南ア北部 角兵衛沢ノ頭(鋸岳西側ピーク)

 

 

 

 角兵衛沢ノ頭は南ア鋸岳第1高点と三角点峰間のピークで、鋸岳に登ったときに通過しているが無線はやっていない。ところが日本山名事典に記載されたので登り直しとなり、天候と仕事の関係で前回同様日帰りで往復することにした。本当は歩いたことがない角兵衛沢を詰めて登りたかったが、登山口の長谷村まで遠くて時間がかかるので今回も釜無川沿いの林道から入ることにした。前回は林道を片道2時間歩いたが、今は折り畳み自転車があるので楽ができるだろう。釜無川コースでは水平移動に自転車が使えるのも選択の理由で、長野側では河原歩きが入るので自転車が使えない区間がある。釜無川コースも最後は傾斜がきつくて自転車を押すのが大変になるが、下流側の3/4程度は傾斜が緩やかで、その間は往復とも自転車の利用価値が高いだろう。林道の傾斜を見ながらどこで自転車をデポするかは現場で判断しよう。一応、大平方面の林道が左に分岐する場所までは自転車で行こうと思う。

 角兵衛沢ノ頭まで行くのなら、大した労力はかからないので鋸岳は登っておくべきだろう。前回は秋の快晴の日に登って大展望を楽しんだがデジカメでなかったので写真はどこかに埋もれている。今回はデジカメで心ゆくまで写真が撮れるだろう、天気が良ければだけど。鋸岳は私が初めてハンディーGPSを使った思い出深い山である。その時のGPSは千葉低山巡りで紛失してしまったが、今はventureに進化した。樹林帯では衛星捕捉はできないだろうが、ルートははっきりしているので問題ない。今回も登りは横岳峠をパスして水がある飯場跡に直登、縦走路に出ようと思う。こちらの方が横岳峠より標高が高いばかりか水が得られるので横岳峠まで水を担いで幕営するよりも楽である。その現場写真と緯度経度を調べるのも目的だ。ルートははっきりしないが藪がないので適当に歩けるし、最後は右手の樹林を突っ切ると縦走路に出られる。

 計画を楽しみにしていたが、金曜日のお昼くらいから体調がおかしいことに気づいた。異常な眠気が襲い、昼食後の昼寝をしても眠気がおさまらず、鼻がむずむずして夕方近くにはだるさを覚えるようになった。これは風邪の前兆に間違いなく、症状がこの程度で済むのかずっと悪化するのか予想できないが、家で寝ていてあまり悪くならなかったらがっかりするので出かけることにした(結果的に大失敗だったが)。

 台風が日本海側を横断した影響か、昨日から35度を超える残暑がぶり返し、金曜日もめまいがしそうな高温と直射日光だったが夕方にはそこそこ涼しくなり、車のクーラーに頼ることなく中央道に向かった。小淵沢ICで降りて甲州街道を北上、「机」という変わった地区を過ぎ、小さくて目立たない武智温泉の看板で左折して釜無川を遡る道に入る。ここは前回登ったときに分岐が分からず通過した場所だ。1本道なので迷うことはなく、集落を過ぎて埃で真っ白な採石場に出ればゲートは近い。ゲート周辺は広くなっていて駐車は問題なく、ここからは自転車に乗り換える。ゲートから離れた場所に練馬ナンバーの車がいたが登山者のものか? ゲート前には他にいないが、明日帰ってくる頃には何台車が止まっているだろうか。アルプスクラスの山としてはやや標高が低いが、夏山シーズンに登られてもいい山だろう。なお、ゲートには詰め所もあり日中は監視員がいるようだ。地元関係者以外入山禁止の看板の他、関係者以外立入禁止の注意書きもあるが、前回、朝夕とも林道を歩いて工事車両に抜かれても何も言われなかったから歩きなら問題ないのだろう。

 林道終点付近にあるという小屋軒先での仮眠を予定し、ツェルトとシュラフ、マット、朝飯に酒を持って自転車にまたがる。いつものように車で寝てもいいのだが、林道終点まで入ってから寝た方が休憩時間が長いので登山道を歩くときの疲労はずっと少ないはずなので、あえて夜間の自転車漕ぎとなった。これは近い将来行くであろう畑薙ダムから聖沢登山口、二軒小屋に向けてのリハーサルでもある。それと比較すれば今回はだいぶ距離が短いが。なお、ツェルト等は寝るためにしか使わないので、朝登り始めるときはデポしていく予定である。

 ヘッドライトの光は頼りないが、工事車両が毎日のように通行する林道なので普通車でも問題なく走れるくらいで、自転車のスピードなら暗くてもさほど問題なかった。ただし、遠くの穴は見えないのでのんびり走らなくてはならなかったが。思ったよりも水平区間が短く、自転車が有効に働いたのは前半だけであり、その前半でも自転車を押して歩く時間もあった。暗闇では先が見えないので坂になってペダルが重くなったら押し、目の前が水平になったと思ったら自転車にまたがるの繰り返しだった。予想通り大平への林道分岐からは自転車に乗れる区間は全くと言っていいほど無いほど登りが続き、よほど自転車を乗り捨てようかと思ったが、帰りが楽になること、自転車を隠すのにちょうどいいところがないのとでそのまま押し続けた。

最上流の砂防ダム ロッジ ロッジの軒下


 ようやく前回のダム工事現場付近に到着、流れが細くなりいつのまにか右岸へと渡っていた。この辺りで林道が終わったはずだがという場所を過ぎても道は続き、2年前は重機で工事をしていた場所には土石流の巨岩をせき止める砂防ダムが完成しており、鉄骨の隙間に歩道が渡してあったのでそこを自転車を押して上がる。もちろん車はここまでだ。もしかしたらダムを巻く道があるのかも知れないが暗いので分からない。昔はここから河原歩きだったが、現在では左岸の高いところに林道が開設されていてそれを辿る。そろそろ自転車押しにも疲れて全身汗まみれなので、急な坂を上って少し行ったところでデポ、真っ暗で分からなかったがすぐ先がロッジだった。HPで書かれているように場所に似合わないくらい新しく立派で、手前には沢が流れて水が得られるのはいいロケーションである。施錠され中に入れないが大きなテラスがあってその下は開放されていた。床は木製でテントを張るにはちょうど良く、予定通りツェルトを張った。

 汗まみれなので着替えを済ませシュラフに入ったが、どうも風邪が悪化したらしく寒気がする。発熱の証拠だ。とりあえずこれ以上悪くならないように温かくして寝るのが一番なので、着られる物はみんな着込んでシュラフカバーもかけた。熱が出ることを想定して防寒着を持ってきて正解だった。酒を飲んだが体調不良で食欲もわかず、いつもの1/4くらいしか飲まないで寝た。防寒装備のおかげでしばらくして寒気はおさまったが、今度は暑くてたまらない。しかし、ここで体温を下げると風邪の症状が重くなるのは確実で(体温1度の上昇で免疫活動は2倍になると言われるし、体温が上がるのはウィルスの活動を抑えるため)、暑さを我慢して思いっきり汗をかくことにする。安眠はできなかったが、おかげで朝には寒気はなくなり体を動かせるようになった。

 明るくなって活動再開、食欲はないがこれからもエネルギーを使うので無理に朝食を取って出発だ。濡れたツェルト、シュラフカバー、シュラフはロッジに干しておく。林道はここで終わり、登山道は河原に降りているが踏み跡は明白であり赤テープ等の目印で問題なくルートが分かる。沢を渡って右岸を歩き、以後沢を何度か渡って最後は左岸のやや離れた場所に踏み跡が落ち着いた。以前歩いたときと同じ感じだ。河原歩きはどこでも歩けるのでやや踏み跡が薄いがペイントが豊富なので日中なら迷うことは無かろう。

富士川水源分岐 横岳峠/飯場跡(水場)分岐

 

 涸れた沢を横断し、沢から離れると道がはっきりしてシラビソ樹林帯の登りが始まる。下草がないきれいな樹林で踏み跡が無くても充分歩けるくらいで順調に高度を上げていく。太い倒木が道を塞ぐように倒れている場所が「富士川水源」への分岐で、以前はペイントでデカデカと書かれていたが2年の歳月で消えてしまったようだ。前回は水源を見ていないので帰りに立ち寄ることにしてそのまま進む。はっきりした尾根をグングン高度を上げていき、尾根が急に広くなるところがポイントで、メインルートである横岳峠への道は尾根右側(西端)を巻くように上がっていき、2年前に私が歩いた飯場跡へのルートは尾根の真ん中を上がるのだ。分岐点には標識等はないが、メインルートが右に巻いていくのを飯場跡ルートは谷状のルートを直進する。踏み跡は今までより薄くなるが、目印は続いている。

崩壊しかけたプレハブ飯場跡 飯場跡の水場(ここが最後、最高地点)

 

 ここから先は目印を参考にしながら尾根を外さない範囲で適当に歩きやすい所を上がればいい。藪はほとんど無く、視界がないシラビソ樹林が続くが、途中で開けた場所もあり振り返ると横岳のピークと横岳峠の鞍部が見える。なおも登り続けると水音が聞こえるようにあり飯場跡に飛び出す。左手には崩壊しかけたプレハブの飯場、右手には豊富な水量の沢が流れ、広い平坦地を探すのが難しそうだが水はいくらでも手に入るので、横岳峠で幕営するよりもこっちの方がいいだろう。緯度経度はWGS-84でN35゚47'00.7"、 E138゚11'49.2"、標高は約2100mであった。

縦走路に出た場所にあった鳥獣保護区看板

 この後も目印、踏み跡を辿って高度を上げていくとワイアーロープが散乱した伐採跡に出て踏み跡は消えるため、右手の樹林を適当に突っ切って縦走路に出る。実は縦走路はすぐ南側を併走しているので、僅か数分で縦走路に飛び出す。ちょうど鳥獣保護区の赤い看板の場所で、ここを北上すると伐採跡地に出て水場に出られる。

 この先はちゃんとした道なのでルートの心配はないが、風邪の体調では急な登りが厳しく、何度も休みながら山頂を目指した。気温は約10度で長時間休んでいると体が冷えて寒さで発熱が再発する可能性があり、短い休憩をこまめに取りながら三角点峰に到着した。鋸岳への稜線で天気が二分され、信州側は快晴だが甲斐側はガスが立ちこめ視界ゼロだった。楽しみにしていた北アの展望は全くダメ、南アは2800m以上が雲の中で仙丈ヶ岳、北岳はガスの中、中ア主稜線も雲が絡み、木曽御嶽も同様だった。あ〜あ、せっかく双眼鏡を持ってきたのに役立たないではないか・・・。

角兵衛沢ノ頭から見た三角点峰 三角点峰南から見た鋸岳と角兵衛沢ノ頭 三角点峰から見た地蔵尾根

 

角兵衛沢ノ頭山頂

 これでは鋸岳まで登って写真を撮るという目的は達せないし、体調不良で登る気力もないので角兵衛沢ノ頭だけ登って帰ることにした。この稜線は南半分が絶壁、北半分が樹林だが、登山道は危険箇所は樹林を巻いているのでヤバいところは無く淡々と歩ける。鞍部に下って登り返すとなだらかな角兵衛沢ノ頭山頂だが標識はない。南西の風がやや強いが防寒着で寒さをしのぎながら無線を運用、少々休憩していると鋸岳方面から人の声が聞こえ、ガスの中から4人パーティーの姿が見えた。やってくるのを待ち話を聞くと横岳峠にテントを張って往復したそうだ。昨日は風は強かったが非常に天気が良かったとのことで、今日は残念だといっていた。気圧配置上、絶対に天気がいいと予想していたのだが・・・・。ゲートから離れた場所に置いてあった練馬ナンバーは彼らの車だった。

横岳峠(東から西を見る) 横岳峠(真ん中から東を見る)

 

富士川水源

 彼らの通過後、荷物をまとめて出発、すぐに追い越して三角点峰に登り返して写真撮影、網笠山が近かった。下りは体調が悪くてもガンガン行けるので足に任せて下って横岳峠に到着、赤いテントが一つだけあるのが彼らのテントだ。今日は土曜日だからもっと賑わうのだろうか。富士川水源に立ち寄ってみると伏流水が地表に出る場所でとても冷たい水が流れ出していた。分岐から1分もかからない近さなのでぜひ立ち寄ってみるといいだろう。

 ロッジでデポした荷物を回収し、すぐ近くの自転車も回収、ダートで転倒しないようブレーキをかけっぱなしで下れるから足は疲れないがブレーキを握る腕が疲れるのは想定外だった。おまけにブレーキの酷使で後部ブレーキが加熱して煙は出るし・・・(ビックリ!)。最上流砂防ダム下で初めての工事車両を目撃し、その後はあちこちで点々と工事車両が止まって作業を行っていたが、自転車で通過しても何も言われなかった。しかし、ゲートにいた監視員には「事故防止のためここは立ち入り禁止だ」と小言を言われた。事故防止のためというが、事故を起こす原因は重い荷物を担いだ登山者ではなく車を運転する工事業者であるのは明白で、そのリスクを無くすために登山者を閉め出すのは工事業者のプロ意識の希薄さ、もしくは無能さを示すものだろう。現に畑薙ダムより奥の林道は工事車両がガンガン通行する林道にもかかわらず登山者は自由に通行できるし、登山者優先の看板まで設置されている。北アルプスの右俣林道、左俣林道も同様で、七倉から先の東京電力管理道路も登山者通行排除などしていない。監視員は環境保護云々も言っていたが、排ガスをまき散らして工事車両や重機が動き回り、自然地形を破壊してダム建設を行う方がよっぽど大きな自然破壊だろう。立入禁止を決めたのはその人ではないから文句は言わなかったが不愉快だった。私は2度とこのルートを使って鋸岳に登ることはないだろう。これから登る人も、追い返されてしまうので監視員がいる日中にゲートを通過するのは避けた方がよい。一番いいのは土曜早朝に出発して工事がお休みの日曜日に下山することだろう。日帰りの人は土曜午後6時以降にゲートに到着するよう時間調節が必要だ。

 帰りの温泉は武智温泉、塩沢温泉、下蔦木温泉等どこも\600である。塩沢温泉が一番塩気が濃いだろうか。下蔦木温泉は道の駅併設であるため、いつも混雑していて私はパスしている。ただ、午後5時か6時以降は\400に値下がりするため遅い時間に利用している。武智温泉、塩沢温泉はめちゃ込みすることは今までの経験上無い。


 家に帰ってからは疲労も影響したのか風邪の症状が激烈で、日月は立ち上がることもできず火曜日も会社を休む羽目になった。やっぱ土曜日は寝ていた方が良かったらしい。