聖岳、東聖岳、白蓬ノ頭
白蓬ノ頭はずっと以前から気になる山だった。標高は2500mを越える高さを誇るが登山道はなく、山ランでは武内さんしか登っていない堂々の「武内級」の山である。一般的には聖岳冬季登山で聖岳東尾根を使う時に通過することが多いようで、エアリアマップでは冬季ルートと書かれているし、インターネットで検索をかけると雪がある時期のものばかり出てくる。しかし、無雪期のものが2件だけあり、雪がないと歩けないわけではないようだ。それに、今までの経験からすればこの付近の樹林帯は下草のないシラビソ樹林が広がり笹がお出ましする確率は低く、踏み跡は薄くても藪漕ぎは大したことがないと想像できた。問題は灌木の藪と森林限界を超えた場所でのハイマツだろう。ただ、エアリアマップでは黒破線で書かれているくらいだから全く道がないわけではなく、踏跡くらいはあると思えた。少なくとも黒檜山や小日影山よりも登りやすいだろう。
そんなわけで涼しくなったら実行しようと考えていたが、計画実行の2週間前、中ノ宿吊橋から小笊ヶ岳に登り、山頂で無線交信した人から意外な情報が得られたのが実行を決意するきっかけだった。その人は東海フォレスト関係者とコネがあり、林道の通行許可証をもらえてゲートを車で入れる立場にいる人だったが、私が今年のうちに聖岳東尾根を歩こうと考えていることをしゃべったら、4年ほど前にその東尾根で遭難騒ぎがあり、捜索のため東尾根を刈り払ったというのだ! これは初耳でインターネットで調べてもそのような記事は見たことがなかったし、4年前では藪が伸びているだろうし、そもそも刈り払いと言ってもどの程度刈ったのかわからないから過大な期待は禁物だろう。ただ、少なくとも刈り払いの形跡は残っているだろうから全くの藪よりはマシだ。残念ながら刈り払いの入口は覚えていなくて、出会所小屋跡ではなく送電線巡視路から始まっているということだけ覚えていてくれた。もともと、私の考えでは藪漕ぎするなら重力の助けを借りて楽したいので東尾根は下りに使う考えだったので入口が不明でも何ら問題はない。聖岳から東尾根を下り、刈り払いが出てきたら林道までたどればいい。今回のコースはピストンではなく周遊ルートなので藪尾根に目印を付けることができず、読図とGPSで下るしかなかったが、刈り払いがあればルートファインディングしなくて済むので精神的に楽でスピードも出るだろう。
今回の計画はこうだ。折りたたみ自転車で聖沢登山口まで入って初日は聖平小屋で素泊まりする。テントでもいいのだが藪尾根を歩くからできるだけ荷物は減らして体力温存を図った方がいい。その分、今回は6mの無線機を持っていこう。目的は東聖岳と白蓬ノ頭の2山だけなので430だけで問題ないが、せっかくピコ6を自分の手で修理して完全復旧させたのだから使わない手はない。それに東聖岳、白蓬ノ頭からの6m運用は史上最初で最後になるだろうし。2日目は全装備を背負って聖岳に登り、噂の刈り払いをたどって林道に下る。刈り払いは冬ルートの南下する尾根ではなく東の尾根に入って赤石沢橋付近か発電所付近に下るのではと想像した。帰りの距離が遠くなるが刈り払いの状態によっては藪漕ぎするより距離が遠くなってもそちらのルートを歩いた方がいいだろう。
今年の秋は秋雨前線は停滞するし、台風が頻繁にやってきて前線を刺激して天気がよけいに悪くなるしで週末の天気も芳しくなかったが、木曜日に台風が通過して久しぶりに週末の天気がいいとの予報が出た。しかも台風一過の金曜日は会社の創立記念日で休めるから絶好のチャンスで、木曜午後は会社を半休して畑薙ダムを目指した。台風の余波で風が強く、中央道では横風を受けてヒヤヒヤモノだった。早川町から田代に抜ける大笹峠は台風通過に伴い通行止めだったので52号線を南下して井川経由でダムに入り到着は午後7時半、なんと夜8時から田代トンネルで工事が始まって夜間通行止めだったので間一髪セーフだった。平沼ゲート前には車は1台もなく寂しい限りだ。これなら睡眠時間はたっぷり取れるので明日は万全の体調で登れるだろう。自転車を組み立てて外に置き、酒を飲んで寝た。風は強いが夜は満天の星空だった。
入山初日、朝飯を食って5時に出発、ゲート横をすり抜けて自転車を漕ぐ。今回は2週間前よりもさらに登山口が遠く、自転車で体力を無駄に使うわけにはいかないので、少しの登りでも自転車を押して歩いた。自転車と歩きで同じ標高差を登る場合、自転車を漕ぐ方が何倍も体力を使い、しかも登りで使う筋肉と同じ部分が疲労するので自転車で頑張ると歩き始めてからが地獄となる。何度も自転車を使ってそのことは身にしみているのでとにかく登りは全て押した。たぶん全行程の1/3〜1/4は自転車を押していただろう。気温が低くてほとんど汗をかかなかった影響が大きいだろうが、おかげで2週間前の中ノ宿の時より体力消耗は少なく、赤石ダムの急な登りが始まる手前まで自転車で入れた。この先は傾斜がきつく自転車まで持ち上げたら体力消耗が激しく歩いた方が得だろうとの判断だが、実際に歩いてみてその通りだと思った。自転車ではここの登りが最大の難関だろう。
今回からニューアイテム登場。MP3プレーヤだ。山を歩きながら好きな音楽を聴くのもたまにはいいだろうし、特に自転車こぎでは歩きよりも雰囲気が無く、それこそ音楽があった方がいいと思えたので。私が購入したのはRIO SU10で、単4電池1本で動き(ニッケル水素電池で試してみたら12時間も動いた)メモリは128MBあり時間にして90分くらい、20曲強入る製品だ。半導体メモリなので振動による音飛びや故障の心配はないし、なんと言っても小さくて非常に軽いのがいい。ICレコーダより小さいのだから驚きだ。今回は最後までこれのお世話になり、疲れを癒してくれた。
聖沢登山口到着までに2時間、歩きの半分程度で済んだらしい。しかもあまり疲労は感じず自転車の威力を発揮できた。やはり涼しい時期でないとダメかな。少々休憩をして出発、いきなり倒木が2本道をふさぎ前途多難を予想させる。おそらく2日前の台風の影響だろうな。林道のあちこちで土砂をどかした跡が残っていたからこの辺では大雨が降ったのだろう。でも登山道の崩壊等はなく、水たまりがあったりぬかるみがあったりする程度で問題なく歩けた。大井川は濁っていたが聖沢の水は澄んで増水は収まったようだ。
出会所小屋は完全に崩壊してがれきと化していたのにはちょっとビックリ。2001年のエアリアマップでは荒廃と書いてあったのでまだ建っているだろうと思ったのだが。昨夜のうちにここまで上がらなくてよかったぁ。小屋跡の少し先に目印のテープが見え、ここが冬ルート取り付きらしい。エアリアマップの冬ルート入口はもう少し先で、そちらはテープ類は見えなかったが細い笹の中に踏跡が登っていたのでどちらでも同じ程度かもしれない。
聖沢吊橋まで100mほど高度を下げ、ようやく本格的な登りが始まるが、2週間前と比べれば天国のような気温の低さで、沢を渡ってからは10℃から15℃程度でゆっくり登ればあまり汗をかかなくて済んだ。これだから秋のアルプスはいいんだなぁ。夏に登ったら大汗かかされる標高だ。標高1750mで造林小屋跡の肩に到着、腹が減ったので昼飯を食べて休憩した。そこからなおも上がり、乗越で微小ピークとの鞍部を越える。その先の滝見台はどこが滝見台なのか分からなかったが崩壊地がそうだったのだろうか。水場は台風の影響であちこちから沢が流れて本来の水場ってどの沢なのか分からなかった。岩頭展望台はその通り突きだした岩の先端で、眼下には2本の大きな滝が見えていた。ここまで来れば大半の登りは終わって主に水平移動が始まり、沢を渡るとその様相がいっそう濃くなる。落ち着いたシラビソ樹林を抜けると赤い屋根の聖平小屋だった。
ここに来るのは何年ぶりだろうか。ここから歩き始めて赤石、荒川前岳、板屋岳、大日影山と歩いて三伏峠から塩川に下ったときだからなぁ。最初に来たのは95年だったかな、便ヶ島から光岳まで縦走したっけ。2年前の南ア南部3000m峰全縦走時はここは通過したので立ち寄っていない。素泊まりの手続きをしようと正面に回ったが全部の窓、戸は閉まっておりイヤな感じ・・・・、案の定今年の営業は終わっていたのだった。まあ、古い小屋が冬季小屋として開放されているので素泊まりなら何の問題もないが。小屋を開けると無人で真っ暗、窓の"蓋"を開けて今のうちに小屋内部を暖めようとつとめた。天気はこれ以上ないというほどのドピーカンで、聖山頂も丸見えだった。明日もきっといい天気だよなぁ。
小屋到着が12時ちょい前、TV音声でお昼の天気予報を聞くと山梨では明日日中は晴れだが夕方から曇って場所によっては夜は雨との予報。こりゃ明日は早めに行動を開始した方が良さそうだ。やることがないので外で昼寝しようとしたら日向では暑くて寝られなかったので小屋でちょっとお昼寝、ついでにシュラフの虫干し。やることが無いのでブラブラしていたりして3時過ぎに最初のお客さんが到着、便ヶ島から登ってきた浜松在住の単独男性だった。それからしばらくして午後5時も近くなってから白髪の単独男性がやってきたが、これがとんでもない健脚で、私と同じで今日畑薙ゲートを出発し、茶臼小屋を経由して上河内岳を越えてきたのだという!! 私と同じくらいの脚力だが年齢はダブルスコアに近いのではないか。技術力はわからないが足の強さは武内さんといい勝負だろう。いろいろ話を聞いたが黒戸尾根日帰りや早月尾根日帰りをやってのけるそうなので、やっぱ武内さんクラスだろう。ただ、装備は小屋泊まりで小屋の営業終了を知らなかったため困っていたが、浜松の男性が飯をたくさん持ってきていたのでしのげたようだ。ただ、シュラフがなくて熟睡できたかどうかはわからない。手助けしてやりたかったが、こちらは藪を警戒して防寒装備さえケチっていたのも悔やまれた(小屋の素泊まりで防寒具は不要と考えていた)。最後にやってきたのが便ヶ島からやってきたこれまた単独男性で、本日のお客は合計4人だった。この時期の金曜日の夜としてはこんなものだろうか。
なんだかんだ話をしながら酒を飲み(って言っても酒持ってきたのは俺だけだった)、真っ暗になった午後6時には寝てしまい、7時前の天気予報を聞くことはできなかった。それにあれだけ飲んだら寝て当然か・・・。アルコール度数97%のウォッカは少量でも良くきくから荷物を減らせてちょうどいい。ただし水がないと飲めないのがちょっと・・・。
ちょっと飲み過ぎに近い状態だったので6時間以上ぐっすり寝て目覚ましのアラームで目が覚めた。朝4時過ぎなので周囲は真っ暗、ヘッドライトを付けて朝飯を食いそのまま出発した。外気温は7℃と思ったよりも高く寒さは感じないが、聖岳や上河内岳は雲の中で見えず、昨日のような晴天ではなかった。やや西風が強く、長野側から雲が上がってきているようで、東の笊ケ岳や富士山方面は快晴だった。もしかしたら時間が経過すればガスが晴れるかもしれないと期待を持って歩き続ける。
薊畑でヘッドライトがいらない明るさになり、体も温まってTシャツ半ズボンのいつもの格好になり、西風で寒いのは腕カバーでしのぐ。やがて日が出てきたがガスのベールの向こう側で、ブロッケン現象も時々見ることができた。樹林帯を出るともろに風が当たるので寒いくらいだが、登りで涼しい分には汗をかかず疲労が軽減できていいことでもある。台風の影響なのか水は豊富に流れており水分補給、いよいよ最後の急登にかかるが寒さのため足は軽くガンガン高度を稼ぐ。そういえば昨日ザックを背負ったときも妙にザックが軽くて何か忘れ物をしたのではと心配になるほどだったが、先週末は雨で完全休養できたので疲れが100%とれて完全なコンディションにでもなったのだろうか。とにかくほとんど疲労を感じることなく淡々と歩けた。山頂はガスっているかと思ったら高度が上がるに従って青空が見えるようになり、雲海を突き抜けると青空いっぱいだ。これなら山頂からの展望も期待できると焦る心を抑えてペースは一定に保つ。
前聖岳から見た赤石岳 | 前聖岳から見た仙丈ケ岳、塩見岳 |
前聖岳から見た南ア深南部 | 前聖岳から見た奥聖岳 |
台形の山頂にたどり着くとまさに絶景だ! 目の前には赤石岳がどっしりと根を張り、山頂の小屋がはっきりと視認できた。赤石岳が大き過ぎて南アの大半の山が隠れてしまっているのは残念だが、左にはぎりぎり塩見岳が頭を出し、もっと左には仙丈ケ岳だ。南を見ると光岳までの尾根が続き、その裏には大無間や大根沢山、信濃俣などの深南部の山が続いていたが雲が絡んではっきりとは見えない山が多かった。展望を堪能し、本日の本当の起点とも言える奥聖岳に向かう。吊尾根状のなだらかな尾根でその先端の盛り上がりが奥聖岳だった。
奥聖岳山頂(背後は前聖岳) | 奥聖岳から見た東尾根 |
ここから見る東尾根は最初の下りがきつく、しかも北側は絶壁でザイル無しで下れるのか心配になるほどだった。今回、山に入ってからの心配の種は危険な岩場があるかどうかで、冬季東尾根の記録を見るとザイルを使っているパーティーもあり、今は雪や凍結がないのでザイルの必要性は冬季より圧倒的に少ないだろうが、登る人間の技術でもザイルの必要性は大きく左右され、私は冬山もやらないし岩もやらないから圧倒的に不利だろう。危険地帯があるとしたら森林限界以上だろうと想像したが、樹林帯に入る白蓬ノ頭は遙か遠くに見える。とにかく行ってみるしかなく、そうしても通過できそうに無かったら藪漕ぎ覚悟で岩の基部を大きく巻くか撤退すればいい。
奥聖岳は無線運用済みだが、奥積さんに第1声を伝えて生きていることを知らせ、その後も声が聞こえるか見守ってもらわなくてはならない。ワイアーDPを岩の上に置いて地上高0mHで運用するも周波数チェック第2声で早くも奥積さんに捕獲された。まだ7時過ぎで局が少なくて発見が早かったらしい。本日の予定を伝え、東聖岳まで1km弱くらいしかないがルートの難易度が不明なので1時間くらいかかるかもと伝えておいた。
奥聖岳南尾根鞍部から見た奥聖岳 |
さて、いよいよ運命の東尾根に突入だ。奥聖の岩には東尾根を指して「サワラジマ」のペイントがあり、矢印まで出ているのでまずは安心できる雰囲気だった。思いの外はっきりした踏み跡は切れ落ちた急傾斜の東尾根は通らず南の小尾根についていた。地面に置かれた石に赤ペンキが塗られたものが転々と置いてあり、はっきりした踏跡と相まってルートを外す心配はなさそうだ。まさかこれは東尾根のルートとは違うのか?と心配になるが他に道があるはずもなくそのまま下ると微小ピークが現れ、その鞍部で道は東の谷を下っていた。かなり傾斜が急で最初は灌木の草付きで何でもないが下っていくとガレ場になって灌木に捕まりながらガレとハイマツの境目付近を歩く。トラバースが始まるとガレの最上部の横断で、落ちたらタダではすまなそうなのでハイマツを掴んで慎重に横断する。ルートはそれなりに歩きやすいところを選んで通っているが歩く人が少ないので足下が不安定な箇所もあるので注意が必要だ。これより下はガレていて横断不能、上はハイマツの藪で、転落が怖い場合はハイマツの藪を漕いだ方が安全だろう。でも、山慣れた人なら問題なく歩ける程度の危険度である。
しかしこのルートは謎だ。何が謎かと言えば東斜面のトラバースなので、積雪期はベットリと雪が付いた急斜面に変身するはずで、積雪期は雪崩、滑落の危険が高くトラバースなどできないはずだ。それなのに踏み跡があったり目印があったりするが、これは無雪期専用ルートなのではなかろうか。たぶん積雪期はハイマツが埋もれるので主稜線を正直に登るのではなかろうか。積雪期に登られるルートでも場所によっては風で雪が飛ばされてはっきりとした踏み跡ができる区間もあるのだが、このトラバースルートは積雪期は無理なので、やっぱり夏道として開かれたと考えるべきだろう。とすると、2週間前に聞いた切り開きなのだろうか。まあ、そうであろうと無かろうとこの程度の踏み跡が続いていれば岩場さえなければ問題なく歩けそうだ。
ガレ上部を横断すると草付きにでて主尾根に戻り安心できるルートになる。ここから樹林帯まで北側が切れ落ちた細い尾根が続くが、よほどの強風でない限りは恐怖で歩けないなんてことはない普通の尾根だったので助かった。問題の踏み跡はハイマツはうるさいが不完全ながら狭い刈り払いがあり、藪漕ぎはしないで済んだ。
2880mピークから見た奥聖岳 | 2880mピークから見た東聖岳、白蓬ノ頭 |
最初の2880mピークを越え、次に見える下方のとがったピークが東聖岳で、特に危険箇所もなく山頂にたどり着いた。森林限界でハイマツが生え、強い北西の風が吹き抜けるのでハイマツの影に隠れて無線を行い、無事奥積さんと交信できて生きていることを知らせることができた。まだ森林限界が続くので危険箇所が出てこないとは限らないので、白蓬ノ頭まで無事到着できるよう祈ってくれと頼んだ。
東聖岳山頂 | 東聖岳から見た奥聖岳 | 東聖岳から見た白蓬ノ頭 |
2770m付近から見た東聖岳 | 2770m付近から見た白蓬ノ頭 |
2度と来ることがない東聖岳を出発、どんな道が待っているかハラハラドキドキしながら歩くが、今まで同様尾根は細いが岩場はなく、淡々と歩くだけでよかった。雷鳥が飛び立って驚いたことはあったが。すでに白い羽に替わりかけていて冬支度の模様。そして運命の標高2700m地点、森林限界も終わりに近く尾根が広がってきたところで広々とハイマツが刈り払われた第1級道が現れたのだ! 今までの尾根道でも刈り払いだなと思っていたのだが、これと比較すると月とすっぽんで、2週間前に教えてもらったのは間違いなくこの道のことだと悟った。体に触れる藪はなく、場違いのようないい道だった。
ルートが分かるか心配していた白蓬ノ頭西側の二重山稜は藪がないので刈り払う必要が無くかえってルートがわかりにくいが、周囲の雰囲気で踏み跡がなんとなく分かるし、目印を追えば問題なし。南の尾根上に道があるかと思ったら北の尾根にあり、末端手前で谷筋に降りてピークに向かった。二重山稜を過ぎると再び間違いようのない道になり、幕営適地の草付き平地から僅かで白蓬ノ頭に到着した。
白蓬ノ頭山頂 | 白蓬ノ頭から見た東聖岳 |
白蓬ノ頭から見た笊ケ岳、富士山 | 白蓬ノ頭から見た赤石岳 |
そこには驚く光景が広がっていた。樹林で何も見えないと思っていたのが三角点周囲の木は全て伐採され絶好の展望台になっていたのだ! 目の前の赤石岳がとてつもなく大きく、尾根続きの聖岳の比ではない。笊ケ岳も目の前で南には上河内岳と360度の展望だった。予想外の山頂に山頂到着時刻を録音するのを忘れたくらいだ。道を切り開いただけでなくこんなところの伐採までやってくれるとはありがたいものだ。ここでも無線を運用、今回も奥積さんが拾ってくれた。重いピコ6を持ってきた甲斐があったというものだ。
そろそろ下山と言うときに東尾根を見ていたら、どうも白いモノがユラユラ動いているように見えたのでず〜っと見ていると少しずつ下ってくるのがわかり人間であることに違いないとわかり驚いた。昨日小屋に泊まった人では東尾根を下るという人はいなかったので、もしかしたら兎岳避難小屋を出発した人なのだろうか。しかし、あの白い衣服は私と同じく沼平ゲートからやってきた三鷹の老人としか思えない。奥聖岳に立ち寄ってサワラジマの文字に引き寄せられて道があると思ってやってきてしまったのだろうか? もしそうだとしてももう東聖岳より下っているので危険箇所はなく、問題なく降りてこられるだろうけど。誰なのか確認して話をしたかったが、小1時間は待たないといけなさそうなので時間はなく出発することにした。
さあ、あとは下山だ。このままの道の状態が続けば楽勝だろうし、先週の話だとそれは確実だろう。テント場適地に戻って赤目印をたどるとやっぱりいい道が続いていた。もっとも、この辺はシラビソ樹林で切り開きが無くても勝手気ままに歩けるが。それでも邪魔な木は根元から切ってあるし倒木処理もバッチリだ。ただ、最近倒れた木は当然ながらそのままだが。とにかく目印はイヤになるくらい短い間隔でペイントされているので迷う方が難しいくらいだ。目印は古いモノ含まれるので冬ルートを整備したと思われる。
2260m肩まで冬ルートを正確にたどり、ここで冬ルートは南下するが気を付けてみていなかったので分岐は分からず、目印をたどると2102m標高点がある尾根に自動的に入っていく。所々にさび付いたワイアーロープがあるので以前から存在した造林作業道らしい。この尾根をそのまま進むと赤石沢橋付近に降ろされると想像していたが、尾根を外れて斜面をジグザグに下り始めると現在位置が分からず、最後までどこで林道に出るのかわからなかった。道は相変わらず目印が多く迷うことはない。
標高2000m付近を歩いていると下から人間の声が! なんとここを登ってきたパーティーがいるのだ。少なくともネットではこの道の情報は発見できず、私のように東海フォレスト関係者から情報をもらわない限りは登山口がどこにあるのかわからず、私のように下るのは可能でも登るのは不可能だ。女性3人男性1人の4人パーティーで、この時期にこんな所を登るのだからタダモノではないに違いない。情報源は明かされなかったが、私と同様に誰かから教えてもらったとのこと。当初計画では白蓬ノ頭で幕営だったようだが、思ったよりも早く到着しそうなので兎岳避難小屋まで行こうなんて話をしていたくらいだからタダモノでないことが分かる。1日で標高差2000m以上を登ろうというのだから・・・。やはりこの時期のアルプスはある種のスペシャリストの領域なのかもしれない。
巡視路(聖岳東尾根夏道)入口の標識 |
あとは淡々と下るだけだが傾斜がきついせいか左足親指にまめができる兆候を感じたので久しぶりにテーピングを巻いて保護して歩き続け、だいぶ楽になった。徐々に気温が上がりうちわを扇ぎながら歩き続けると突如として送電鉄塔28号が現れた。ここから先はもう1ランク道のグレードが上がって送電線巡視路に入り、ジグザグに下って林道に出た。そこには巡視路入口を示す小さな標識があるだけで東尾根夏道起点とは分かるはずもない。GPSで見ると聖沢登山口から約1km椹島方向に入ったところだった。もっと遠くに降ろされるかと思ったが15分の林道歩きで済みそうだ。
テクテクと林道を歩いて聖沢を通過、赤石ダムのトンネルを抜け坂道を下ってデポした自転車を回収、帰りは体力を使い果たしても問題ないので上り坂でもできるだけ勢いを付けて自転車に乗ったまま登ろうとしたが、やはり傾斜がきつい数カ所で押さなければ上がれなかった。それでもたった1時間でゲートまで戻れたのだ、自転車の効果は絶大だった。
このように、思いもかけず楽勝で東尾根縦走が成功してしまった。聖岳に登る人は多いだろうが東尾根を歩く人は大変少ないはずだが、私の情報を見ればちょっと山慣れた人なら問題なく歩けるはずだ。1泊2日かけるなら同じルートから聖を往復ではなく、下りは東尾根を歩いて周遊ルートがお勧めである。最大の難関は聖沢登山口までの足であるが、私のように自転車を使うか、赤石岳等他の山と組み合わせて縦走し、東海フォレストの小屋を利用して帰りのバス乗車権利を確保するか。でも健脚ならば自転車を利用して早出する方が時間に余裕ができるのでバス利用よりいいだろう。東尾根はまだまだマイナーなルートだが、みんなで入山して踏み跡をしっかりと固め、恒久的なルートになるといいなぁ。
5:01ゲート-5:17畑薙大吊橋-5:35畑薙橋-5:43赤石地下発電所-5:56中ノ宿吊橋-6:28自転車をデポ-6:37展望台-6:52新聖沢橋-6:58聖沢登山口着-7:12聖沢登山口発-7:42出会所小屋跡-7:53エアリアマップの冬道入口-8:19聖沢吊橋-9:09造林小屋跡着-9:29造林小屋跡発-10:07乗越-10:17水場-10:25滝見台?-10:51岩頭展望台-11:44聖平小屋
4:52聖平小屋-5:18薊畑-6:01小聖岳-6:20水場-6:55前聖岳着-7:00前聖岳発-7:11奥聖岳着-7:31奥聖岳発-7:42トラバースが終わって東尾根に乗る-7:50 2880mピーク-8:00東聖岳着-8:25東聖岳発-8:38 2700mの刈り払い出現-8:46鞍部-8:55白蓬ノ頭着-9:31白蓬ノ頭発-10:25 4人パーティーとすれ違う-10:41まめ処置で休憩-11:11鉄塔-11:23林道-11:33 ゲートまで15kmの標識-11:43聖沢登山口-12:13自転車-12:38中ノ宿吊橋-12:47赤石地下発電所-12:50畑薙橋-12:54青薙山登山口-13:03畑薙大吊橋-13:10ゲート