後立山北部 裏旭岳、小旭岳、清水岳、猫又山、猫ノ踊場 2005年6月25〜26日
猫ノ踊場と聞いて山頂だと分かる人がどれだけいるだろうか? たぶん一般人なら猫の遊び場所だろうか程度にしか思わないだろうが、実際は後立山の立派な?山頂である。場所はというと白馬岳西方の清水岳からさらに北西に延びる尾根上にあり、当然道はない。清水岳との間には猫又山があり、どういうわけかこの辺りは猫に関係する地名が集まっているようで、猫愛好家としては見逃せない場所だろう。化け猫伝説があるらしいが、なんで人跡未踏のこんなとんでもなく山奥なのにあるのだろうか。ネットで検索をかけたが沢登りやスキーで登ったというリスト類はあったが登山記録は皆無であり、期待に反しないマイナーな山で間違いなく武内級と言えよう。その武内さんもここまでは登っていないのではないだろうか。
唯一の山行記録は山頂渉猟で、筆者は清水岳から真夏に往復しているところを見るとあまりひどい藪はないのかもしれないが、なにせこの筆者の精神力と体力は武内さん並みときているから、凡人が我慢できる藪のレベルを越えていることも大いに予想される。そこで凡人は残雪期に登るのが定石だが、なにせここは白馬岳周辺の立派なアルプス級の山が連なる地帯で、いくら私が残雪期の山を歩いているからと言って未だ残雪期のアルプス級の山は経験皆無で、猿倉から県境稜線まではいいとしても清水岳まで行けるかどうか大いに不安があった。そこで森林限界の稜線はそこそこ雪が無くなって樹林帯や雪庇が残っているくらいの時期にトライするのがベストと考えた。一般的にはそれは5月下旬くらいだろうか。ところが今年は残雪が豊富であり、もう7月も近いがまだ雪が期待できるかもしれない。それに直前に6月の白馬岳の登山記録がないかネットで検索をかけたところ何件かあり、数年前の6月下旬の旭岳の写真を見てまだべっとりと東斜面に雪が着いているのを見て、これなら今年ならもっと雪があるはずだと確信し実行することにした。ただ、猫ノ踊場は標高がかなり下の方で雪解けも早いだろうから本当に大丈夫か不安はあった。まあ、もしだめそうなら清水岳や白馬岳でマッタリするのも良かろう。正直言ってたぶんそうなるとの思いの方が強かった。
本当は3日間使えると楽なのだが、土日でやっつけるための計画はこうだ。テントを担いで初日に清水岳まで登って幕営、朝一で猫ノ踊場まで往復、猿倉まで戻る。2日目の行動もきつく帰りが遅くなりそうだが、2日で登るにはこれしか考えられなかった。軽量対策で白馬の村営宿舎に泊まると二日目は清水岳への往路まで加算されるので無理と判断、荷物は重くなるがテントを背負うことにした。久しぶりの幕営もよかろう。よく考えたらまだ今年は幕営したことがなかった。幕営しようと用意したが時間が余って日帰りできてしまったことはあったが。旭岳のトラバースや清水岳から猫ノ踊場までの間でどんな雪の状態が待っているのかわからないので12本爪アイゼンにピッケルを持っていこう。以前の経験から考えれば大雪渓だけなら軽アイゼンだけで行けると思う。
猿倉駐車場 | 雪渓の末端 | 白馬尻 |
猿倉への道はロードマップを開く必要もないくらい覚えているので迷うことなく到着、1ヶ月前より車が多いが夏山シーズンとは比較にならない数だろう。1ヶ月前は山スキーヤーばっかりだったけど、さすがに雪質が悪いだろうからもう山スキーヤーはいないだろうなぁ。明日は清水岳まで行けばいいので割と遅い時間まで寝て睡眠時間を確保することにし、酒を飲んで寝た。
翌朝は飯を食って6時前に出発、今回は6mの無線設備は止めてハンディーだけにしたので軽量化されているので楽に登れるだろうか。天気は快晴で頭上には杓子岳や小蓮華岳の残雪をまとった姿が見えており、まだまだ残雪が楽しめそうだが林道の雪は皆無であった。車道から登山道に変わり、沢に沿って上がると残雪が現れ、そのすぐ上が白馬尻だった。2軒の小屋は組み立てが終わっており日中の客を待つばかりか。
稜線まで雪が続いているようだ | 真ん中の無雪帯を登る | 尾根末端から見下ろす |
そして待望の白馬大雪渓は見える範囲全て雪が続いており、雪渓上を歩く人の姿が点々と見えている。曲がった先が見えないが、ずっと上まで続いているのだろうか。普通はここでアイゼンを付けるのだろうが傾斜は緩やかで滑らないのでこのまま進む。なんせ12本爪だから重く、付けないで済むならその方が体力をセーブできる。雪はテカテカに凍っているわけではないので登山靴でも充分に摩擦が効いて適当に足を置いてもズルズル滑るようなことはない。ようやく稜線まで見えるようになったが延々と雪が続いており、今日は大雪渓歩きだけでも楽しめそうだ。一様な傾斜ではなくきついところ緩むところとあるが、きついところでもアイゼン無しで問題なく歩けるが、さすがに直線的に登るには足への負担が大きいのでジグザクを切って歩いた。
やがて傾斜が一段ときつくなる箇所が出てきたのでアイゼンを履いて登ったら、なんとそのすぐ先で谷の真ん中にある雪が消えた小尾根に夏道が出ていたのですぐアイゼンは用無しになってしまった。残念! しばし雪の消えた急な小尾根をよじ登るが、やはり雪の上と違って暑く感じる。最近は麦わら帽子をかぶっているがこのお天気では正解だろう。時々上から吹き降りてくる風が心地いい。しかし、私の姿は登山者ならざるものではなかろうか。麦わら帽子にTシャツ、半ズボンに12本爪アイゼンにピッケルだからなぁ。
雪が消えた鞍部目指して登る | 村営宿舎が見えてくる | 村営宿舎 |
避難小屋は雪に埋もれることなく地表に出ており、その先から再び雪渓歩きを楽しめる。休憩をかねてアイゼンを装着するが、雪渓のトラバースもルート整備が完璧になされておりアイゼンは不要だった。谷が右に曲がるとルートも右に曲がり、これまたアイゼンが不要な傾斜で上がっていくと正面にはほとんど雪が消えた白馬岳の山腹が見えてくる。再び夏道が出てくると今度は雪に埋もれることはほとんどなく雪解け水が流れる岩の間を上がる。高山植物が咲き出しており、ハクサンイチゲ、ウルップソウは分かるが黄色の花はわからない。たぶんなんとかキンバイの類だろう。少々大きめのはシナノキンバイだろうか。おっと、雪渓下部ではシラネアオイが咲いていたな。
ウルップソウ | ??? | なんとかキンバイでしょう、きっと |
小屋までもう少しと言うところで大休止し、雪解け水で顔を洗いタオルを濡らす。これが気持ちいいんだなぁ。本当に梅雨の間かと思わせるような天気だが、考えてみれば北陸はまだ梅雨入りしていないのだから、この辺は新潟、富山県境に近いので長野とはいえ梅雨入りしていないのかもしれない。今日も日焼けしそうだ。
県境稜線から見た旭岳 | 県境稜線から見た白馬岳 | 県境稜線から見た杓子岳、鑓ヶ岳 |
県境稜線から見た毛勝三山 | 県境稜線から見た剣岳 | 黄色くないけどキバナシャクナゲだよなぁ? |
長時間歩いたのでかなり疲労したが、今日は清水岳まででいいのでのんびり歩き村営宿舎を通過、県境稜線に達すると大展望が開ける。やはり剣岳に目がいかずにいられない。その向こうにはだいぶ黒くなったがまだらに雪が残る大日岳周辺の尾根、そして右にはブナクラ峠を挟んで毛勝三山だ。それに重なる手前の山がサンナビキ山の稜線だろうか。後立山南部は霞んではっきり見えないが、西に張り出した枝尾根は五竜の東谷山や鹿島槍の牛首山も含まれるだろう。目の前の旭岳にはたっぷり雪が着いており夏道は埋もれたままでトラバース確定だ。さて、傾斜のほどは現地に行ってのお楽しみだ。今日登っているほとんどの人の目的地であろう白馬岳は全く雪がない。
ここをトラバース | ずっと下に出たので登り返す | 太い尾根に乗ってなおも登る |
しばしの休憩を終えて清水岳に向かう。どうせトレールは期待できないが、この時期なのでラッセルがないだけマシだろう。鞍部に降りてアイゼンを装着、傾斜が急そうなので夏道ルートと思われる場所よりやや下をトラバースしたが結果的に失敗で、夏道ルート直下が雪の壁になっており一番傾斜がきつかった。気づいたときには傾斜が緩い部分ははるか上方で登り返すのは大変なので下に見える傾斜が緩い地帯目指してバックで下った。小尾根に突き当たると雪が消えるのでアイゼンを外して岩稜帯を登るとはっきりとした太い尾根に合流、ハイマツが混じるが岩の方が多くルンルン気分で登っていくと夏道のマーキングが現れた。だいぶ下を歩いていたようだ。
裏旭岳への稜線も雪 | 裏旭岳山頂 | 西側から見た裏旭岳 |
裏旭岳への稜線も大量の雪が残っており、雪の感触を楽しんで歩くとGPSが示す山頂に到着、旭岳から最初のピークを示した。ここは同じような高さのピークがいくつも並んでいるので地図で見るより正確な山頂はわかりにくい。ここで無線をやったのは何年前だったろうか? まだGPSも無くてガスって視界はなかったし、本当にここでやったのか自信がない。それを言うと小旭岳山頂の方がもっと自信がないが。
裏旭岳から見た小旭岳、清水岳 | 小旭岳下から見た裏旭岳、旭岳 | 小旭岳の残雪 |
裏旭岳の下りは完全に雪が消えてジグザグの夏道を下る。足跡皆無でしばらく人が歩いた気配はないが、あと半月後には縦走する人も出てくるだろうか。清水岳へのルートはもともと歩く人が少ないからなぁ。鞍部から小旭岳に僅かに登り返した風通しのいい雪原で腰を下ろし休憩、昼飯を食う。夏道は小旭岳の南を巻いているが、裏旭岳から遠目に見たところでは旭岳のように巻き道は雪に埋もれているらしい。傾斜がどんなものか不明だがまさか突破できないなんてことはないよなぁ。
小旭岳直下 | 小旭岳山頂 | 小旭岳西側稜線を下る |
充分休憩を取って出発。夏道入口を捜して小旭岳に登っていくがそれらしき切り開きがなく、見下ろすと遙か下にそれらしき筋があるではないか。どうも入口を通り過ぎてしまったらしいが、今からそこまで下るのは悔しいので、せっかくだからと小旭岳山頂を乗り越えることにした。幸い、山頂直下まで雪庇が残っていてハイマツは埋もれているのでアクセスは楽であろう。大した傾斜でないのでノーアイゼンでジグザグを切りつつ標高を上げ、雪が終わった場所で稜線のハイマツに取り付く。完全に寝ているわけではなく高さ1mちょっとあるので漕ぐと言ってもそれなりに大変で、できるだけ薄いところを選んだり、草付きや灌木帯になっている北側を歩くようにするが、北側は傾斜が急で転落のおそれもあるので主に稜線のハイマツ帯を登る。
小さな肩から一登りで小旭岳山頂に到着、視界良好でここが山頂に間違いない。山頂はハイマツが白骨化して枯れた場所で藪が切れている。人工物はなくほとんど登る人がいないだろう。前回はガスの中で視界なしの中を登ったが、無線をやったのはこんな場所ではなくガレ場を登り切ったハイマツの中だったので正確な山頂ではなかったらしく、今回で汚名返上だ。巻かずに稜線を歩いて正解だった。西側の稜線は切れ落ちてハイマツ帯を迂回できないので我慢してハイマツと格闘、小さな肩のガレ場に出ると見覚えがある。どうやらここで山頂を誤認したようだ。ここから山頂まで5分くらいだろうな。そこから慎重にガレ場を下って夏道に出た。無雪期を考えると山頂より僅かに西側のガレ場を稜線めがけて登り、ハイマツを分けて山頂に至るのがもっとも藪の距離が短いベストルートだろう。
西側から見た小旭岳 | 小旭岳、裏旭岳、旭岳、白馬岳の連なり | お花畑の登山道を歩く |
だいぶ清水岳は近づいたがまだ登りがある。砂礫帯を歩くと本当に夏山気分だ。お花畑もちらほら出現、大きな雪田末端で雪解け水が流れ出している場所でいったん荷物を置いて、他に幕営適地がないか探すことにする。基本的には雪さえあればコンロで溶かして水を得られるのでどこでテントを張ってもいいが、雪解け水があるなら燃料を消費しなくていいのでその方がいい。清水岳南東の2690mピーク鞍部も雪渓の末端で、さっきょり多く水が流れているし、雪解け直後でまだ草が出ていない乾いた平地があし、なんと言っても鞍部で周囲のハイマツより低く、夕立の落雷もここなら大丈夫そうだし、天気図から予想される西風の影響も清水岳が遮ってくれそうだ。無雪期は水がないので幕営は難があるが今の時期は好き放題だ。携帯電話がつながるのは清水岳山頂付近だけだったが、ここだと雷雨の時にヤバ過ぎるためパスした。明日歩く尾根を見下ろすと予想以上に残雪があり、遙か遠くの平べったい尾根はべっとりと雪が着いていたので、これなら思ったよりも楽に行けそうだと一安心する。
清水岳山頂 | 清水岳山頂から猫ノ踊場を見る | 雪渓の末端でテントを張る |
テントを張り終わればもうやることがなく昼寝と決め込むが、強い日差しに暑くて寝られない。夕立の可能性があると予報ではいっていたが午後でこの状態ではなさそうだ。それは結構なことだが森林限界を超えた場所では日よけはなく、テントの中は蒸し風呂だし困ったものだ。夕方になってやっと涼しくなり、まだ明るい6時に酒を飲み始めた。その前に展望を楽しもうと清水岳山頂に行ったがやや霞がかかって期待はずれだった。明日朝に期待しよう。7時過ぎにはアルコールが回って熟睡した。時々テントが風に揺れるが強風と言うほどではなく静かな夜だった。いや、雷鳥のグエーという情けない鳴き声がにぎやかだったか。ICレコーダで録音しておけばよかったかな。今回の山行では雷鳥の姿は見えなかったが夜中の鳴き声はにぎやかだった。
翌朝は3時半起床、薄雲が出ており4時ではまだ暗く、4時半近くになって出発した。厳しい行程が予想されるので荷物を切りつめて10リットル?のアタックザックに入りきる荷物だけ持って出発した。朝露でハイマツはたっぷり水気を含んでおり、下半身びしょ濡れになるのは間違いないので最初からゴアとロングスパッツで武装した。
清水岳山頂から僅かの間は稜線右手の草付きを歩けたが、やがて右手は崖になってとても縁を歩ける状況ではなくなったので覚悟を決めてハイマツの藪に突入する。これがかなり手強い藪で足が地面に着かない空中散歩も久しぶりだ。できるだけ崖との縁近くを歩くようにするが寄りすぎてハイマツの間からすっぽ抜けると地獄に一直線なのでわずかに山肌寄りにルートを取る。今は下りだからまだいいが、こんな所を登り返すとなると猫ノ踊場へ行く元気がなくなって当然だろう。こんな藪が続くんじゃ撤退しようかなぁと迷いつつも最初の鞍部まで行けば雪が残っているのが見えているので勇気を振り絞る。
ハイマツの海を抜け出す | 2530m肩から見た2513mピーク | 2513mピークから見た清水岳 |
2530m肩でやっと稜線右手崖側の傾斜が緩んで、藪がないガレを歩くか残雪が使えるようになり一気にスピードアップだ。もうこうなれば撤退の2文字は頭から完全に消滅し、何が何でも猫ノ踊場まで行くんだとの思いだけになる。雪庇の融け残りもかなり後退し、稜線からずり落ちたところで引っかかった状態だが注意して歩けば大丈夫なようなのでクレバスに気を付けながら雪の上を歩いた。稜線は右側直下は草付きで藪が無いのはいいが、傾斜がそれなりに急でカモシカの通り道は人間ではスピードが落ちるだろう。所々、雪の上にもカモシカの足跡が残っていた。
2513mピーク山頂 | 2513mピークから見た猫又山、猫ノ踊場 | 西から見た2513mピーク |
2480m鞍部からの登りもずっと雪がつながっていて難なく2513mピークに到着した。しかしここで雪がとぎれ、西側に足を踏み入れると清水岳直下と同様の猛烈なハイマツの藪であった。下の方には雪が見えるのでそこまでの我慢と、アイゼンを脱いで藪漕ぎ開始だ。だだっ広い尾根で地形がはっきりしないが、できるだけ右手に進路を取って進むと突如としてハイマツが切れてガレと草付きに出た。いままでの尾根と同じパターンだ。振り返ると山頂直下北側までこのガレが延びており、帰りはほとんど藪漕ぎなしでピークに立てそうだった。正直に西側にルートを取ったのは失敗だった。
2460m肩から見た猫又山、猫ノ踊場(一番奥) | シラネアオイの群落 | 2350mピークに登る |
2470mピークは残雪を頼って右を巻き2460m肩から一気に高度を下げる。ここもほとんど残雪が使えたが、この時期は雪解けが進んでクレバスが口を開けているので特に融け残った雪の壁が細いところでは注意が必要だ。それは承知なので注意しながら歩いたのだが、1カ所で雪を踏み抜いて高さ3mくらいのクレバスに転落してしまった。そこは雪がかなり細くてくさび状にクレバスが延びた末端で、要注意箇所だと思いながら歩いたが1歩踏み出したらズボっといってしまった。幸い、クレバスの中に雪の段があり、最初にそこに落下してショックを吸収され、そこから1mくらい下の湿った地面に落ちたため顔をすりむいただけでけがが無くて助かった。また、地面の傾斜も緩やかだったので容易に脱出できた。これが雪の割れ目だと脱出が難しい場合もある。しかしまあ、まさか本当にクレバスに落ちるときが来るとは思わなかった。これ以降、やばそうな場所は藪があってもガレや草付きを歩くことにした。
2350mピークから見た2460m肩 | 2350mピークから見た猫又山 | 猫又山山頂 |
意外にキリリと締まった2350mピークに登り返すといよいよ猫又山が目の前だ。藪を突き抜けて再び雪に乗ればそのまま楽々猫又山まで雪が続き、とうとう山頂に到着した。山頂北側は大量の雪に覆われたままだが最高点は藪が出ており中に入ったが人工物はいっさい見られなかった。さすがマイナー中のマイナーな山だ。まだ時間が早く交信相手確保に苦労しそうなので無線は帰りにやることにし、最終目的地である猫ノ踊場に向かう。ここから見える横に広がるなだらかな稜線がそれであろう。
猫又山から見た2350mピーク | 猫又山から見た猫ノ踊場 | 猫ノ踊場から見た清水岳。遠い! |
残雪を伝わって西側の2300mピーク直下に到達するとお花畑が広がっている。山頂渉猟著者はこのピークを猫ノ踊場としているが山名事典ではこの先の2220mピークなのでそちらに向かった。ここでお花畑をつっきって稜線を西に行けば良かったものを雪を伝わって北に下ったのは失敗だった。確かに雪がつながってはいるがかなり標高が落ちたところなので、仕方なく適当なところで水平移動に切り替えて藪漕ぎ開始だ。ハイマツはなく笹と「根曲がり木」なのでマシだが雪と比較すると進行スピードはがた落ちだ。再び雪にありつくがトラバースの方向は再び藪で、どうで鞍部には登り返さなければならないのだからと、様子は分からないが雪田を上に辿ることにする。うまい具合に上部で水平方向に長く雪が続き、終点から藪に突っ込んで強引に突破すると広大な雪原に出て今度は山頂まで雪が続いているようだ。
本邦初公開? 猫ノ踊場山頂 踊れそうな草付きはあったが猫はいない |
2240mピークは稜線通しではなく雪を伝わって右手から巻き気味に上がるとなだらかな稜線上は一面の雪で、GPSによるとこの先のやや下ったところが猫ノ踊場らしい。残距離がゼロの地点はなだらかな尾根の一角で、藪の中が一番高そうだったがそこにも目印等はなかった。でもここが猫ノ踊場に間違いない。とうとうここまでやってきたのだ! うれしかったがさすがに踊ろうとまでは考えつかなかった(残念)。清水岳は遙か遠く、あそこまで登り返すとは考えたくない距離と高さだが、そうしないと帰れないのだから覚悟を決めて登るだけだ。幸い、荷物を軽くしたためか大した疲労もなく、430で高岡の6mでも交信した局が呼んできてくれ、1局で終了しすぐ出発した。
帰りは雪の続き具合が下るときよりよ〜く見えるのでルートはとても効率的に取れた。猫又山へは最上部の雪田を終点まで辿り、お花畑を通ると藪皆無で次の雪田に乗って猫又山に到着、まだしばらく藪がないのでゴアのズボンを脱いで涼しい格好になる。転落したクレバスも通過、2513mピークもガレの北側から突き上げて最後に僅かなハイマツを潜ればてっぺんで再び雪が得られた。最後の清水岳だけはどうしてもハイマツとの格闘が必要だったが、よく見ると何となくハイマツが薄い筋があり、ガレの際をできるだけ進みながらもその筋を追うと下りより楽に通過できたような気がする。そしてとうとう清水岳に到着! これで藪から解放されたし、猿倉まではまだまだ遠いがルート核心部が終了した。バンザイ!
小旭岳南面のトラバース |
テントに戻ると朝露で濡れていたのも乾き、ひっくり返して底面も虫干ししながら後かたづけを行いザックのパッキングを済ませて出発だ。心配していた小旭岳トラバースも大した傾斜でなくアイゼンを使うまでもなく通過、裏旭岳に登り返して旭岳トラバースは夏道入口から入ることにし、アイゼンを装着してピッケルを持って旭岳肩に登り返し、岩稜帯を歩いて雪に取り付いたが、何のことはない、昨日の雪の壁の上方は傾斜が緩く、これならアイゼンを履かなくても横断できるではないか。昨日のルート取りは完全に失敗だったようだ。
雪の上を淡々と歩いていると前方から人がやってくるではないか。歩き方がスキーっぽいと思ったら山スキーヤーで清水岳を往復するそうだ。今年は冬の積雪量は平年並みだったがその後の融け方が遅くてかなり残雪が多いとのことだった。やはり雨が少ないのが原因だろうか。山スキーはいいよ〜と勧められたが、ほんとに来年あたりは山スキーをやろうかな。
県境稜線で最後の休憩をし、名残惜しい風景を楽しむ。いつの間にか雲が増えて日差しが弱まったが薄日程度でも充分に暑く微風が心地よい。下りはできるだけ雪の上を選んでグリセードの連続だ。もちろん登りのステップを消さないようルートを外れたところで楽しむ。小尾根の下りだけは傾斜がきつすぎて滑落しそうなので夏道を歩き、尾根末端からは再びグリセードだ。もちろんアイゼンは付けないで、コケた場合に備えてピッケルだけ持った。広大な雪渓で傾斜も程良く、グリセードにはちょうどいい。歩くより遙かに速く下ることができた。途中、2回ほどコケそうになったが、もしコケても滑落が止まらない傾斜ではないので安心して遊べる。たぶん雪の上を滑った時間は20分程度しか無かったのではなかろうか。登りの半分どころではない。白馬尻ではそれを見ていた人がいて「よく滑ってたねぇ」と感心されてしまった。たぶん下りでアイゼン付けないで滑って遊んでいるのは私くらいだろう。ちなみにグリセードも膝の筋力を使うのでそれなりの脚力を持った人でないと長距離は滑れない。私でも汗をかいたくらいだから。
にぎわう白馬尻 |
白馬尻で冷たい雪解け水で体を拭き、暑い林道を歩いて猿倉に戻った。大町で温泉に入ったが、足にはハイマツこぎでできた傷や、アイゼンを履いたまま藪漕ぎをやってふくらはぎを出っ歯でつついた傷など多数あった。そうだ、小旭岳の下りでハイマツの中でコケてしたたか足をぶつけたしなぁ。これも「名誉の負傷」か。
登れるかどうか自分自身で期待していなかった猫又山、猫ノ踊場に登ることができ、本当に大満足だ。今年登った山の中でもトップクラスの印象に残る山となろう。さあ、次は誰が登るか? やはり猫ということで保谷猫吉様にぜひアタックして欲しいと思う。夏の藪が出ている時期なんて、その藪が毛が長いシベリア猫を連想させるではないか。まるで猫の毛の中をかき分けて進む蚤のようだが・・・。
5:53猿倉−6:05猿倉山荘分岐−6:10鑓温泉分岐−6:35林道終点−6:48雪渓終点−6:54白馬尻−8:27アイゼン装着−9:45休憩−9:57出発−10:11村営宿舎−10:17稜線着−10:38稜線発−10:48アイゼン装着−11:07旭岳トラバースし終わる−11:23夏道に乗る−11:27裏旭岳−11:55小旭岳手前で休憩−12:25出発−12:42小旭岳−12:52登山道−13:19清水岳−13:34テント
4:26テント発−4:31清水岳−4:55 2513mピーク−5:17クレバスに転落−5:31猫又山−6:01猫の踊り場着−6:24猫の踊り場発−6:51猫又山−7:31 2513mピーク−7:42ハイマツに突入−8:02清水岳−8:07テント場着−8:39テント場発−9:10小旭岳、裏旭岳鞍部−9:44小旭岳−9:49アイゼン装着−10:22稜線着−10:38稜線発−11:29白馬尻−11:42林道終点−12:00 鑓温泉分岐−12:09猿倉