車中泊の薦め
私の周囲を見ると、山の達人の多くは車中泊で山の梯子をしています。いろんな都合で車中泊ができない人もいるかと思いますが、環境が許せば車中泊は金がかからず時間の余裕ができていいですよ。なお、私の車中泊のテクニックはちゃきちゃきの江戸っ子、江戸川区在住の山下オジサンからの直伝です。他の人の車中泊方法は知りませんが、山下方式は山登りには絶対お薦めです。
1. 車中泊とは?
一口で言えば「自動車の中で寝泊まりすること」です。ソレダケ・・・・
2. 車中泊のメリット
(1) 宿代がかからない
宿に泊まらないのだから当たり前ですね(^_^;) 1泊数1000円は節約でき、長期休暇の場合は結構な金額になります。
(2) 場所を選ばない
宿に泊まるには宿がある場所まで出なければなりませんが、車中泊ならどこでも泊まれます。宿がある市街地まで遠い場所ではとっても便利。宿まで往復の時間も不要です。
(3) 時間の自由度が高い
宿に泊まると宿に到着する時間だって縛られるし、飯の時間も決まってます。山登りの場合、朝の出発は早ければ早いほどいいのですが、宿の朝飯は下界の生活時間に合わせた時間なので、山登りには遅すぎます。車中泊なら何時でも飯を食えるし、夜遅く戻ってきても問題なし(入浴等の問題はあるが)。時間に縛られないことは、ある意味で金銭的に節約できることよりも貴重です。
(4) 疲労軽減
当日発日帰りの場合、自宅から近い山や時間がかからない山なら自宅をゆっくり出発しても問題ないですが、遠い山や所要時間の長い山の場合、夜明け前に自宅を出て車を運転して登山口に向かい歩き出すのが普通です。しかし、早朝の運転は眠くて登山口に到着して歩き出す時にどうも体調が良くない・・・・なんてこと、ありませんか? こんな場合は前夜のうちに出発して登山口まで車で入ってしまい車中泊するのが楽です。起きたらもう登山口で飯を食ったら即出発できます。同じ睡眠時間でも直前まで長時間運転したのと比較すれば眠気は格段に軽減できます。
(5) 駐車場確保
夏の登山シーズンなど駐車場が混雑する季節は、当日出発で行ったら駐車場が満杯で遠いところにしか車を止められない・・・なんてことがよくありますが、前夜のうちに駐車場に入っておけばそんな心配を減らせます(皆無とはいかないですが)。アルプスクラスの山は多くの場所でそんな状態で、土曜朝に行ったのではとんでもなく遠くに止めなければならないってことはよくあります。
3. 車中泊に必要な物
車で寝泊まりするのに必要なものなので、基本的には宿に泊まるのと同じ装備でOKです。
必需品
・寝袋
・水(多いほどいい。季節等にもよるが2リットル/日あれば大丈夫)
・食料、食器、コップ(酒飲みに必要)
・着替え
・風呂道具(やっぱ下山後は温泉だ!)
・温泉のガイドブック(場所が分からないと入りに行けない)
・ゴミ袋
・フロントガラス用日よけ
あると便利な物
・狭い範囲を照らす照明器具
・板(30cm角くらい)
・クッション(寝るときのデコボコをならすため)
・ガスコンロ
・クーラーボックス
・物干し
・携帯用虫除け/かゆみ止め
・扇風機、うちわ
贅沢品
・ノートパソコン(デジカメ写真の整理、山行記録書きはもちろん、悪天時の遊び道具にも)
・テレビ(天気予報で天気図が見られる)
4. 車中泊の勘所
(1) 寝る場所は慎重に選ぶべし
寝るからには誰にも邪魔されず快適に寝たいものです。そのための場所選定はちょっとばかりコツがいります。
まず、避けた方がいいのが観光道路の駐車場。夜中でもひっきりなしに車がやってきてうるさいです。美ヶ原では酷い目に遭いました。それにカーブの路面にタイア跡がある道路の近くの駐車場。夜中に走り屋が出没してうるさくて寝られない! 幹線道路沿いも交通量が多く寝るのに適していません。高速道路のパーキングエリアで寝ている人がいるようですが、私はあの騒音には耐えられません(やってみたがダメだった)。同じ音量でも沢の音のような自然の音なら気になりませんが、人工的な音はダメです。この辺は個人差が大きいかも知れません。
山の中の登山口では基本的には静かですが、有名どころの山だと夜中に登山者の車が次々とやってくる場所もあり、駐車場が快適とも言えない場合があります。しかし、駐車場確保の点から言って駐車場に止めないわけにもいかない場合もあり、多少の我慢は必要です。隣に止まった車がディーゼル車で、暖を取るため夜通しエンジンをかけっぱなしというのが一番悲惨なパターンです(うるさい!)。
というわけで、ベストの場所は林道の枝道にある駐車スペース。ほとんど車が来ないので静かに寝られます。駐車場が満杯になる心配がない場合は最初からそうした方がいいかも。もちろん、登山口近くにそういう場所がある場合に限られますが。
(2) まだまだ寝る場所
いい環境の場所でもまだ要注意。まずは気温。夏のクソ暑い時期に車内で寝るにはそれなりに涼しいところである必要があり、高い標高が要求されます。登山口から少々離れていて時間がかかっても寝苦しい夜を過ごして寝不足よりはマシなので、涼しい場所を選びましょう。また、そのような暑い時期の場合は可能であれば開けた場所の方が蚊や虫が少ないです。網戸を自作して窓を開けて寝られれば言うこと無しです。携帯用の虫除けも有効。乾電池で動きますが、少しだけ窓を開けた車内で使ってものどの痛み等発生しませんでした。
局所的な条件としては水平度が重要。あまり傾斜があると安眠できません。傾斜を免れない場合は寝るときに頭が高くなるような向きに駐車しましょう。
ついで。トイレが近いと便利ですが、近すぎる場所に駐車すると臭いが・・・・。適度な距離を保つのが秘訣です。
(3) サンシェード、カーテンがあると便利
照明がある駐車場で寝るとき、明るくて困るときに絶大な効果を発揮します。夜中に車がやってきてライトが当たって気になるのも防止できますし、外から中を覗き込まれることがないのでプライバシー保護にもいいです。フロントガラスは銀マットのような断熱性のあるサンシェードがお薦め。日中の日差しを遮ってくれ、車内の温度上昇を最小限に抑えます。下山してドアを開けたときの高温地獄が少しは緩和されます。なお、カーテン等は光を遮るので朝になっても車内は暗くて寝坊する危険性もあります(^_^;) 寝る快適性を求めると朝寝坊がくっついてきますのでご注意を。
(4) スポットライト
夜間の車内照明にルームランプを使うのが常識ですが、あれは不要な広範囲を照らしてくれて夜間だと外から車内が丸見えです。ガラスでは明るい側から暗い側を見ると自分が映って暗い側は見えなくなりますが、反対に暗い側からは明るい側がくっきり見えてしまいます。夜間の車内照明はまさにその状態で中から外の様子は見えないのに中が丸見えになるのです。カーテン等で視界を遮れば問題ないのですが、そうでない場合は手元だけを照らすようなスポットライトを使いましょう。私の場合、白色LEDで照明器具を作って使用しています。消費電力が少なくなり、消し忘れたとしてもバッテリー上がりの心配がありません。
(5) 水は多めに
飲むだけでなく洗い物にも使うので水は多ければ多いほどいいです。私は土日の2日間でも毎回4リットル持っていきます。夏場だと下山して着替える前に簡易水浴びに使ったりするので。途中で補給しようとしても補給源がなかなか見つからないこともよくあります。
(6) ベニア板は必需品
超簡易型机として絶大な効果を発揮します。水が入ったコップを置くにも柔らかい座席の上では安定しませんが堅い板の上ならバッチリです。ガスコンロを使う場合も安定して安全です。私は30cm角くらいの大きさのものを愛用してます。なんかほとんどテント生活のようだなぁ(^_^;)
(7) 夏の暑さ対策
車中泊はこれが一番苦しいかも。まさかエンジンかけっぱなしでクーラーかけて寝るわけにもいかないので(ガソリン代がもったいないし地球環境に良くない)、いかに涼しく寝るかテクニックが必要です。先述のように標高の高いところで寝るのが一番の対策なのは事実。下界と同じ標高で熱帯夜ではいかなるテクを使っても暑い。ある程度気温が下がるところでないといかんともしがたいです。
その「ある程度気温が下がる場所」で快適に寝るためにあると便利なのが網戸。カー用品店に売っているかどうかわかりませんが、窓の形をしたネットなら虫の侵入を防ぎ、外気が入って車内の気温を下げられます。一番いいのは虫がいないところで寝て窓を開けることですがそうもいかない。見た目を気にしなければ自作できそうです。
あとはうちわや扇風機。自動車用の小型扇風機は市販されていますので使ってみるといいでしょう。ただ、結構音がうるさくて寝ているときには使えず、飯を食っているときや運転しているとき限定です。
(8) 物干しツール
山に登ると衣類が汗や雨で濡れることは良くありますが、湿ったまま長時間放置すると臭いがしてきます。土日2日間山登りする場合、土曜に使った衣類はすぐに袋に入れず、できるだけ乾燥させた方がいいです。そのために洗濯ばさみが10個くらいぶら下がった小型の物干し+ハンガーがあると便利です。ハンガーはTシャツやズボンの乾燥に、物干しは靴下用。毎回お世話になってます。
5. 車中泊に適した車
今はマイカーですが、少し前まではレンタカーを使っており、色々な車種を乗って車中泊をしましたが、車中泊を快適に行うのに必要な機能がどんなものかわかりました。車種によって使い勝手が違いますが、普通の人では今さら車中泊に合わせて車を買い換えるわけにもいかないでしょうから、今のマイカーでどうすれば快適に過ごせるか頭を捻って下さい。多少の不便は我慢すればいいですし。次に車を買い換える際の参考にして下さい、と言っても家庭があると自分勝手に車種を決められないか・・・・。
(1) フラットになるシートアレンジができること
快適に寝るためには必要。多少の凹凸はクッションで吸収できるので、後部座席が完全に倒れればOK。今時のコンパクトカーならほとんどの車種でフラットになると思います。もしくは後部荷室がフラットになるタイプでもOK。一度だけ工事用のライトバンに乗ったことがありますが、荷室に足を延ばして寝られました。ただし、冬だったので背中が冷たかった(座席と違って床に直接寝るから)。
(2) 後部ドアが跳ね上げ式であること
絶対条件ではありませんが雨の日にありがたさを実感できます。後部ドアを開けると屋根代わりとなり雨が避けられるので、下山後の着替えに絶大な威力を発揮します。まさか車内で濡れたゴアを脱ぐわけにもいきませんしねぇ。今は横にドアが開くタイプもあるので要注意か?
(3) 客室と荷室が一体化していること
荷物を取り出すのにいちいち外に出なくていいのは便利。特に雨が降っているとき。それにこのタイプの車は後部まで天井が高いので車内で着替え等をするにもいいし、数人で宴会をするのにも快適です。
(4) 後部座席の窓が開くこと(スライドなら言うこと無し!)
暑いときや、飯の後かたづけで洗った食器の水を捨てるときとかに後部座席の窓が開くと便利です。これも雨が降ってるときには特にありがたみが分かります。ワンボックス車では後部座席の窓ははめ殺しで開かない車種もあるようです。
最高なのはキャンピングカーですが、高嶺の花なので簡単にはいきませんね。周囲を見てみると、車中泊の達人の大半はワンボックスカーで、上記条件を全て満たします。2人までなら快適に車内生活できます。ステーションワゴンや1.5リッタークラスのコンパクトカーもワンボックスカーまでのレベルではないにしろ車中泊に適しています。ワンボックスカーとの一番の違いは前部座席の使い方で、ワンボックスカーでは寝るときは後部座席しか使わないので前部座席は荷物置き場等に使えますが、それ以外では前部座席を倒して使うので片づけなければなりません。逆の見方をすればワンボックスカーなら「寝室」に手を付けることなく車の運転ができますが、その他の車種では運転するには「寝室」を解体しないといけません。車中泊の達人がワンボックスカーを愛用するのはこの辺が大きな要因のようです。でも、それさえ我慢すれば他の点はワンボックスカーと同等の使い勝手で、車中泊に適した車種です。
こう書いてしまうとセダンはやっぱ車中泊には向きませんねぇ。セダンでやったこともありますが、やっぱり座席がフラットにならないので快眠は無理です。ま、寝られないほどではないですが。土日くらいなら我慢できますが、1週間とか車中泊をしたら腰が痛くなるかも? もしくは寝るときは外でテントを設営するのも手段です。ただし、雨が降ったら最悪。その時は我慢して車内で寝ればいいか。登山口で車の隣にテントを張っている光景もよく見かけます。
ちなみに私は軽のワンボックス(スズキのエヴリー 2WD)です。普通車のワンボックスと違って前部座席も使わないとフラットになりませんが、軽自動車ではほぼ完全なフラットになる唯一の車種で(他は後部座席が倒れるが完全に倒れないで斜めで止まる)、ボンネットがないので同じ車長でも荷室が広く、フラットにした状態でも後部に荷物がたくさん収納できるのがメリットです。私なんか小さなタンスを積みっぱなしです。また、軽なので車が小さく、細い路地や林道でも取り回しが楽です。ただ、エンジンが非力で高速道路で飛ばすと極端に燃費が悪くなるのでチンタラしか走れないこと、車体の耐久性が劣り、メーカでは走行距離10万km以上での基幹部品故障は保証しないとのことで、車の寿命は普通車よりもずいぶん短そうです。でも、それ以外では車中泊に好都合です。とくに私の場合は定員1名でいいので。
なお、登山に使うには4WDのオフロード車が一番と思っている人も多いと思いますが、現実はそうでもありません。確かにWDのオフロード車がどこでも使えて便利なのですが、いかんせん車重が重くて燃費が悪いのが難点。私の経験では登山口に至るまでに4WDが必要なほどの道はこのご時世ではほとんどなくて、普通車で入れてしまうのが大半です。私のように道がないろくでもない山に登っていてもどうしようかなぁと悩むような道は年に数回くらいしかありません。それに、そんな道だと一目見ただけで「こんなとこ車で入れるの?」と思うのが正直なところです。よほど肝が据わった人でないと4WDの真価は発揮できませんので、悪路走行が目的でない一般登山者は2WD車で割り切りましょう。ヤバイと感じたら歩けばいいんですから、年に数回なら我慢できるでしょう。それに、近年はゴミの不法投棄防止のため、林道にゲートができて車で入れない場所が多くなってきましたし、登山が目的では4WD車の出番はますます減ってしまいそうです。林道を歩く機会は増えるばかり・・・・。
私は雪があるところは車で行かない主義なので、2WDでの雪道はどうなのかわかりません。スキーなど積雪地帯に出かけることが多い人は4WDのメリットがあるかもしれません。雪があるところにたま〜にしか行かないのなら2WDでもチェーンをつけてチンタラ走ることでしのぎましょう。
6. 車中泊の行動例
私が土日に出かける場合の例です。
(1) 会社が終わって急いで帰り、風呂に入って荷物をまとめる。
(2) 飯の調達。土曜夜に飯が調達できそうな場所か、そうでない場所かによって調達量が異なります。
(3) 車に荷物を積んで出発、登山口まで休憩無しで一気に走る。
(4) 登山口付近で車中泊。酒を飲んで寝る。
(5) 朝飯喰って登山にお出かけ。
(6) 下山後、着替えて温泉に直行!(地理的に無い場合もある)
(7) スーパーで食料調達。なお、土日の登山口が互いに近く、しかも市街地まで遙かに遠い場合は金曜夜の買い出しで土日の分まで買っておき土曜の調達を不要にしておく。お買い物に行く往復の時間をなくせます。
(8) 次の登山口に向かい、酒を飲んで寝る。
あとは同じパターンで、朝一で登山開始、下山したら温泉に入って汗を洗い流して家に帰る。なお、時間帯によっては高速道路の渋滞が激しく(中央道を使う機会が多いので)無駄な時間を使わされ疲れるだけの場合は、どこかのIC近くの空き地で寝てしまい、翌日早朝に帰る場合もあります。
これで車中泊の基礎知識はついたと思います。あとは実践あるのみ。みなさんの生活、登山スタイルに合わせた車中泊を模索してみて下さい。時間の制約が緩くなる分、山行計画の幅も広がりますよ。