奥秩父 石塔頭、西滑頭(天狗岩、国師ケ岳、北奥千丈岳) 2005年6月4日
地形図に記載された奥秩父の2000m峰は、金峰山南側の八幡山を除いて全て登ったが、日本山名事典には他にも2000m峰が記載されたため、それらにも登る必要が出てきた。その中で石塔頭と西滑頭は笛吹川源流の西沢と東沢に挟まれた尾根上にあって登山道はなく、西沢渓谷から東向きの尾根を上がるか、逆に大弛峠に上がって西側から攻めるか悩ましい位置にあった。周囲の植生からして深いシラビソ樹林である可能性が高いが、たまに笹地帯もあるので油断できない。その意味では大弛峠から国師ケ岳に上がり、天狗岩経由で林道に下って西側の尾根から登るのが、登山道がない区間が最短になるし標高差も少ないので一番安全だろう。ただし、帰りが600m以上の登り返しで、しかも出発点の大弛峠の方が目的地より標高が高いという逆転現象で、思いっきり無駄が多い登山になってしまうが。
旧山梨市と牧丘町、三富村が合併して新山梨市が誕生し、奥秩父一帯も広い範囲が山梨市に含まれるようになり、電波の跳びが格段に良くなると予想された。大弛峠への林道開通直後に登れば誰も新生山梨市で無線に出る前にオイシイところを持っていけると考え、奥積さんを誘って出かけることにした。そのついでに石塔頭と西滑頭に登ろうという魂胆である。奥積さんに無線は任せ、私は山歩きである。なお、この林道は例年だと12月に入ると冬季通行止めとなり、6月1日に解除されるようだ。雪で通行できない期間はもっと短いが、何かあったときの責任回避で長めにゲートを閉じてしまうようだ。
夢の庭園から見た大弛峠駐車場 |
週末の天気予報は寒気が入って不安定とのことだが、金曜夕方の数値予報では土曜お昼まではどうにか晴れ、日曜は安定して晴れの予報なので出かけることにした。相原で奥積さんを拾い相模湖ICへ向かったが、どこでどう間違えたのか高尾への県道に入ってしまい、そのまま甲州街道経由で相模湖ICに入った。近いが勝沼で降りて塩山、牧丘から林道に入り、冬季閉鎖のゲートもオープンしておりそのまま進む。林道入口付近の古くてひびが入っていた舗装道路は舗装し直し工事の真っ最中だが、これが終われば道幅も広がって今まで以上に走りやすくなるだろう。時々段差があって減速が必要だが、道は非常に良いので夜中でも安心して走行できる。鹿が多く道の両側に時々出没する。車に慣れているようで全く逃げない。林道付近では予想通り雪のかけらも見られない。
峠に到着すると1台だけ先行車があるだけで、予想以上に寂しい駐車場だった。昨年同様、舗装が切れた端に駐車、明日はどれくらい駐車スペースが埋まるのであろうか。上空は満天の星空で、今のところ夕立は終わったが通り過ぎたらしい。このまま午前中持ってくれることを祈るばかりだ。酒を飲んで寝た。
階段、木道が整備された | 北奥千丈岳から見た金峰山 |
翌朝、まだ薄暗い時間から金峰山へ向けて出発するパーティーの鈴音を聞きながら目を覚ますが、こちらの目的地は北奥千丈岳であまり早く出発しても無線交信相手が寝ているので6時過ぎに出発した。天気は雲が多いが青空も広がり、しばらくは雨の心配はなさそうだった。この時期だとまだ登山道に雪が残っているだろうが、アイゼンが必要な場所はないので携帯しなかった。大弛小屋は仰角が付いた2mの八木スタックが上がっていたが何に使うのであろうか? 登山道に入ると木の階段や木道が続くようになり、2年前にやっていた工事が終わって「空中散歩」ができるようになっていた。これだけ手軽に上がれる場所なので植生保護上やむを得ないだろう。
前国師を過ぎ、僅かに下って北奥千丈岳方面に右に入り、これまた僅かに上がれば山頂だった。何度か来ているのでこんな感じの山頂だったなぁと記憶があり、ここだけ森林限界ギリギリで視界が開けている。ほとんど無名に近いピークだが奥秩父最高峰、唯一2600mを超えるピークである。金峰山の五丈岩もくっきりと見えており、おそらく山頂には既に何人もいることだろう。国師ケ岳の山頂も山頂標識がはっきりと見えるくらい近くにあるが、どうやら無人らしい。天気はいいが周囲は低い高さに雲がわいて山を隠してしまってほとんど見えないのが残念だ。南アも富士山も影も形もなかった。
アンテナは東の端に立てて運用は奥積さんに任せたが、こんな時間から1−3エリアの近距離Eスポが開けてとんでもないことになっていた。今日も山の上の無線は低調に終わるかも。
縦走路分岐。石楠花の隙間に道がある | 妙に新しく見える標識 | 天狗岩(南から見上げる) |
その様子を見てから石塔頭、西滑頭向けて出発した。国師ケ岳は無人のまま、東側の肩で「西沢渓谷」の案内標識があるが歩く人は今でもいるのだろうか? 2年前に天狗岩まで行ったときは道は残っていたが刈り払いされず両側から枝が張りだしていた。2年の月日が流れても状況は変わらず、廃道に近いがこの高度なので樹木の成長は遅いし笹はないので十分に登山道は残っていた。少し色が抜けかけた赤テープ等も多数あるのでルートを外す心配はあまりなかった。天狗岩の巨岩は東側にルートがあるようだが適当に歩いていたら西側に乗ったのでそのまま歩いた。岩が積み重なったピークなので岩を適当につないで歩くことができ巨岩の南側に出た。2年前にここに来たときはちゃんと岩のてっぺんに登ったなぁ(簡単に登れる)。まだ鉄製の剣はてっぺんに鎮座していた。既にここでは無線もやっているので今回は通過するだけである。
天狗岩から下の尾根を見る | 天狗岩付近から見た石塔頭、西滑頭 | 石楠花の混じる尾根を下る |
満開の石楠花がきれい | でも道は石楠花等が邪魔 | 唐松植林を下ると林道は目の前 |
その後はしばらくは花崗岩の積み重なりが続き、踏み跡や赤テープを追って尾根を下り続ける。やがてシラビソ樹林になると岩が無くなっておだやかな樹林歩きになる。下草が無くどこでも歩けるので、ルートファインディングに慣れていない人だと踏み跡を見失うかもしれないが、要所要所に目印があるので気を付ければ大丈夫だろう。まだ文字がはっきりとして古ぼけてはいない案内標識が現れたりして人気を感じない道とチグハグだ。シラビソ樹林の次は石楠花の切り開きで、ここまで高度が下がると花が満開だ。だいぶ石楠花が伸びているが道を塞ぐまで至っていないので当面は大丈夫そうだ。でも体に触れないわけにはいかず、雨で濡れていたらちょっとヤダなぁ。
林道に出る | 林道から見た石塔頭 | 石塔頭の尾根に併走する林道 |
やがて木の隙間から林道が見えるようになり、尾根を左に外して斜面を下っていくと唐松植林帯になり、小さな谷を下ると林道に出た。ここには目印が無く、帰りにとりつき場所が分からないとまずいので近くの木に赤テープを巻いておいた。まあ、テープを付けなくても僅かに林道を上がったところに顕著な林道分岐があるので、それがいい目印になったが。林道はかなりの部分が舗装され、入口のゲートさえ開いていれば普通車でも問題なく走れるくらいだ。入口からここまで歩いたら3時間はかかると思われるので、今回は大弛峠から国師ケ岳越えを選択したわけだが。石塔頭から西滑頭の稜線が見えるが、シラビソ樹林と唐松の新緑が見えている。笹さえなければいいのだが。治山工事用施設を2つ通過、石塔頭への稜線にかかると林道終点の看板が出てくる。
林道から尾根に取り付く | 尾根はこんな感じ | 造林跡のワイアー |
少し下ったところから林道を外れて尾根にとりつく。この辺りはシラビソ樹林で倒木はあっても藪がないので、歩きやすい場所を選びながら適当に上を目指す。踏み跡はないが鹿道があり、無数の鹿糞が落ちていて鹿の多さを物語っている。シラビソ樹林といっても充分成長したシラビソではなくやや細めのシラビソが密集しているので歩きやすいとは言えず、隙間を縫うようにルートを選ぶ。時々登山道か?と思えるような広い踏み跡状の歩きやすい帯が現れるが長続きしない。大きな枯れ木にワイアーロープが巻かれた現場があり、以前は造林作業が行われていたようだ。この植生から想像するに、以前はシラビソの原生林だったが材木として伐採してしまい、伐採後に植林や手入れをしなかったので、まるで和名倉山山頂のようなジャングルに生まれ変わってしまったのだろう。ここも同じ奥秩父だからなぁ。
シラビソが密集した石塔頭山頂 |
そんな植生が続き、傾斜が緩むと石塔頭山頂らしい。なんせなだらかな地形なのでここが最高地点だという明らかな場所はないし三角点もないし標識もないし目印もなく何にもないタダのシラビソ樹林であり、GPSが唯一の証拠か。林立するシラビソで視界はなく山頂の雰囲気も無くて寂しいが、人工物がないので訪問者もほとんどいなくてそれだけマイナーな山と言うことだろう。無線を聞くと知り合いが出ていて、交信中に奥積さんから声がかかり現状報告する。この分では午後1時でも戻れそうにないので、天気の様子を見ながら適当に切り上げるようお願いしておいた。
次の西滑頭へは軽装で向かうことにし、必要な物だけウェストポーチに入れて空身で出発する。この後も同じような植生が続くのなら思ったより早く山頂へ到着できそうだと考えたが、この後はそうはいかなかった。基本的には伐採後に再生したと思われる若いシラビソ樹林が多いが、時として幼木が密生した場所があるのだ。左右どちらかに巻けば迂回できる場所もあったろうが、北斜面は倒木が多いシラビソ樹林が多く、南側は幼木が続いているパターンが多かったので、結局は尾根上を正直に歩くことが多かった。所々南側はシラビソが切れてダケカンバの薄い樹林があり、日当たりが良く明るい印象で、鹿の足跡が多数あった。途中、左手から赤テープが現れたがいったいどこから登ってきたのだろうか? 目印は頻繁についているが結構古そうだ。倒木帯も律儀に越えている。天気はいいし尾根はなだらかだが周囲に太い尾根の分岐もなく、目印の助けが無くても簡単に歩けるので歩きやすい場所を選んで進む。
南側は開けた場所もある | 倒木多し | 西滑頭山頂 |
やがて尾根が真東に直進、割と樹林の密度が下がった水平な尾根を歩いていると真っ白な物体が地面に生えているのが見え、何だろうと思って近づくと三角点であった。ここが西滑頭だったのだ。今までと同じように周囲は細いシラビソに覆われて視界はない。山頂にはビニールテープが巻かれた木があり「JJ1YXJ」の文字が見えた。鶏冠山で見たのと同じだ。どこぞの沢から登ったようだが、文字がかすれて読みとれなかった。いつ登ったのか分からないが、数年以上前のようだ。もしかしたら今までのテープもYXJのものであろうか。
あまり遅い時間になると雷雨になる可能性が高くのんびりしていられないので、無線は奥積さんを捕まえて交信するだけにとどめ、同じルートを戻った。石塔頭でデポした荷物を回収、林道に下るまでがなだらかな斜面状の尾根なので右往左往しながらGPSと方位磁石で進路を確認しながら下っていくと、登りでとりついた部分より僅かに下がった場所で短い廃林道に出てすぐ林道だった。この後も行きと同じルートなので気は楽だが、国師ケ岳までの600mを越える登り返しはイヤになった。登山は最初に登って帰りは下りだけがいい。いつ雨が降ってくるか心配であったが、風が出てきたが意外に天候は崩れず、時々日が差すなかを登り切り、無人の国師ケ岳に到着、北奥千丈岳のアンテナは見えなかったので奥積さんは先に下山したようだ。車のスペアキーを預けているので問題ないだろう。この時刻でもまだ上がってくる人がいるが、天気の心配をしていないのだろうか?
大弛峠に到着すると、奥積さんはバックイドアを開け、車の中で休憩中だった。天気がいいのでこうでもしないと暑くて寝られないとのこと。しかし風が出てきてやや気温が下がってきたらしく、Tシャツで歩いてきた私には寒かった。
峠の駐車場はまあまあの入りで、長野側の砂利道にはたくさん駐車していたし、公衆トイレ付近の路側に数台止まっていたが、夏のようなとんでもない事態ではなかった。タクシーは3台いるようで、ちゃんとお客を乗せて下っていったから予約していたのだろうか。塩山まで行くと思うが、タクシー料金は1万円近いだろうから単独行では恐ろしくて使えない。
今日はこのままここで車中泊し、明日は両門ノ頭を往復する予定なのでやることもなく、着替えをすませて昼寝をしていると突然雷鳴が轟き、外に干していたTシャツを急いで取り込んだがその後が続かず、しばらくして雨がやってきたが短時間で上がってしまい、予報より軽い雷雨で終わったと思っていたら、酒を飲んで寝た後で2度にわたって激しい雷雨が降ったが寝ぼけ眼で何時頃だったのかは分からなかった。