御巣鷹山は黒姫山のピークの一つで、中央火口丘と思われるが外輪山の方が高く、そちらが黒姫山山頂となっている。しかし、御巣鷹山も2000m峰であり登らないのはもったいない。2年くらい前の6月はじめか5月終わりだったか一度黒姫山に登ったおりに御巣鷹山も目指したが、すでに残雪期が終わって僅かに雪田が残る程度で猛烈な笹藪に邪魔されて戦意喪失し黒姫山だけ登った。しかし、残雪期なら問題なく登れるであろう。

 嘉平治岳から下って翌日はどこに登るか考えたが、残雪の山4日目に入るので、あまり体力が必要な山ではもう足が持たないだろうし、嘉平治岳で危険な目にあって安全な山にしたかった。その点、御巣鷹山は山頂へは道はないが直下まで登山道はあるし、妙な尾根を歩いたりする必要もなく、危険箇所もないだろうと考えた。それに標高差は1000mちょっとなので、それほどきつくはない。朝の雪が締まった時間に標高を稼げれば思ったより楽に行けるだろう。

 嘉平治岳の帰りにまた杉野沢温泉苗名の湯で汗を洗い流し、国道19号線沿いのスーパーで買い物を済ませ、登山口に向かう途中の公園駐車場で濡れた登山靴の物干しをしながら写真整理や記録書きを行い、眠くなったら昼寝をしてから車を走らせ、黒姫高原スキー場へと車を乗り入れた。既にゲレンデには雪はなく、ゲレンデが切れる手前からゲレンデを上がる林道も車で進入可能だった。以前来たときには山菜取りのシーズンだった影響か車は進入禁止の看板があったのだが、これで多少楽ができる。未舗装で傾斜がきつい林道なので1速でゆっくり上がり、最初のリフト駅で道が終わった。GPSで標高を確認すると1000mちょっと、山頂まで標高差1000mちょっとだ。まだ時間があるので再びPCで記録を付け、適度な時間に酒を飲み始めて寝た。明日は曇りだが雨は夜遅くからとの予報だった。

 朝起きると星が瞬いていたのでまだ晴れだった。冷え込みはほとんど無く、飯を食って着替えて出発だ。まだ雪がないのでスパッツもつけず、アイゼンとピッケルはザックだ。今回はワカンはいらなさそうなので車に置いていく。スパッツを危うく忘れそうになって気づき取りに戻ったが被害は1,2分だっただろう。

 ゲレンデの登山道ははっきりしており、基本的にはジグザグについているがショートカットコースも存在するのでそちらを主に利用する。まだ雪が残っている場所には足跡が1つだけ残っていた。やはり残雪期に登る人は少ないようだ。これだと夏道のトラバースコースはどこだからわからないかもね。まあ、傾斜によっては夏道のように歩けないかもしれないが。

 最後のリフト脇を通過するとやっと樹林に入り、姫見台のケルンに到着した。風が強く、上部はガスに覆われていた。それとは反対に妙高は雲一つない快晴だ。なぜこんな近距離なのにこれほど差が出るのだろうか。今日は山頂は寒そうだ。

 この先は夏道は完全に埋もれ、目印もないのでどこが道なのか全く不明だった。まあ、まっすぐ登っていけばいつか外輪山稜線に着くから適当に登ればいいのだが、こっちは外輪山の黒姫山ではなく御巣鷹山が目的なので無駄な労力は使いたくない。できるだけ外輪山北側を通過して余分な登りを削除した方がいい。1つだけ足跡があるが、これは黒姫山に行く足跡だろうからと、途中から右の方にトラバース気味に登っていく。なお、まっすぐ黒姫山山頂へ向かう冬道にも目印は乏しく、下り用に木の裏側だけスプレーした目印がたまに見られる程度で慣れない人はとまどうだろう。基本的に登りは高いところを目指せばいいのでルートはどうでもいいが、下りは適当に下るとどこに行くかわからないので目印が必要となる。この目印を付けたやつはちゃんとそれを承知して付けたに違いない。

 雪がたっぷりで傾斜も出てきたのでピッケルアイゼンの登場だ。傾斜があるところは結構きつく、慎重に登っていく。藪は完全に埋もれているし、雪の締まりもよく、どこでも好き勝手に歩けた。右手右手へと登っていく。やがてガスの中に突入し、霧の中から稜線が出現した。雪庇ではい上がるのに苦労するかと思ったら西斜面側は高いシラビソがあって風雪が遮られるためか大した吹きだまりはなく難なく尾根に上がった。GPSを見ると標高約1950mだからまあまあ得をしたといえよう。

 ガスって御巣鷹山の影も形もないが、GPSによればここから西に進路をとれば必ず御巣鷹山の裾野にぶつかるので、斜面を適当に下っていく。尾根直下は雪が少なく藪が出ている部分があったがすぐにたっぷりの雪に覆われるようになり、雪原の鞍部に到着した。前回登ったときもここは雪原でルートが全くわからずウロウロしたような覚えがある。

 そのまま進むと登りが始まり御巣鷹山にとりついたことがわかった。いったん平坦になってから本格的な登りが始まるが、外輪山より傾斜が緩いので鼻歌交じりで登ることができる。こちらも雪はたっぷりで木の隙間を縫って高度を上げる。やっぱ残雪期は楽でいいな。やがて傾斜が緩んで山頂の一角に到着したようだが、GPSは西の方に山頂があることを示しているのでそちらに向かう。何せガスって周囲が見えないのでGPSが大活躍だ。こんな天気だと帰りが心配になるが、GPSと磁石さえあれば問題なしだ。姫見台の緯度経度も現地で登録したので帰りの不安もない。GPS様々だ。

 GPSが山頂と示す付近は西側で、枯れた立木に目印があるだけで、ほとんど登る人はいないようだ。ルートを示すペイントは全く見られなかった。西よりの風が強く、ガスがシラビソに吹き付けて葉に露が付いて強風で吹き飛ばされて雨のように降り注ぐため、できるだけ木から離れた場所で無線の準備をする。残雪期なら樹木の間から展望が得られそうだったが、このガスでは視界はゼロだ。ちょっと残念だったが自然にはかなわない。

 6mをワッチすると7L2LTO/0佐渡市が強力で、空振りCQだったこともあって1発でQSOできた。ドンデン山から下りて相川の方にある丘の上での運用だそうだ。我らと同じで12:40のフェリーで帰るらしい。3日も佐渡にいたようなのでかなりサービスできたのではないだろうか。こっちはこの連休中でやっと6mでまともなQSOができた。

 天候は回復しそうにないし、明日以降は雨との予報なので渋滞を避けて早めに帰るためにも撤退だ。もう2度と来ることがないであろう山頂を辞し、雪の斜面を東に下って外輪山に登り返すと稜線直下は完全に雪が溶けてなくなり夏道が向き出しだった。やっぱ妙高より平野部に突きだした分だけ積雪が少ないようだ。ここまで戻るとようやくガスが切れて下界が見えるようになる。

 ここまでのルートは斜面をまっすぐ下れば姫見台に下れるように姫見台が真東よりちょっとだけ北に見えるよう位置を調整してきたので、このまま直線的に外輪山を下れば大丈夫だろう。もちろんGPSと磁石で絶えず方位を測定しながら下った。ちょっと下ると赤ペイントがついた木が現れ、冬ルートに乗ったようだった。あとはペイントも参考にするが、もうガスの下でリフト駅が視認できるのでルートを外しこともなく安心して歩けた。

 もうまもなく姫見台に到着するというところで男女に遭遇、アイゼンはなく手にはステッキの出で立ちだった。案の上道がわからずとまどっていたらしい。上部の積雪状況やこのまままっすぐ行けばいいことを教え、傾斜がきついところがあるのでアイゼンがないと危ないと思ったら戻るよう言い聞かせて分かれた。なんせこっちは12本爪アイゼンにピッケルだから、あちらもこの時期の黒姫山はそれなりの装備が必要な山だと理解しただろう。予定だと戸隠まで歩くことにしていたが、たぶんそっちもトレールがなく、外輪山稜線から夏道が外れる箇所がわからないと道に迷ってしまうので、もし黒姫山まで行けたとしてもその先の状況を良く確認してどうするか判断するようにも言った。

 姫見台まで来てしまえば雪とはおさらばで、アイゼンを脱いでピッケルはザックに刺して暑い日差しのゲレンデを淡々と下るだけだった。


4:26ゲレンデ内林道終点出発-4:45リフト駅-5:33最終リフト駅-5:37姫見台-5:42雪が出てくる-5:50 1650m地点でアイゼン装着-5:58出発-6:37 外輪山稜線(1948m地点)-6:47鞍部-7:19御巣鷹山着-7:56御巣鷹山発-8:09鞍部-8:28外輪山稜線-8:32目印-9:00頃人と立ち話-9:13姫見台-9:42車

 

 

御巣鷹山 写真集