乗鞍岳前衛 大野川尾、戸蔵 2005年4月24日


 

野麦峠から見た大野川尾

 大野川尾という山名はエアリアマップには出ていなかったと思うが、乗鞍岳から野麦峠に延びる尾根の途中にある三角点峰で、以前は高天原から峠まで登山道があったらしいが、現在では廃道化し、時々営林所の刈り払いがある程度で登山道とは言えない状態のようだ。エアリアマップでも赤点線にもなっていない扱いである。ネットで捜したが「大野川尾」では1件も引っかからず、他の単語で検索したが、無雪期の情報はなかったので、本当に夏道は消滅しているらしい。そういうわけで残雪期に登るのが手っ取り早いだろう。

 鎌ヶ峰下山後、奈川温泉で暖まってからしばらく下界で昼寝してから再び峠に戻り、野麦峠の館の駐車場で酒を飲んで寝た。下界には霜注意報が出たくらいだから翌朝はきびしい冷え込みだろうが、雪が締まって歩くには好都合だ。夜中、小用に出ると月が煌々と輝き風も弱まって好天だった。朝起きるとガラスの水滴は凍り付いてパワーウィンドウが動かないくらいだったから真冬並みの冷え込みか。お湯を沸かしてカップラーメンの朝食で体を温めてから出発だ。

 大野川尾は素直に考えれば戸蔵を越えて稜線上を往復だが、アップダウンがいくつもあるのでどうせなら行きは戸蔵を巻いてしまった方が労力がかからない。無線をやる関係上、帰りは通らなくてはいけないが、行きは朝早くて交信相手もいないから登る必要性はない。車道を歩いて戸蔵谷付近から尾根に取り付いて適当に登ろうかと考えたが、そこまで行くと50mくらい標高が落ちてしまうので、野麦峠から数えて2つめのカーブから尾根に取り付くことにした。南向きの尾根なので下の方は笹が出ている可能性が高いが、尾根直上のすぐ東川だけは雪が残っているかも知れないので、多少の笹は我慢しよう。

県道の2つ目カーブの橋から取り付く 少しの間は薄い笹藪 進路を東に降ると残雪にありつく

 

 峠から飛騨側に下ると施錠されたゲートが現れた。途中、岐阜県側に抜けられないとの標識があったが本当らしい。1つ目のカーブは昼間の雪解けで路面を流れた水がカチンカチンに凍り付いてコケそうなので道ばたの残雪上を歩く。2つ目のカーブで雪の無くなった急な斜面に取り付き、笹の薄いところを選んで登り始めるが、かなりの傾斜で笹に掴まりながら体を引き上げたくらいなので笹があって良かったかもしれない。笹はまださほどの密度ではないので藪漕ぎと言うほどではなく、時折現れる雪田をつなぎながら、尾根直上を目指さずに残雪が多いだろう東側を巻き気味に上がっていくと目論見通り一面の残雪に変わり、笹から解放された。なだらか斜面なので必要はないが、しばらくはトラバースを続けるつもりなのでここでアイゼンを付けた。

カモシカの足跡 1770mピーク付近 林道が見えてくる

 

 なだらかな斜面が続き、適当なところで尾根を目指して登ると唐松植林帯の尾根上に出た。この標高だと西側は藪が出てしまっており、尾根てっぺんかやや東よりの雪の上を歩いた。熊の足跡はなかったがカモシカの足跡は無数に残っていたので、結構な数が生息しているようだ。1745mピークから下り、緩やかに登るとなだらかな尾根で、行く手には林道とおぼしき筋が見えている。たぶん地形図で1830m付近で終わっている林道の続きらしく、ほぼ等高線に沿って水平に付いているようだ。こちらの行き先もこのまま尾根を上がっていくと戸蔵に行ってしまうので、途中で尾根を乗り換える必要があり、林道は適度な存在だ。

谷を渡り主稜線に取り付く

 1770mピークは残雪が豊富で西側を巻けそうなので左手を進むと伐採地らしく太い切り株が目立った。林道は造林作業用だな。小さな谷をスノーブリッジで乗り越えて雪に埋まった林道に立ち、左に進むとすぐに尾根の張り出しを乗り越えるのでここで林道を外れて尾根の西側をトラバース気味に歩く。このまま行くとこれまた戸蔵方面に引き込まれるので適当なタイミングで谷を渡って対岸の尾根をよじ登る必要があるので、良く締まった雪面でアイゼンを効かせて水平移動を続けて谷が目の前に来た時点で雪に埋もれた谷を渡り対岸に乗り移った。

主稜線目指して伐採地を登る 伐採地から見た木曽御嶽 伐採地から見た鎌ヶ峰手前2120m峰

 

 ここからは斜面を上を目指して登って県境稜線に出るのが目標だ。伐採されたばかり?のようでまだ大きな木がなくて日当たり、見晴らしが最高で、真っ白な木曽御嶽がきれいに見えている。昨日登った鎌ヶ峰は2120m偽ピークが立派すぎて裏に隠れて見えない。こう見ると鎌ヶ峰はあの界隈では最も標高が高く、なかなか立派な姿であった。

主稜線に出たらトレールがあった! 1910m鞍部から稜線を見る

 ジグザグに標高を上げていくとなだらかな尾根に到着、1874mピーク西側鞍部から少し上がったところのようだ。予想外にも複数人の足跡が残っているではないか。間違いなく昨日日中のもので、少なくとも3人以上の足跡だ。1人はワカンだが他は登山靴のままで、時折踏み抜いた穴が開いているが、この時間は良く締まって踏み抜きはありえない。足跡は乗鞍方面へ上がる一方方向だけで下った跡は無かったので、乗鞍まで縦走するか、野麦へと下るかどちらかであろう。

 1920mピークの下りは少しだけ笹がお出ましだが、僅か10mくらいなのでアイゼンを履いたまま笹を踏みつけてその先の残雪に乗り移った。ここはどういうわけか雪庇が北向きにできており、稜線の南側を巻いたりしながら歩きやすい所を適当に歩いた、といっても足跡があるのでほぼそれに従ったが。金曜夜の残雪が融けなかった場所もあり、先人の足跡の上を歩いた方が沈み込みが少なくて楽だから。パウダースノー状態で残っているのだから、昨日は寒気の影響で気温が低かったのだろう。

 登りにかかると締まった雪に変わり、足跡を追って登っていく。すぐに樹林に入って見晴らしが無くなり、GPSの残り距離を睨みながら黙々と歩く。傾斜が緩むとパウダースノーで10〜20cm、場所によっては50cm近く沈むようになりワカンの方がいいなぁと思えるが、残り距離が少ないのでアイゼンのまま歩いた。やがて山頂の一角に到着、右手から太い尾根が合流しているので間違いないが、GPSの表示は南西に50mと出ているので地図で確認しようとしたら地図がない! 途中で落としてしまったようだが、どこで無くしたか分からないので帰りがけに見つからなかったらアウトか。いや、この足跡の主はたぶん野麦峠から上がっているだろうから、足跡を追えば帰れるはずだ。

大野川尾山頂 大野川尾直下から見た乗鞍岳 大野川尾直下から見た穂高

 

 とりあえずGPSを信用することにして南西に突き出た場所を山頂としたが、一帯の標高はどこも同じだから拘る必要は無かろう。一面の残雪で三角点の位置は不明、標識等もない。シラビソ樹林で視界も日差しもないが、西の方が明るいのでちょっと下れば開けていそうだ。下山前に行ってみたら想像通り樹林が切れ、目の前にどでかい乗鞍が覆い被さるように聳えていた。無雪期は笹藪かも知れないが、雪がある内はここで休憩するのがいいだろう。

 6mを聞くと昨日同様送電線ノイズと思われる雑音が多かったが、海津市移動が強力で交信できた。

なだらかな尾根を登る 乗鞍高原に雪はなかった そろそろ戸蔵が近い

 

戸蔵山頂から最高点を見る

 帰りは戸蔵に寄らなければならないので、県境稜線を正直にトレースしていく。アイゼンからワカンに履き替え、まだほとんど融けていない雪面を順調に歩き、稜線にはい上がった場所を越え、1874mピークを越えて広い尾根をトレールに従って登っていく。地図を無くしてしまったので足跡を信用しつつも、本当に野麦峠に向かうのか周囲の風景を確認しながら歩いた。大きく右に進路を変えて斜面を登ると左から尾根が合流、旧奈川村と安曇村境界尾根だろう。幸い、足跡は南に向かっている。樹林の間を登っていくと平坦な尾根になり、GPSの表示を頼りに南下すると最高点より僅かに南に行きすぎたところで山頂と出た。赤布が木に巻き付けられており、たぶん三角点埋設ポイントだろうが、未だ50cm程度の積雪があって確認はできない。地形図があれば三角点設置場所と最高地点の位置関係が分かるのだが無くしてしまったのではいかんともしがたい。まあ、それらしき場所は通過したからいいだろう。帰ってから確認すると確かに三角点は最高点より南側に設置されていた。

 周囲は樹林で見晴らし、日当たりがなく寒いくらいだが、今日はほぼ無風なので助かる。無線は相変わらず雑音が酷いが、松本市内から声がかかった。吉原さんの声も聞こえたのだが、ちょうどCQを出し終わって引っ込むタイミングだったらしく声をかける前に逃げられてしまった。

1800m付近 1770m肩の境界標識群 1700m付近。だいぶ笹が出ている

 

 あとは峠に下るだけだが、足跡は正しく導いてくれるだろうか。南に少し下ったところで尾根上と右手の枝尾根?に向かう足跡に分かれたが、まっすぐが主稜線と判断して進む。後で地形図を見たがたぶん1970mピークだったのだろう。太い尾根に乗ったままなので判断は正しかったようだ。まだ残雪が多くて藪は出ていない尾根を下っていくと1904mピークで登りとなり右に進路を変える。ぐっと高度を下げると傾斜が緩み、時々笹が顔を出すようになって右に左に避けながら進むが、足跡が雪のある場所を選んで歩いているのでこちらが考えなくても自動的に残雪上を歩けた。1793mピークを過ぎて傾斜が一気に増す肩では長野営林局と名古屋営林局の境界標識が4個も付き、赤ペイントまで書かれた派手なシラビソが立っていた。

峠の茶屋裏手の旧登山道入口 野麦峠から見た乗鞍岳

 この先はいよいよ雪が少なくなり、尾根上は完全に笹藪と化してしまい、東側の唐松植林帯に残った雪面を歩くことになる。時々尾根の雪田に戻るが長続きしないで笹の中に消えてしまう。尾根上には境界標識があるが、雪の無くなった部分には夏道はなく、笹に埋もれているらしい。やはり残雪期が正解のようだ。傾斜が緩むと峠の茶屋の屋根が見えてきて、茶屋裏手に出た。そこには「この先 乗鞍登山道には風倒木や熊笹が生い茂り、現在、使用できません」と書かれた文字が消えかけた標識が立っていた。倒木は分からないが笹は本当らしい。

 駐車場に戻るとバイクの集団がやってきてトイレを捜していたが、なぜか昨日は開いていた公衆トイレのシャッターが今日は締まっていた。岐阜県側のゲートはまだ閉まったままのようで、奈川に戻って開田村から岐阜に抜けるようだ。展望台で真っ白な乗鞍岳をバックに記念写真を頼まれた。今の時期でこの白さだったら乗鞍スカイライン開通直後もかなりの残雪が期待できるだろうか。早々に出かけて乗鞍の残りは今年で一掃したいところだ。


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