南ア深南部 黒沢山、奈良代山 2000年4月29日

 

 

 黒沢山は南ア深南部、不動岳と中ノ尾根山間に位置する2000mを越えるピークである。西側の奈良代山付近まで林道が切り開かれ、ゲートもなく車で進入できるので割と楽に登れるはずだ。山渓の分県登山ガイドの静岡県版に登場するくらいだから、そこそこ歩かれているようだ(ただし熟達者向けと紹介されている)。連休初日で体力があるうちに南ア深南部を考えていたが、翌日以降の行程を考えるとあまりにも時間がかかる山では車の移動時間がきついので、黒沢山くらいがちょうどいいだろう。

 

黒沢山登山口

 何度来ても水窪は遠い。夕方に東京を出発して、東名袋井ICから一般道を延々走ってようやく水窪ダムサイトへ到着、そこから中戸林道に入らず左上に入る奈良代林道方面に入る。ここはダートだが道の状態が良く、普通車でも安心して走れた。この林道、ガイドブックでは途中の大きな岩の所までとなっていたが(地形図でも同じ)、2000年5月当時は奈良代山との鞍部、標高約1600mの地点まで林道ができていた。鞍部を乗り越えた直後に広い駐車スペースがあり(夜中では駐車した場所がどこなのか全く分かなかった)、明るくなってから登山道を探すことにして寝た。現在ならハンディーGPSでおよその場所が分かってしまうから、僅か数年でも時代を感じる。

 朝起きると、なんと両側にピークが見えて、奈良代山北側鞍部であることが判明。黒沢山への道から奈良代山への登山道をこの林道が乗り越えているので、その目印で登山道への取り付き口が分かる。もっとも、この辺は藪が無くてどこでも歩けるので尾根を目指して歩けば問題なさそうだが。

 

シャウズ山山頂。刈り払いは完璧

 シャウズ山までのルートは笹の刈り払いがされて非常にしっかりしている。山頂には標識と三角点があるが、ここは地形図にもコンサイスにも記載されていないのでフリーパスで通過する(今では日本山名事典に記載された)。ここから先が南ア深南部の領域か・・・と思ったら、意外にもまだまだ道が続いており、両側から笹が被っている場所もあるが概ねはっきりした道だった。ただ、シャウズ山から先のピークは北側を巻いていて、尾根のてっぺんは、時速50mの猛烈な笹藪地獄である。下りで道を間違って尾根に出てしまい、ひどい目に遭った。踏跡は稜線よりも50mくらい下、笹地獄地帯を避けた場所を巻いており合理的だ。

 ピークを越えると道が薄くなってきて、特に鞍部付近はわかりにくいので足元の踏跡と目印に注意が必要だ。尾根が広がるまでは尾根直上に登らず北側を巻くのがミソである。しかし、いつのまにかルートを失ってしまい、尾根に登って上を目指すことにした。一面の笹原だがどうにか歩ける程度で、がむしゃらに登っていくと徐々に背の低い笹で歩きやすくなってきた。

 

鞍部付近から見た黒沢山

下山時、ルートを外して笹藪から撮影

 踏跡から外れてそのまま正直に尾根を歩いている途中、なんと鹿の角を発見! 正真正銘、南ア深南部原産の野生の鹿の角だ。その昔、山下さんとお隣の中ノ尾根山に登ったときに、林道の途中で鹿の角を山下さんが発見したことがあるが(最初はタダの枯れ枝にしか見えなかった)、私自身が発見したのは初めてだ。長さは50cm程度で大きいのか小さいのか全く分からないが、お宝なので持って帰ることにしてザックの脇に付けた。中ノ尾根山で発見したときも登っている途中だったが、あの時は少しでも荷物を軽くしたいので角は帰りに回収することにして、疲労して薄暗い頃に戻ってくるだろうからと目立つように造林小屋の軒下に吊しておいた。しかしこれが大失敗で、この日は林業関係者がゲートを開けて車で入ってきてその角を発見して横取りされてしまった(;_;) 今回は藪の中で2度と同じルートを歩けるはずもなく、荷物になるが山頂まで持ち上げることにした。ちなみにこの角、今ではアパートの壁に飾られている。その後、北海道で同程度の大きさのエゾシカの角を拾い、南ア前衛峰、大鹿村の笹山で鹿の角の切れ端?を拾い、合計3つが壁に掛かっている。鹿の角は毎年春生え替わるので、1頭の牡鹿が年2本の角を落とすことになり、日本全体では毎年数千本、もしかしたら数万本の角が落ち続けることになる。しかし、鹿の影が濃い奥日光では道無き藪山を歩いても角が落ちているのを見たことがない。尾根筋ではなく谷筋にあるのだろうか?

 群界尾根が近づくとコンスタントに雪が現れて笹が埋もれているが、締まりがイマイチで時々踏み抜いて始末が悪い。適当に残雪をつないで笹を避けて群界尾根に到着すると目印が多くなり、郡界を縦走する人がそこそこいるようだ。帰りにまっすぐ群界尾根を行かないように、分岐点での目印を頭にたたき込む。当たり前だが分岐に案内標識は無く、西に分岐する尾根もなだらかなのでわかりにくい。

 

黒沢山南側から見た不動岳〜黒法師岳

 

黒沢山山頂

 ここから先は残雪の斜面を急登。突如として樹林帯を抜け出して笹原の斜面になり踏跡を辿る。ほとんど残雪に覆われているが、雪が消えると夏道があるようだ。ほんの小さなピークが続く尾根を水平移動し、最後に突き上げると残雪たっぷり黒沢山山頂だった。林道終点からおよそ2時間半。手製の標識が2,3個あり、残念ながら三角点は雪に埋もれて見あたらず、「三角点を大切にしましょう」の白い標柱だけが雪から顔を出していた。おそらく積雪は50cm〜1m程度。シラビソの疎林で囲まれて視界はないが上空は開けており、天気が良いので日当たりの良い雪の上にシートを広げて無線を運用した。

黒沢山南側から見た奈良代山への尾根

奈良代山山頂

 下りは同じルートを辿ればいいので気楽だが、登りで道を失った郡界尾根分岐直下が怪しい。群界尾根からの分岐より先は慎重に目印を辿って尾根の北側を歩き正しいルートを追えたが、郡境尾根を下った鞍部で道を失い、稜線に這い上がってしまったためにとんでもない笹藪との格闘になってしまった。笹で地面に足が着かない状態で、倒木の上に立って周囲を見渡しても踏跡らしき筋も赤目印も見えない。激藪でこのまま尾根上を歩くことなどとでもできないので、まずはちょっとだけ北寄りに下ってみたが踏跡が無く、正確に稜線に上がったらやっぱりとんでもない藪。覚悟を決めて北側斜面を大幅に下ることにし、重力の助けを借りて笹をかき分けるといい道に飛び出して一安心。笹から樹林に植生が変わるところまで下ったところに道があったのだ。もう道を外すことはないと安心して歩いていると若い男女とすれ違った。まさかここで他に人に会うとは思いもしなかったが、きっと相手も同じだろう。あとは黙々と歩くだけで車にたどり着いた。登山道から林道に分岐する部分には「奈良代山」の標識がある。奈良代山へも踏跡があるので辿り、藪もなく無人の狭い山頂で無線を行った。


 今でも林道は通行可能なのか調査が必要だが、ゲートがなければ黒沢山は南ア深南部の山の中でも標高が高いところまで車で入れ、体力的には楽に登れる部類だろう。それでも踏跡は黒法師岳ほどは良くなく、少々笹と戯れるところもあって深南部の気分を味わえ、入門用の山にはぴったりだと思われる。それに鹿の角が拾える幸運があるかも。

 

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