奥秩父前衛 岩岳 2008年2月9日

 


 先週は栃木/茨城県境付近の低山めぐりを行ったが、既に山の中はスギ花粉の飛散が始まっておりひどい目にあった。まだ2月で寒いが低山めぐりは諦めて気温が低い雪のある山に登ることにした。ただ、まだ2月なので雪は全く締まってないからあまり標高が高い山ではラッセルで死にそうになるので、雪深い山は避けたい。そこで思いついたのは近場の山梨東部だ。丹波山村や小菅村、それに隣接する大月の大菩薩嶺から東に延びる尾根に未踏峰がいくつかあり、その高さは1500m前後であり、かつこの付近の山なのでやたら雪があるわけでもなかろう。たぶん積雪は膝くらいまでだと予想した。トレールがあれば楽々登山できるのだが、全くトレールなしだと膝丈のラッセルは非常に疲れるのは経験済みで、登るのなら南向きの尾根がいいだろう。そこで見つけたのは岩岳だ。ここは飛龍山から延びる尾根上にあり大常木林道なる道があるらしく、うまくいけばトレールがあるかもしれない。南向きの尾根なので雪も少ないだろう。ただ、破線は稜線直上ではなく北斜面に続いているので油断はできない。ま、トレールさえあれば問題ないが。

登山口付近の駐車スペース 踏跡入口。標識等は無い

 

 土曜日の天気は下り坂でお昼過ぎから平地でも雪が予想されているので午前中が勝負だ。近場なので青梅街道を使って奥多摩を目指したが、夕方の帰宅ラッシュ時で大渋滞に巻き込まれた。結果としては一直線に北上して早めに青梅街道に出た方が良かったようだ。瑞穂から先は渋滞は解消しスムーズに流れ、青梅市街を抜けて奥多摩町へ。周囲には白いものが見られるようになるが道路には凍結箇所はなかった。看板が示す気温は-6度に達し、今晩も冷えそうだ。丹波山村集落を通過して無人地帯に入ってからは登山口の看板がないか探しながら走ったが発見できず、地図を見て完全に行きすぎだと分かる場所からUターン、今度は地形図で読図しながら登山口を探すことにした。多摩川を渡る橋の東側が登山口になっているので分かりやすいはずで、それらしい橋を発見してそれらしき踏跡も発見したがやはり案内標識はなかった。あとでエアリアマップを見たらこのルートは荒廃と書かれていて、今ではマイナールート化しているようだ。すぐ近くの道路脇に駐車スペースがあったので寝袋を2重にして仮眠した。

踏跡入口 入口から直進せず右を見ると踏跡が続く

 

 夜は冷え込んでガラスの水滴はカチカチに凍っていたが、朝はまだ青空が見えており、天候は当面は大丈夫そうで勇んで出発する。橋のたもとに雪に覆われた踏跡入口があったのでまっすぐ辿ると、すぐに傾斜が急になって今までのように巻けなくなってしまった。地形図を見るとこの急傾斜区間の上部に破線が通っているので、入口まで戻って最初から上部目指して登ることにしたら、川沿いにまっすぐではなく入口で右に曲がる明瞭な踏跡があったではないか。今度は間違いないだろうと進んでいくと少しずつ高度を上げなら巻いていき、祠からは下ってフィックスロープを伝わって河原に下りてしまった。地形図とはルートが違うがこのまま川沿いに行くのだろうか。しかしゴルジュ状でとても登山道があるとも思えないので、地形図に従ってもっと上を目指すことにした。

踏跡というより作業道か 祠より手前で右の薄い分岐を登る

 

 フィックスロープで下った小さな谷間では間違いなく道が続いていたので、谷を下るのではなく登るのがルートかと思ってラッセルして登っていくか、凍結した現在では途中からはロープで確保しないと危険な傾斜になってしまい、これまた一般登山道があるとは思えない。上部を見ると尾根上になっており、道があろうと無かろうとこの尾根の上を歩くのが安全と判断した。祠まで戻り、どこか尾根に取り付けそうな場所を探していると少し薄いながら上に分岐している踏跡を発見、どうやらこれが正解らしい。

ここから火打石谷に下る 水量少なく徒渉は簡単
フィックスロープがある目の前の尾根を登ってしまった モノレール格納庫で踏跡終了

 

 今度こそは高度を上げて今までの危険地帯より上がってから斜面を巻き始めた。雪に覆われかけてはいるが明瞭な道である。やがて地形図どおりに高度を下げ始めて火打石谷に降り立った。ここに橋があるかどうか、無い場合は渡渉可能か心配だったが流れは細くて簡単に対岸に渡ることができた。ここで地図を良く見ればよかったのだが、目の前の小尾根にフィックスロープまで張ってある踏跡が続いていたのでこれが道だと早合点してしまったのが失敗で、登ったら作業用モノレールの駅があってそこで道は終了、ここで地図を取り出してこの先の尾根が本当の尾根であることが分かった。やはりちゃんと地図を見るべきだった。

小常木谷の渡渉箇所。ここも水量少ない 雪で見にくいが明瞭な道が続く

 

 火打石谷渡渉点に戻って今度は左の小常木谷沿いに水平移動だ。以前はまともな道があったようだが増水でズタズタにされた形跡が見て取れ、今では一般登山道とはいえないかもしれないが、なにせ雪に覆われて地面が見えないので踏跡の濃さは不明だ。どこかで対岸に渡って登り始めなければならないので対岸の様子を慎重に観察しながら歩いていたが、意外に明瞭な道が伸びているのが簡単に発見できた。ここの渡渉も全く問題なしだった。この先は不明瞭な箇所は無いだろうとこのときは思ったのだが・・・・。

 

 地形図どおり稜線に上がらずに右側の斜面を巻くように緩やかに高度を上げていく。徐々に雪が増えてきて足が重くなってきたので早速ワカン登場、せっかく持ってきたのだから担いだままではもったいない。昨年6月以来の使用だが装着方法は手が覚えていた。沈む深さは靴の高さ程度なのでワカン無しでも歩けるが、どうせ高度が上がるに従ってどんどん雪深くなるなるだろうし、早めに付けていいだろう。一部ジグザグって高度を上げる区間もあったが、ほとんどはダラダラと直線的に登っていく。ほとんど水平なところで左手に登っていく分岐があり、このまま直進したのではこのルートは本当に稜線に登るのか不安なので分岐ルートを進むことにする。どのみち最後は稜線に出なければならないのなら、稜線に近づきそうな道を歩いた方がいいだろう。

分岐から上に登る なんか細くなってきた
ここで道が終了 左の尾根を登る

 

 しばらくは今までと同じ程度の幅の道が続いていたが進むに従って徐々に細くなり、小尾根を乗り越えるところでプッツリと消えてしまった。こうなれば小尾根を登って稜線に向かうだけで、急な尾根を木に掴まりながらよじ登っていく。この傾斜ではワカンよりもアイゼンが欲しいが稜線に出ればまたワカンの出番なのでこのまま登った。

稜線に出る 照葉樹中心の樹林
鹿のトレール 無数の鹿の足跡

 

 稜線に出ると踏跡くらいあるかと思ったが、雪が積もっているので不明だが雰囲気的には踏跡は無さそうだった。詳細な場所は分からないが、どうも標高1144m地点らしい。地図ではもっと岩岳に近い場所まで行かないと稜線上に道が上がってこない。人間の踏跡はないが鹿の足跡はたくさんあり、それに従って上を目指す。杉の植林から低い照葉樹の林になり、枝の隙間をすり抜けていく。積雪は傾斜がきつい南斜面はほとんど無いがなだらかな稜線付近及び北斜面は一面の雪に覆われ、特に登りが緩い区間は積雪が多くワカンが無かったらラッセルで大いに苦労させられるだろう。鹿の足跡とワカンのおかげで多少楽ができた。尾根が痩せた所では雪が少なく楽に歩けるがそんな場所は短区間だけだった。

1366m峰より先で笹出現 雪+埋もれてない笹は最悪!

 

 標高を上げるに従って徐々に積雪量が増えて体力を搾り取られていく。1366m峰を越えるとなんと笹が出現、積雪と言ってもこの付近の積雪は深いところでも50cm、平均で30cm程度なので笹が埋もれてしまうほどではなく、笹があるところは笹藪漕ぎとなる。半端に寝ている笹もあり、足を踏み入れると腰くらいまでズボっとハマってしまい、ロングスパッツでもズボンの濡れを防げなくなった。これまでもスピードが遅かったがここで一気に進行速度が遅くなった。予定では岩岳まで3時間程度だと予想していたが大幅遅延確実だ。こんな状況が続くとしたら山頂までたどり着けるかどうかすら怪しい。

1330m鞍部で道出現 稜線西側を延々と巻く。積雪多し

 

 笹藪をかき分けて緩やかに下るがなかなか道が出てこない。地形図だとピーク直下で道が上がってくる筈だが。もしかしたら地図と違って道は稜線上に上がってこないのではないかと心配し始めた頃、地図とは異なって1330m鞍部でやっと登山道に出た! これで藪漕ぎから解放されるのでスピードアップだろうが、もう疲れ果ててしまったのでここで休憩だ。僅かに地面が顔を出した部分にザックを置いてパンをかじって再び歩き出す。

 ちゃんとした道なので笹藪と違って格段に歩きやすいが、地図と違って西斜面を巻くようにルートが付けられており積雪が多くラッセルがきつくなった。鹿の足跡が続くのでまっさらな雪面よりもマシだが、ワカンを付けてもコンスタントに臑まで潜るので、最近は低山巡りしかやっていなかった身には呼吸が追いつかなくてきつい。GPSの表示を見ると山頂までまだ1000m近くあり、体力的に無理ではないかと考えるようになった。とうに山頂到着予定の3時間は過ぎて、これでは天候が崩れる前に下山という計画も無理そうだ。天候は別として暗くなるまでには相当時間はあるので、体力の限界を感じるまでは頑張ってみよう。

ここも鹿道 巡視路を離れて稜線を目指す

 

 なだらかに登り終わってからは狭い鞍部を越えたが、これが吹きだまって股まで潜り1歩足を進めるのに大変な時間と体力が必要だった。東斜面にルートが移ると多少雪が減って歩きやすくなるが、雪が全く消えるまではいかなかった。再び鞍部に交差するところは東側斜面から登ることになり、高さ2mほどのミニ雪庇をよじ登ることになるので苦労した。なんせピッケルなんか無いので手がかりがない雪壁を登るのは難しかったが、どうにか横に逃げて鞍部に登った。再び東を巻くルートを歩き、GPSの山頂方向がほぼ西に来たところで小尾根に取り付いて稜線を目指した。ただ、山頂までの距離が300m以上あるのが気になった。ここはそんなに広い稜線ではないので、200mも離れていたら空中になってしまうのではないだろうか。とにかく、こんな同じような高さの稜線が続くとGPSでないと山頂位置同定は難しいので、まずは現地で山頂らしきピークを確認するしかない。

稜線に出る 1515m峰

 

 稜線に登ると南側に高まりがあったのでそちらを目指したが、稜線上はあちこちに吹きだまりがあって体力を猛烈に消耗し、やっとのことで最高地点に達したが山頂までの距離はまだ200m近くあった。過去の経験では衛星が4つ以上受信できた状態で測位誤差でこれほどの数字が出ることはなく、山頂の緯度経度入力ミスが最も可能性が高かった。しかし、ふと思いついた事実があった。先週の栃木東部低山巡りでは都道府県別データを見たので日本山名事典ではなく日本山名総覧を使用、山名総覧の測地系は「WGS84」ではなく旧測地系の「tokyo」なのでGPSの測地系を切り替えたままだった! 測地系が異なると同一緯度経度でも位置が数100mズレるので、今回のような現象が発生する。GPSの測地系を変更して緯度経度を入れ直すと山頂は南に移動したではないか。今度は正しい位置が出たらしい。帰ってから状況を検証した結果、私が最初に登ったピークは山頂北東の1515m峰だったようだ。

岩岳山頂。赤布が1つあるだけ 岩岳西側尾根

 

 稜線を下ってさっきのミニ雪庇を乗り越えて登山道で稜線を東から巻き、次の鞍部で道を外れて稜線を登った。藪があるわけではなく背の低い木が少し邪魔だが疲労以外は問題なく、5時間かかってやっと岩岳山頂に到着した。同じように低い木が茂って展望はなく山頂標識も皆無で1つだけ赤布がぶら下がっていた。これだけの積雪では三角点の確認は不可能だが、今度こそGPSの残距離は約10mと山頂に間違いない。下山時のルートもしばらく下りが続いて地形図の地形と符合する。登山道は地形図と違って山頂西側を巻いていた。

 帰りは登山道(というか巡視路か?)を正確に辿ることにしたが、積雪が多くて一目見たのでは道があるのかないのか分からないところも多く、周囲の地形、木の間隔を参考にして進んだが、道を外すこともなく最後まで歩けた。たぶん無雪期ならば迷うような場所は無いのだろうが、雪がある時期は藪山でルートファインディング能力を鍛えられた人でないと正しいルートをトレースするのはほとんど不可能だろう。もちろん藪があるわけではないが。登りで自分が付けた足跡に出会ったときには本当にほっとした。この頃には既に本降りの雪が降り出していたが、下部は植林帯なので雨具を出す必要はなく助かった。

 帰りは丹波山村の「のめこい湯」で温泉に浸かって体を温めた。ここは温泉のすぐ近くに駐車場があるわけではなく、駐車場から歩いて下って多摩川を吊り橋で渡った先に温泉施設があり、今回のようにラッセルで疲れ切った足には帰りの登りがつらかった。温泉からあがると歩道に雪が積もり始めており周囲は真っ白になっていた。


所要時間

6:50踏跡入口−(0:23)−7:13河原から戻る−(0:17)−7:30火打石谷を渡る−(0:06)−7:36モノレール格納庫で戻る−(0:06)−7:42小常木谷を渡る−(1:08)−8:50道が消える−(0:09)−8:59稜線−(1:01)−10:00 1366m峰−(0:20)−10:20巡視路(休憩)10:35−(0:48)−11:23巡視路を外れて稜線に向かう−(0:14)−11:37 1515m峰11:39−(0:16)−11:55岩岳(休憩)12:08−(1:08)−13:16小常木谷を渡る−(0:04)−13:20火打石谷を渡る−(0:21)−13:41踏跡入口

 

 

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