木曽川源流 烏帽子岳 2008年3月23日
鉢盛山周辺の木曽川源流部は2000m前後の山が並んでいるが、地形図に山名が記載されている山は数えるほどしかなく、烏帽子岳はそのうちの一つだ。松本付近から見ると尖って見えるピークがたぶんそうだと思う。鉢盛山から南に伸びる尾根上にあり、林道が乗り越える峠から往復するのが最短ルートと思われるが、おそらくひどい藪で無雪期は根性が必要だろうから残雪期に登るのが得策だろう。今年登ろうと考えていたが、1月にDJFがスキーで早々と登頂に成功している。もう3月後半だが当然雪はあるだろうからスノーシューで歩くことにした。車でのアプローチを考えると野俣沢と中俣沢に挟まれた尾根(ここでは北東尾根と呼ぶことにする)しか選択肢は無い。
中俣林道のゲート | この斜面を登った。雪は皆無 |
土曜日、風邪気味で体調不良だったが明日も好天が期待できるとの天気予報のため会社の終業後に出発、塩尻ICで降りて朝日村を目指す。どん詰まりが尾根の取り付き点なのでどんどん奥に入っていく。関東では木曜日に冷たい雨が降ったのでこの付近は真っ白かと思ったが、予想に反して雪のかけらも見えず日陰にも白いものは全く無い。登り始めは雪の無い地面となりそうだ。公園になり尾根末端と思われる付近を通過したがまだ車道は奥に入れるのでそのまま進むと中俣沢を渡った先でゲートが閉まっていた。ここで仮眠して適当に斜面を登って尾根に這い上がることにして酒を飲んで寝た。
北東尾根に乗ると踏跡がある | 標高1300m付近でやっと雪が出現 |
翌朝、気温は下がらずフロントガラスの水滴も凍ることはなかったが、これでは雪の締まりは期待できない。どこまで雪が消えているのか分からないが、無雪の間に体力を温存しつつ標高を上げられれば少しは楽できるか。近くになだらかにジグザグりながら上がっていく遊歩道があったが、あまりにスロープが緩すぎて非効率なので小さな尾根に取り付いて急斜面を直線的に上がって行く。藪は無く快適に高度を上げ、ちょっとだけある檜植林帯を抜けると赤松林で僅かに藪があるが問題となる程度では無く、適当に潅木を避けながら登って尾根上に出た。そこには明瞭な踏跡があり、荷造りテープが張ってある箇所もあり、たぶんマツタケ関係のものだろう。あちこち関係者以外入山禁止と書かれた看板があるのもそのためだろう。もちろん、今の時期は山菜もきのこもシーズンオフなので安心して歩ける。
熊棚が多数あった | 木登りした熊の爪痕 |
標高1300mまではほぼ雪は無く、部分的に斑に残った区間もあるが、少しルートを外して雪が無い場所をつないで歩いた。僅かな雪ではつぼ足のままでは雪に潜ってしまう。もう少し積雪が増えたときに潜るかどうかがこの後に楽に登れるかを占う試金石か。1400m地点で北向きの尾根になり雪が続くようになったのでスノーシューを装着、ほとんど踏み抜くこと無く快調に高度を上げる。この付近も先日の下界での雨は雪にならず雨だったようだ。雨が降った後に冷え込めば雪が締まって歩きやすくなるので大歓迎だが、標高が上がると湿った重い雪になってズボズボ潜るのは困る。この後は傾斜が緩んだ箇所も雪が途切れることは無くスノーシュー装着のタイミングは良かったらしい。この付近は落葉広葉樹林が広がり、上を見上げると熊棚があちこちに見られた。この数週間は毎回熊棚を目にするが、熊は山深いところだけではなく意外に里に近い山でも生活しているらしい。熊棚がある木の一本に近寄って幹を観察すると熊が木をよじ登った爪跡がはっきりと残っていた。残雪の上には熊の足跡は見られないのでまだ冬眠中らしいが、これだけ暖かいとお目覚めまでまもなくだろう。
1506mピーク先は小規模ながら2重山稜 | スノーシューでも少し沈んで足が重い |
唐松越しに烏帽子岳が見えてくる | 緩やかな尾根を登る |
標高1506mピークは南側が土手のように盛り上がっているが、すぐに北側の平坦地と合流するので巻いた方が良かった。この「土手」は雪が緩んでスノーシューでも踏みぬいた。先人の足跡は残っていないので、しばらくの間はこの尾根を歩いた人間はいないようだ。まあ、それが当然であるが。小規模な2重山稜もあるがどちらを歩いても大差は無く、雪が沈むようになる。正確には新たに降り積もった新雪の部分が締まっていな状況らしい。となると、これより上部はラッセルの連続だなぁ。雪が落ち着くまで1週間くらいかかるかな。なだらかな区間になると多少は楽になるが、帰りのことを考えると憂鬱になる。帰りの時間帯は気温が上がって登りでは踏み抜かなかった場所もボコボコだろうから、下りならまだしも平坦な場所はきつい。帰りは傾斜が急な東尾根を下って早めに林道に出たほうがいいかもしれない。この状況では標高1100mの林道はほぼ無雪だろう。
たま〜に開けた場所がある | 1700m付近から見た鉢盛山 |
1700m付近から見た八ヶ岳 | |
1700m付近から見た北アルプス | |
1700m付近から見た北信の山々 | |
急傾斜地帯は雪が柔らかく這い上がるのに苦労した | 眼下に北東尾根が伸びる |
標高が1700mを越えると一気に傾斜がきつくなり、ラッセルも手伝って息が上がって10歩程度進んでは足を止めて休むことが多くなる。DJFがスキーで苦労するのも当然だろう。こちらはスノーシューだが雪が柔らかくて足場が定まらないところでは這い上がるのに苦労した。こういうときはアイゼンに履き替えてキックステップで蹴りこめば簡単に上がれるのだが、ほんのちょっとの距離のために履き替えるのは面倒なので、ピッケルを雪面に差し込んで腕で体を引き上げてどうにか突破する。木が少なくなった区間では振り返ると鉢盛山からハト峰へと続く尾根の向こうに穂高の荒々しい岩稜帯が見えてきた。そうか、ここまで来ると北アも近いのだな。しかしすっきりと展望が得られる場所がなかなか無く、微妙に場所を調整しながら写真撮影した。
烏帽子岳山頂。標識は無い | 山頂から北側を見る |
山頂南側から見た群界尾根 | 山頂南側から見た中央アルプス |
山頂南側から見た南アルプス南部 |
やっと傾斜が緩んで山頂の雰囲気が出てきて、上空のみ開けた最高地点に到着。間違いなく烏帽子岳山頂と思われるが山頂標識が一切無く、3つの境界標識があるだけだった。DJFのリボンはあると思っていたが残さなかったようだ。周囲は立ち枯れが目立つシラビソ樹林で視界は閉ざされているが、僅かに東に下ると背の低い唐松植林帯で西側を除く展望が得られた。まだまだ中央アルプスは白く、南アルプスも赤石岳まで白い姿を見せている。この好天だとアルプス級に取り付いている人もいるだろうか。しかし、今日は気温が高く2000m近いというのに10℃近く、スノーシューを脱ぐとズボっと膝まで踏み抜く。やっぱり、帰りは東尾根の傾斜を利用して踏み抜き地獄を回避し、最短距離で林道に出た方が得策だろう。
東尾根に入る | 東尾根が見えている |
山頂での休憩を終わりにして下山にかかる。まずは南に進んで唐松植林帯に出たら左の明瞭な尾根を下る。このまま直進して主稜線に迷い込むのを心配したが、現場では東尾根の方がはっきりした尾根のように見えたので迷う心配はなかった。植林と自然林の間で歩きやすい場所をつないで下っていく。唐松は植えられてから間伐等の整備はされていないようで、地面付近から四方に枝を張り出しているので邪魔なことこのうえない。少し尾根を外れて巻くことも多かった。傾斜がきついので踏み抜いても重力の助けで強引に足を進められるが、この雪質でこの尾根を登ったら最悪だな。今日は気温が高すぎる。
スノーシューでも踏み抜き連発 | 標高1593m地点で尾根が2分、直進する |
尾根分岐にあった2色目印 | 標高が下がると雪が減ってくる |
雪が消えた植林帯でスノーシューを脱ぐ | 林道直前は笹が出現 |
林道に出たところ。ピンクリボンあり | 尾根取り付き脇はコウモリ沢 |
標高1593m地点で尾根が2分するが、ここで明瞭な目印が出現した。東尾根から分かれる右手の尾根に目印が見えたが、方位磁石によると直進が東尾根なのでそのまま進むとこちらにも同じ目印が続いている。登山者がつけたものなのか、林業作業者が付けたものなのか分からないが、赤青2色のテープが途切れたあとはピンクリボンが続いていた。ただ、このテープは主尾根以外にも付いているのでちゃんと地形を見ながら下る必要はあった。植林帯から自然林に変わることには尾根がバラけて地形がはっきりしなくなるが、落葉した樹林越しに先の様子をうかがってそれらしき尾根をトレースしていく。やがて植林帯に入る頃には再び尾根が明瞭になり、雪が無くなったのでスノーシューをザックにくくりつけてピンクリボンに導かれながらなおも下っていくといったん平坦になると同時に笹が出現、しかし僅かながらルートは刈り払いしてあるようだった。さほど濃い笹ではないので刈り払いが無くても問題ないし、笹区間の距離は短かった。最後に急な斜面を下るとコウモリ沢のすぐ脇で林道に出て、バッチリと東尾根の末端だった。
林道に雪はなかった |
DJFがスキーを滑らせた林道も今はほぼ無雪で問題なく歩け、施錠されたゲートに到着した。
所要時間
5:32ゲート−(0:17)−5:49北東尾根−(0:31)−6:20 1250mでスノーシュー装着−(0:34)−6:54 1506m峰−(2:07)−9:01烏帽子岳9:43−(0:27)−10:10 1593m尾根分岐−(0:31)−10:41林道−(0:14)−10:55舗装終点−(0:05)−11:00ゲート