清水岳という山はいくつかあるが、ここで言う清水岳は有明山の北西部に位置する山である。例のごとく登山道はなく、インターネットで調べてみないとわからないがほとんど登る人はいないのではないだろうか。標高は2200mちょっとあるが、登る理由もないわけなので登る人がいないのはしょうがないだろう。帰ってから検索したが、やっぱり清水岳の登山記録は見つからなかった。

 常識的には有明山への登山道を登り、清水岳へと続く尾根に乗ったらそのまま尾根上を歩くのがよかろう。もちろん尾根上の藪の状態がわからないので雪が残っている時期に歩くのがいいだろう。そこで北海道出張から帰って、いつもより2時間も出発が遅れてあまり遠くまで出かけられない21日に決めた。豊科ICから近いので時間短縮が可能だ。南会津の山も行きたかったが、桧枝岐村は西那須野塩原ICから100km近くあって一般道に出てからの時間がかなりかかるので諦めた。おそらく来週は雪が消えてしまうだろうから、私にとって今年の南会津の残雪期も終わりだろう。

 トラブルはあったがどうにか千歳発16:00の便に乗り、家に到着したら7:30過ぎ、急いで風呂に入り食料調達をして荷物をまとめて出発した。天気予報では関東ではイマイチだが台風一過で北方面の天気はバッチリのようだ。時間がないのでいつもより高速を飛ばして豊科で降り、ロードマップを確認して久しぶりに中房温泉へと車を走らせた。途中、工事で夜間通行止め、でも0:00〜1:00はOKのよくわからない標識があったが、23:30に通過したが特にゲート等もなく通過でき、0:00前に有明山登山口に到着した。国民宿舎有明荘を僅かに過ぎたところに右に入る砂利道があり、国民宿舎の裏に駐車場がある。そして登山口はそこにある。10年くらい前に有明山に登っているが、そのときの記憶が既に飛んで無くなっていた。睡眠時間がもったいないのでまずは酒を飲んでから明日の準備をして寝た。それでも睡眠時間が短いので出発時刻を遅くすることにした。

 目覚ましをかけずに起きたら6:00ちょっと過ぎで、7:00前に出発となった。まあ、今日は清水岳1山しか登らないので遅くてもいいだろう。それでもまだ寝不足気味で、半分フラフラしながら登山口を歩き始めた。装備は残雪に備えて12本爪アイゼンにピッケルの完全装備だ。標高が2200m以上あるので稜線上は残雪上を歩けるだろう。

 天気は予報より悪く、上空は薄雲に覆われていた。有明山までの登山道はしっかりしているのでタダ歩けばいいが、若干笹が張り出している区間もあってTシャツだと傷になってしまう。夏場には刈り払いされるのだろうか。登山道はいきなり凄い急な登りになり、雪が残っていたら登れないような傾斜だ。今の時期でよかったぁ。そのぶん効率的に高度は上がっていき、最初は濃かった笹も少しずつ薄くなり、この調子なら道が無くても歩けるだろうなと思えるくらいになってきた。樹林も植林や落葉樹林からシラビソ樹林に変わってきた。

 尾根に乗ってそのまま登り、右に巻き気味になったところで稜線目指して登山道を外れて歩き出す。正確な位置はわからないが、地形図を見た感じではおそらく1900m付近だと思う。シラビソ樹林で笹は薄くてどこでも歩ける。清水岳は稜線に上がって左の方なので左へとトラバースしながら上がっていく。もう稜線間近かと思っていたが意外に遠くて登ってもまだまだ先が見えなかった。延々とシラビソ林を登り続ける。

 そうして登っていると目の前に岩壁帯が出現した。もちろん登れないので巻かなければならないが、とりあえずは右に行ってみるも、絶壁ではないが急斜面過ぎて登れそうにない。今度は左に巻いて次の岩壁に取り付き、斜め上方に伸びた細い樹林帯を上がってみる。先が見えないので絶壁に突き当たって行き止まりかもしれないが、とにかくいけそうな場所は限られているので行ってみるしかない。そして到着した場所は岩の谷間で、どうにか登れないことはないルートだったが落ちたらヤバいし、この先も危険箇所があって撤退の可能性もあり、登りはクリアできても下りはヤバそうなのでここも諦めることにする。こうなると登山道まで戻るのが一番安全コースだが、だいぶ下らなければならず精神的ダメージが大きかろう。ここは大きな賭になるがもっと西側を巻いてみよう。地形図だと岩壁帯は延々と続いているわけではなく西に行けばどこかで切れる。逆に地形図にない岩壁帯も次々に出てきているので、本当に登れるのかどうか保証はないが。

 少し標高を下げてトラバース開始、すぐにガレた谷の横断で、これがまた足場が悪くてドキドキものだった。半分ズリ落ちながらどうにか横断したがここを戻るにはあれを登らなくてはいけないので無理だな。何が何でも稜線に出なければ。幸い、谷の次はシラビソ樹林でやや笹が増えたがすぐに笹が消え、広い尾根に乗って歩きやすいシラビソ樹林になった。南アを思わせる深いシラビソで下草、藪はなく、踏み跡はないがどこでも好きに歩ける。北アもこんな尾根ばかりだったら無雪期でも登れるのだが。さてどこまでこれが続くのだろうか。心配どおりにまたもや岩壁帯が出現、しかし岩の高さはさっきより低く、少し巻けばルートが見つかりそうだ。右がくさいと戻り気味に登っていくと岩が切れて樹林がつながっているではないか。難なく岩壁帯を突破し、そのまま歩きやすいシラビソ樹林を登り切ってようやく稜線に到着した。樹林の隙間からは巻いてきた2283mピークが見えている。帰ってから2.5万図で確認すると2210m肩だった。これで一安心だ。

 稜線上は予想通り獣道らしき跡があり、どこまで続いているのか不明だがシラビソ樹林で歩きやすそうだった。しかし、予想していた残雪がかけらもないのには驚いた。このまま樹林帯だったら雪はいらないがやっぱ笹が出てくるのだろうな。GPSで現在地を確認すると清水岳まで約1.3kmと出た。思ったよりも遠く、トラバースしたのは僅かな距離だと初めて知った。さあ、これから後半戦の開始だ。

 なだらかなシラビソ尾根を下り、2130m鞍部から登りにかかると石楠花の藪が出現し、稜線上は歩けないので南の樹林帯を巻き気味に登ることにし、へこみに僅かに残った残雪の上を歩く。もちろん踏み跡はないし目印も皆無だから適当にルートをとる。山肌の藪が薄くなったところで稜線に戻ると歩きやすいシラビソ樹林に戻っていて安心安心。

 2166mピークとその東の2160mピーク間鞍部付近だけが笹藪で、適当に藪を漕ぐと再びシラビソ樹林に戻った。笹藪が登場したのはここだけで、あとはずっとシラビソ樹林が続いていたから、清水岳はわざわざ残雪期に登る山ではなく無雪期こそ登山適期らしい。二重山稜を過ぎて2080m鞍部から清水岳の登りにかかるが相変わらずのシラビソ樹林で藪はなく、尾根の東端を歩いた。ここでま目印、ゴミは1つも見かけることなく、無雪期でここまで人の気配がない山というのはほとんど経験がない。あの小日影山や黒檜山でさえ目印があったというのに。

 山頂直下は低い笹原で頂上付近は石楠花の藪だったので西を巻いて、GPSMの表示から見て山頂と思われる場所に出た。南北に長い山頂の北端で、北側は雪が残る笹原、山頂付近はシラビソが生えているだけで標識類は全くなかった。ただ、真っ赤に錆びた一斗缶が落ちており、全くの無人の地ではないようだ。まあ、でもほぼ無人の地と言ってよかろう。

 さあ、6mでは初めての無線だ。1エリアははるかに遠く、バンド内をワッチしても強い局は聞こえない。ピコ6のバリコンはますます調子が悪く、つまみを触るだけで周波数がずっこけるので相手の周波数にゼロインするのは至難の業で、しかも時々VXOが発振停止してノイズレベルが極端に下がることがある。こりゃもう修理しないといかんなぁ。だましだましバリコンを回してCQを出すが、最初に呼んできた長岡移動局とQSO中にまたもやVXOが発振停止し、バリコンを回さざるを得ず周波数がずれて尻切れになってしまった。その後復活してCQを出して松本の固定局とQSOしていたら奥積さんが気づいてくれた。よかったぁ、53でも横浜まで飛んでくれて。こっちには57で聞こえていたので意外とロケはいいらしい。員弁市移動の吉原さんは信号が弱くてこっちが届かない可能性が大で呼ばなかった。

 これで無線も満足で山頂を後にした。下りは要注意なので登りでつけた目印をたどって正確に主稜線をたどり、尾根がはっきりすればもう目印も不要だ。来たルートをそのまま戻り、2210m肩を過ぎて2283mピークに近づくと石楠花の藪が待っていた。ここも南に巻いて尾根に戻るが、主稜線を外して枝尾根に乗ってしまったようだ。まあ、有明山との鞍部が見えているので南下すればいずれ登山道に出るだろう。例の岩壁帯に出ないよう注意する必要があるが、登山道までさほど距離はなさそうなので大丈夫と判断し、やや左に進路をとりながら適当に下った。傾斜はきついがこちらも気持ちのいいシラビソ林で好き勝手に歩け、やがて登山道が見えてくるとタイミング悪く人がいるではないか・・・・。道でもないところから人間が現れるのを見られるのはあまり気持ちがいいことではなく、相手だって熊が出た!と驚く場合もあるし。一応、驚かれはしなかったが。

 登山道に出てしまえばしめたもので、崖っぷちで緊張する場所もあるが鎖があったりで危険箇所はない。まあ、適度な刺激があって楽しめるか。ここは岩壁帯の隙間を縫ってトラバースするコースなのでそんな場所もあるわけか。岩場が終われば急な下りの連続だが、しばらくは残雪の山ばかりで下りは雪がクッションとなって踏ん張る必要もなかったため筋力が低下してしまったらしく、膝が疲れてしまいスローペースで下るしかなかった。おまけに翌日は軽い筋肉痛になってしまうし。気温も上がって汗も噴き出し、早いところ温泉に入りたい気分だ。そろそろ登山口も近いと言うところで雨が降り出してしまうが、樹林帯なので雨具が無くても大丈夫、そのまま駐車場に到着した。

 ガラガラの駐車場で着替えをすませ、すぐ前の国民宿舎有明荘に車をつっこむ。\600で広々とした浴場、露天風呂もあるが雨なので屋根の下で温泉につかった。


 このように意外にも清水岳は藪が薄くて無雪期に登れることがわかった。有明山と併せて登れば1日コースにちょうどいいだろう。ネットで登山記録が見つからない「武内級」の山の中でもこんなに簡単に登れる山とは珍しかった。


6:44有明山登山口-7:01三段の滝分岐-7:38尾根に乗る-7:43巻き道-7:51登山道を外れ斜面を登る-8:08岩壁帯を左に逃げる-8:13岩壁帯を登る-8:16撤退、もっと西に巻く-8:24ガレた沢-8:35広い尾根に出る-8:50岩壁帯を右に逃げる-8:53岩壁帯を抜ける-8:59主稜線に出る(2210m肩)-9:20 2160mピーク-9:33 2080m鞍部-9:55清水岳着-11:15清水岳発-11:27 2080m鞍部-11:45 2160mピーク-12:10 2210m肩-12:23 2283mピーク-12:34登山道-13:30三段の滝分岐-13:37有明山登山口

 

 

清水岳 写真集

 

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