南ア南部 青薙山、稲又山 2000年11月18日
南ア南部、白峰南嶺南部に位置するのが青薙山、稲又山である。ここの辺りまでは南アに入ると思うが、これより下った場所は白峰南嶺と尾根続きであるが南アの範疇には入らないようだ。畑薙ダム湖の北東側にあり、標高は2400mちょっとあるので、南アでは小粒な山と言えるだろうか。エアリアマップでは赤実線が入ってるので道があるらしいが、赤実線の割には藪っぽく経験者向きとの表記もあり、いったいどうなんだろうと疑問に思わせるルートだ。さほど難しい山ではないはずだがメジャーな山でもないため、当時は仲間内では武内さんしか登っていなかった。
ルートは一つ、畑薙ダムを出発/ゴールとし、畑薙橋手前から赤薙脇を登る登山道で池ノ平→青薙山→稲俣山→所ノ沢越→中ノ宿吊橋の周遊コースだ。標高差から考えると日帰り圏内であるが水平距離があり、エアリアマップのコースタイムを合計したら20時間近くなってしまった。さすがにこれでは日帰り計画にするわけにもいかず、所ノ沢越での幕営とした。なんだかんだでもう冬間近なシーズンになってしまい幕営は寒そうだが、雪が来る前に登れる最後のチャンスと思えたので実行を決意した。今回は三角点写真収集家のRELさんと一緒である。
たぶん今回が自分で車を運転して畑薙ダムに入るのは初めてではなかろうか。バスで行っても遠いが運転するとその遠さが身に染みる。静岡市街から北上、富士見峠を越えて井川に下り、田代を通って絶壁を巻く道を通ってようやく畑薙ダムである。さらに進むと沼平ゲートが出現、既に数台の車が駐車してある。夜間の運転でとても眠いが、景気づけに酒を飲んで寝た。
青薙山登山口の階段 |
翌日は天気が良く冷え込んだ。温かい飯にすれば良かったが、レンタカーでの車中泊では火気を持ってきていないし、山で使うコンロはザックの奥底にパッキングされて出すのは面倒だ。冷たい弁当を食って出発だ。他にもこれから出発するパーティーがおり、我々と同じく青薙、稲俣を縦走する3人パーティーもいて心強かった。しかしこのパーティー、朝7:00に出発して今日の幕営場所が池ノ平というのだから耳を疑った。おいおい、それだと初日があまりにも楽すぎないか? この時間に出れば所ノ沢越まで充分行けると思うが・・・。
しばらくは単調な林道歩きが続き、明るくなってから出発した登山者がチラホラと見える。最初に出てくる畑薙大吊橋を渡る人の姿も見え、こんな時期でも茶臼岳方面は賑わっているらしい。さすがに私は晩秋に南ア主稜線に登る勇気はない(といいつつ数年後は雪がない限り登るようになっていた・・・)。ダム湖を過ぎ直線的に林道を歩くと右手に階段の登山口が現れた。標識があるのですぐ分かるだろう。ここから本格的な登りになるので薄着になった。
池ノ平テント場 ここはお薦め |
歩き出してみると心配するような道ではなくしっかりとした登山道が続いていた。赤薙のガレの脇は古い道は崩れてしまったようで樹林側に避ける道ができている。かなりきつい傾斜でグイグイ登っていくので効率がいいが、これがクソ暑い夏だと大汗をかかされるだろう。今は寒いくらいの気温なので体を動かして適度な温度だ。やっと傾斜が緩むと落葉樹林帯の中に平地が現れ、幕営して下さいと言わんばかりの幕営適地だ。樹林の中の半分窪地のような感じで、雨も風も直接テントにあたらなそうだし、どういうわけだか木の根本からコンコンと水がわき出していい水源になっている。ここが池ノ平だろう。こんないい場所だったら幕営してみたいと思いつつ、まだ時間が早いので水を補給して先を急ぐ。
地図をみて分かるように、ここから青薙山手前の2014m標高点までは尾根筋ではなくだだっ広い樹林の斜面を歩くので、視界が得られないときは注意が必要かもしれない。しかし今日みたいに秋晴れの天気では全く問題なく、踏跡も分かるし目印も目視できルートを失う心配は全く無かった。いったん傾斜が増すが再び傾斜がゆるまり、ジワジワと高度を上げる。いつのまにか周囲は落葉樹林からシラビソ樹林に変わり、南アらしい雰囲気を醸しだす。
青薙山山頂 |
途中で見える赤石岳、荒川岳 |
高度を上げ尾根筋に入れば、その後は尾根を追いかけるだけなのでルートをミスる心配がさらに減少、道は相変わらずはっきりしているので外す心配はないが安心材料だ。傾斜が増して樹林帯を登り切ると樹林が切れて小広い開けた場所に飛び出す。ここが青薙山である。マイナーな山らしく手製の標識が1つあるだけで周囲はシラビソに覆われて視界もない。しかし上空が開けているので日差しがいっぱいで気持ちがいい。RELさんの到着を待ちながら無線運用を行った。
今から考えると山頂のちょっと先で山伏方面へ分かれる踏跡の状況を確認しておけばよかったが、当時は気にすることなく稲又山に向かった。あまり大きなアップダウンがない尾根で、相変わらずシラビソ樹林が続き、踏跡のグレードもこれまでと同じ程度で迷うような場所は無かった。エアリアマップの表記はちょっと慎重すぎるかもしれない。なにせ道がないわけではなく、藪山をかじった人なら問題なくルートを追えるだろう。途中、ちょっとだけ視界が開けた場所があり、富士山や荒川岳、赤石岳、聖岳を望むことができる。
稲又山山頂 |
登り返して到着した場所が稲又山で、樹林が切れてはいるが青薙山より狭くて日当たりは良くなかった。この標高ではしかたなかろう。標識は1個だけで三角点の白さが目立つ。あまり人の気配は濃くないが藪でボウボウということもなく、見晴らしがないのが人が少ない原因なのかなぁなどと考えた。再びRELさんを待ちながら無線を運用した。天気がいいが冬型の気圧配置で風が強く体感温度は低かった。
山頂を踏むのは行程上ここが最後だ。今夜の宿である所の沢越に向かって下降する。ガイドブックによると稲又山から北に延びる尾根に吸い込まれないようにと注意書きがあったが、踏跡や目印は北東尾根についているので心配はないだろう。それよりも、所の沢越で幕営せずに中の宿に下るのだったら北の尾根を歩いた方がいいのが現実だ。所の沢越から標高2000mを延々と巻くルートは2カ所ほど斜面が崩壊してガレを通過しなければならず、特に所の沢側のガレは崩壊が大きく、慣れない人が突っ切るのはあまりお薦めできない。それよりも北尾根を歩けば崩壊地点は全部パスして巻道終了地点に出ることができるので安全だ。ただし、実際に歩いていないので藪の状況は不明であり、途中で尾根が左に屈曲するし下りなので藪慣れた人向きのコースか。
道の状態は今までと同様心配なかったが、造林小屋跡だろうか、尾根の肩にある小広い場所にあった倒壊した小屋の先から急にルートが怪しくなった。今まではシラビソの深い樹林だったが、その周辺は伐採した後植林しなかったようで、細いダケカンバ?の木が立ち並び、踏跡が無いのだ。時々出てくる赤テープを追うがどうも尾根を外してしまったようで、右手の高い方に向かうとちゃんと踏跡があった。その先はしっかりした踏跡が続いていた。
所の沢越 各方面の標識有 | 所の沢越西側のテント場 水場近し |
所の沢越で久しぶりのまともな標識に遭遇、ここから先は一般コースなのだろうか。このまま笊ヶ岳まで行ってみたい気もしないではないが、既に笊、布引山とも登っているので用事はなく、鞍部から西に向かう道を下るが、今まで同様よく踏まれた道であった。すぐにテント場があるのかと思ったら沢の源頭まで下るので5分程度歩いたところで、小さな沢を渡った先に平らなテント場があった。池ノ平と比較すると格が落ちるのは否めないがなかなかいいテント場だ。水場は近い、平らである、樹林で風雨がしのげるなど条件は良好といえるだろう。心配だった強風もここではほとんど風もなくゆっくり休めそうだ。思ったよりも早い時間に到着し、まだ日没まで時間があるので日帰りも不可能では無さそうだが、単独行ではないので素直に泊まるのが良かろう。しばらくしてRELさんもやってきて、酒を飲みながら今日の無事を祝した。夜は冷え込みが厳しく、アルコールを飲んでもほとんど酔いを感じないくらいだったが。おまけに薄手のダウンシュラフでは熟睡できないくらいだった。
翌日も文句のない快晴、ここでRELさんとは別行動となる。私はこのまま中の宿吊橋経由で下山して車を回収し、RELさんは布引山、笊ヶ岳を経由して老平に下り、私が車で迎えに行くのだ。車で行くのもかなり時間が必要だが、笊から老平までの下りは標高差2000m以上あるので歩くのも時間がかかるだろう。登山口で待ち合わせることにし、朝食を済ませて出発だ。
中の宿への下りの道ははっきりしているが、最近人が通った気配が感じられない。荒れていると言うほどではないが、最近整備を行った形跡は見られなかった。進んでいくと倒木はあるし、2,3箇所は斜面が崩壊したザレ場をトラバースするし、標高が下がると低木の枝が張りだしてるし。でも大半の区間では間違いようがない立派な登山道がそのまま残っていた。尾根上やシラビソ樹林中は藪が生えることもなく、往年の状態が保存されるらしい。
中ノ宿吊橋 登山道より立派? | 長〜い畑薙大吊橋 一度お試しあれ |
最後に大井川を吊橋で渡り(なぜか吊橋はまともだった)、無事林道に到着できた。ちょど入れ違いでこれから所の沢越を目指す3人パーティーと会い、情報提供を行った。昨日、池ノ平で幕営すると言っていたパーティーとどこかで交差するだろうか。こんな時期のこんな山域なのに2パーティー6人もいるとは奇遇なのか。
あとは延々と林道を歩くだけ。ほとんどアップダウンもなく、これなら自転車使えるかなぁなどと考えつつ単調な歩きが続くが我慢である。畑薙大吊橋では今日も茶臼岳方面へ向かって橋を渡る人の姿も見られた。ゲートまで約1時間半の行程だった。冷え込んでここまで下っても寒く、車を置いた場所は運悪く日影で着替えには寒すぎるのでダムまで行って日当たりの良い場所で着替えた。そして山伏西直下を越える峠で笊ヶ岳の写真を撮影して早川町に下り、老平でRELさんを拾い、草塩温泉で暖まってから東京に戻った。