奥日光 三岳 2008年3月9日
三岳は長年気になっていた山であった。場所は切込湖、刈込湖南側で、その名のとおり3つのピークを持ったドーム状に盛り上がったピークで、いかにも火山性の山である。奥日光の山はかなり登って地形図記載の未踏峰は数えるほどだが、三岳はその中の1つだった。登山道は無く、お隣の於呂倶羅山の植生から考えれば一面の笹薮に覆われているだろうから、登るならば残雪期が一番楽だろう。しかし、近年の残雪期は残り少ない2000m未踏峰を優先して登っており、今年も4月以降はその予定である。雪が安定して歩きやすい時期は奥深くて藪が深く日程が必要な山にこそ時間を費やしたいからだ。三岳は距離や標高差から考えればもう少し条件が悪いときに登ってもいいレベルの山だろう。
というわけで、雪が締まる残雪期前に登ることにした。大きな理由の一つは花粉症がある。既に関東平野は花粉が飛んでおり、アパートの部屋の中でも目がかゆいくらいで杉の植林が多い低山に登ったら目も鼻もとんでもないことになるに違いない。その点、奥日光まで来れば標高の関係で杉が少ないし、そもそも気温が低いのでまだ花粉が飛んでいない。過去の経験上、花粉はあまり上空まで舞い上がらないようで、ある程度の高さの山頂へ登ると花粉シーズン真っ盛りでも目や鼻の調子が非常にいいのだ。奥日光の山々は花粉から逃れるのに都合がいい条件が揃っている。しかも雪の量は雪国よりは少なくて、3月に入ればラッセルにはなるだろうが何とか山頂にたどり着ける程度にはなるだろう。
それに最近導入したスノーシューもある。ワカンと比較すると大きくて重いが接地面積は数倍でワカンでは腰まで潜る雪でもスノーシューだと膝くらいで済むとの話だ。山スキーを導入するか悩んでいたのだが、私の場合は傾斜が緩くて木が少ないスキー向きの尾根を登ることは少なく、どこかで12本爪アイゼンやピッケルが必要になる場面が多いから、そもそもスキーが使える機会が少ない。これでは投資額の割にはお役立ち度が低い。スノーシューもけして安価ではないがスキー1式よりはずっと安く、3月の豪雪地帯以外の山ならラッセルもスキーと大差ないくらいになると予想した。今回はその慣らし運転の意味もある。充分使えると分かってからもう少し難易度の高い山に挑戦しようと思う。
湯元駐車場。数カ所ある |
奥日光へ向かうのは久しぶりで、昨年9月中旬に日光白根に登った時は群馬県側から行ったが宇都宮から入るのは2年ぶりくらいだろうか。武蔵野から東北道を使う場合、普通に会社が終わってから出発したのでは高速道路の通勤割引時間帯にひっかかるのは不可能なのでのんびりと出発した。中央道と違って正規料金(通勤割引の2倍!)を払うのはちょっと腹立たしいがしかたない。宇都宮で降りて金をケチって一般道で奥日光へと向かう。先日の強風では杉並木の杉が何本かへし折れたはずだが、その形跡はなかった。もしかしたら日光街道ではなく例幣使街道の方だったのかも? 凍結具合が心配だったいろは坂から先も夏タイアで走れるのではないかと思えるくらいで、ほとんど乾燥した路面が続いた。中禅寺湖北岸の南向きの斜面は雪が消えているところも多く、思ったよりは雪は少ない。それでも国道から湯元に分岐する場所から先の国道はゲートが閉じて一面の雪に覆われており、藪が埋もれるくらいの雪は期待して良さそうだ。湯元に入り除雪された駐車場に車を突っ込んで酒を飲んで寝た。
寝袋を2重にして寝たので寒くはなかったが、朝方起きると残量が少なかったペットボトルのウーロン茶は凍り付いていて寒さの程度がうかがえる。飯の準備をしているときも耳が冷たいくらいだった。さすがに3月始めで標高1500m近くは冷える。外に出てパッキングするときにスノーシューをどのようにザックに付けるかで少し悩んだ。ワカンよりでかいのでいつものように背面に付けるのは難しく、今回はザックの両側に付けることにしたが次回以降も要検討事項だ。ラッセルの可能性が高いが、ルートを外れて急斜面に出た場合を考えて12本爪アイゼンとピッケルを持っていくことにする。
向こう側の鞍部へと登る | 湯元源泉地帯 |
切込湖、刈込湖遊歩道入口 | 国道は完全に雪の下 |
駐車場を出て雪が消えた湯元源泉の湿原を抜けると右手にあがる遊歩道があるが、全く期待していなかったしっかりしたトレールができているではないか。10年以上前の大型連休初日にこのコースから於呂倶羅山に登ったときはトレール皆無で朝から気温が高く、ワカンを装着してもズボズボ踏み抜いて切込湖、刈込湖までで疲れ果ててしまったことがある。今回もラッセル確実かと思っていたのに明瞭なトレールがあったのだから大助かりだ。登山靴のままジグザグの道を登り切ると除雪されていない国道を横断、雪に覆われた国道はスノーハイクに最適なのか多数のスキー跡、スノーシューの跡が続いていた。
夏道はどうなっているのか分からないが、トレールは谷を下って凍結した蓼ノ湖を横切り(巻いているトレールもあった)谷を登っていく。一面の銀世界でみんな自由気ままに歩くようで蓼ノ湖より先は踏跡が分散しているが、最後は1672m鞍部(小峠と呼ぶらしい)を越えるだろうから収束するはずだ。できるだけ濃いトレールを選んで靴が沈み込む深さを抑えるようにした。結局は小峠まで良く締まったトレールが続きスノーシューの出番はなかった。もちろん、この先の切込湖、刈込湖までこの状態が続いているのだろう。
小峠(1672m鞍部)から湯元方面を見る |
ここから三岳北西尾根へ取り付く |
この先はいよいよトレールとはお別れできついラッセルが待っているはずだ。背負ってきたスノーシューを装着、初めての使用なので手間取るかと思いきや、事前に取説を読んでおいたので戸惑うことはなかった。当然だが右手(東)の斜面には足跡やスキー跡は皆無だった。最初は樹木が無い日当たりがいい斜面で雪もよくクラストしてスノーシューの歯がよく効いてサクサク登っていくが、少し登って樹林帯に入ると背の低い密集したアスナロだかクロベだか分からないが檜の仲間の幼木の藪で雪質がパウダーになり、傾斜がきついと足下が定まらずにズルズルと滑ってしまう。この藪は隙間がないのでスキーを履いたままでは通過できないだろうからスノーシュー程度がちょうどいい。
平坦箇所は少なく凸凹が続く | 時々目印も見られた |
藪を抜けると背が高くて発達したシラビソ樹林となり歩きやすくなるが、この尾根はなだらかなはずだが地図で見るよりずっと複雑で、主稜線がどこなのかわかりにくい。平坦ではなくポコポコと微小ピークが点在し、ミクロに見ると2重山稜、3重山稜の様相だ。ただ、その裏に回ると尾根状ではなくピークと分かるが。また、たぶん三岳は火山だと思うが、あちこちに溶岩の巨岩が点在し、逆に小さな凹地も無数にあり、今は雪に覆われてそれらがつながっているのでそこそこ歩きやすいが、無雪期になると岩と岩の隙間をいちいち通過せねばならず苦労するだろう。それどころか富士の樹海のように「落とし穴」さえあるのではなかろうか。また、雪に覆われてはいるがそこそこの大きさの岩の上に登ったり降りたりでアップダウンが多数あり、スキーでは無理だろう。動物の足跡(主に鹿や兎)も障害物を避けてできるだけ平坦なコースをとって曲がりくねっていた。なお、古い目印を散見したのでここを歩く人も少なくないようだ。
話は変わるがしばらく歩いてスノーシューがどんなものか分かってきた。ワカンがでかくなっただけかと思っていたが、大きな違いがあった。ワカンは登山靴にしっかりと結びつけるが、私が購入したスノーシューは山スキーのビンディングのようになっていて、踵が自由に動くのだった。ワカンでは1歩進むために最初に踵を上げるとワカンも一緒に持ち上がるが、スノーシューは踵があがった段階ではまだ雪面の上で、つま先が雪面を離れている間だけ持ち上がる。つまり足で持ち上げる高さはワカンよりずっと少なくて重さの割には足が軽いのには驚いた。また、私のスノーシューはこれも山スキーのビンディングのように傾斜がきつい登りでは踵を上げて靴を水平に近く保てるメカニズムがあって登りでふくらはぎが無理に引っ張られることもなく、快適に登ることができた。スノーシューの種類にもよるが、私のはワカンのように金属パイプを丸めた形状ではなくギザギザの歯を付けた金属板を環にしたような構造で、足の指の付け根部分付近にはアイゼンのような歯も付いており、固い雪面でのグリップはワカンとは比較にならない。もちろん、接地面積が大きいので踏み抜きもほとんどない。まあ、踏み抜きは雪質の影響が大きいのでスノーシューの性能かどうか判断できないが、試しにピッケルで雪面をつついてみて簡単に根元まで刺さってしまうような場所でも踏み抜きはなかったので、ワカンよりは確実に浮力は大きいだろう。でも、全く踏み抜かないわけではなく、山頂近辺は膝まで潜って苦労した。スノーシューはデカいので一度潜ると足を抜くのはワカンより苦労し、特に細い木が埋もれたところで踏み抜いて木に絡まると大変だった。
南斜面を巻き気味に登る | この谷を1850m鞍部目指して登る |
こんな巨大溶岩峰があちこちに点在する | 1850m鞍部(だと思う) |
このまま直進すると1883m峰に登ってしまい、三角点峰へは1850m鞍部へ下ってから登り返す必要があり体力の無駄だ。このため1883m峰と三角点峰の間にある谷を登って1850m鞍部に出ることにし、標高1800mに近づいてから右に巻き気味に進んで谷を探しながら進む。ここも今まで同様に小ピーク(巨大な溶岩?)が散見され、無数の凸凹に覆われて地面は平らなところは少なくて歩きにくい。やっと目的の谷が現れ、狭い谷筋を登っていくが、ここもなだらかではなく凸凹に覆い尽くされ、右や左に逃げながら高度を上げていく。高度が上がると幼木の藪に覆われるようになり、おまけに枝には雪が積もったままなので頭から雪をかぶることも多くなり、藪が薄いところを探して右に進路をとりつつ登っていくと、もっと左にあると思っていた鞍部が現れた。もしかしたら左手(北側)にある小ピークも今までのような巨大溶岩で、ここは鞍部ではなく斜面の一角なのかも知れないが。やっと矮小な藪が終わって高い樹林が続くようになり、自由気ままに歩けそうだ。
緩やかな斜面を登る | 樹林の隙間から高薙山が見えた(右端) |
完全な北斜面なのでラッセルがきついと思っていたが部分的に踏み抜く場所はあるが少なく、今まで同様に足首より少し浅いくらいまでしか潜らず快適に歩くことができた。相変わらず多数の小ピークで稜線がはっきりしないが、とにかく登りは高いところを目指せば山頂に到着できるのであまり気にせず歩けばいいし、この時期は雪の上に足跡が残るので帰りのための目印を付ける必要もなく、そのための時間も掛けずに済むのはありがたい。
やがて右手に一段と高い溶岩ピークが登場、たぶん1910mピークと思われるが念のためにGPSのスイッチを入れて確認すると本当の山頂は南東に約350mの距離と出た。樹林越しに僅かにそれらしきピークが確認できるが、なだらかな地形でどのように尾根がつながっているのか目視できない。ま、東に適当に下ればピークに取り付けるだろう。ここも凸凹地形の連続で歩きにくい。鞍部から登りにかかりるとなだらかな斜面が続くようになってかなり歩きやすいが、標高が上がるに従って踏み抜きが多くなってきた。山頂直下は連続して膝まで潜るようになり苦労するが、計画段階ではこれが最初から最後まで続くと予想していたので、それを考えれば許せる範囲だ。
1910mピーク直下 | 最後の登り |
三岳山頂 | 山部さんの3D標識 |
徐々に傾斜が緩んで水平になると最高点に到着、雪に埋もれて三角点は見あたらないが山頂標識が2つ掲げられていた。両者とも栃木県内のマイナーな山ではメジャーな山頂標識で、先月の栃木県東低山巡りでも眼にした標識だ。山部さんの「3D標識」の裏の日付を見ると2002年5月終わりで残雪期後期に登ったらしい。栃木の山紀行の日付は11月で雪が来る直前に到達したものだった。KUMOもピンクリボンも無いが、たぶん武内さんは登ったことがあるだろうな。DJFは未踏だと思うが金精道路が開通してから簡単に登れるだろう。木の周囲の雪の付き方を見る限りでは積雪量は1mにも満たないが、笹藪を埋もれさせるには充分な量でこれまで笹は一切見なかった。無雪期はたぶん笹が凄いだろうな。一面のシラビソに覆われ視界も日差しもないが、僅かに差し込んだ日差しがある場所にシートを広げて休憩した。気温は0度前後まで上昇しており、足先の冷たさも無くなっていた。今日は下界では気温が上がるとの予報だったが、山の上も好天で気温が上がってきたようだ。
帰りはおよそ登りと同じルートを歩いたが、矮小な木の藪地帯を突破するのがいやだったので1850m鞍部へは下らず稜線を下り、1800m手前で右の谷に下って登りの足跡に合流した。小峠に戻ると4人が休憩中でスノーシューの老夫婦が切込湖、刈込湖方面へと出発していくところであった。残った男性2人はスキーヤーであり、休憩を兼ねてしばし話し込んだ。
帰りは兎島へと続く破線を辿ってみることにした。等高線に沿ってトラバースするように広い道が付けられており明瞭なトレースが続いていた。もう潜るような場所は無さそうなのでスノーシューを外してもいいのだが面倒なのでそのまま歩く。しばらく歩くと地形図にはないが湯元への分岐標識があり足跡がついている。兎島まで下ると舗装道路歩きが待っているので湯元へのショートカットコースを歩いてみることにする。最初はそれなりに濃いトレースだが、夏道は雪の下なので正確なことは言えないがルートを見るとどうも嘘くさい。ま、この尾根の向こう側に出れば雪に埋もれた国道があるので細かいことは気にしないで西に向かえばいい。やがて足跡は分散し、最後には引き返して踏跡がない雪面だけが残ったが、お構いなしに西に向かっていく。ここまで来ると三岳のように溶岩の凸凹は少なく植林の歩きやすい場所が多い。最後に斜面を下ると国道が出てきたがフェンスを乗り越えるのが面倒で、雪の高さがフェンス近くなるところまで移動してから道路に下った。
所要時間
6:24湯元−(0:14)−6:38源泉−(0:33)−7:11小峠−(1:09)−8:20 1850m鞍部−(0:24)−8:44
1920m峰−(0:22)−9:06三岳9:31−(1:05)−10:36小峠10:49−(0:39)−11:28国道−(0:06)−11:34休憩11:43−(0:06)−11:49国道と分かれる−(0:05)−11:54源泉12:00−(0:08)−12:08湯元