木曽川上流部 大笹沢山 2005年4月2日
大笹沢山は中アと乗鞍岳をつなぐ位置にある2000m峰で登山道はない山である。ネットで調べると何件か山行記録を発見できたが、いずれも山スキーの記録で、私はスキーの装備も経験もないので、ワカンで歩くしかないだろう。おそらく無雪期は笹に覆われて藪漕ぎが大変だろうから残雪期がいいだろうし、今年は残雪が多くて、あまり奥深いところはヤバそうなので雪が少ないところから攻め始めることにし、大笹沢山あたりが順当に思えた。それに週末の天気が思わしくなく日曜は雨で土曜日日帰りだからもったいなくて遠くへは行けないから、大笹沢山はまあまあいい位置だろう。その土曜日の予報でさえ曇りのち雨で、何時から雨が落ちてくるのか不安であるが、残雪期の体作りをしないといけない。ついでに花粉症対策でもある。本当かどうか分からないが、花粉の飛散状況を見ると長野県中部山間部はほとんど飛んでいないことになっている。これが本当なら大変うれしい話だ。
登山ルートは木祖村の薮原高原スキー場を起点とし、コース短縮のためリフトは使わずに北側の尾根にとりついて直接2002m峰を目指すことにした。大笹沢山から東に落ちる尾根も考えたが、出発地の標高はスキー場よりも200m以上低いし、今回の山行は今シーズン初めてなのであまり傾斜が急だと恐怖心で登れない可能性もあり、距離が長くアップダウンがあって労力はかかるが安全パイでスキー場起点を選択した。ちなみにネットで出てきた記録は全てスキー場最上部から登るコースで、奥峰が稼げる利点はあるが距離がかなり増えてしまい、雨の心配があって時間との勝負になりそうなので今回の計画では使わなかった。どうせ残雪利用でリフトが動いてない時期だから、わざわざ面白くないゲレンデ歩きをするよりいいだろう。
積雪状況であるが、営業終了前日の3/31にHPを見ると1m以上あって全面滑走可能となっており、出発から終始雪の上を歩けそうで藪の心配は無さそうだった。車道についてはスキー場までは除雪されているはずだからノーマルタイアで入れるだろう。もし入れなくても人家がある所までは入れるだろうから、適当に歩いてしまえばいいが。今年に入ってHPのテーマに該当するような山に登っていなかったが、ようやく残雪利用の山にありつけるから、少しくらいの車道歩きは勘弁しよう。先週の富士寄生火山もそれなりに面白かったが、山の大きさから言えば「おつまみ」程度でメインディッシュとはほど遠かったのが、今度は「朝飯」程度になるだろう。やっとHPの記事としても面白いのが書けるだろう。
調布から中央道に乗り、塩尻までチンタラと走った。車のトリップメータの誤差がどのくらいか確認するために時速85km一定で1時間走り、高速の距離ポストで走行距離を確認したのだが、結果は距離ポストが80kmのところをトリップメータは85km、スピードメータも85km/hだった。スピードメータの誤差=トリップメータの誤差となっており、車速パルスと距離の関係に誤差を生じているようだ。タイアの問題か? まあ、このくらいは許容誤差の範囲だろう。
スキー場の残雪状況 | スタート地点の駐車余地 |
塩尻で降りて19号線を南下すると、毎度の如く大型トラックの仮眠が多いのに驚く。走行している車両も大型トラックが多く、中央道を使わないで一般道を走る車も多いようだ。夜間は平均70km/hくらいで流れるので快適走行が続いた。鳥居トンネルを抜けてやぶはら高原スキー場の案内看板で右折、看板を追いながら山間部に入っていくと徐々に雪が現れるが、思ったほどではない。スキー場の駐車場群を見送りながら奥へ奥へと進入、最先端のP1駐車場も通過して未舗装の作業道に入ってもなお進むとリフトで除雪が終了、その手前のカーブに広い駐車余地があったので車を止めた。幸い、目の前の斜面は斑に雪が残っており藪漕ぎはないようだ。パッキングを済ませ、アイゼン、ピッケル、ワカンの準備をして酒を飲んで寝た。なお、寝る前にGPSで位置を確認したところ、取り付き予定の標高1300mの奥峰沢を横切る地点ピタリだった。満天の星空だったが、明日もどうにか天気が持ってくれるといいが。
最初から残雪に取り付く | 傾斜のきついカラマツ植林帯を登る |
翌朝は腕時計のアラームに気付かす寝坊してしまい、予定より40分遅れのAM6:08出発となってしまった。幸い、天候は薄曇りで日差しがあって暖かくなりそうだった。今回は残雪期用に購入した新しい登山靴の実戦投入初日だ。もう少し軽い山で試したかったが、ここでも半日程度の山行だし、テーピングも持っていくのでどうにかなるだろう。今回の靴は革+ゴアで布+ゴアの靴より少し重いが防水性はいい。本当はプラブーツにしようと買いに行ったらプラブーツの重さを見て驚いてしまい、店員の話を聞いて今回の靴に落ち着いた。保温性はプラブーツほど期待できないが、厳冬期に登ることはしないし、寒いときにはオーバーシューズ併用という手段もある。
出だしは雪に埋もれた林道を辿り、最初のカーブで道を外れて雪の斜面を登り始めた。同じようなことを考えるヤツがいるようで、蛍光色の目印が木に巻き付けられて勇気づけられる。南斜面のカラマツの植林で雪は少なく、雪の上を歩いたり地面を歩いたり変化に富む。傾斜がきついところはほとんど雪が消えているので、藪のない斜面を適当によじ登った。片手にピッケルの姿が笑える。
1520m肩。積雪2,30cm |
1520m肩に出ると傾斜が緩み、雪が増えて地面が見えなくなったが、木の周囲を見ると積雪はせいぜい2,30cmしかないようだ。ただ、藪がある雰囲気はなく無雪期でも問題なく歩けそうだ。たぶんここ1,2週間で雪は消えてしまうだろう。ここまで登ると黄色いテープも現れ、枝に刺さったペットボトルも見られて人の気配を感じられる。傾斜がきつくなっても唐松植林帯が続き、雪が締まった南側を選んで歩いた。まだ雪が沈む場所はあまりないが、樹林で日当たりが悪い場所では潜るので早めにワカンをつけた。傾斜があっても滑落するような恐れはないのでピッケルは無用の長物だった。
突如として林道に出た | 林道脇の文字が消えた標識 |
1630m地点で傾斜が緩み始め、北側に分岐する尾根と合流、念のために目印を付けておく。視界が良好なら目印など不要だろう。水平移動すると予想外の林道が出現、雪に埋もれているので現役の林道かわからないが、ここまで車で来られると労力削減効果が大きいだろう。文字が消えた手製の標識が残されていたが、もしかしたらその昔は大笹沢山への登山道があったのだろうか? たぶんこの林道は、私が車を止めた駐車余地の上にあるリフト駅の先に続く林道なのだろう。今回はリフト駅までしか除雪されていなかったので入れなかったが、雪がなければ入れるかも。ただし尾根上の雪も融けてしまい、藪だったら逆に苦労するだろうが。
気持ちのいい尾根を登る | 1800m付近から見た1940mピーク |
再び樹林に入り、日当たりの悪いコメツガ樹林でワカンが役立つ。再び傾斜が出てくると南半分は開けた唐松植林帯、北はシラビソ樹林になり、その境界をひたすら登る。尾根上の木の密度は低く視界良好、日当たりがいいので雪が締まって歩きやすいのがうれしい。地形図では細かい尾根の分岐があるが、これだけ天気が良くて視界がいいとずっと先まで目的の尾根が見えているので分岐があっても騙される恐れはほとんどない。どういうわけか1670mピークより上では目印は見あたらなかったが、悪天で視界が無いとき以外は不要だろう。用意した目印は大量に余ってしまった。
主稜線に到着。南を見る | 1940mピークは目の前 | ワカンの跡。1週間前か? |
1940mピークへ向けての登りも雪が締まって快適で、心配だった斜度もどうというほどではなくピッケルの出番がないまま主稜線に到着、背の低いシラビソが立ち並んだ中に古い目印があり、スキー場から歩く人の方が多いことを物語っている。古いワカンの足跡があり、ラッセルの苦労が忍ばれるが今はほとんど潜ることもなく楽ちんだ。それに今回のルートの方がリフトを使うよりずっと歩く距離が短いし、なかなかいい計画だろう。
2002m三角点峰に向かう | 2002m三角点峰山頂 |
ここまで来ればもうまとまった登りはなく、細かいピークを次々と乗り越えていくだけだ。最初の1940mピークは下から見ると険しそうに見えるが現場に行くとただの尾根で難なく通過、2002m峰へと登る。開けて気持ちのいい稜線だが傾斜がきつくて登りはジグザグにコースを取った。ワカンの主は行きも帰りも直線的なルート取りをしていた。広い尾根を登り切ると意外に広くて平らな2002m三角点峰に到着、低い木に赤布がぶら下がっていた。ワカンの跡はここまでで、その先にトレールはなく、足跡の主は山頂を誤認したか、時間切れか悪天で引き返したのだろうか?
北斜面は新雪のラッセル |
この後も同じような繰り返しになるが、ピークの南側は樹林が開けて視界、日当たりが良くて雪が締まって歩きやすく、北側は背の高いシラビソが生い茂り日当たりが悪くて雪がふかふかで、ワカンでもラッセル状態の連続だ。帰りは登りとなって苦労するので、歩幅を狭くして登りでのラッセルを軽減しておく。時々赤布が現れるがここまで来ればルートを間違えることはないので目印の数は少ない。天気は徐々に悪化しているようで、まだ薄日はあるが空全体に雲が広がり、西の方ではガスがかかってきたようで下界が見えなくなっていた。どうにか雨だけは勘弁してくれ。西風がやや強く耳が冷たく、持ってきた薄手の手袋では指が冷えるのでオーバーミトンをつけた。積雪はここでもあまり多くなく、せいぜい1mがいいところだろう。部分的には笹が顔を出しているところさえあり、大型連休の頃には雪庇に近い側に雪田状に残雪が残るだけになっているのではないだろうか。やはり豪雪地帯とは違う。
GPSの示した山頂 |
最後の偽ピークを越えて大笹沢山本体にかかったが、積雪時では地形図に書かれたような微小ピーク3つを分離するのは難しかった。GPSの表示で正確な場所は特定できたが、特に周囲より高いと言うほどでもなく、一番北の等高線が緩やかなピークに行っても他よ絶対にこっちの方が高いと思わせるほどでもない。ただ、ここには唯一赤布がかかっていた。ほとんど高さに違いがないのでこの界隈のどこを山頂と言っても支障はないだろう。シラビソに覆われてどこも視界はなかった。カシミールの計算で標高差800m程度、距離も片道4km強とは知っていたが、思っていたよりも楽だった。何よりも滑落の危険性を感じる地形が無く、安心して歩けたのが大きい。残雪期の山歩きの訓練としてはちょっと物足りなかったかな。
GPSが示す場所に戻って無線運用、4/1で多くの市町村合併があり、新しい市ができたので賑やかだった。知り合いも何局か聞こえており、そのうち群馬の移動局に声をかけた。そのうち合併で消滅する山田郡大間々町からの運用だった。
本日の目的は達成した。天気はまだ大丈夫で日差しもあり視界は良好なので帰りの心配はないだろう。気温が上昇して行きでは潜らなかった場所でも潜るようになったが下りだから問題なし、逆に下りでの膝の衝撃を雪が吸収してくれて歩くのが楽なほどだ。もしかしたら他に登ってくる人がいるかと期待したが無人のまま1940mピークから東の尾根に乗り移り、順調に高度を下げる。車への最後の下りは近くの尾根を正確に辿り、車が見えてきたところで残雪を拾いながら軌道修正して無事車に到着した。
6:08車−6:39 1520m地点−7:08林道−7:51主稜線−8:07 2002m三角点峰−8:41大笹沢山−8:47大笹沢山北ピーク−9:34大笹沢山発−10:12 2002m三角点峰−10:27主稜線から外れる−10:47林道−10:58 1630m地点−11:07車