乗鞍岳北部 猫岳,大崩山,四ッ岳,硫黄岳,烏帽子岳,大丹生岳,十石山 2002年5月25〜26日

 

白谷山から見た残雪期の乗鞍岳

 

 乗鞍岳は3000mを越える主峰剣ヶ峰の他にいくつもの2000m以上のピークがあるが、登山道のないピークも多いし、朝日岳のようにロープで立入禁止になっている山もある。これらに登るには登山道や藪が雪に覆われた残雪期が最適であり、有料道路の冬季通行止めが解除になった直後が狙い目だ。実際には来年(2003年)から乗鞍岳はマイカー規制が始まり、出入りが制限されるのを嫌って、楽できる間に登らない手はないと決行を決めた。むろん積雪期でもいいだろうが、私は極端な冷え性で、厳冬期にこんな標高の山に登ったら、下界でさえ毎年霜焼けができるほどだから手足の指が無くなってしまうのは必至だ。

 実行の数日前、仲間が大崩山に登り残雪の様子を教えてくれた。なんと車道脇には雪はなく、駐車余地はどこも使えるとのこと。それどころか山の残雪も早くしないとなくなっちゃうよと警告された。雪解けのスピードが異常に早いようだ。これで心配のネタの一つがなくなったので決行だ。

 ただし、5月は乗鞍スカイラインの営業時間がAM7:00〜PM6:00。ゲートが開く7時まで待っているのも時間がもったいないし、乗鞍の残りピークだけでは2日間かけるのももったいないので、初日にオプションを付け加え、八ケ岳の立場岳に登ってから乗鞍に向かうことにした。スカイライン沿いに南下しながら道路脇のピークを登ることにする。

 立場岳から1時間で下り、軽く着替えてすぐ出発。諏訪南ICから松本ICへ、国道を高山方面へ向かい、上高地の玄関口の沢渡を通過、釜トンネルを過ぎて安房トンネル。考えてみれば昨年夏の裏銀座〜笠ケ岳縦走の帰りのバスで松本方面に通過したことがあるだけで高山方面は初めてだ。値段は\750と安くはないが、安房峠は冬季閉鎖中、それに節約できる時間が大きいからコストパフォーマンスは許せる範囲だろう。トンネルが無かったらこの時期は平湯に抜けられないのだから。

 スカイラインへの県道に入り、グングン高度を上げる。上空は青空、寒気が入って夕方は雷雨の可能性があるとのことで、早い時間にできるだけ数を稼ぎたい。森林限界での雷はかなりヤバい。今の時期は乗鞍高原に抜ける県道が冬季通行止めで、復路もスカイラインを使うことになる。\3000以上だがやむを得ない。来年からは金を払っても自由は得られなくなるのだし。残雪期でも車が次々とやってきて料金所前に列をなしている。もしかしたら畳平の駐車場はいっぱいかもしれない。まあいい、こっちは北側の山から登り、畳平に入るのは夕方だから。

 

猫岳山頂と南側の展望

 スカイラインから見える山肌にはほとんど雪が残っておらず、道ばたにも見えない。事前情報通りだったが、予想以上の雪の少なさだった。猫岳と四ッ岳の鞍部を注意深く探しながら、時々停車して現在地を確認しながら走行した。この鞍部には車4,5台分の駐車余地があり、稜線には残雪があって向こう側が見えず一見すると稜線とは思えない。しかし、猫岳からの尾根がまっすぐこちらに伸びている。雪が消えていればここから槍穂が見えるからすぐに分かるだろう。思ったよりも烏帽子岳が近く、行きすぎたかと心配した。

 さあ、乗鞍第2弾のスタートだ。幸い、立入禁止等の警告看板は見られない。堂々?とガードレールを乗り越えて雪棚に乗る。数10m行くとハイマツ帯が現れたがそれもすぐに通過、再び雪棚を歩けた。雪庇の融け残りだから稜線の東側についていて、スカイラインから隠れる方向だから助かる。昼間だから雪が融けて少し潜り夏道よりも疲れはするが、ハイマツの海でもがくよりも何1000倍も楽だ。淡々と歩いて最高地点からハイマツ帯に入る。すぐに大きな岩があるピークに到着。その先にもピークが見えるが高さは変わらないだろう。ハイマツの海を漕ぐのが面倒なのでここを山頂とした。

 無線は430で終わろうかと思ったが、山ランメンバーを呼んで応答が無いのを確認してメインを付けっぱなしにしてDPを組み立てた。面倒なので岩の上にDPを置いただけの手抜き装備。それでも更埴市鏡台山移動のJA7WFT/0がいたので楽勝だった。

 続いて大崩山。大体の区間ではまだ雪が残って藪の歓迎はなかったが、部分的にはかなり雪が溶けて残った雪棚は崩れそうなものもあった。ただ、稜線東直下は残雪に覆われる期間が長いようで樹木が生えずに草付きの部分もあり、できるだけそのような場所をつないで歩く。なだらかな稜線を登り始めると再び雪が連続し、山頂部分はハイマツが切れた岩の点在した場所だった。帰りは同じルートを戻った。なお、このルートは翌日車で通過した際に覗いたら、私の足跡以外に複数の足跡が新たに付いていたので、残雪期はけっこう登る物好きがいるらしい。傾斜は緩やかで滑落の心配もなく、残雪入門にも良さそうだ。

 次は四ッ岳。どこから登るのが一番良さそうか考えたが、烏帽子岳や硫黄岳等周囲の山も考えて南側から登ることにする。四ッ岳南側のヘアピンカーブを上がったところに立派な駐車場があるのでそこに車を止める。なぜこんな所に駐車場があるのか分からないが、この周辺のピークに登るには絶好の位置にある。周囲を見渡すが、とりあえず立入禁止の看板は見あたらないのでガードレールを越えて斜面に取り付く。昔の避難小屋なのか何かの観測小屋跡なのか廃屋が建っているがもうボロボロで使い物にならない。どうもこの谷沿いに踏跡があるようで、硫黄岳への登りで使ってみよう。

 適当に斜面に取り付き、右手の残雪を利用して登っていく。ただ、雪がない部分のハイマツは寝ているわけではないが背が低く、無雪期でもどうにかなりそうである。あちこちに石が点在し、それらをつなげば藪漕ぎ労力削減ができよう。雪田の傾斜がきつくなり恐怖感が出てきたので左手のハイマツ帯に乗り移るが、思ったよりも藪は深くなくスイスイと登ることができた。標高が上がるとハイマツの背丈はいっそう低くなり、地表の石も多くなって石の間を渡り歩くような感じだ。山頂の一角にたどり着くとなぜか今までよりハイマツの背が高くなるが、地図では西側手前のピークが山頂とのことで右側のピークと三角点は無視だ。山頂はハイマツに覆われ標識も何もない。ほとんど登るヤツはいないだろうから当然か。ここから見ると大丹生岳東の駐車場から尾根上に踏跡があるようだ。地形図では破線が描かれているが本当にあるのだろうか。

 

四ッ岳南東谷間から見た硫黄岳

 続いて硫黄岳。四ッ岳をやや東寄りに下って最後は雪田を利用して谷間に下ると明らかな踏跡があった。歩き始めた場所で見た踏跡の続きらしい。これが地形図の破線であれば硫黄岳まで続いている可能性がある。なだらかな谷を下っていくと部分的に道が薄くなる場所もあり雪に埋もれて正確なルートが分からない所もあったが、周囲を見渡して雰囲気でルートをかぎ取った。どうも無雪期の方が歩きやすそうだ。このまま道は谷を下っていくが、硫黄岳へは稜線上を歩かなくてはならない。右手の稜線が接近し、どこかで尾根に取り付こうと気を付けて歩いていると、見事に刈り払われた道が尾根目指して延びているではないか。標識があったのだが何と書かれていたかまで記憶がない。

 稜線に上がっても刈り払いの道が続いていて予想外の展開だ。徐々に高度を上げて硫黄岳山頂を通るかと思いきや、北側斜面を僅かに巻いている。山頂までさほど距離が無さそうなので背の低いハイマツの中に足を踏み入れて上を目指すと、それまで地を這っていたハイマツが立ち上がり猛烈な藪漕ぎとなった。距離は少ないが激藪で、山頂は立ったハイマツの中だった。風が防げるのはいいがのんびり休憩できるような山頂ではなかったが、ハイマツの間にDPを張って無線を運用した。

 このまま十石山まで行きたいところだが時間がかかりそうで帰りは真っ暗だろうから明日に回し、スカイライン沿いの山を先に片づけてしまおう。次は烏帽子岳で、車はそのままにして車道を上がり、東側直下から登ろうと考えた。山スキーを楽しむ人が登った足跡があるが、一面の雪面で傾斜がきつくて滑落の恐怖感があり私には無理と判断し、北西斜面の雪田とハイマツの境界を登ることにして車道を逆戻りし、道路の適当な場所から雪田に取り付いた。ハイマツの枝に捕まりながら高度を稼ぎ尾根に出ると岩があり、見晴らしも良かった。無雪期は私が諦めた急な尾根を登ることになるだろうが、おそらくハイマツが強烈だろう。距離は短いが硫黄岳よりは長い。やはり残雪期がお薦めだ。

 

大丹生岳山頂から見た畳平方面

 同じコースを下って車道を歩き、烏帽子と大丹生岳との鞍部によじ登り、緩やかな尾根を大丹生岳へと歩く。こちらは既に雪はなくずっと地面を歩いた。文字が消えた古い標識が立っており、往年の登山道跡を歩いているらしく、何となく踏跡があるような無いような感じである。尾根はさほど痩せていないので藪があっても右へ左へと避けながら歩けるが、できるだけ車道から目立たないよう南側に隠れるように登った。なだらかな山頂でハイマツと岩が点在する場所で見晴らしも良い。無線終了後、同じルートを下って車に戻った。

 もう午後も遅い時間で、畳平駐車場の行列も解消しているだろうからと車を走らせると案の定駐車場は空きが多く、帰る一方で車はハケていった。ただ、私と同じように駐車場で車中泊しようとする連中も意外に多く、ほとんどは山スキーヤーらしい。静かに寝られるようそれらの車からできるだけ離れたところに駐車して寝た。

 

白谷山から見た十石山から乗鞍岳

 

 翌朝は冷え込んでフロントガラスも凍ったが、残雪の上を歩くにはこの方がいい。始めに朝日岳に登ってしまおうとアイゼンと無線機を持って歩き出す。剣ヶ峰で一度歩いたルートだし、立派な道なので迷う心配もない。朝日岳東斜面をトラバースする登山道は一面の残雪に覆われていたので、その雪田を上に上がっていけば山頂である。下から見ていたときは結構な傾斜でアイゼンが必要かとビビっていたが、行ってみるとクラスとして摩擦の効く雪面でアイゼンは必要なく、ザクザクと音をさせて山頂まで登れてしまった。夏なら通行止めのロープで入れないが残雪期はロープも地面も雪の下である。山頂付近の雪は溶けて砂礫が出ていたが。冷たい風が吹き付けて寒く、岩陰に隠れながら無線を行った。

 

 さあ、最後の十石山だ。既にゲートが開いており、昨日車を止めた四ッ岳南駐車場に車を回して出発する。昨日歩いたばかりなので迷うこともなく硫黄岳直下を通過、まだ刈り払いが続いていて、このまま十石山まで続いているかと思ったらすぐに終わってしまった。しかし、道が消えたわけではなくその先にはしっかりした踏跡が続いていた。昔の道ではなく今でも歩かれている雰囲気だった。鞍部付近は雪庇の残骸が残っており雪の上を歩いたが、調子に乗りすぎて踏跡から離れてしまい、藪と岩で正しいルートに戻るのに一苦労させられた。

 ルートに乗るとなんだかすぐ上で人の声が聞こえるような気がしたが、まさかこんな所を歩くのは私くらいかと耳を疑ったが、見上げると七色の旗のような物が・・・。登っていくとお社があり、ジモティーと思われる数人が宴会の最中だった。どうも今まで歩いた道はお社への参道だったようだ。ということは、当面は道が消えることは無いだろう。しかしまあ、こんなところに社があるとは驚いた。

 お社を過ぎると尾根よりもやや北側を巻くようにルートが延びている。今までと比較して踏跡が薄くなり、藪はそれほどでもないが逆にどこでもルートに見えてきてやっかいだ。少ない目印を頼りに登っていく。2532mピーク(日本山名事典では「金山岩」)周辺は森林限界を超えて岩が露出した見晴らしのいいピークで、山ラン無効であるが将来に備えて無線をやっておく(やっておいてよかったぁ、山名事典に掲載された)。この先はほぼ水平移動で楽勝かと思ったら大間違いで、ルートははっきりしているのだが急にハイマツがうるさくなり、刈り払いが充分でないので体に触れるし、目の高さに枝があるので鬱陶しい。しかも十石山に近づくとトンネル状になり腰をかがめて歩くようになった。小動物はいいが人間サイズには窮屈な道だ。まあ、それでも全くルートが無くてハイマツと格闘するのを考えたら天国ではある。

 

金山岩から見た乗鞍岳 十石山避難小屋

 そのハイマツのトンネルに三角点があって写真撮影に苦労し、こんな場所では無線をする雰囲気ではないので先に進むとすぐにハイマツの海が切れて草付きの開けた場所に出た。休憩するならこっちがいいのは当然で、近くの避難小屋を見ながら無線運用を行った。


 帰りは「下山」ではなく、車を置いた場所の方が高いしピークを越えてアップダウンもあって「登り」が多い。昨日の疲労も残っており、最後はバテバテでどうにか車に戻った。もう乗鞍岳で登るべきピークはないので退散。土日とも寒かったがこの日は本格的に寒気が入って、お昼頃には畳平付近でも雪が降りスカイラインが通行止め。こっちは四ッ岳まで降りていたので何ともなかったが、下手をすると閉じこめられるところだった。




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