークは北側を巻いて緩やかに登り切ると10年ぶりくらいの会津駒ヶ岳山頂だ。あの高さ3mはあろうかと思われる山頂標識はかけらも見あたらず完全に埋もれているらしい。もちろん笹のさの字もなく、遮る物のない360度の大展望である。西側には2年前に登った景鶴山の尖った小さなピークが目を引く。越後駒、中ノ岳、平ケ岳が真っ白なのは当然で、至仏山も真っ白、その奥にはやはり白い上州武尊の姿が見えた。空気の透明度は思ったほどではなく、その先は霞んでみなかった。
駒の小屋 | 小屋からスキー跡多数の尾根を下る |
時間は早いが本日の予定は終了、駒のおまけまでついたので大満足で下山だ。さすがに駒ヶ岳山頂は足跡、スキー跡が多数で訪問者の多さが分かる。大戸沢岳南尾根でも地形図を見る必要はなかったが、下りは目印、トレールでこれまた地図は不要だろう。半分雪に埋もれた駒の小屋目指して下山開始、小屋前で本日最初のお客さんとすれ違う。山スキーヤーではなくこっちと同じツボ足組で、ノーアイゼンにストックの格好だ。こっちはピッケルだがこの山では出番がない。お互いに天候の良さと雪質の良さを喜んだ。
大戸沢岳南尾根を左に見ながら下る | 山スキーヤーが何パーティーも登っていく |
尾根にはスキー跡が多数あり残雪期用目印もたくさんあって安心できるコースである。傾斜も緩やかで残雪初心者入門用に最適と思える。部分的に急な場所もあるがトレールがあるので問題ないだろう。もう10時を過ぎて雪が緩みはじめて下りでは踏み抜くことも多くなりワカンを出そうかと悩むところだが、下りだからいいかとそのまま我慢して歩いた。駒の小屋を少し下ったところでアイゼンは外してあるので、緩んだ雪の上をグリセードも交えて下っていく。やがて徐々に登ってくる人の姿を見るようになるが大半は山スキーの人たちである。スキーなら踏み抜きもなくて楽だろうな。ツボ足の人は全体の1/4程度だった。山スキー、ツボ足を含めて全部で30人くらいだった。
急な場所もトレール有りで安心 | まだまだ雪がある |
雪に埋もれた林道とぶつかる | 建物のところが除雪終点 |
尾根が右に屈曲するところで外しそうになり、そのまま適当に下ってしまおうかとも思ったが右手の尾根てっぺんに戻って踏跡に合流する。そのままルートを下ると木製の階段が出現し雪に埋もれた林道に出た。あとは林道を歩くらしいがめんどうなのでそのまま尾根を直線的に下ることにする。足跡はないが危険個所もなく、雪も残っていて順調に下り、尾根末端でルートに合流した。そこから昨夜見た除雪終点はすぐそこで、短い除雪区間に何台も車が止まっていた。登山口周辺の駐車スペースもだいぶ埋まっていた。こちらはもうちょっとだけ歩いて車に戻ると、こんなところも県外ナンバーの車で賑わっていた。
桧枝岐村の公共温泉は3カ所あるようで、最初は帰り道の途中にある「アルザ尾瀬の郷」というところに行ったが、ここは山から下山後に入る温泉ではなく温泉を利用したレジャーランドと言ったところだったのでパスし、次に近い「駒ノ湯」に向かうも営業開始が午後1時、まだ11時前なのでダメで、最後に以前にも利用したことがある「燧の湯」に向かった。駐車場に車は皆無でここも営業時間ではないのかと中を覗いてみるとお客はだれもいないが営業していたので無事入れた。
例のごとく左足を風呂から上げて入っていると横浜から渓流釣りにやってきたというオジサンがやってきていろいろ話を伺った。この人は毎年渓流釣りが解禁になった直後から桧枝岐村に入っているそうで、今年は例年になく残雪が多いとのことだった。いつもなら渓流には雪がないのだが今年はあるという。だいぶ年季が入った人で渓流釣りをやるのは解禁後1ヶ月間程度で、その後は渓流に入る人が増えて大物が釣れなくなるのでパスするのだそうだ。釣りが目的で3時間も山の中を歩いてポイントに行く人だからそここだわりも半端ではない。私はイワナの生態は知らないが、どうやら夏場に釣られてしまっても禁漁期間中に産卵のため遡上するので解禁直後はまた大物が釣れるらしい。どの趣味でも凝った人はいるものだ、って俺もそうだけど(^_^;)
どうせ明日は雨で東京に帰るだけ、時間はたっぷりあるので一般道を巡る。広大な河川敷とも言える渡良瀬遊水池で静かに寝て、夜中に起き出して一般道を走ったら2時間で戻ることができた。
所要時間
5:13出発−5:56 1207m標高点−6:15南尾根主稜線−6:38 1524m三角点−7:56大戸沢岳着−8:17大戸沢岳発−8:44会津駒ヶ岳着−8:52会津駒ヶ岳発−9:03駒の小屋−10:18除雪終点−10:21車