八ヶ岳核心部(赤岳、竜頭峰、横岳、三叉峰、小同心、硫黄岳、赤岩の頭) 日帰り縦走

 

 

 今年は梅雨明け後に仕事が忙しくなって休日出勤の必要が出てしまい、せっかくの幕営山行もおいそれとはできない状況になってしまったが、この天気の良さではせめて土日の片方は山に行きたいところだ。そこで日帰りでアルプス級の山を楽しもうと山の物色を始めた。日本山名事典に新規記載された2000m以上の山はいくつもあるので、日帰りできる山もいくつもあるが、特に八ヶ岳は核心部にいくつも誕生し、ルートをうまくとれば1日でも一気に片づけられそうだ。

 そこで考えたのは美濃戸を起点に赤岳から硫黄岳まで周回し、山名事典新規記載の山、竜頭峰、三叉峰、小同心、赤岩の頭を歩く計画である。通常は1泊2日の行程だろうが、標高差の見積からすると1500m強なので充分日帰りが可能なはずで、さほど無理があるとも思えなかった。少なくとも赤岳日帰りは楽勝コースで、それに横岳と硫黄岳がくっつくだけなので大丈夫だろう。

 ただし、小同心だけが問題だった。昨年大同心に登ったときに偵察したが、横岳直下は急傾斜で小同心の尾根に無事乗れるか分からなかった。たぶん短いザイルがあれば突破できるだろうが、ザイルなど持っていないので撤退に終わるかも知れないとの覚悟はしておく。まあ、小同心だけならまた日帰りでいいので残ってもいいだろう。

 最近は仕事が忙しくて睡眠時間が短めなのでできるだけ早く登山口で仮眠しようと夕方6時半に出発し、登山口となる美濃戸山荘等の手前に到着したのは夜9時、10時には酒を飲んで寝られた。なお、林道終点の山荘で車を止められるが\1000/日の料金がかかるので、財布と体力と相談して駐車場所は選択す必要がある。タダで止められる場所は林道が2分岐して平行する場所の分岐で、道幅が広いため路側に縦列駐車で10台は置ける。以前はここに置いて歩いたが小屋まで20分はかかったと思う。今回は小屋まで5分程度しかかからないいい場所に止められた。林道を登っていくと左手に別の林道が分岐する場所があり、入るとすぐ終点で2,3台の駐車スペースがある。ここはこの付近(地元民の所有)の森林での山菜取り、キノコ取りで地元民が使う山道の入口であり、その駐車スペースらしい。シーズンになるとそれらの車が使うかも知れないが、夏ならいいだろう。葉っぱの隙間を通して星が見え、明日もいい天気だろうか。夜中に車が上がっていったどうか気づかないくらい熟睡した。

 早朝3時に起床、飯を食って4時前の真っ暗な時間に出発した。何度も通っているので暗闇でも問題なく、南沢の分岐に入って沢沿いに歩いているうちに明るくなってくる。沢から離れて美濃戸中山へ登ったときに歩いた広い河原を離れて行者小屋に到着するとテントが花盛りだった。昨日以前にここに入った連中だが、学生は分かるとしても社会人はどうだろう! 会社を休んで八ヶ岳登山に来たのだろうか。まさに朝食中のグループもいた。

 なおも登って赤岳に直接登るコースに入ると猛烈な傾斜の登山道が続くようになり、金網でできた風変わりな階段を登る。グングン高度を稼いで森林限界を突破、阿弥陀岳への登山道との合流地点の標識が立っているのが見えるようになると赤岳から下ってくる人の姿も見られるようになった。コースに出ると大パーティーが中岳取り付いているのが見えたが、展望荘あたりで泊まった連中か。赤岳直下の岩場で下る人とすれ違い、キレット小屋への近道の分岐は無視して赤岳方面を目指して稜線に出てGPSを取り出して竜頭峰の場所を確認すると120mほど南と出た。地形図で見てもイマイチ場所が分からなかったが現場でGPSがあれば確実である、キレット小屋方面に歩き、すぐ目の前の岩の最高点が山頂だった。

 とんでもない岩のてっぺんが山頂だったら登れないではないかと危惧していたがそうではなくて小さなピークで、以前は銅像が建っていたようだが足首から上が無くなって台座と靴だけが残っていた。眺めは良好で南アは白峰三山、鳳凰三山、甲斐駒、仙丈ヶ岳が見えていたが雲の層が高くて2500m以下は雲海の下で見えないし、空気の透明度が悪くて農鳥岳以南も見えず富士山も霞んでいた。中ア、乗鞍、北アは霞の向こうでかけらさえ見えず、せっかく双眼鏡を持ってきたのに活躍の場がなかった。無線は6mで久しぶりにDPを立てて運用、まだ奥積さんはいなかった。

 さて、次は三叉峰だが目の前の赤岳を越えなくてはならない。次々とこっちへ下ってくる人の姿が見え、岩場なので渋滞かと思いつつ縦走路を北上、岩に不慣れなオバチャンが慎重に下りきるのを待ってスタスタと登ると赤岳山頂だ。以前来たときは強風とガスでとんでもなかったが今日は無風快晴、こんな日に無線をやりたいものだ。三角点の写真を撮影しただけで山頂を辞した。

 山頂北側直下には赤岳山頂小屋があり、みんな出発して片づけ作業中のようだ。ここで泊まれば赤岳山頂で日の出が見られるなぁ。ここからの下りは急傾斜で、ガスの中鎖に掴まって下った記憶があるが、晴れて岩が乾いていれば鎖など不要な道だった。積雪時は結構恐そうだなぁ。下ると展望山荘でここも片づけ中だった。見上げる赤岳は圧倒的なボリュームだった。

 最低鞍部からは横岳の岩場に入るが危険箇所は巻いているので全く問題なく、中高年パーティーとすれ違ったり追い越したりしながら縦走路を淡々と歩けばいい。思ったより気温は低くないようで、風がないと暑いくらいで日焼けしそうだ。三叉峰直下で梯子を登れば本日2つ目の目的地山頂でケルンが積まれていたので石の隙間にポールを突っ込んで石で支えて自立させた。もう横岳は目の前であり、休憩している人の姿がはっきり見える。空気のよどんだ今日では赤岳は既に靄がかかったような見え方になってしまっている。

 無線はJP2NJS/3坂田郡伊吹山のCQが聞こえたのでコールしたが、ピコ6のバリコン破損でQRHが酷く、吉原さんにはだいぶ苦労をかけたようだ。奥積さんが嗅ぎつけて割り込んできたので多少は周波数が安定する50.200以上に周波数を上げてQSOした。

 最初は無人だったこんな半端な山頂なのに、私が無線をやっているのを見てかだんだんと休憩する人が増えてきてしまった。俺だったら横岳で休憩するのだけれど、もしかしたら私がこんなことして遊んでいるから横岳山頂と間違えたのか?? ま、いいか。

 横岳はすぐ近くで、こっちは休憩者1名だけと静かだった。さて、ここも無線は終わっているのでパスだが問題の小同心が待っている。まずは崖を覗き込んでみるが山頂直下は傾斜は急だが垂直ではなく手がかり、足がかりともバッチリあるので問題なさそうで、サブザックに無線装備を入れて下ってみた。しかし、尾根がなだらかになる最後の部分が高さ2,3mの垂直で、その下はなだらかな場所なので飛び降りてでも下れそうではあるがそれでは登りが不可能だ。ホールド、スタンスをうまく求めれば下れそうな感じもあるが、なにせ今までと違って本当に垂直で簡単にアタックする勇気が出ずに撤退することにした。ま、5mもロープがあれば問題ないので次に回してもよかろう。

 そうと決まれば横岳にいる理由はなくなるので最後の赤岩の頭に向けて硫黄岳方面に縦走を続けたが、この直後予想だにしていなかった奇跡に恵まれた。横岳を出発してすぐは稜線東を巻いていた登山道が岩を乗り越えて西側に移り右に屈曲するところに踏み跡を発見したのだ。ちょうど横岳西面の絶壁が樹林へと変わる境目で、ここからなら絶壁基部を巻いて小同心に行けるのではないだろうか?と希望がわいた。そう、たぶん岩屋さんが小同心の登攀を終えて帰りに使う安全な道なのではないか! こんな道の存在はインターネットでは探し出すことはできなかったが、たぶんそれは積雪期の登山記録ばかりが出てきたのが理由だろう。だってこのトラバース道は雪が積もっていれば岩棚は埋もれて雪の絶壁になって通行できないし、雪崩の危険もある。入ってみるとはっきりしたルートで、岩棚が消えて1m程下にルートが移る部分のみ不明瞭な他ははっきりしており、何の危険もなく小同心の尾根に到着できた。そこはまさに下降を断念した絶壁の真下であった。その先も明瞭な踏み跡が続き、小ピークは左を巻いて山頂に飛び出した。やはりこんな所に登る八つは夏山シーズンはいないようで砂の上には足跡はなかった。

 山頂はとても狭く、数人でいっぱいになってしまうような広さしかいないが、誰も来ないだろうから広々と使える。横岳山頂や縦走路から小同心が見えていたのであちらからも丸見えだろう、逆光になるので輪郭しか分からないが横岳山頂の人もはっきりと見えた。八ヶ岳を知ってる人なら私を岩屋さんだと思うだろうし、知らない人は登山道があるピークだと思うかな、どちらにしても愉快である。もしかしたら山ランでは初めてか、それとも武内さんやDJFに先を越されただろうか、でも安全なルート発見は私が初めてではなかろうか。お隣の大同心は尾根沿いに踏み跡があり小同心以上に安全だったなぁ。ただ西側は完全に絶壁で、あんなところ本当によじ登れるのかと不思議になるくらいだ。そういえば横岳山頂では大同心の稜線を歩いている人を見たな。まさか山ラン関係者?

 無事に6mでQSOし、ガスってきた中を元来た道を引き返して縦走路に戻った。最大の難関と思われた小同心に無事登れたこと、無雪期に一般人でも歩けるルートを発見できたことでうれしさいっぱいだった。

 この先は硫黄岳山荘までコマクサの群落が続き心を和ませるが、最盛期を過ぎており花がしおれる直前でちょっと残念だった。山荘を素通りし、巨大なケルンが点在する岩畳の登山道をなだらかに登り切ると、小同心とは対照的に多数の登山者が休憩する広大な硫黄岳山頂だった。ここは3回目で無線も終わっているのでパス、赤岳鉱泉方面へと下り、峰の松目との分岐を西に進んですぐのピークが赤岩の頭である。分岐には休憩する人がいるがピークは無人、しかも峰の松目へ行く人もほとんどいないので(1人だけしかいなかった)のんびりできた。ハイマツのピークで今日のように日差しがあって風が弱い時は暑くてたまらず、おもわず傘を差してしまった。硫黄岳小屋まではガスっていたのが再び晴れて日差しが戻っていた。6mで1局だけ交信して下山した。

 森林限界から樹林に入ると日差しが遮られて涼しくて快適!! 逆に上がってくる人にとっては暑さはよろしくはないがそれ以上に視界が開けるのがうれしいだろが。まだまだ続々と登ってくる人がいて、ポツリポツリと下りがいる程度、渋滞するほどでもなく快適な下りで赤岳鉱泉に到着、こっちは硫黄岳山頂よりも休憩者が多かったかも知れないという賑わいようだった。テントの数はまだ多くはないが、これからたくさん出現するのだろうな。

 登山道を下るとまだまだ上がってくる人は多く、みんな赤岳鉱泉で宿泊する連中だな。夏のアルプス級だけあって若者の姿も多く、高校や大学の女子パーティーは華やかだった。沢で顔を洗ったりしながら砂防ダムの先で林道に変わり、あとは淡々と林道歩きをこなして林間学校かなにかの生徒で溢れる美濃戸山荘前を通過、車に戻った。


所要時間
3:45車-3:52小屋-3:59南沢分岐-5:48行者小屋-5:57阿弥陀岳分岐-6:18森林限界-6:37阿弥陀岳への縦走路-6:45キレット小屋近道分岐-6:53主稜線に乗る-6:56竜頭峰着-7:22竜頭峰発-7:28赤岳-7:44赤岳展望荘-7:47地蔵尾根分岐-8:17三叉峰着-8:51三叉峰発-9:01横岳着-9:10横岳発-9:17小同心着-9:36小同心発-9:42縦走路-10:02硫黄岳山荘-10:20硫黄岳-10:31赤岩の頭着-11:01赤岩の頭発-11:38赤岳鉱泉-12:11林道-12:39美濃戸山荘-12:51車

 

 

小同心 写真集