南ア深南部 バラ谷頭 2005年11月13日

 

 

 バラ谷頭は日本山名事典に記載された山で、2000mとしては日本最南端の山として知る人ぞ知る山といったところであろうか。以前、黒法師岳に登ったときに一緒に登っても良かったのだが、当時は山名事典はなくコンサイスに記載は無かったので寄ることは考えもしなかったが、まさか登る必要に迫られるとは・・・。登るルートとしては戸中林道から黒法師岳経由がメジャーであろうが、黒法師岳へ登らなければならないので余計な労力がかかるし、何回歩いたのか忘れたがまたあの林道歩き6kmもイヤらしい。いっそのこと適当な尾根から直接山頂か西尾根に突き上げようかと考えていたが、山渓だか岳人だかに野鳥の森経由の記事が掲載され、そういう手もあるかと真似することにした。麻布山、前黒法師山は何年か前の残雪期に戸中川にかかる吊り橋を渡って登ったが、稜線は一面の雪で夏道があるかどうか分からなかったが、記事によるとあるらしいので今度は夏道を歩くのもいいだろう。ガイド記事だと日帰りギリギリ圏内なので、できれば水が得られる東側鞍部で幕営するのがよろしいと書かれていたが、これは一般向けのマージンを持った記述だろうから、手慣れた人間が早朝出発すれば日帰りも危険では無かろう。

野鳥の森 駐車場 麻布山登山口

 

 南ア南部の丸山、立俣山が終わって天候悪化と休憩、風邪の療養をかねて2日間飯田で過ごし、本当なら白倉林道を歩いて鶏冠山、合地山をやる予定だったが好天は日曜だけとのことなので日帰り可能なバラ谷頭に切り換えることにする。どうせ登山口は近いので行き先はほぼ同じだ。土曜日の午後に移動開始、旧南信濃村(現飯田市)の日帰り温泉「かぐらの湯」で暖まり、ヒョー越を抜けて旧水窪町(現浜松市)に入って水窪ダム経由で野鳥の森に到着した。何年か前に黒沢山の帰りに林道沿いの山に登ったときに来たことがあるので見覚えがある風景である。麻布山登山口の標識があり意外に登られているらしいが、さすがに黒法師岳の文字はない。熊出没注意の文字もあるが、簡単には見られないぞ〜。せめてカモシカを見たいなぁ。

 駐車場に車を止めて飯の前にパッキングを済ませ、カシミールでコースの労力がどの程度か計算を行い、この文章をパソコンで書いた。修理した12V→20VのDC-DCコンバータは快調でテキストエディタ程度ではほとんど発熱がない。ACインバータとACアダプタを使わないで直接20Vを作るので効率がいいし配線がごちゃごちゃすることもない。今夜は冷え込むとのことなので発熱した方がいいかもしれないが。暗くなって酒を飲んで寝る。風邪の影響がまだ残っているので多めに着る物を着て厳冬期用シュラフだ。ここは標高1200m近いはずだから明日朝は氷点下だろうか。満天の星空で明日の好天は確実だろう。

 朝は腕時計の目覚ましで起きる予定だったが、厳冬期用シュラフにすっぽり潜り込むと断熱性だけでなく遮音性もいいようで、五分間隔で3回鳴ったはずのアラームは全く気づかず、薄明るくなって起きたのが5時半で、予定より30分の寝坊であった。この30分が最後の最後に大きな意味を持つことになるのだが・・・。パッキングは昨夜のうちに終わらせたので大急ぎで朝食をとり、着替えて出発したのが6時半前ですっかり明るくなってしまった。今日は長時間の日帰りになるはずなので6時には出発したかった。昨晩から止まったままの車が1台あるが、もしかしたら黒法師岳だろうか。もしかしたらどこかですれ違うかもしれないぞ(実際には私が下ったときもまだ車があった)。

紅葉した尾根を歩く

 今日のコースは標高差は大したことはないが水平距離があり、カシミールによると往復で20km弱であった。登山口から階段を登ってすぐ小さなピークを越えるのをはじめとして、緩やかなアップダウンを繰り返しながら水平に距離を稼ぐ。野鳥の森登山口はこの尾根と車道が接する場所にあるが、かなり尾根を南下したところで接しているので麻布山から離れてしまっている。水平距離が長くなっても累積標高が低くなるのと水平距離が短くなるが累積標高が高くなるのとどっちがいいのか程度問題だが、今回は労力削減と判断しよう。この標高だと紅葉のピークで地面は落葉に覆われ周囲は紅葉、歩いていて気持ちがいい風景だ。進むに従ってシラビソの割合が増えてくる。

麻布山南斜面から見たバラ谷頭(平たい山頂)と黒法師岳 登山道は良く整備されている

 

 麻布山に近づくとやっと傾斜が出て登りが始まると同時に樹林が切れて視界が開ける。右手に南北に長く同じような高さの尾根が見えるが、おそらくその北端がバラ谷頭だろう。意外に近いが前黒法師山を下るから標高差は見た目以上にある。登山道は傾斜が緩むようジグザグに付けられ、良く整備されている。所々には階段もあるがまだハードル化していないので利用価値は大きい。樹林に入るとシラビソで視界が無くなるが、この山域でこの標高だからしょうがない。肩状の場所には以前神社が建っていたと思われる場所があるが、まだ最高地点ではないので先に進む。どうも山頂一帯は以前伐採されたようで、発達したシラビソ樹林ではなくて矮小なシラビソが密集状態である。これがもうちょいひどくなると和名倉山だ。

麻布山三角点 麻布山山頂の東屋

 

 僅かに下ると崩壊した小屋が出現、以前、これ見たかなぁ。緩やかに登ると三角点の案内標識があったので立ち寄って写真を撮影、先に進むと東屋が出現、これは前回登ったときにあったな。個人で付けた山頂標識はこっちにあったが、三角点と標高は変わらないだろう。ただ、東屋付近の方が木の密度が低くてなんとなく山頂にふさわしい雰囲気はあるが。東屋の先に標識があって、これから先は標識がないから気を付けて行くようにとの趣旨。これも前回登ったときに見た覚えがあるが、今は道があるはずでどの程度歩きやすいかは行ってみてのお楽しみだ。

東屋近くの標識。覚悟が必要!? でもまだ階段が出てきたりで整備されている

前黒法師山山頂

 

 道がグレードダウンするかと思ったが今までと変わらない踏まれ方と目印の多さで迷う心配はなく、エアリアマップの赤線クラスだろう。南ア深南部とは言えそうもない。まあ、一般ハイカーが深南部の雰囲気を味わう程度にはちょうどいいかもしれない。緩やかに下って鞍部を通過、緩やかに登っていくが、これまで通りのシラビソ樹林ではっきりした踏跡が続き、そのままの道のグレードで前黒法師山に到着した。な〜んだ、ここまでいい道だったじゃないか。前に登ったときは一面の雪で夏道の存在は分からなかったが、これだけいい道では雪がある時期に登るメリットがなかったかな。前黒法師山も樹林に覆われて見晴らしは悪いが、やや木の密度が低いので隙間から日差しがあるので助かる。もうかなり距離を稼いでバラ谷頭はそう遠くないので、ここでアタック装備にして往復することにする。その前に2時間ちょい歩き続けたので休憩だ。今日は天気がいいだけでなく気温が高く、Tシャツにズボンは袖をまくって膝まで露出した状態で歩いた。このコースはここまで体に触れる藪は皆無だったので半ズボンでも歩けるし天気が悪くて雨が降っても傘だけでしのげるだろう。

下りはじめは倒木が多いが踏跡はしっかりしている 尾根が広がるとルートは左端に移る

 

 さて、ここに戻ってくるのは何時間後だろうか。ここまで来る人は少ないだろうと山頂に堂々と荷物をデポして出発した。最初の下りは倒木が多いが相変わらず踏跡はしっかりしているし目印もあって全く不安がないコースである。下るに従って尾根が広がり、コースもばらけるようで目印が見えなくなったが尾根を外さなければ問題ないので適当に歩いた。ここはシラビソに広葉樹が混じって紅葉が美しく、なだらかで幕営したら気持ちよさそうな場所だった。やがて尾根が収束するとどこからともなく踏跡が出現し目印も再び多くなった。帰りに目印を正確に辿ったら、この部分は尾根のてっぺんではなく北の端に踏跡があった。まあ、踏跡を正確に辿る必要はないが、不安に思う場合は下りの場合は左側に進路を取ればどこかで踏跡と目印が現れるはずである。この尾根は以降も尾根より北側に少し下った場所にルートが付いている箇所がいくつかあった。

最低鞍部から見た南ア深南部北部 最低鞍部

 

 最低鞍部付近は左手の傾斜がきつくなって木が無くなり視界が開け、深南部の山々が連なっていた。大きいのは奈良代山の長大な尾根から続く黒沢山で、手前の低いピークが六呂場山だろう。その向こうには合地山のピーク群が連なる。あ〜あ、こんな天気予報に化けるのが分かっていたらあっちに行きたかったなぁ。この天気にこの暖かさだから最高の山行になっただろうに。次のチャンスは冬型で寒いときだろうな。雪雲が来たらヤダなぁ。

立ち枯れた笹 シラビソ樹林に変わる

 

 鞍部から緩やかに登り始めると邪魔にならない程度の密度で笹が混じるが、数年前に花が咲いたのかほぼ全部枯れている。このままの状態が続けば下草のないきれいなシラビソ樹林になりそうだ。立ち枯れ地帯は長くは続かず、その先では笹は完全に消えて南ア南部らしいシラビソ樹林になった。1682mピークを越えてもまだまだ踏跡と目印は続き、このままバラ谷頭まで迷う場所はありそうにない。実は今日は目印は準備してこなかったので迷いそうな場所が出てくると困るのだが。

標高1800m付近で低い笹出現 以後笹が続くが膝丈で歩行に支障なし

 

 標高約1800m付近で尾根上に岩が出てくるが広い尾根なので南の下を通ると、いよいよ笹がお出ましだ。まだまだかわいいもので高さは膝丈、密度もスカスカでおまけに踏跡があるので濡れていなければ何の障害にもならない。でもこれで深南部の雰囲気が出てきたかな。傾斜は一気にきつくなって踏跡は尾根の真上を歩いたり北側を巻いたりする。笹は北側では消失する場所もあり踏跡は合理的にそのような場所は尾根を外して付いている。笹の中には鹿道と思われる筋もあって人間の踏跡と判別しにくいが、目印を見ていれば判断が付く。この後はずっと笹が続いたが高さは膝から腰までで、踏跡もしっかりあるので藪漕ぎではなかった。

肩に出るとシラビソ密度が低くなる ここが正確なバラ谷頭山頂

 

 それなりの傾斜が続くので効率的に高度を稼ぎ、山頂に近づくと徐々に木の密度が減って上空が明るくなってきた。ひょっこりと肩に出るとシラビソが点在する気持ちよさそうな低い笹原で、黒法師岳ではなく丸盆岳を思わせる風景だ。笹原の中には鹿道が縦横無尽に走り、一番高そうな所を目指して適当に歩いたが、帰りに踏跡を辿ったら左側の高まりを通っており、明らかに鹿道より踏まれた感じがあった。GPSが指し示したのは右前方のピークで、笹原を横断すると笹が切れて地面が露出し、丸盆岳や不動岳で見たのと同じ標識の背中が見えた。前に回るとバラ谷頭の文字ではなく「本邦最南2000mの地」であったが、ここが間違いなく最高地点で、2010mのバラ谷頭だろう。まあ、そんなに細かいことにこだわる必要はないか。ここが間違いなく日本最南端の2000m峰であることは変わりがない。

北の肩に立つ山頂標識 北の肩から見た黒法師岳
北の肩から見た丸盆岳、鎌薙ノ頭、不動岳 黒法師岳方向に少し下った場所から見たバラ谷頭

 

 疎林の笹原は不動岳の鹿の平と同じようで鹿が多そうだが、鳴き声や姿は見えなかった。この先は高塚山へ至る尾根だが、細い踏跡が笹の中に続いていたが鹿道なのか人間の道なのか判別しがたい。まあ、山頂の肩に乗ってからはみんなこんな感じの道だけど。黒法師岳等北側の山々の風景を楽しもうと山頂から北側の肩に移動すると、こっちに「バラ谷の頭 2010m」の標識が立っていた。う〜ん、ここは2000mの地より低いなぁ。それはさておき北側は切れ落ちて視界は素晴らしく、目の前にはど〜んと黒法師岳が聳えている。そこまでの尾根はここと同じように低い笹と疎林が続いているようで明るく、縦走したら楽しいだろうなぁ。低い笹原の中にはっきりした踏跡が下っており、鹿道なのか人間の道なのか分からないがけっこう歩かれている様子だった。この鞍部東側で水が得られるらしく、テントでも見えないかと目を凝らしたが見あたらなかった。野鳥の森の車の主はどこに行ったのだろうか? 今週挑戦予定の合地山はやや霞んでしまっているが見えている。登る頃も天気がいいといいなぁ。やっぱ今日だったら最高だったなぁ。このままガレの縁で休憩した。

 さあ、温泉の時間もあるから下山開始だ。笹尾根地帯は北を巻く部分を見落として尾根通しに歩いたりしたが笹が深くないので特に問題なく、笹が切れればルートを外れることもなく前黒法師山に到着、意外にも2パーティーが休憩中で片方は5,6人の人数でリーダーはひげ面のいかにも山男らしい面構えだった。私がデポしたザックは10年以上使用し藪漕ぎもやってボロいので、長期間ここに残置されたままで持ち主は遭難したのではないかとか話していたそうだ(^_^;) そんなにボロいかなぁ・・・。私の到着と入れ違いで出発していった。こちらは少々休憩して後を追い、直ぐ追いついて追い越した。麻布山の東屋も10人近くハイカーが休憩中で、その後もぞくぞくと登ってきていたので地元や東海地方では有名な山らしい。駐車場に戻ると駐車スペースは車でいっぱいで賑わっていた。

 竜王温泉の時間的制約があるので着替えもしないで出発、まだまだ対向車が多いので慎重に運転、水窪ダムもなぜか賑わっていた。しらかば荘の外来入浴は午後3時までで15分前に到着したら営業終了の看板がぶら下がっていたが、経営者の好意でギリギリ入らせてもらえた。ここ以外で入浴できる場所は近くに知らないので、このままアウトだったら昨日の旧南信濃村まで戻らなくてはならなかっただろう。


6:22野鳥の森−7:52麻布山−8:31前黒法師山着−8:42発−8:54尾根が広がる−9:11鞍部−9:16枯れた笹地帯−9:30 1682mピーク−9:44笹が出る−10:15バラ谷頭着−10:51発−11:14笹が終わる−11:22 1682mピーク−11:32鞍部−12:12前黒法師山着−12:27発−12:54麻布山−14:05野鳥の森

 

 

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