野麦峠周辺 入山、風吹 2009年3月21日


 奈川、笹川、奈良井川、梓川に囲まれた鉢盛山を中心とする山塊に名称があるのか不明であるが、鉢盛山以外はあまり登られることがないマイナーな山域であろう。標高が高く登山道が無い場所は深い笹に覆われているだろうから残雪期がメインとなる。地形図に山名が記載された山の数は少ないが、意外にも山名事典に名前が記載された山が他にもいくつかあるのだった。そんな中で昨年DJFが登った風吹は標高2000mを僅かに切る高さを誇り、北側の入山と絡めて登れるため興味をそそられた。DJFがどうやってこんな無名の山を山名事典からほじくり出したのか知らないが、よくぞ見つけたものだ。私の方は3月に入って山名事典の全ページに目を通して地形図に山名記載はないが山名事典には記載がある山をピックアップしており、数日前にやっと作業が終わったばかりだが(現在は漏れがないかチェック中)、DJFもこれに近いことをやったのだろうか。名前も場所も分からない山を探すには全てのページに目を通す以外に手段は無いはずだ。

 3月の3連休はまとまった山に登っりたかったが、初日は午前中は雨で最終日もお昼前後から雨の予報で真ん中1日しか使えない。しかも今は杉花粉飛散のピークで下手なエリアの山に登ると地獄を見るので、雪で地面が冷やされてまだ杉が花粉を飛ばさない場所を選ぶ必要がある。そして残雪期としては早く雪が締まっていない時期なので、雪の状態ができるだけ良さそうなエリアを選ぶのも肝要だ。これらを総合的に勘案して決めたのが風吹だった。今年は雪が少なく、元々積雪がそれほど多い場所ではないので早めに登らないと藪が出てしまうというのも理由の一つだった。ここ数日は暖かかったのでちょっと心配だが、その代わりに林道も雪解けが進んで車で奥まで入れるようになっているかもしれない。

除雪終点 その先はテカテカのアイスバーン。2WDの軽ではスタッドレスでも無理だった

 松本ICで降りて走りなれた国道158号を西進、奈川渡ダム手前のトンネル中で国道を離れて、県道をちょっと西に進むとトンネル入口手前で右に登る道が入山集落への道である。2週間前には雪があったが今はほとんどないので今日の東京の雨はこっちでも雨だったようだ。入山集落でT字路を右に曲がって集落を過ぎた場所で左に上がる舗装道路に入る。これがDJFも通った林道で、その時は入山直下まで入れたのだが今の時期はどうだろうか。幸い、入口から除雪されているので希望はありそうだったが最初のカーブで除雪が終わってその先はアイスバーンだ。どうにかいけるかと突っ込んでみたが傾斜があるので2WDの軽自動車ではかなり苦しく撤退を決断。しかし滑るのでバックも難しく、路側の軟雪地帯に突っ込んでスタックしてしまった。最初は溝にはまったのかと大いに焦ったが、降りてタイヤを見てみると周囲の雪を掘れば動けそうで、ピッケルで除雪してどうにか脱出できたが、アイスバーンのバックの下りで前輪がほとんど効かず、曲がりたいところで曲がれずに路側に突っ込みそうになって停止。もうバックはできないので前に進みたいが片側のタイヤがアイスバーンに乗って摩擦が効かず坂を登れない。こんな時はデフロックできればいいのだが、うちの車は2WDなのでそんな機能はない。駆動輪の差動ギヤは荷重のかかっていないタイヤにより多くのトルクを伝達するので、今回のように片側のみ滑りやすい路面上にあると、そちらのタイヤにトルクがかかって路面に食いついているタイヤに駆動力は伝わらないから進むことができない。デフロックとは差動機能をロックして左右のタイヤに均等にトルクを伝達することで、路面に食いついたタイヤで脱出できるわけだ。4WDのオフロード車等についている機能だ。
 
 このままではにっちもさっちもいかないのでチェーンを巻くことにしたが、傾斜があるアイスバーン上で駆動輪をジャッキアップするのは危険この上ない。ひやひやしながらも無事に装着し(アイスバーン上の片側のタイヤのみ)無事に脱出できたが、両輪がアイスバーンに達するとチェーンを付けない側のタイヤが空転して走行不能に。しょうがないのでそちらにもチェーンを巻いて今度こそ無事脱出して除雪地帯まで後退できた。これで1時間くらいかかってしまい、今回の山の中で一番焦った時間帯だった。スタッドレスタイヤの限界はわかっていたが、チェーンが凍結路にこれだけ強いとは初めて知った。チェーンを積んでおいてよかったぁ。

 翌朝、飯を食って出発。だいぶ日の出が早くなり5時半くらいになれば明るくなってくる。6時前に歩きだし、道路の凍った部分を避けて歩く。北斜面で日影の部分は雪や氷に覆われているが、日当たりが良い道路はすっかり雪が消えている。雪があるのは道路だけかと思ったが斜面にも意外に雪が残っており、この分なら尾根の取り付きから雪の上かも知れない。右手の緩斜面帯には「小灯の里」の建物が立ち並んでいるが、冬季は営業していないらしく、僧路には柔らかい雪が積もっているので、たとえDJFの車でもここまで入るのは不可能だろう。

遊歩道入口 地図に書かれていない林道(左)と遊歩道の続き(右)

 「小灯の里」を過ぎて登りにかかり、北東に延びる尾根を巻くところで遊歩道のような道が尾根に上がっていたので乗り移る。僅かに顔を出した部分からすると本当に遊歩道のようだ。積雪は10cm程度と思われ、気温は-6℃で雪は締まってつぼ足で問題なし。傾斜が緩むと再び林道と合流し、左手には地形図に書かれていない林道が尾根を巻いて奥に延び、地形図の林道は尾根の右を巻いて延びていた。その真ん中には遊歩道の続きがあったのでそこを進む。帰ってからDJFの記録を読み直したら彼はここまで車で入ったようだが、もちろん今の時期は無理だ。

やっぱり遊歩道のレベルのようだ 平坦地。キャンプ場?

 少し登ると雪の緩む場所ではズボっと踏み抜くようになった。表面から僅かに下の部分は締まっているが、それより深い場所はまだ柔らかいようだ。全体的に柔らかいのならまだいいのだが踏み抜きは疲れるので、背負ってきたスノーシューを装着した。さすが接地面積の差は歴然で全く踏み抜かなくなり快適に歩けるようになった。微妙に尾根を巻いて道は付けられているのは、歩きやすいように考えられているからか。1410m地点で平坦になるとなにやら資材が残されており、この付近の整備をするための道具であろうか。この先から遊歩道の雰囲気はなくなるが、一面の積雪なので特に問題は無い。まあ、雰囲気的には無雪期でも藪は無さそうな広葉樹林帯だが。

入山山頂の電波塔 入山東側鞍部への下りはさほど濃くない笹藪
尾根上は矮小な樹木が邪魔 開けた1510m肩

 雪の中でも立った笹がやや目立つようになると前方に反射板が見えてきて、登り切るとピークとなっていて入山山頂だった。DJFのピンクリボンがあるかと思ったら見当たらないが、三角点を示す白い標柱が雪面に頭を出していた。 ここで進路は右に曲がり、僅かの間雪が消えて笹が出ているがさほどの密度ではなく無雪期でも問題なかろう。もちろん、残雪で笹が隠れている時期の方が楽なのは間違いないが。登りにかかると一度全伐したのか矮小な落葉樹が密生する尾根となり、スノーシューが邪魔だしザックに刺したピッケルが引っかかるし鬱陶しい。ピッケルは手に持ち替えることにした。1510m肩で開けた平坦地になり真っ白な乗鞍や御嶽が見渡せた。

1510m肩から見た木曾御嶽山と鎌ヶ峰 締まった雪に覆われた尾根が続く
ピンクリボン等の目印が多数ある 東側は雪庇になりかかっている

 この先の尾根も少々木が密生しているが今までより間隔が広く歩きやすくなり、歩きやすい隙間を拾って標高を上げていく。雪の状態は良好でスノーシューなら全くと言っていいほど沈まない。積雪量は大して多くはなくせいぜい数10cmくらいと思われるが、もう地面が出ている部分は無く無雪期の植生は不明だ。こんなマイナーな場所でも歩く人がいるようで、複数種類の目印を見かけた。全般的に唐松が植林された緩やかな尾根が続き、同じような風景が続く。積雪は徐々に増えてくるが全く沈まない状況は不変だ。雪がかなり締まっているのかと思って雪面にピッケルを刺してみたが、硬いのは表面近くだけでシャフトいっぱいまでズボズボ入ってしまったので、まだ本格的な残雪期としては早いようでつぼ足では疲れそうだ。

標高1700m以上は傾斜がきつくなる 標高1850mで主稜線に出る
こんな目印があった。他にも目印が賑やかだった これより先は広くなだらかな尾根が続く

 標高が1700mを越えると一気に傾斜がきつくなり、スノーシューのヒールを上げてガシガシ登る。こういう急な登りはスノーシューが威力を発揮する。ジグザグに進路を切りつつ標高を上げ、太い尾根に出ると標高1850m地点だ。さすが主稜線だけあって緩やかながら雪庇状になっている。帰りは車を置いた場所に直接下るため、ここで北東に方向を変えて標高1400m付近まで主尾根を忠実に下ることにしよう。

唐松植林帯が続く 雪面ギリギリの目印。無雪期のものと思われる

 地形図を見て分かる通り、この先は山頂まで平坦な尾根が続く。何事もなければ楽な区間だが、雪の状態が悪いと距離が長いこともあって帰りも苦労することになるが、ここにきても良好な雪質でスノーシューなら全くと言っていいほど沈まない。これなら帰りも楽勝だろう。ほとんどが唐松植林帯で落葉はしているがすっきりと展望が開ける場所がなく、背後の穂高連峰も枝が邪魔して写真を撮影するほどでもないのが残念だ。1か所だけ植林が開けた雪原が出てきて乗鞍、木曾御嶽はすっきり見ることができたが、穂高方面だけは完全に開けることはなかった。

風吹山頂から北を見る 風吹山頂
風吹山頂から見た木曾御嶽 風吹山頂から南西を見る
風吹山頂から見た穂高〜笠ヶ岳(クリックで拡大)
風吹山頂から見た乗鞍岳〜大滝山(クリックで拡大)

 だだっ広いなだらかな尾根を進むとぽっこりと盛り上がったピークがあり、そこは植林が切れて北、西方面の展望がすっきり見えていたので、今までの鬱憤を晴らすようにデジカメのシャッターを押した。さすがに穂高や乗鞍、木曽御嶽等の3000m峰は白銀だった。そろそろ山頂は近いかとGPSの電源を入れると残距離が約30mで、ここが山頂だった。それならばDJFのピンクリボンがあるはずだが見当たらない。強風でリボンが解けたか千切れてしまったのだろう。積雪量は分からないが、三角点が発見できる状況ではない。この上空の開け方ならGPSが嘘をつくことは考えられないので間違いなく山頂だろう。せっかくなので赤テープに落書きをしておいた。展望を楽しみつつ無風快晴の中、気持ちいい休憩タイムだった。

標高1850m小ピークを越えて北東尾根を下る 標高1600m付近

 さあ、下山開始だ。快晴の日中で標高は2000m近いのに気温は+5℃まで上がり、完全に春山の様相だ。冬場の日中は氷点下が当たり前だったが季節は進んでいた。雪も緩んでスノーシューを履いても僅かに踏み抜くようになったが深さは数cmなので許容範囲だ。標高1850m肩から先は北東尾根を直進、鞍部に下って小ピークに登り返した後は延々と下りが続く。顕著な尾根なので「有視界飛行」でも外しそうな箇所は少なく、標高1780m付近と標高1600m付近のみ地形図を出して進行方向を確認した。この尾根は場所によって自然林だったり唐松の植林だったりするが、矮小な樹木で邪魔される場所はなかった。ただし全面雪に覆われているので笹の状態は不明である。

標高1408m標高点。かなり雪が少ない 標高1408m標高点手前鞍部左の谷を下る
熊棚 ここで林道に出た

 標高1400mの鞍部はほとんど凹んでおらず、1408m標高点までほとんど平らな肩になっていた。ここまで下ると雪が少なく地面が出てきたため、雪が多そうな谷筋を下ることにした。ただ単にスノーシューを脱ぐのが面倒なだけだったが。この付近は全く笹は見られなかったので、スノーシューを脱いで北西方向の小尾根を下っても良かっただろう。谷筋はまだまだ雪がいっぱいでスノーシューを効かせてグングン下り、最後は上水道施設と思われる建物があるカーブで林道に出た。ここでスノーシューを脱いで舗装された林道を歩き、林道がジグザグるところは斜面をまっすぐ突っ切ってショートカット、車を置いた最初のカーブに出た。


所要時間
 除雪終点−0:45−遊歩道入口−0:25−入山−0:52−標高1850m肩−0:33−風吹−0:25−標高1850m肩−0:37−標高1400m鞍部−0:10−林道−0:07−除雪終点

 

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