日高前衛 伏美岳、ピパイロ岳 2008年9月13日


 敬老の日を含む9月の3連休は北海道(千歳市)への出張が決まっていた。連休中は客先の都合もあって作業はお休みであり山に出かけない手は無いので宅急便でホテルへと山道具を送り込み、レンタカーの手配も行った。問題はどこへ登るかだが、レンタカーを借りて山中泊では車がお休みすることになってもったいないので日帰りの山3連発がいいだろうとは考えたが具体的にどこに登るかは決めないまま出発となった。ただし、北海道のガイドブックは4冊ほど荷物と一緒に送り、エアリアマップも北海道のものはすべて送った。

 初日の作業はトラブルがあって予定より2時間近く遅れて終了、レンタカーを借りたのは午後7時近かった。市内の銭湯で汗を洗い流し、近くのスーパーで買い物をして出発だがまだ行き先を決めていなかった。結局は最後は千歳まで戻らなければならないのであまり遠くまでは足を伸ばすのは車の運転が大変になるので少なくとも初日は近いところがいいだろう。そこで国道274号線近くの日高北部目指すことにした。ガイドブックに記載があり標高があってそこそこ近いのはヌカビラ岳なので、林道入口目指してひた走る。北海道内は市街地を抜ければほとんど信号は無く車の流れは80〜90km/hでノンストップと私が関東甲信でマイカーで高速道路を走るより速い。しかしもしネズミ捕りでひっかかれば場所によっては免停の速度違反となるので調子に乗るのはよくない。

 日高に入り千栄で右の道に入りそのまま直進。集落を抜けて砂利道になってすぐに施錠されたゲートがあるではないか! ガイドブックをよく読むと日高営林署で入林許可をもらってゲートの鍵を借りる必要があるとのこと! これでは平日夕方まで千歳市内で仕事がある身ではゲートの鍵を借りるのは無理な話だ。地図を見ると林道はこの先も10km以上はありそうで歩くととても山頂まで日帰りできそうになく諦めるしかなかった。

林道終点の駐車場

駐車場奥の伏美岳登山口


 さてではどこに登るかであるが、次はゲートが無い山にしよう。ガイドブックを見て十勝平野に入ってすぐの清水南側の伏美岳、ピパイロ岳ならゲートが無く登山口まで車で入れると書いてあり、標高がある山としてはここからさほど遠くないので向かうことにした。カーナビの指示通りに人家が少ない道を走っていくと伏美岳の案内看板が見られるようになり、標識に従って林道を走る。真夜中だがタクシーが下りてきたのにはビックリ。おそらく幌尻岳を越えて平取まで縦走するのだろう。右手に小屋を見てその先で林道が終わり登山口となった。小屋には車が1台あったがこちらには車は皆無、明日はどれくらい車が入るだろうか。今夜はここで車中泊だが、マイカーと違って座席はフラットにならず、体を斜めにしてどうにか足を伸ばして寝られる体勢を見つけて酒を飲んで眠りについた。

 翌朝、明るくなりかけた時間に1台のジムニーがやってきて隣に止まって運転手は仮眠に入った。その後に小屋に止まっていた車がやってきて出発準備を始めた。話をするとここから幌尻岳を2泊で往復するそうだ。ここまでまた戻ってくるのは距離があって大変だろう。こちらは伏美岳までは行くが、できればその先(ピパイロ岳)まで行きたいと話した。

1級の登山道。周囲は笹の海 各合目でこの標識がある
1m単位で距離が書き込まれた標識

 登山口の入山届けのノートに記帳して出発。さすがガイドブックに記載されたルートなので登山道は立派で迷う心配は無い。幸い、このルートは手持ちのエアリアマップに出ているので地図があったが、無くても問題ないようなコース整備状況だ。周囲は樹林に覆われた笹の海で、登山道が無かったら最初から藪との格闘になるから登山道のありがたみは大きい。北海道ではいきなり平地から笹の海というのが一般的で、本州のように登山道が無い山に登るというのは相当ハードルが高い。そのような場合は沢から登るのが一般的らしいが、その沢が険しいと簡単に登れない山となる。

 傾斜は全体的に緩やかで足への負担は軽く、歩きやすいコースといえよう。相変わらず周囲は笹だが登山道にはみ出すものは少なく、エアリアマップの赤実線を裏切らない。標高は高くないので樹林の背の高さは高く視界がないのは残念だが、ガイドブックによると山頂は展望が開けて視界良好のようだ。景色は楽しめないがリスがちょろちょろしており目を楽しませてくれた。シマリスはかなり小さいがエゾリスは結構大きい。両方ともすばやく動き回るのでデジカメで撮影するのは無理だった。なお、千歳市内市街地の小さな緑地帯でさえリスを見かけたので、北海道ではかなり生息密度は高そうだ。

 いつものペースで登っていると背後から足音が聞こえ、あっという間に迫ってきたので道を譲った。若い単独の男性で小さなザックであっという間に視界から消えた。私も長く山登りをしているが、登りで追い越されることは滅多になく、しかもそのまま見えなくなるようなペースで歩く人も見たことがない。北海道恐るべし。結局、この人が伏美岳山頂で休憩しているところまで追いつくことはできなかった。

標高が上がると樹林が切れる

山頂直下は這松


 なおも高度を上げ続けると傾斜が出てきてぐっと高度が上がり、山頂直下標高差50mくらいで這松の森林限界を突破する。南アや八ヶ岳よりも森林限界は約1000m低いことになる。それだけ冬の気象が厳しいということだろう。天気予報では今日は快晴のはずだが、確かに朝は晴れていたが今は曇っており日高の主稜線は雲に覆われて見えないではないか。しかし天気は回復傾向のはずで、時間経過とともに山々が姿を見せてくれる可能性が高い。

伏美岳山頂。人物はめっちゃ足の速い男性

伏美岳から見たピパイロ岳

伏美岳のパノラマ展望写真(クリックで拡大)

 森林限界に出てから少しで伏美岳山頂に到着。途中で私を追い越した男性が休憩中だった。話をするとなんと登山口からここまで標高差1000mを1時間半で登ったとのこと! 私でさえ2時間のペースで登ったのでかなり速いペースだったが、600m/h以上のペースで登れるとは尋常ではない脚力だ。この人なら早月尾根や黒戸尾根でも半日で往復してしまいそうだ。私の仲間でもここまでのスピードの人はいない。その後、この人の仲間の男性が登ってきて3人で休憩となった。残念ながら曇りのままで主稜線は雲が絡んで見えないままだったが、時折薄日も差してさほど寒さを感じずに済んだ。

 ここでこの先の行動を決めなけばならない。時刻はまだ8時と早いのでピパイロ岳往復は充分に可能と思うが往復で稼ぐ標高差は700m近く、今日だけで標高差1700mも登ると体力を消耗してこの先の2日間がきつい。しかし、ピパイロ岳は奥深いところにあるので今度来るにしても時間がかかるので今回が唯一のチャンスと言えよう。迷っていると2人組は立ち上がってピパイロ岳方面に歩き出し、これを見て私もピパイロ往復を決めた。あ〜あ、明日は体力充電で軽い山にしないといかんなぁ。

伏美岳西の肩から見たピパイロ岳

少し下って伏美岳を振り返る


 水平区間を過ぎて高度を下げ始めると登山道のグレードが下がったのが分かった。しかしまだまだこの辺はマシな区間で、這松が密集した稜線を避けて笹がない樹林帯を迂回して道が付いている。その先で尾根に乗ると道が細くなって両側から笹がはみ出すようになり、朝露で濡れた時間帯はゴアが必要な状況となった。エアリアマップではここも赤実線だが、関東近郊なら赤点線クラスと言えよう。もちろんルートを失うほどの薄さではないので全く問題ないが、100名山クラスしか登らない本州の人間だったら不安に感じるかもしれない。100名山クラスの登山道は伏美岳までであった。

今までより道のグレードは落ちるが問題なし

まだピパイロ岳は遠い


 先行した2人は最初の下りでいきなりルートを外して這松の海でもがいていたので私が先行することとなったが、追い抜かれた男性のスピードはここでも衰えを知らず、再び私を追い越してぐんぐん離れていった。いやはや、持久力も相当のようだ。こちらは明日以降を考えてマイペースで歩き続ける。笹がかぶる区間が多いが藪漕ぎではないので体力の余分な消耗はほとんど無い。伏美岳山頂より僅かに低いところが森林限界のようで、その先は延々と樹林帯が続く。北海道では羆が一番恐ろしいが先行者がいるし私も鈴を2つぶら下げているので熊が先に気づいてくれるだろう。

1542m鞍部向けて下る 1542m鞍部のテント場。ここは1張可能
鞍部南側高台のテント場。2張程度可能 1542m鞍部北側の踏跡入口

 下りが終わって水平移動区間に入るとどこが最低鞍部なのか良く分からない状況だが、最後の鞍部(1542m標高点)で笹が切れてテントが張れそうな平坦地が現れた。その南側の高い場所にもテント適地があり、3張くらい張れそうだ。ガイドブックでは鞍部から少し下ると水が得られると書いてあり、北側にはそれらしい踏跡があった。今回は1.5リットルの飲み物を担いでいるので補給の必要は無くそのまま通過する。

笹の中の縦走路を行く 1730m峰へと登る
1730m峰から振り返る ピパイロ岳への草付きのまとまった登り

 ここからピパイロ岳まで標高差約340mの登りが続く。相変わらず笹がかぶった樹林の道が続くが、1730m峰を過ぎて登りにかかると草付に変貌して視界が開け、振り向くと伏美岳の尖った山頂が遠い。今頃は何人があちらの山頂にいるだろうか。先行した男性が草付上部を登っているのが見えたが、相変わらず速いペースで足を動かして快速で登っている。凄過ぎだ。

這松帯に入る。山頂が見えている

登山道の切り開きはこんな感じ


 草付が終わると森林限界の這松帯になり山頂が近くなってきた雰囲気だ。這松の海にもちゃんと切り開きがあって這松との格闘は不要だが、幅は細いので這松の葉が体に触れるので濡れていたら最悪だ。もうこの時間は乾いていて問題なかった。

ピパイロ岳山頂。この人物も足の速いあんちゃん

ピパイロ岳から見た国境1911m峰

ピパイロ岳のパノラマ展望写真(クリックで拡大)

 這松の尾根を緩やかに登りつめた石積みの山頂がピパイロ岳だった。良くなると予想していた天候は伏美岳と同様で日高の主稜線は雲に隠れて見えず、国境稜線の1911m峰から東側の山々が見えていた。谷を挟んだ反対側の高い山は札内岳から十勝幌尻岳だろうか。できれば明日は十勝幌尻岳に登りたいところだが、あちらも標高差1200mあるので体力的に連荘はかなりきついだろう。体調をみながら考えよう。北側には数年前に登った芽室岳が聳えているはずだがガスって見えなかった。

 先行していた男性は少し休んで国境稜線峰まで行ってくると空身で出かけていった。恐ろしい体力である。一方、この男性の仲間は全く姿が見えず、1時間以上差が付いているだろう。私から30分以上遅れてやってきたが、かなり疲れた様子だった。でも考えてみればそれが常識で、ガイドブックでも健脚者が日の出前に出発してどうにか日帰りできる山と紹介されているくらいだし、累積標高差や距離を考えるときついのが当然だ。

 山頂で静かにしているとナキウサギの鋭いピッという鳴声が聞かれた。おお、こんなところにもいるんだ。ナキウサギは石の隙間に住んでいるようで声は聞こえても姿は見えず、以前富良野岳に登ったときには石の間の短い距離をちょろちょろしているネズミのような動物を目にしたが、それがナキウサギだったようだ。もちろん本州にはいない。他に小さなシマリスが山頂近辺でチョロチョロしていた。これも動きが速くて写真撮影は難しくデジカメ撮影はできなかった。

 しばらく展望が良くならないかと期待して眺めていたが、どうもガスが晴れそうになく横になったらいつの間にか寝てしまった。基本的に曇り空だが稜線に雲がかかっているのは1967m峰以西でこの付近は時々日光も差し込み、長袖を着こめば快適な温度だった。昨夜の睡眠時間は短いし、眠くなるのは当然か。時間的にも余裕があり、多少のんびりしても問題なかった。結局、1時間ほど寝てしまい山頂には1時間半滞在となった。

ピパイロ岳直下を登る幕営装備の男性

草付きから見た伏美岳


 明日の山もあるのでそろそろ出発、まだお休み中の2人に挨拶して下り始める。すぐに這松の海で登山口で会った幌尻往復の男性とすれ違った。エアリアマップでは1967m峰手前鞍部を下ったところに水場があるようなので、そこで幕営だろう。1542m鞍部では単独男性が休憩中で、話を聞くと深夜にタクシーで小屋に入った人だった。そう、私とすれ違ったタクシーを利用した人だった。幌尻岳を縦走して平取に抜けるのだろう。体調がすぐれないのでここで幕営するとのこと。エアリアマップでは南側に水場マークがあるが、現場では北側に目印付きの踏跡があり、こっちが水場なのだろうか。まあ、初日分は水を持ち上げているようなので水が取れなくても問題なさそうだった。

 伏美岳への登りをゆっくり登って山頂に到着すると無人だった。誰かいるかと思ったが時刻が遅すぎか。残念ながら来た時同様日高主稜線はガスに入ったままだった。もうこれ以降は下るだけで2時間はかからないだろうからのんびり休憩。私が到着した直後に足の速い男性が到着、同様に休憩に入った、というか、正確には連れの男性が到着するのを待っているのだろう。ピパイロ山頂でかなり疲れた様子だったのでここまで登り返すのにはちょっと時間がかかるかな。私はお先に失礼させてもらう。

 この先は1級の登山道なので余裕である。おそらく一般登山者より速いペースで下って行ったと思うが誰も見かけることはなく、登山口付近の最後の沢で汗を洗い流して登山口に到着。車は私のを含めて6台だが計算が合わない。これから伏美岳から戻ってくる2人連れの車が2台、幌尻往復男性のが1台は分かるが残り2台の主はどこに行っているのだろう? キノコ採りだろうか。林道を走って避難小屋前を通過すると車が2台止まっており、明日も入山者がいるようだ。林道は対向車との擦れ違いが難しいので待避所を確認しながら慎重に進んだ。

 帰りの伏美岳山頂で足の速い男性にこの近くの入浴場所を聞いたところ、一番近いのは嵐山の国民宿舎とのことで、嵐山の麓にあるとのことでカーナビで嵐山を捜したら新嵐山があった。おそらくこれだろうと東側の道に目的地をセットしてナビ開始、確かゴルフ場か何かの施設があったような記憶がった。カーナビのお告げどおりに走行すると偶然にも目的地近くに「新嵐山荘」という国民宿舎があり、これに間違いない。風呂道具をもって入口から入ると入浴料金はなんと\260! 何かの間違いではなかろうかと思わせる安さだった。温泉でないのがちょっと残念だが汗を洗い流せれば問題ない。洗い場は少ないが利用者も少ないので快適だった。

 続いて食料調達。コンビニでもいいのだが品揃えはスーパーには敵わないので帯広市街地に向かって調達。翌日知ったが芽室駅前にもスーパーがあったのでこっちの方が近かったようだ。

 疲労が心配だが明日の山は十勝幌尻岳に決めてカーナビをセットして車を走らせた。

所要時間
 6:00登山口−−7:04五合目−−8:05伏美岳8:55−−9:42 1542m鞍部−−10:08 1730m峰−−10:34パピイロ岳12:10−−12:50 1542m鞍部−−13:59伏美岳14:38−−15:10五合目−−15:45沢で水浴び15:49−−15:52登山口
 

 

 

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